「子宮に沈める」「飢えたライオン」など、社会の歪みを真正面から描いてきた緒方貴臣監督が、義足のファッションモデルに訪れる心境の変化を描いた映画「シンデレラガール」が11月18日(土)より公開。主演を務める伊礼姫奈さんが、「推しが武道館いってくれたら死ぬ」のアイドル役とは全く異なる力強いヒロイン・音羽の魅力について語ってくれました。
【伊礼姫奈さん撮り下ろし写真】
新たなシンデレラストーリーって、どんなものだろう?
──今回の音羽役はオーディションで選ばれたそうですが、最初に「義足のファッションモデル」の話と聞いたときの印象は?
伊礼 身近に義足の方がいないこともあり、どこか馴染みのない印象でした。オーディションのときも、いくつかのシーンの台本をいただいただけだったのですが、緒方監督から事前に、音羽の性格やどのような思いでこの作品を作りたいという説明があり、それを聞いたときに「私もこの作品に携わることができたらいいな」と思いました。だから、オーディションで選んでいただいたときは、純粋に嬉しかったです。
──ちなみに、緒方監督からの事前の説明とは、どういうものだったのでしょうか?
伊礼 もちろん、周りの人たちの支えがあって、成長していく部分はありますが、音羽自身がすごく確立したものを持っていて、自分の意思で前に進んでいく、自立していく姿を丁寧に描きたいというお話でした。それで、「今までのシンデレラ像ではなく、新たなシンデレラストーリーを作りたい」って仰ったんですが、それを聞いて、「新たなシンデレラストーリーって、どんなものだろう?」と、とても惹かれました。
──その後、脚本をすべて読んだときの感想は?
伊礼 緒方監督の作品らしく、日常生活を切り取っていて、そのシーンが長く続くわけでもなく、スパンって切れて、また新たな生活のシーンが切り取られていくので、どこかドキュメンタリーみたいな雰囲気が伝わってきました。なので、脚本を読みながら、「どういうふうに撮影するのかな?」っていうワクワク感がありましたし、ネガティブなことを言わないところに、音羽らしい強さが出ていると思いました。
「天井から吊られていることを意識する」ランウェイの歩き方
──音羽の役作りについてですが、伊礼さん自身はどのように考え、緒方監督からはどのようなアドバイスをされましたか?
伊礼 まずは実際に義足を付けられている方に直接お会いして、日常生活ではどういうふうに歩いているとか、いろいろお話を伺いました。また、義足の付け外しの瞬間も見せていただき、それを基に音羽が送る日常や心情に生かしました。あと、セリフだけでなく、細かい表情からもどこか自信があるような感じを意識しました。緒方監督とはリハーサル前も、リハーサル後も、撮影に入るまで、細かく話し合いました。一番は「このシーンでは音羽をこういう女の子に見せたい」「このときの音羽の表情を大事に撮りたい」といったことで、ほかにもそのシーンの意味やセリフの意味も照らし合わせたりしていきました。
──モデルとして、ランウェイの歩き方については?
伊礼 今までコレクションなどに出たことがなかったので、たくさん練習しました。実際にモデルをやられている方と一緒に歩くシーンだったので、そのモデルの方にいろいろ教えていただいて、撮影までずっと歩く練習をしていました。「天井から吊られていることを意識する」とか、ちょっと変えるだけでも、すごくかっこよく見えたりするので、いろいろ研究しました。緒方監督と話し合い、義足であることは意識しつつ、お芝居では表現しないことを心がけました。結構ちゃんとできていたかなと思います。
──撮影中の印象的なエピソードを教えてください。
伊礼 緒方監督は、できるだけカット数を少なめにしたい監督さんなので、ワンカットの撮影が多かったです。例えば、お母さんとのシーンは、生活の一部を覗いているような演出で、演じていても新鮮な気持ちで楽しかったし、出来上がったものを観たときも「すごいな」と思いました。あと、セリフと信号のタイミングを狙っていたクルマの中のシーンやクラスメイトとの関係性や距離感など、その場で生まれるものが多くて、ちょっとした緊張感があったのも楽しめました。
自ら発信することの大切さや楽しさ
──完成した作品を観たときの率直な感想は?
伊礼 撮っているときは、ほかの作品と変わらない雰囲気だったのですが、完成した映画を観たときに伝わってくる緊張感はなんかすごくて、一観客として独特な世界観に引き込まれました。ランウェイでのシーンは、かっこいいだけでなく、ライティングとかで、いろんな含みのあるシーンになっていたと思います。やっぱり、あの現場で生まれた空気感は印象的でしたし、キラキラしたタイトルから想像したものと、いい意味でギャップのある作品になったと思います。
──今回の現場で、学んだことや勉強になったことは?
伊礼 見せ方とか作り方みたいなものを肌で感じることができました。今までは作品に参加するみたいな感覚程度だったのですが、今回は2度目の主演作というのもありますし、この力強い物語で、音羽を演じるからという部分も大きかったと思います。緒方監督も、私の意見を求めてくださる方だったので、できるだけ自分から発信することの大切さや楽しさにも気付くことができました。
──伊礼さんといえば、映画化もされたドラマ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」のアイドル・舞菜役というハマり役も印象的ですが、実際の伊礼さんはどんな性格の方ですか?
伊礼 友達からは、よく「ハッキリした性格だね」とは言われます。好きなものは好きだし、苦手なものは苦手。その人にとって、自分が必要だなって思ったときは、その場にいますし、自分が必要ないとか、大丈夫だなって思ったときは、ちょっと距離を置くようにしているし。このお仕事をしていると、「大人っぽい」とも言われることが多いです。このお仕事を小さい頃からやっていると、いろんなことを学びますし、吸収した素敵なものが積み重なったことで、「大人っぽい」にたどり着いたのかなと思いますね。でも、子供っぽいときも絶対あるし、むしろ高校生らしく楽しんじゃうこともありますよ(笑)。
いろんな方から必要とされる女優さんになりたい
──「どんな女優さんになりたい」など、将来の希望や展望を教えてください。
伊礼 憧れの女優さんが清原果耶さんとキム・テリさんなのは、以前から変わっていません。あと、必要とされる女優さんになりたいです。視聴者・観客の方に、「あの人の芝居見たいね」って言われるのもですし、撮影現場で「あの人がいたら、安心感あるよね」だったり、ファンの方から「応援したい」って思っていただけたり、いろんな方から必要とされる存在になれたらなと思っています。
──いつも現場に持って行くモノやグッズを教えてください。
伊礼 高校2年生のときに、お母さんがプレゼントしてくれた台本カバーです。今までは、かなり以前に買った透明なものを使っていたんですが、お母さんが「推し武道」のお仕事が決まる直前ぐらいのタイミングでプレゼントしてくれたんです。「革り小物Aster*isk」さんというところで、皮の色を選ぶところから、お母さんが全部選んでくれたんですが、私の名前も入っているので、世界に一つの宝物です。現場に持っていくバッグも、ここでオーダーメイドで作ってもらったもので、持ち手の部分を台本カバーと同じ色にしました。
──ちなみに、カメラが趣味だそうですね?
伊礼 写真は私が生きていくうえで、常に近くにある存在なので、フィルムカメラでも、一眼のカメラでも撮ります。最初は興味から初めたんですが、その場の空気感とかも写るので、現場にはよく持っていきますね。現像して出来上がってくるのが楽しみですが、3台ぐらいをメイン使って、あと2台のフィルムカメラはあまり使いこなせてないかもしれません。メーカーはニコンが好きですが、今後余裕があるときに、大人の趣味的なもので楽しめたらなと思っています。
シンデレラガール
11月18日(土)より、新宿K’s Cinemaほか全国順次公開
【映画「シンデレラガール」よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督・脚本:緒方貴臣
脚本:脇坂豊
出演:伊礼姫奈
辻千恵 泉マリン 太田将熙 輝有子 佐月絵美 三原羽衣 田口音羽 筒井真理子
(STORY)
12歳の時に病気で片脚を切断し、入退院を繰り返していた音羽(伊礼)。中学の卒業式に参加できなかった彼女だったが、病院の屋上で同級生が開いたサプライズの卒業を映した動画がSNSで話題になり、モデルのオファーが舞い込む。“義足の女子高生モデル”として注目されるも、その後の仕事は義足を隠したものばかり。「義足を障がいの象徴でなく、個性として捉えてほしい」という声に心を動かされた音羽は、もっと義足を前面に押し出していこうと決心する。
公式HP https://cinderella-girl.paranoidkitchen.com/
(C)2023映画「シンデレラガール」製作委員会
撮影/干川 修 取材・文/くれい響 ヘアメイク/塩田勝樹 スタイリスト/世良 啓 衣装協力/HUNDRED COLOR