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2020/12/25 20:30

『その男、東京につき』公開! 孤高のMC“般若”自身の過去と未来と映画の裏側を熱く語る!!

高校時代から活動を始め、ヒップホップユニット・妄走族でも活躍。2000年に『極東エリア』でソロデビュー。着実にファンを獲得し、2019年1月には初めての武道館公演を成功させたラッパー・般若。そんな男の長編ドキュメンタリー映画が『その男、東京につき』だ。今回は、般若がこの映画にかける熱い想い、その裏側を聞いた。

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:松本祐貴)

 

名だたるミュージシャンたちが般若について語る映画

映画『その男、東京につき』は般若主演のドキュメンタリー。般若がインタビューに答え、その時代ごとの般若をZeebra、BAKU、AI、R-指定、長渕剛などが語る。般若は、現在ラッパーとして活動するだけでなく、『フリースタイルダンジョン』のラスボスを長年務め、また、ドラマ、映画にも出演し、俳優としての存在感も示す。

 

この映画は、そんな般若がどのように育ち、音楽と出会い、武道館ライブを成功させたかがわかる作りになっている。

 

 

――今回は映画の話を中心に、般若さんの人生についていろいろとうかがいたいと思います。まず、この映画では、BAKUさん、Zeebraさん、AIさんなど、いろいろな方が般若さんを語っています。その般若像に対してどう思われましたか。

 

般若 覚えてること、覚えてないことがありますからね。そういう風に見られていたのかとは思いますよ。ただ、自分としては昔と変わってないんですけどね。

「昔、とんがっていた」ともみんなにいわれてますが、「たまたまオレはこの顔面だから勘ぐられるだけだぜ」って感じですね。だまってるだけで、周りの人を威圧してると思われることがありますしね。

今でもですけど。当時は、必死だったんで。認められたい気持ちがめちゃくちゃありました。

 

 

映画の中で、般若が衝撃的と語っていたのは「隣のクラスの女の子が文化祭のライブでラップをしていた」こと。その衝撃をクラって、般若もラップを始め、ヒップホップユニット・妄走族にも加入する。そこで誰も取らないであろう手段を選んだのが般若だ。ライブへの「カチコミ(マイクジャック)」である。

 

ライブ終了後行われたカチコミ(マイクジャック)

――若かりし時代、妄走族のときにも「カチコミ」と称して「マイクジャック」をしていたことが映画にも描かれます。カチコミをするとき、般若さんは怖かったり、ひるんだりはしなかったんですか?

 

般若 どうなるかわからなかったし、そりゃ、怖かったですよ。いろいろありましたね。

 

――カチコミのせいで、ライブハウスを出入り禁止になったりとか?

 

般若 出禁というか、出演させてもらえなかったんです。だから、そういう形になってしまった。「(カチコミを)やるしかない」に直結しちゃったんです。メンバーと話してても「(マイクジャック)やればよくない?」「そうだね」となって。

 

――実際のマイクジャックの現場を見たことがないのですが、どのようにやるんですか? ライブの最中にステージにあがるんですか?

 

般若 オレは、ライブ中は筋違いだと思って、ライブが終わった瞬間にステージに行ってました。「見に来てくれているお客さんもいる。ライブは仕事」という勝手なルールを作っていましたね。

 

――では、ライブ終了後に、ステージにあがって、マイクをジャックするんですね。それはスゴい勇気ですし、トラブルも恐れないタフさが必要ですね。

 

般若 ド素面ですよ。

 

――素面でカチコミをできる、原動力、衝動はどこからきたんですか。

 

般若 わからないです。考えもなく自然に出てきました。それをやられて、すごく怒っている人もいましたね。

 

――逆にマイクジャックが歓迎されることもありましたか?

 

般若 ありましたね。オレがバトルに出るキッカケになったのは、DEV LARGE(※注1)です。今さんにカチコミをしたら、「お前、面白いな」となって、B BOY PARKに出てみないか、とつながりました。それから大きな大会に出るようになりました。

 

――自分の名前が知られていく、意味のあるカチコミでしたね。

 

般若 外タレとかも含め、ほとんどの人は怒っていましたけどね。

 

※注1 DEV LARGE(デヴラージ・本名 今秀明)1969年生まれ。1989年ごろからニューヨークでDJとしてのキャリアをスタート。その後、BUDDAH BRANDのリーダーとして日本のヒップホップ界を牽引する。 2015年死去。

 

16歳になる年の父親の死、その衝撃

――この映画に関して、般若さん自身がこだわった点はありましたか?

 

般若 北九州に行った件と長渕 剛さんに出演してもらったところですね。

 

――それはどうしても入れたいシーンだったということですか。

 

般若 映画全体の流れは、映像制作チームが作ってくれました。その中で作品として、北九州のシーンを入れたほうがいい、とスタッフに希望を出しました。

 

――北九州のシーンでは、父親のことも話していましたね。

 

般若 曲でも言っていますが、映画にも入れたほうがいいと単純に思ったんです。

 

 

般若の曲『家族 feat. KOHH』の歌詞で描かれる父への思いがこの映画にもある。そこでの般若は、幼いころに別れ、憎みもした父の死を悼み、向かい合っている。般若はそんな父との別れをこう語る。

 

――父親を亡くした喪失感とは、どのようなものでしたか。

 

般若 僕の場合はもともといなかったんで。それほど感じなかったとは思うんですが。自分が入院先の病院に行って、すでに父親が3、4日前に死んでたというのは、衝撃ですよね。あのとき、自分が16歳になる年でしたが、実感がない。「えっ……」というだけでした。その別れ際も「死んだ」ではなく、「死んでた」なので、意味がわかんないじゃないですか。

でも、全員の人がまっとうな家庭ではありません。いろんな立場の人がいます。オレはいい経験をしたと思います。貧乏で、片親で。でも母ちゃんががんばってくれて、今の自分があります。オヤジより、母親に何億倍も感謝してます。

母親は、貧乏だったけど、自分で絶対に食事を作ってくれる人でした。貧乏だと工夫するんですよ。みんながオレのこと変わってるというけど、変わってるんじゃなくて、そういう風になっていっただけなんですよ。

 

当事者般若だから語れる「いじめで死んじゃダメです」

般若は自伝『何者でもない』(幻冬舎)や楽曲『素敵なTomorrow』でもいじめられた経験について赤裸々に告白している。今年は芸能人の自殺も相次ぎ、子どもの自殺も社会問題となりつつある。幼少時、いじめを経験し、現在も誹謗中傷にさらされることもある般若は、いじめ問題についてもひとつの信念を感じさせた。

 

――映画の中に楽曲が使われています。いじめの告白シーンには『素敵なTomorrow』とかですね。これはそれぞれ般若さんが選んだんでしょうか?

 

般若 選曲は、オレはしていません。違和感がなかったので、そのまま採用しています。冒頭の『INTRO』だけは自分で決めました。自分のことを客観で見てくれる人間は必要じゃないですか。「オレがこの曲入れたい」だけだと、もっと一方通行な映画になってましたよ。

 

 

――たしかに作品としてまとまっていたと思います。その『素敵なTomorrow』にも描かれていますが、この映画の中でも幼少期のいじめについて般若さんは語られています。いま、般若さんが、いじめについて思うところはありますか?

 

般若 いじめですか。なくならないですよ。生きている限り、なくならないんじゃないですか。今こうしている間にもいじめはありますよ。大人のいじめと子どものいじめは違いますけどね。

ただ、オレが言いたいのは、「死ぬのはもったいない」ってことです。何年も、徹底して言ってるんですよね。これは、ずっと言っていきたいです。

 

――子どものいじめは、暴力や仲間はずれのいじめのことですね。

 

般若 最近、いじめの質が変わってきてますよね。オレのときは、殴るいじめでしたが、今は殴るいじめではないですよね。

オレに関して言えば、しっかり仕返しして終わらせてやりました。子どもながらに殺す気でいって、バチバチにしてやりました。泣いてもやめなかったし。これはこれでいいんです。

もうひとつは、質が違う大人のいじめ。オレにも毎日おかしなDMやメッセージがきます。オレは耐性ができあがってるので響かないです。でも、真に受けた人間は死んでしまうこともある。自分よりも若い人たちが……死んでいく。それを見ると悲しいです。真に受けなくていいのに。

 

――有名人、一般人にも誹謗中傷が問題になっています。

 

般若 誹謗中傷を言う奴が一番悪い。目立つと来るんですね。言われ続けても相手にしてはいけないんです。顔も名前もわからない奴が言ってるんで。まったく気にする必要はないです。なにかをしている人のほうががんばってるんですよ。

そんなことで、死んじゃダメです。辛かったら、今の活動や仕事をやめてもいいし、逃げてもいいと思う。今は世の中的に難しいですが、日本で暮らすことがすべてじゃないんです。海外で新しい人生をやり直すのも選択肢としてあります。外に出たほうがいいですよ。

 

――たしかに職場なら仕事を変えたり、休んだりと大人なら対抗できる方法がありますね。

 

般若 誹謗中傷する奴も本人の目の前で言えばいい。100%言ってこないけど、オレの目の前で言えばいいんです。そういう奴は自分が安全なところからしかできないんですよ。だから「死ぬのはもったいない」

 

――今のは大人のいじめ、SNSのいじめの話でした。現在、いじめられている小中学生にメッセージはありますか。

 

般若 気にしない方がいいよ。小、中学生のときにいじめられる気持ちはオレもよくわかってる。その嫌な時間がずっと続くと思うかもしれないけど、続かないから大丈夫。小中学生なら「出口がないよ」と思ってるかもしれない。それはしんどいけど、ステップアップすることもできる。例えば、格闘技をやればいい。

 

――そうですね。格闘技で鍛えたり、周りに助けを求めることもできますね。

 

般若 いじめる奴が一番悪いけど、いじめられる奴にも原因があったりするんです。オレは子どものころ、デブで、無口でボーッとしてた奴だったんです。物事を考えるのがすっごく遅かった。

オレも親にも友達にも言えなくて、SOSを出せなかった。今いじめられてる子は、味方もいないかもしれないし、辛いと思う。

でも、大人になったら楽しいこともある。大人になったときの貯金みたいなものだと思った方がいい。オレは歪んだ奴になっちゃったけど、あのときオレをいじめてた奴よりは、オレは成功しているはずです。だから「死んじゃダメ」です。

 

父親代わりとまで言う長渕 剛の存在

般若にとって、「父親代わり」という存在が歌手の長渕 剛。今作にも登場する長渕 剛へのオファーは般若のリクエストでもあった。強く結ばれたふたりにしかわからない世界も語ってくれた。

 

――今作にも出演している長渕さんのお話も聞かせてください。

 

般若 長渕 剛にものを頼むということがどれほどスゴいことか……凄まじいことです。

 

――般若さんにとって、長渕さんの存在はどのようなものなんですか?

 

般若 長渕 剛は、長渕 剛です。ただ、オレが一方的にリスナーだった長渕 剛と、般若として付き合いが始まり、知ることになった長渕 剛は少し違いますね。今回は、剛さんと僕の関係性があり、頭を下げさせてもらいました。

お金とかではないんですよ。どっかの金持ちがあの人に金を投げてものを頼んでも、剛さんは動かないです。

 

――今回の出演は、般若さんと長渕さんの絆があったからこそですね。

 

般若 それ以外ない。関係性がなければ実現できることではなかったです。

 

――長渕さんと般若さんはおふたりでいるときどんなことを話して、その関係性を築いてきたんですか。

 

般若 いろんな話をしますね。オレも厳しいことを言われたり、アドバイスをいただいたりします。

 

――長渕さんが「そういう人生じゃダメだよ」と言ったりとか?

 

般若 いや、世間にはそんなイメージがあるかもしれませんが、剛さんは決して上からものを言わない。対等の立場ですよ。オレの中では長渕さんが絶対ですよ。

 

批判は簡単。違う角度で人の気持ちを動かしたい

2020年は、新型コロナウイルスに世界中の人々が翻弄された年でもあった。コロナ禍という厄災を般若はどのように捉えているのだろう。

 

――現在進行系になりますが、般若さんはコロナウイルス及び、それにともなう音楽活動をどう考えましたか?

 

般若 コロナウイルス自体は、うざいでしょ。でも、人も死んでますし、どう捉えるかですね。ただの風邪という人間もいますしね。自分はなってないし、なりたくないし、自分の身は自分で守らなきゃいけないと考えてます。

ひょっとしたら、オレらが死んでも、インフルエンザみたいにコロナウイルスは、この世からなくならないかもしれない。

もう当たり前のことになってしまいました。だから、感染者の数字やコロナという話題も出したくないんですよ。これを曲にしたいとも思わないです。

 

――そうですね。般若さんは、リスナーが持つ不満や、感情の情景は歌詞にしますが、政治的な曲は作ってないですね。

 

般若 政治的なことは言いたくないんですよ。政権批判してどうするのとは思いますし。やってないですね。批判するのは誰でもできるし、簡単だと思います。違う角度で人の気持ちが動くことをなにかの形にしていきたいです。

この時代にみんな誰しもが辛いのはわかりますよ。それをわけもわからなく煽るような奴になりたくないです。そんな曲、オレは聞きたくないし、興味ないです。

 

2021年はどんな形であれライブを見せる

――映画では2019年武道館ライブに至るまで、そしてその成功も描かれています。それが終わって今、どのように思われますか。

 

般若 これはよく聞かれます。正直なところは、あまり変わりません。武道館ライブの前は、集中できる時間もなかったですし、そこに至るまでが大変でした。ライブをやってるときは楽しかったけど、意外に冷静な部分もありました。ただ、どんな場所でやっても、ライブでやることは変わらないです。

 

――それでも、武道館ライブ前の緊張感は映画でも伝わってきました。

 

般若 自分が目標と掲げてきて、そこでやれたというのは、大きなことです。ただ、武道館に至るまで費やした時間が大切だったんじゃないかと思っています。

 

――武道館公演の前後も、本を書いたり、俳優に挑戦したりと新しい般若さんの面が見れましたが、ほかにジャンルを広げたいと思いますか?

 

般若 音楽以外ですよね。俳優は続けていきたいですね。ほかのことは、やれる環境になったら、発表します。

 

――2020年はコロナの影響でライブはできませんでしたが。2021年はライブに期待をしていいですか?

 

般若 あると思います。今年よりかは、どんな形であれライブはやっていきますよ。

 

 

今作では、2019年の1月に行われた般若の武道館ライブも収録されている。そのライブで曲の間に観客へ語りかけた「ここに来るまで時間かかってゴメン」という般若の言葉にウソはない。

般若はアーティストとして、つねに新しい目標をかかげ、自らの力でその壁を破り、到達してきた。そんなラッパー般若の成長、裏側を見られるこの映画はファンだけでなく、見たものの心を動かすだろう。

 

「必ず出来る あの頃じゃねぇ

一番強えのは今だぜ」

『あの頃じゃねぇ』作詞:般若 作曲:般若/CHIVA from BUZZER BEATS

 

般若

公式サイト:http://hannya.jp/

Twitter:https://twitter.com/hannya_tokyo

 

【information】

その男、東京につき

出演:般若、Zeebra、t-Ace、R-指定(Creepy Nuts)、T-Pablow、Gami、BAKU、松井昭憲、ほか
監督・編集:岡島⿓介
撮影監督:⼿嶋悠貴
製作:A+E Creative Partners 協⼒:昭和レコード
配給:REGENTS 配給協⼒:エイベックス・ピクチャーズ

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12月25日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

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