コロナ禍の中で、いままたラジオが脚光を浴びている。テレビよりも小回りのきく機動力、より本音に近い、深いトークなど魅力はさまざまだが、中でも“花形”的存在はお笑い芸人。アルコ&ピース(平子祐希、酒井健太)は、とりわけラジオの印象が強い、いわば“ラジオスター”だ。
『オールナイトニッポン』2部→1部→2部を歴任し、終了半年後にTBSラジオで『D.C.GARAGE』がスタート。それだけ2人のトークが求められていたのだ。乃木坂46・中田花奈と共演する『沈黙の金曜日』(FM-FUJI)、不定期でアシスタントを務める『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』(JFN)、に加え、酒井は『まだ帰りたくない大人たちへ チョコレートナナナナイト』(SBSラジオ)も担当。局が変わり、番組が変わっても独自の空気感は変わらない。“アルピーのラジオ”、そのテンションとグルーヴはいかに作られたのか。テーマをラジオに絞ってインタビューを試みた。
〔企画・撮影:丸山剛史/執筆:橋本宗洋(Norihiro Hashimoto)〕
ラジオスター・アルコ&ピース
――このインタビューでは“ラジオスターとしてのアルコ&ピース”についてお聞きできればと思います。
平子 僕はラジオスターじゃないですよ。酒井だけです。レギュラー2本はそこまで珍しくない。不定期合わせて3本ですから。酒井はレギュラーで3本なので。
酒井 いや、ラジオスターなんて言ってられないですよ。ちょっと前に太田さんと伊集院さんの『カーボーイ』聴いて「やっぱキングは凄え」って思い知らされたばっかなんで。
※TBSラジオ『爆笑問題カーボーイ』9月8日放送回。新型コロナウィルス感染のため療養中だった田中裕二の代打として伊集院光が登場。旧知の太田光と超ハイテンションなトークを繰り広げ、ラジオファン、お笑いファンの話題を呼んだ。
――とはいえ「アルピーといえばラジオ」というイメージを持っている人も多いかと。
平子 売れてる先輩方は、普段の仕事と違うはけ口、毒抜きの場としてラジオを気持ちよさそうにやってるじゃないですか。僕らも最初はそれが理想だったんですけど、実際はラジオをきっかけにしてテレビに呼んでもらうような状況になってますね。そういう意味ではラジオがメインになってるんですかね、世間様の目線としては。
酒井 本来はいっぱいテレビ出て、その裏側をラジオで話すっていうのが芸人のラジオだと思うんですけど、逆になってますね。
平子 テレビで「ラジオの裏側しゃべってください」っていう。ラジオを語るみたいな企画が最近多くなってる気もしますね。ラジオがまた若い人たちに注目されてるのかなっていうのは、そういうとこからも感じます。
――確かにお二人のラジオでのトークは、いわゆる裏話とも違いますよね。
平子 僕は芸人と飲んだりはほぼほぼしないし、嫁と仲良くて子どもも好きなんで、すぐ家帰っちゃう。だから家の話しかすることがないんですよね。その分、酒井が外を向いてくれてるんで。そこはバランスが取れてるんですかね。
酒井 ラジオのためにいろんなことやってみようっていうのはありますね。ゴルフ行ってみたり。だから裏話とは違いますかね。楽しいことを見つけて、それがラジオにつながっていくっていう感じ。ラジオがあることで自分のすそ野が広がる、アンテナが伸びるっていう。
――日常の話からどんどん脱線して飛躍して、気が付いたらとんでもない場所にいるというのが『D.C.GARAGE』の醍醐味という気がします。あのスタイルはどうやって作り上げていったんですか?
平子 作るというか、男の子が3人くらいいたらああいう感じになるよねっていう。凄い一般的な、自然な感覚ですよね。ラジオっていうメディアで話す場合、普通はもっと“作品”“商品”として話を成立させると思うんですよ。でも僕らは単純にそれができないから、ふだん通りににしゃべってるという。トークの着地点とか考えたことないし、伏線の回収も何もなく。
――「いつもの自分たちのノリ」で。
平子 「ラジオのフリートークなのに漫才みたいにやり取りが成立してるね」みたいな技術がないんで。ノリでやるしかないんですよ。ノリでごまかすというか。
――そのノリが、スポーツ選手でいう「ゾーン」に入ってるような時もありますよね。
酒井 ラジオゾーン(笑)。
平子 ゾーンかどうかは分からないけど、グルーヴはありますよね。「今2人ともハマったな」っていう。それがうまく外に届いてるかどうかは分からないですけど。
読まれやすいネタは「おちんちん」!?
――テレビとの違いは感じますか。
平子 違いますね。単純に尺からして違うんで。(トークを)切られないし、切ってもらえない。好きなことを長尺でしゃべれるけど、「あれっ」というところも垂れ流すしかないんですよ。失敗も含めて拾って、つなげていくしかない。
――それはネタのコーナーからも感じます。『オールナイトニッポン』時代もそうでしたが、コーナーの趣旨を壊すような“サイコ”なネタがどんどん読まれるし、コーナーが“壊れ”てもそのまま長期間続くという。
平子 確かにコーナーの前提が崩れちゃってるなみたいな時はありますね。「これもう成立してないよ」って。で、その状態で3か月くらい続けると、そこからまた新しい面白さが構築されていくんですよ。そこから一周回って“正解”のメールが来て、それがまた“壊し”になったりもする。正解がなくなって、笑いすぎて読めなくなる時もありますけど。
――トークにしてもコーナーにしても流れに任せるからこそ面白いという感じがします。「こういうネタが読まれやすい、よく来る」という傾向はありますか?
酒井 基本的におちんちんの話が好きなんで、おちんちんと書いてあれば読まれやすいですかね……あんまり時事ネタとかは読まないですね。たまに来るんですけど。
――乃木坂46の中田花奈さんと共演している『沈黙の金曜日』はいかがでしょう。
平子 もちろん内容は変わるっちゃあ変わるんですけど。「男子2人の会話」が「可愛い女の子を前にした男子2人の会話」になる。でも結局ベースは変わんないですね。
酒井 ちょっとだけカッコつけちゃうんですよね。そこに「男の子」が出ちゃう。
平子 プロじゃないからそれが出ちゃってるんでしょうね。うまい人はそう感じさせないトークをするじゃないですか。僕らはそれができないんでちょっとカッコつけながら、中田のマネージャーの顔も見ながら、ギリのラインを探りつつで。
――中田さんの「ギリのライン」はかなりゆるめという感じもします。ラジオ勘が凄くいいですよね。
平子 本人がラジオ好きになって、いろんな番組聴いてますから。それで本人の中での許容範囲が広がったんでしょうね。
酒井 さっき言った太田さんと伊集院さんの『カーボーイ』も「あれ聴いた?」、「聴きました! 神回ですよね!」っていう会話ができるのって、僕の周りでは中田くらいなんですよ。
――そういう相手だから、あまり遠慮もしなくていいと。
酒井 あと基本、リスナーは乃木坂のファンなので。中田の話が聴きたい人たちじゃないですか。だから僕らは楽ではありますね。もっと自然にやってもいいのかもしれない。
――むしろ肩の力を抜いてできるという。アイドルとの共演だと「プロに徹する」といったイメージもありますが、そうではないんですね。
平子 逆に言うとプロじゃない(笑)。アイドルが相手で“接待ラジオ”になってもねというのもありますからね。一回きりならそれも笑えると思うんですけど。僕らが怒られる分には構わないんで。そこはブレずにやりたいですね。
――「アルピーのラジオ」のベースがあるわけですよね。
平子 さっき酒井が言ったように、おちんちんというベースがありますから。それをどういう形で見せるかですよね。
――見せ方ですか。
平子 おちんちんの見せ方。もちろんアイドルが出ているラジオだから、ある程度の品は必要ですけどね。品のよさを薄皮一枚、少しだけ残してのおちんちんの提示というか。
――なるほど、皮が……。
平子 被ってるかどうか。その違いだけですよね。
――そこは単に乃木坂ファンに媚びても仕方ないしという。
平子 誰に向けてやってるかって言ったら、夜のラジオが好きな人に向けて、なので。アイドルと一緒になったからって僕らの番組(D.C.GARAGE)のリスナーが「えっ?」てなっても申し訳ないので。アイドルをきちんとおもてなしする技術を持ったパーソナリティはたくさんいますからね。それを僕らがやっても続かないですよね。
――アイドルを“接待”できるのがプロ、職人とするなら自分たちはどういう存在だと思いますか?
平子 泥団子ですね。
酒井 型がない野武士みたいなもんかなって。
――道場できちんと剣術を学んだわけではないと。
酒井 技術はないです、なんにもない。ただぶん回すだけですから、刀を……というかおちんちんを。それを中田に見せている(笑)。
平子 言いたいですけどね「ステイチューン!」とかって。でもできないんで、消去法ですね。ただ結果として、乃木坂のラジオを聞いて、僕らのラジオを聴いてくれるようになった人も増えましたね。
酒井 乃木坂のファンで『沈金』聴くようになって、僕らの番組にメールくれるようになった人もいますね。なんとなくラジオネームに覚えがあるなっていう。で、その人が「あれ、『サンドリ』まで読まれてる」っていう(笑)。「あぁ、沼入っちゃった。もう出れないよ」って。
平子 アイドルラジオからだから、最初はメールの内容も薄かったはずなんですけど。いろいろ深いとこも対応できるようになっちゃって(笑)。
――お2人に鍛えられて(笑)。
平子 もっと自由でいいんだなっていうのを掴んだんでしょうね。
リスナーは意外とエリートが多い!?
――ラジオのリスナーに対してはどんなイメージがありますか。
平子 コロナ禍の前は、番組が終わると局の前にわーっと列ができてて、長いと1時間くらい対応してたんですよ。その中に女子が2人くらいいいたかなぁ。それくらいですね、女子率は。女子がいるとビクッとする感じで。
酒井 男ばっかりの中でおじさんもいれば、これから就職ですっていう子もいたりとか。
平子 意外とエリートが多いなって。「東大受かりました」とか。就職決まりましたとか。世間的なイメージよりもちゃんとしてる子が多い。これはこれで勉強の息抜きなんだなと。みんな基本は黒髪ですよね。
――染めてはいないと。
平子 服も全身黒で。たまに原色のTシャツとか着てるとギョッとする感じで。
酒井 かと思うと歌舞伎町のキャッチの人に声かけられたりもしますね。聴いてますって。
――ラジオをやっている中で印象深い出来事は?
酒井 リスナーと(『オールナイトニッポン』の企画で)ディズニーシー行ったっていうのがあって。舞浜で初対面でそこから1日いました。ラジオネーム「タテソト」っていうんですけど、今はテレビ業界で頑張ってて、会うと思い出しますよね。見ず知らずの人間とディズニー行けちゃうっていうのがラジオの距離なんですかね。
――リスナーには親近感がありますか。
平子 町なかで声かけられる時は「テレビ見ました」だったりいろいろですけど「ラジオ聴いてます」が一番グッとなりますね。
酒井 自己紹介いらないですからね。
平子 ラジオは自分たちのことを全部言ってますからね。相手についても、人となりはだいたい分かる。僕らのラジオ聴いてるってことは、こういうタイプだよなって。リスナーがこの(放送)業界入って、AD経由してディレクターになって「ようやくアルピーさんを呼べるようになりました」って言ってくれる時もありますね。だから時間たてばたつほど身内のディレクターが増えるんじゃないかって楽しみなんですけど(笑)。
――「実はリスナーです」とか。
酒井 いますね。
平子 ラジオ聴いてる人特有の熱があるというか。だいたい収録の後に言うんですよ「聴いてます」って。
酒井 後で付け加える感じがリスナーっぽさですよね。
平子 その距離感が愛おしいなっていう。
――『オールナイトニッポン』最終回では大勢のリスナーが出待ちをして話題になりました。
平子 本当にもの凄い数のリスナーが来てくれて。それまで5、6人しか聞いてないくらいの感覚でやってたんですけどね(笑)。
――『オールナイトニッポン』終了後、半年たって今度はTBSラジオで『D.C.GARAGE』が始まります。『オールナイト』終了後、TBSのスタッフからすぐにオファーがあったそうですね。一部スタッフも引き継ぐ形で、それだけ評価されていたわけですよね。
平子 半年って言うのがよかったかもしれないですね。これが1年あいちゃうと「前とは違う感じで」となっていたかもしれない。いい感じで地続きになったのかなって。一番感じたのはリスナーからの反響ですよね。「こんなに待っててくれたのか」って。やっぱりラジオを聴くのって習慣なのでかなりの人が「アルピーのラジオを聴く時間」をなくして宙に浮いちゃってたんだなって。
――たくさんの人に聴かれている、求められているという実感は番組作りにも影響しましたか?
酒井 それはまったくないです(笑)。
平子 ただリスナーの顔が思い浮かぶというか、今一緒にしゃべってるなっていう感覚はありますよ。それも含めて学校の5軍が1軍と女子の視線を気にしながら、教室の隅でしゃべってる感じ。騒ぎすぎない程度に騒いでる感覚で。それは変わらないです。
――クラスのイケてる連中に対して「ナメんじゃねえぞ」と叫びたいわけではないと。
平子 「ナメんじゃねえぞ」は小さい声で言ってますね。「バーカ」とか。で、言って隠れる。
酒井 実はめちゃくちゃ言ってはいるんですよね。
今さらパンツをはくつもりはない
――これからこんな番組をやってみたい、こんな人とトークしてみたい、というアイディアはありますか。
平子 今ゲストに来る人たちは年下が多いんですよ。有吉さんとは、僕らがアシスタントだからまた立ち位置が違いますしね。だから20歳くらい年上の人、リリー・フランキーさんとかと番組やったらどうなるんだろうって。しゃべってみたいですよね。
――50代、60代の人と。
平子 50代、60代のおちんちんですよね。我々とはまた違ったおちんちんなのかなと。達観した目線からのおちんちん。それがどんなものかって。
――でもやっぱりおちんちんなんですね。
平子 そこが共通言語ですからね。それを話さない人って、隠してるだけじゃないですか。
――「持ってるくせに」と。
平子 持ってるくせに、知ってるくせに、やってるくせにって。
――コロナ禍の中の番組作りで感じたことは?
酒井 テレビは収録が中止になったりもしましたけど、ラジオはそれがないですよね。コロナ禍でもラジオは続いてたっていうのが大きいと思います。何かしら対策しながら続けてはいる。そこは凄いなって。
――STAY HOMEの流れからなのかラジオを聴く人が増えたという話もあります。
平子 ただ僕らの場合は、いきなり新規が増えるタイプの番組じゃないんですよね。ほしいんですけどね、新規リスナー。女子リスナーもほしいし。
――「新規リスナーを獲得するために」といった話をスタッフとされることもあるんですか。
平子 一切ないですね(笑)。
酒井 古参をがっかりさせたくもないですしね。今さらパンツはけないというか。
――番組が終わったり、極端に内容が変わったりしたらショックを受ける人が多いタイプの番組っていうことですよね。リスナーの生活、人生の中で占める割合が大きいんでしょうね。
平子 (出待ちで)北海道から来ましたとか夜行バス乗り継いできましたっていう人もいましたからね。こんなおちんちんおちんちん言ってるだけのラジオに、凄い思い入れを持ってくれてたんだなって。だから闇雲なおちんちんではないんですよね。真剣さのこもったおちんちん。
――バカバカしい話なんだけど、すごく大事な話をしてるなっていう。
酒井 大事な時間であり大事な話をしてるんですよね……おちんちんを出しながらね。
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著者:平子祐希
判型:四六判
発売日:2020年10月28日
定価:本体1300円+税