現在、東京・六本木ヒルズ展望台東京シティビューで開催中の「大都市に迫る 空想脅威展」。世の男性を虜にしているこの展示会で、去る10月22日に特撮にゆかりのある人物を招いてのトークショーが行われた。
登壇者は、森ビル都市開発部メディア企画部・矢部俊男氏を司会に、同展示会の企画者の一人であるKADOKAWA代表取締役専務の井上伸一郎氏。そして、特別ゲストとして平成「ガメラ」シリーズに携わり、「シン・ゴジラ」で監督を務めるなど、特撮界では知らない者はいない樋口 真嗣氏が参加。都市”と“特撮”の関係性を中心に、知られざる製作秘話を交えて展開されたそのトークの模様を紹介しよう!
勝手知ったる3人だけに、リラックスした雰囲気のなか始まった今回のトークショー。まずはじめに、矢部氏から「空想脅威展」の目玉にもなっている平成「ガメラ」シリーズの撮影を振り返りながら、“都市を壊すとき、何に気をつけているのか”という質問が飛んだ。
これに対して樋口監督は、撮影の際の自治体やランドマークの撮影の許諾にまつわる苦労話を、具体的な名称を避けながらもやや暴露的(!?)に吐露。また、平成「ガメラ」シリーズの2作目以降については、「クライマックスのシーンをいまや日本人の原風景とも言える、郊外の街頭沿いの街並みを選びました」とロケ地決定のいきさつを紹介してくれた。
「平成ガメラの1作目は、『怪獣映画といえばコンビナートでしょ』ということで最終的に川崎の扇島を選びましたが(笑)、その後、映画のキャンペーンで各地方に行くと、どこにでも郊外にシネコンがあるということに気づいたんです。それらはたいていショッピングモールの中に入っていて、その周辺を大きな国道が走ってる。これって日本中のどこにでもある風景だなと。それで、今までは東京や福岡などを舞台にすると、よそに住んでいる人にはわからなかったものが、これだと多くの人が“自分の近所”かもって感じてもらえるなと思ったんですよね」(樋口監督)
つづいて“どんな気持ちで街を壊しているのか”といった変化球の質問に対しても、樋口監督は「悪の組織は、自分たちが悪いことをしていると思っていないし、言ってることも正論だったりする。しかも計画的なんですよね(笑)」と解説し、会場を沸かせていく。
また、これを受けて井上氏も、「死ね死ね団(『愛の戦士レインボーマン』に登場する秘密結社)というのは、偽札を作って日本をハイパーインフレにしようとする経済ヤクザみたいな組織なんですよね(笑)。ショッカーという組織も、首領が『仮面ライダー』で1号・2号と戦ってましたけど、途中で“この組織では勝てないなぁ”ってショッカーに見切りをつけるんです。そして次に“ゲルダム”っていう秘密結社を呼んできて合併させて、自分が連れてきた組織のほうを幹部にしてしまう。これ、M&Aですよ(笑)。ものすごく現代的ですよね」と、経営者ならではの視点で、意外と堅実性のある悪の組織の背景を熱く語っていった。
そして話は“東京を壊すときに気をつけていること”へと展開。「ガメラに関しては、“いい者(=正義)”ですからね。壊すつもりがなくて壊してしまってます。敵との戦いの中で、相手がすばしっこすぎて狙いが定まらず、そのまま流れ弾が当たってしまうような感じですよね(笑)」と樋口監督は、不本意ながら街を壊してしまうガメラの想いを代弁。しかし、矢部氏から現在話題の「シン・ゴジラ」での街の破壊のいきさつについて話を振られると、ここで意外ともいえる裏話が。
「ゴジラが活動を停止する地点に行くまでのプロセスで、本当は映画とは違う黄金コースがあったんです。六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、泉ガーデンが同一線上に並ぶルートがあり、『東京の象徴的な建物を一気に殲滅するにはこれが一番いいだろう』って。でも、そのあいだにひとつだけ邪魔な物件があったんですよね。物語の中でも、実際の日本でも非常に重要な施設が飯倉と六本木のあいだにあって、それを壊してしまうとそのあとの展開がうまくいかなくなる。それでなぜか、その一帯を迂回する不自然なルートをたどっているんですよね。まぁ、映画の中では違和感ないんですけどね。でも、そのおかげで(展示会開催地の六本木ヒルズは)助かったんだけど(笑)」(樋口監督)
また、最後には来場者から質問を受けるコーナーもあり、次世代のクリエイターについてのコメントを求められると、樋口監督は「いまの若い子たちのほうが、俺たちよりも後先考えて行動している感じがする」と分析。また、「悔しいのが、僕らが“最近の若い奴は……”って思ってしまうのって、実は自分たちの基準に合う人たちがいないっていうだけで、若い人たちは若い人たちで“こっちのほうがいいよね”って勝手にやっているんですよね。だって自分たちが若い頃そうだったもん。それにiPhoneとかでも簡単にクオリティの高い映像が撮れて編集もできるんですから、やりたいように自由にできる。そこが羨ましいですね」と言葉を残し、トークショーは終了した。
樋口監督をはじめ、多くのクリエイターたちがかつて子どもの頃に特撮を見て育ち、大人になって新たな大作を生み出したように、それに続く若者たちが次の未来にどのような特撮世界を作りだしていくのか、いまから楽しみだ。
大都市に迫る 空想脅威展
期間:2016年9月24日(土)~11月13日(日)
会場:六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー内スカイギャラリー
開場時間:10:00~22:00(最終入場21:30) ※10月20日(木)は10:00~18:00(最終入場17:00)
料金:一般 1800円 / 高校・大学生 1200円 / 4歳~中学生 600円 / シニア(65歳以上) 1500円
【URL】
大都市に迫る 空想脅威展 http://www.roppongihills.com/tcv/jp/event/kusoukyoui/
文・写真/倉田モトキ