駆け出しながら、明晰で内面をえぐる分析と、それに似合わぬさっぱりした文体。そして、近年減ってきてしまった“コラムらしいコラム”を書けるということでGetNavi webが抜擢したのが園田菜々さん。noteやはてな系に眠らせておくのはもったいない文才を持つ彼女に、テレビ番組をテーマにしたコラムを毎週書いてもらいます。第1回目はももいろクローバーZのマネージャー・川上アキラさんです。
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フリーでライターと編集者をしている。
といっても、編集者はまだ見習いだ。ライターの仕事が主である。以前「我ながらいい出来だ」と思える原稿を納品したら、編集者から真っ赤になって返ってきた。「中身のないものを書いても仕方ないのがわかる?」というなんとも辛辣な一言と、「4記事とも明日中に戻してください」というタイトな納期付きで。半泣き状態で修正し、納期ギリギリ滑り込みセーフという、終始ヒヤヒヤな案件だった。後日、完成した記事に対して、掲載メディアも取材先も大変喜んでいたという話を聞いた。その時のなんともいえない感覚が忘れられない。
日曜深夜、「関ジャム 完全燃SHOW」という番組がある。毎回、関ジャニ∞が世代の違う2組のアーティストをゲストに迎え、トークやジャムセッションをするバラエティ番組だ。トークが達者で、音楽にも情熱がある彼らにとって、ぴったりの企画ばかりで、毎週必ず録画している番組だ。
つい最近、ももいろクローバーZがゲストの回があった。いまやてっぺんを極めた人気アイドルグループ。大御所アーティストとのコラボや、アクロバティックなパフォーマンスなど、いわゆる一般的な”アイドル”とは一線を画した売り方。しかし番組は、彼女たち自身ではなく、ももクロのマネージャー、川上アキラ氏にスポットを当てて展開していく。
プロレスが大好きだった川上マネージャーは、プロレスへの情熱を哲学に”プロレス的育成論”を紹介。たとえば、ももいろクローバーZといえばという演出、”がむしゃら感”と”大量の汗”などがそうだ。1日で2時間のライブを3公演、計6時間65曲を歌って踊るという過酷スケジュールを実行したときがあった。彼女たちは舞台裏、疲労困憊の姿である。しかし、ファンは、そんな彼女たちの一生懸命踊る姿と、いつわりのない汗に心を打たれ、大きく盛り上がるのであった。
いずれにしても、ももクロファンの年齢層にはどんぴしゃの演出ということで、なるほど川上マネージャーの慧眼あり、というところだ。
しかし、ももクロのメンバー自身は、彼の語るプロレス話をリアルタイムでは知らない。佐々木彩夏(あーりん)が「私たちはその世代じゃないからわかんないんですよ」と言う。何がいいのかわからないまま、やらされているのだ、と。しかし、関ジャニ村上に「でもお客さんの反応はどうなんや」と聞かれ、あーりんは「すごく喜んでくれて、悔しいけど嬉しい」と答える。
「悔しいけど嬉しい」自分には予想もし得ない形でひとに喜ばれたとき、それが第三者の助言によって実現したとき、これほど的確にその感情を表す言葉はないだろう。自分では思いつけなかった現実に悔しさを感じつつも、同時に、自分が生み出したという誇りや嬉しさがないと言ったら嘘になる。
「とにかく観客を沸かせること。これは芸能界にも通じることなんじゃないか、と思って」川上マネージャーは、語る。時には、オーディエンスを沸かせるため、自ら体を張ってステージ上のパフォーマンスへと乗り出す。
気がつくと、”ももクロ”にとっての”川上マネージャー”という関係を、ライターにとっての編集者という存在に重ね合わせて見ていた。
私はどうだろう、と思う。見習いでありつつも、ひとの原稿に赤を入れる立場だ。彼のように、相手と同じリングの上で、観客を沸かそうと心から楽しんでいるだろうか。あの、「私には思いつかなかった」悔しさと「それでもいいものが作れた」という嬉しさを、ライターに感じてもらうことができているのだろうか。
それは何も仕事だけの話ではなく。家族や友人、恋人、すべてに通じる話でもあると思うのだ。「このひとといてよかった」と思える瞬間は、「悔しいけど嬉しい」という感情が不可欠のような気がする。はたして私は、そのような関係を築けているだろうか。
たぶん、できていないな、と思う。自戒を込めて、まずはプロレスを学ぶところから。
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イラスト/マガポン