エンタメ
2017/10/28 20:00

日本唯一の“北極冒険家”が初の南極冒険に選んだ装備とは? 特注品ばかりと思いきや……

日本人初となる「南極点無補給単独徒歩到達」を目指す、冒険家・荻田泰永氏の記者発表会が、10月25日に東京・港区にて行われた。この挑戦は、今年11月18日ごろから2018年1月7日ごろまでの50日間で、南極大陸のヘラクレス入江から南極点までの1130kmを行程中に外部のサポートや補給なし、かつエンジンや風力などの機動力を使用しない徒歩のみで目指すというもの。そのため、食料や必要機材などをソリに載せ、約100kgの荷物を自力で引きながらの行程になる。

20171027_y-koba2__0654_R
↑ソリやウェア、カメラなどの装備品について語る荻田泰永氏。南極点を目指すには、寒さ対策だけでなく上り坂を歩く(南極点は標高2800m以上にもなる)ことになり、風も向かい風となるため、いかに機材や食料を軽く、効率よくまとめるかが重要とのこと。市販品で最適なものがない場合は、特注品のほか自分で作るケースも多いという

 

日本唯一の“北極冒険家”が南極に挑む

荻田泰永氏は、1977年神奈川県出身。これまでカナダ北極圏やグリーンランド、北極海などの北極を舞台に、主に単独歩行による冒険を行ってきた日本唯一の“北極冒険家”だ。キャリアも長く、初めて北極圏に挑戦した2000年から現在までの18年間で15回の北極行を行い、同エリアを9000km以上移動している。氏の活躍は、テレビの特集番組で多数取り上げられているほか、ラジオや新聞、雑誌で紹介されることも多く、研究機関との共同研究などにも取り組んでいる。次の動画は、そんな冒険を垣間見れる貴重な映像だ。

その荻田氏が今回、初めての南極行(自身、南半球に出向くのも初という)を行うに至った経緯が気になるところだが、22歳で初めて北極に行ったときのワクワク感をもう一度味わいたいというのが大きいという。実際、15回の北極行で北極については、その楽しさや厳しさをある程度知ることができたそうだ。一方で北極の反対側はどうなっているのか、歴史的な冒険家が味わい、記録にも残っている南極の強風がどういったものなのか、身を持って経験してみたいという思いが今回の南極行を行うきっかけになったという。

20171027_y-koba2_0607_R
↑南極大陸まではチリのプンタアレナスから、南極ユニオン氷河キャンプまで民間のALE社による夏季定期フライトで移動。ヘラクレス入江をスタート地点とする。これは、南極点到達の定義として、“海岸線からのスタート”がルールとなっているためだ

 

極限の環境に挑む装備品も披露

南極行の要ともなる装備品は、各メーカーなどの協力のもと、ウェアやソリ、食料などが研究開発のうえで特注されているケースが多い。だが、カメラについては市販のパナソニック ルミックスDC-GH5をそのまま使用する。撮影時以外はウェアの内側に入れ、寒気にさらされない状態にすることで極地でも問題なく撮影できるそう。しかも4Kでの動画撮影も可能なため、別途ビデオカメラを持ち込む必要がなく、機材の軽量化に貢献。

 

氏は、実際に前モデルのGH4を北極圏に持ち込んでおり、トラブルなく使用できた点から、今回の採用に至ったという。寒冷地で心配になるバッテリーも持ちがよく、満充電のバッテリーを複数(といっても数本レベルらしいが)持ち込むことで、必要な撮影は十分こなせるとのことだ。このほか、今回初の試みとしてDJIのドローンを使用しての空撮にも挑戦するという。

20171027_y-koba2_0620_R
↑パナソニック ルミックスDC-GH5を手にする荻田氏。軽量で耐久性も高いマグネシウム合金ボディで、防塵・防滴構造を採用。-10℃までの耐低温設計にもなっている。とはいえ、北極点や南極点ではさらに気温が下がる。荻田氏によると、そうした条件でも撮影時以外はウェアの内側に入れるなどの工夫をすることでGHシリーズは問題なく動作したという

 

20171027_y-koba2_0639_R
↑カロリーなどを効率よく摂取するために森永製菓と共同開発した特注のチョコレート。ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、抹茶味チョコレートの3種類が用意されている。写真は、会見中に記者に配られた試食サンプル(抹茶味)。成分としては油(寒冷地でもチョコレートが硬化しにくい)やたんぱく質がポイントになっている。1g当たり、6.4kcalと市販のエネルギーバーの1.5倍程度のカロリーを持つというが、適度な甘さで非常に食べやすいものであった

 

20171027_y-koba2__0645_R
↑ウェアは、「POLEWARDS」ブランドの株式会社ザンダーと共同開発。コットン地をベースにしたウェアで透湿性が高く、フィルムなどを使用した防寒着と違い、寒冷地で剥離するといったトラブルがないのが魅力という。その風合いもよく、100年前の冒険家であるスコットなどの装備に近い風合いで荻田氏もお気に入りの様子だ。ちなみに防水・防湿性に優れたアウターシェルは、水分が瞬間的に凍ってしまうため、極地では不要という

 

20171027_y-koba2__0662_R
↑ソリは北海道の植松電機が製作。素材としてはFRPだが、繊維材料に超高分子量ポリエチレンやケブラー繊維などを使用することで軽量化され、塗装を施すことで紫外線にも強くなっている。重さは8㎏弱で、これまで荻田氏が使用していた北欧製のソリよりもサイズを少し大きくしながら、約1㎏の軽量化を実現

 

南極大陸は世界で最も寒い場所というイメージがあるが、11月から12月にかけては南極の夏季となるため、冬季に比べると暖かいという。といっても-30℃ほどで想像を絶する寒さであることは間違いない。そうした極限状態に挑む荻田氏の無事はもちろんだが、写真・カメラ好きの筆者としては、ルミックスGH5が無事役目を果たしてくれるのか、その写真や映像がどんなに美しく、カッコいいものなのか気になるところ。いまから荻田氏のチャレンジ成功と、通常見ることのできない南極の写真・映像を楽しみにしたい。