昨年に80年代のユーロビート歌謡を象徴する「ダンシング・ヒーロー」が、登美丘高校ダンス部のバブリーダンスとともに再評価され、荻野目ちゃん本人も再ブレイクを果たしました。同じく「ユーロビート」を現代にアップデートさせた、DA PUMPの「U.S.A.」が数か月前からありえないほどのバズり方をしています。完全に過去のものとされていた音楽ジャンル「ユーロビート」ですが、ここ数年にジワジワと人気回復(?)。しかも80年代半ばから今にいたる日本の音楽シーンに、形を変えて脈々と影響を与え続けているようです。
そもそも「ユーロビート」とは、(ちょっと雑な説明になりますが)70年代後半にヨーロッパで流行したシンセサイザーとドラムマシーンを特徴としたディスコ「ミュンヘンサウンド」が、シンセベースを多用したハイテンポの「ハイエナジー」へと変貌。80年代半ばにはさらにポップなメロディを兼ね備えたダンスミュージック「ユーロビート」へと進化していきました。
ここで活躍したのが、イギリスでPWLレーベルを主宰していたプロデューサーチーム、「ストック・エイトキン・ウォーターマン」、通称SAWの3人です。カイリー・ミノーグやリック・アストリーなどユーロビート勢の数々の名曲を大連発し、85年以降の日本のディスコのダンスフロアを席巻しました。そのサウンドプロダクションの手法は小室哲哉を始め、日本の数多くの音楽クリエイターに多大な影響を及ぼしました。そして、その小室哲哉のマネージメントを請け負った、音楽レーベル「エイベックス・トラックス」子会社の「TKルーム」でのチーム体制のもと、90年代半ばから安室奈美恵を始めとする数々の「小室サウンド」が大爆発。「エイベックス・トラックス」は日本のダンスミュージックシーンを牽引していく存在となっていきます。
95年以降になると、小室哲哉は次なる「小室サウンド」を追求しつつ、ジャングルなどのUKの旬のクラブサウンドも取り入れたりと、ユーロービート路線とは距離を置いていきますが、エイベックスはレーベルの原点でもあるコンピ盤「SUPER EUROBEAT」を定期的にリリースし続けていきます。現在進行形の欧州のユーロビート楽曲をコンパイルし、ときには所属するアーティストのユーロミックス・アルバムをリリースしたりと、時代を経てもユーロビートとコネクトし続ける稀有なレーベルとなりました。それこそ、いまをときめく「U.S.A.」は、エイベックスのレーベル「SONIC GROOVE」からのリリースでもあります。
その一方で、つんく♂が総合プロデュースを手がけていたハロー!プロジェクト、通称ハロプロ関連の音楽でもユーロビートをモチーフにした楽曲が、数多くリリースされていたことも見逃せません。どうやら、日本の音楽シーンはユーロビートと相思相愛の関係にあるようです。
今回はユーロビートが日本に上陸した80年代から2010年代にかけて、日本の音楽シーンに根づく「和製ユーロビート」および「ユーロカバー」にスポットを当てて、広義にセレクトした10選です。時代が1周も2周もしたからこそ響く、温故知新的なかっこよさと面白さがあるのではないでしょうか。
「Spotify」アプリをダウンロードすれば、有料会員でなくても試聴ができますので、ユーロビート特有の無駄にキャッチーで、無駄に派手なサウンドで、残りの夏を乗り切っていただけるとうれしいです。
「うれしはずかし、和製ユーロビートソング10曲」
01.KEEP ME HANGING’ ON〜誘惑を抱きしめて〜/松本典子
(1987年4月22日リリース)
1985年に芸能界デビューした清楚系アイドルが唯一放ったユーロビート歌謡。原曲はダイアナ・ロスが在籍していたモータウンレーベル発のガールズグループ、スプリームスが1966年に放った大ヒット曲。その後、数々のアーティストにカバーされ、1986年に女性ロックシンガーのキム・ワイルドがリリースしたハイエナジー的なマッチョなカバー曲がリバイバルヒットを記録。その状況を受けて、松本典子の制作陣が初期ユーロビートのエッセンスを取り入れた本作を発表。冒頭のギターのカッティングに引き込まれ、あとは80s特有のリズムマシーンとシンセ音がリフレイン。WINKがユーロビート歌謡路線で1988年にブレイクしたことを考えると、やや早すぎた挑戦であったのかもしれません。
02.涙を見せないで〜Boys Don’t Cry〜/Wink
(1989年3月16日リリース)
ユーロビート歌謡の象徴といえば、やはりWinkではないでしょうか。80年代にユーロビートの女王とも称されていたカイリー・ミノーグのヒット曲をカバーした「愛が止まらない〜Turn it into love〜」の大ヒットに続く4枚目のシングルが本作。原曲はユーゴスラビアのダンス・デュオ、ムーランルージュの「Boys Don’t Cry」。イタロ・ディスコ特有のシンセサイザー音とドラムマシーンのフロアライクな要素を極力抑えて、非常にうまく歌謡曲へと落とし込んだ仕上がりとなっています。訳詞というか意訳はWinkの楽曲を一手に引き受け、エヴァンゲリオンの主題歌「残酷な天使のテーゼ」を手掛けたことでも知られる及川眠子。オリコンチャート1位を3週連続でキープしました。
03.今度私どこか連れていって下さいよ/森高千里
(1989年7月25日リリース)
南 沙織の代表曲を、あっと驚く和製ユーロビート仕様でカバーしたヒット曲「17歳」。その方向性を踏襲した楽曲が、アルバム「非実力派宣言」には何曲か収録されていますが、本作もそのひとつ。憧れの年上の男性に対するデートへの積極的な駆け引きを歌ったもので、ユーロビート本来のメロディのノリやすさと踊れるツボを押さえたキャッチーなナンバーに仕上がっています。間奏の泣きのギターソロもたまりません。アレンジは斉藤英夫でのちに彼女の代表作「私がオバさんになっても」「渡良瀬橋」の編曲も手がけるようになります。ちなみに、この楽曲はのちにバラエティ番組で活躍する加藤紀子のデビューシングルとして、1992年に新たなアレンジで再生されることになりました。
04.ブギウギ・ダンシング・シューズ/木原さとみ
(1990年8月1日リリース)
1993年前後にブレイクを果たしたスタイリッシュなアイドルグループ「東京パフォーマンスドール」でリーダーを務めていた木原さとみのソロ・デビューシングル。ジャマイカ出身の女性シンガー、クラウディア・バリーが1979年に放った彼女最大のヒット曲を日本語でカバー。ヨーロッパで流行ったいわゆる「ミュンヘンサウンド」を通過した、オリジナルのノリノリなディスコソングをさらに大衆仕様にアレンジした隠れた名曲。土曜日の学校終わりに大人の世界へと飛び込む女子高生の高揚した気持ちを、全編打ち込みのサウンドメイクに乗せて声高らかに歌い上げています。「東京パフォーマンスドール」には篠原涼子や市井由理も在籍していました。今のアイドルシーンに受け継がれる「歌って踊れるアイドル集団」の元祖とも言えるでしょう。
05.Feel My Heart/Everything Little Thing
(1996年8月7日リリース)
今振り返ると少々意外な気もしますが、ELTのデビュー・シングル「Feel My Heart」は、ユーロビートのエッセンスが散りばめられた楽曲でもありました。当時、ダンスミュージックの象徴的なレーベル「エイベックス・トラックス」の新人ということで、そのブレないサウンドメイクは今聴くとなかなかに見事なものがあります。アレンジはELTのもとメンバーでリーダーを務めていた五十嵐 充。いわゆる小室サウンドからうまく脱却しながらも、なおかつ安定の小室印をイメージさせる楽曲構成は聴き応えがあります。シングル盤のカップリングには本家ユーロビート出身のデイブ・ロジャースによるユーロミックスを収録。彼は90年代後半に安室奈美恵やMAXなどのプロデュースを手掛け、和製ユーロビートを牽引したひとりでもあります。
06.ナンダカンダ/藤井 隆
(2000年3月8日リリース)
T.M.Revolutionのプロデュースなどでヒットを連発していた浅倉大介が手がけた藤井隆のデビュー・シングル。80年代に活躍したPWLの秘蔵っ子、ジェイソン・ドノヴァンの大ヒット曲「ブロークン・ハーツ(Too Many Broken Hearts)」へのオマージュと思しき、黄金のヒット曲の法則が見え隠れします。ベースにあるユーロビートからマニアックな要素を極力排除して、J-POPのフォーマットに寄せた人懐っこいサウンドデザイン。作詞はヒップホップユニットのEAST ENDのメンバーであったGAKU-MCによるもの。「なんだかんだ夢見たって 問題ない世の中です あんたなんだ次の番は」と、韻を踏んだリズムのある歌詞が次第にパワーソングとして機能していきます。印象的なダンスも取り入れたこの楽曲で彼はブレイクし、紅白歌合戦にも出場することになります。
07.SUPERGIRL/Folder5
(2000年5月10日リリース)
三浦大知や満島ひかりを輩出したキッズグループ、Folderの女子メンバーで構成されたアイドルグループのデビュー・シングル。このときの彼女たちの平均年齢は14歳でした。原曲はロンドン出身のガールズグループ、スーパーガールが1999年にリリースした「アイ・アム・ア・スーパーガール(恋するスーパーガール)」で、世界でスマッシュ・ヒットを記録。オリジナルのR&Bフレイバーを、エイベックスのお家芸とでもいうベきハイパーなユーロビートアレンジで大胆に再構築。原曲のパーティ感や高揚感をさらにアップさせてとにかくご機嫌です。日本語詞の担当はサエキけんぞうで、曲中などで煽るMCも原曲に忠実に再現している点にも注目を。以降、彼女たちは「AMAZING LOVE」「Believe」とさらにユーロビートタッチを濃くして、「Believe」ではFolder5最大のヒットを記録することになります。
08.C-Girl/片瀬那奈
(2004年4月21日リリース)
ユーロビート直球ではありませんが、超広義的な解釈でこちらをチョイス。女優として活躍する片瀬那奈がエイベックスに残した作品で、浅香唯が1988年に放った大ヒット曲をキラキラとしたダンスアレンジでカバー。アレンジはつんく♂の楽曲のアレンジを数多く担当していた平田祥一郎。デフォルトでもある過剰なシンセの上物を極力減らし、逆にキックを太くすることで、和製ユーロビートとは形容できない独自のサウンドを構築しています。カバーアルバム「EXTENDED」に収録。ちなみに彼女は毎年FUJI ROCK FESTIVALに通うほどのミュージックマニアでダンスミュージックへの造詣が深いことでも知られています。デビュー・アルバムの「TELEPATHY」は四つ打ちと2ステップを柱にした、当時の海外のダンスシーンの空気感を見事にリンクさせた出来栄えです。
09.U.S.A./DA PUMP
(2018年6月6日リリース)
1997年にデビューし、ヴォーカルのISSAを中心に幾度かのメンバー変遷を経て、今に活動を続けるボーイズグループ。彼らの3年ぶりとなる本シングルがここまでバズる日を、誰ひとりとして想像できた人はいないはず。オリジナルは1992年にリリースされたイタリアのアーティスト、ジョー・イエローの「USA」で90年代のユーロビートを代表する1曲です。マハラジャなどのディスコでヘビープレイされつつも、国内盤のCDになかなか収録されることがなかったことでも知られています。実はDA PUMPにとっては初のユーロビートのチャレンジ。原曲に忠実なサウンド構成でありつつも、シンセ音をシャープに、リズムをファットなビートに再構築。そしてサビ部分の「C’mon Baby アメリカ♪」は意訳の勝利。キャッチーな響きが瞬時に刷り込まれていきます。もちろん、みんなが踊りたくなるシュートダンスもヒットの要因であったことは間違いありません。今年一番の衝撃作とも言えるでしょう。
10.世界の中心〜We are the world!〜/青山テルマ
(2018年7月25日リリース)
90年代後半から2000年代初頭にかけて、渋谷のストリートを席巻したコギャルの視点で、「とりまうちらが世界の中心〜」と声高らかに歌い上げるアゲ曲。テルマ自身が最近世間で聴かなくなったパラパラ曲を復活させたいとの想いで、確信犯的に挑んだパーティ・チューン。正確にはユーロビートではなくハイパーなハイエナジー的アプローチで、女子オーバー30世代の青春プレイバックをテンション高めに描いています。歌詞も「チョベリグでIKUZE」「うちらのアイドル永遠NAMIE」「My MIKUよろぴ」と、時代感を踏襲させた歌世界もお見事。コギャルのバイブルでもあった雑誌「egg」(今年の春に復刊)のモデルら総勢50人によるパラパラダンスを収めたミュージック・クリップも当時の空気感たっぷりで必見です。アルバム「HIGHSCHOOL GAL」に収録。
いかがでしたでしょうか? ユーロビートを題材にした歌謡曲やJ-POP楽曲はまだまだたくさん「Spotify」に存在しますので、皆さんのお気に入りのあの曲、この曲をぜひ探してみてくださいね!