革で作られた靴やバッグ、財布などは、使い込むことで風合いがよりよく“変化”していきます。革の素材によってはエイジング(経年変化)することで、重厚な雰囲気を醸しだすことが、商品の付加価値となっているものも。しかし、革のエイジングも一歩間違うと、ただ“みすぼらしいだけ”の劣化状態になってしまう危険もあります。極上の艶を出すには定期的なメンテナンスが不可欠です。
そこで愛着ある革製品と長くつき合うには、ふだんどういうことを心がけ、どういったメンテナンスを施していけばいいのかを、6つのポイントをご紹介します。お話を伺ったのは、革製品のメンテナンスグッズ「M.モゥブレイ」シリーズを展開しているR&Dの広報、上野 哲(あきら)さんです。
ポイント1:動物の革は人の肌と同じく「保湿」が重要です
革製品は極度に乾燥したまま放っておくと、割れたり破れやすくなったりキズがはいったりと、劣化が早く進んでしまいます。エイジングを楽しむ以前に損傷が出てしまっては意味がありませんよね。経年変化をしている最中にも、革の表面に充分なうるおいを与えておくことが重要です。人間の肌のケアと同じく、「保湿」することで革は長持ちします。
ポイント2:凹凸の多い革にはブラシを使いまずは汚れを落とします
オイルが入ったもの、シボが入っているものなど、革にもさまざまな表面加工を施しているものがあります。基本的にはどの革もメンテナンスの作業は変わりません。ホコリなどの汚れを落としてから、全体に少量のクリームを薄く塗り伸ばしてあげるだけです。
ただ、表面の凹凸があるような革にクリームを塗る場合は、そのすき間にホコリなどが入り込んでいることもありますので、まずは柔らかい獣毛などを使ったブラシでクリーニングしてからクリームを塗るのがいいでしょう。
靴をはじめ、汚れが目立つようなものには、汚れ落とし専用の水性クリーナーを使ってください。ただ、通常のメンテナンスクリームにも水分が含まれているので、これを塗り込むだけでもたいていの汚れを落とすことができます。クリーナーはメンテナンスクリームで間に合わないような、しつこい汚れを落とすときに使います。
長財布やコインケースなどは、内側のコインが当たる部分が黒ずんできますが、これは微細な金属粉などが革にすり込まれてしまった状態。クリーナーを使ってもなかなか落ちないので、それも「味」と思ってあまり神経質にならず、楽しむのがいいと思います。
ポイント3:クリームの塗りすぎ、多すぎる水分量もNGです
革製品のメンテナンスは、かさつきを感じる一歩手前ぐらいの状態でトリートメントを施すのが理想です。ただし、メンテナンスの頻度は多ければいいというものではありません。革が含むことができる油分、水分には限界があり、それを超えるとベタベタしてしまったりして使い勝手が悪くなるだけでなく、逆に艶感が失われくすんだ肌目になることも。目安としては、見た目に艶感がなくなり、少しかさついているかな?と感じる質感になったら、クリームを少量ずつ塗り伸ばし、含浸させていきましょう。
ポイント4:コードバンに水分は大敵です
毛穴を潰すような特殊な処理をして仕上げるコードバンは、総じて水気に強くありません。雨粒や水滴にあたり、これを濡れたまま放置してしまうと、その部分の革だけが水分を吸い込み、乾いたときには水ぶくれのような状態になってしまいます。
そのような状態になってしまったときも、決して再起不能ではありません。実は、水牛の角で作られた「アディースティック」と呼ばれる専用の器具で水ぶくれを押しつぶすような処置を施したり、重度のものは熱ごてと呼ばれる器具で熱を加えながら水疱部分を押しつぶすようにして、ある程度のリペアは可能です。
しかし、特に財布やキーケースなどの革小物で使われるコードバンは、靴や鞄に比べると繊細な仕上げのものが多いです。まずは水気を避け、もしも水に濡れたら放置せずに、すぐにきれいに拭き取ってください。
ポイント5:コードバンはメンテナンスクリームのチョイスが大事
「コードバン専用」と書かれたメンテナンスクリームがありますが、たとえそう書かれていない製品でも、コードバンに悪影響を与えるような物質が入っているクリームは、まずありません。ですから、基本的には革製品用として作られたクリームであれば、どのようなものをお使いいただいても問題はないんですね。
ただ、「デリケートクリーム」と呼ばれるようなタイプのものは、含有する水分が多く、あまり大量に使うと、上記にある”水濡れ”と同じ現象が起きる可能性があります。逆にコードバン専用のものは水分量が少なく、油分が多めに配合されています。ここで問題になるのは原材料に何が使われているかではなく、水分量とその配合の割合なので、ラベルからは読み取るのは難しいです。
また、コードバンの中でも、靴用として作られたものは水や汚れからの保護のため、顔料を使った仕上げを施しているものもあります。靴用クリームもそれにあわせた作りになっていることが多いので、革小物に使う場合は、避けた方が無難です。
ポイント6:手指が触れる部分にはワザと多めの油分を染みこませておく
財布など手指が触れる部分は汚れが定着しやすいですよね。特に色が薄い革だとかなり目立ちます。そういう場所にはあらかじめ少し多めにクリームをすり込む「ビフォーケア」というテクニックが有効です。あらかじめ革が吸い込める油分をお腹いっぱいの状態にしておき、手指で付着する皮脂の汚れなどが染み込まないようにするわけです。
重要なポイントをまとめましょう。牛革はケアがしやすく、エイジングを楽しむのに向いた素材である、ということ。定期的にケアをすることさえ心がければ、基本的に難しく考える必要はないそうです。
一方、コードバンは水に濡らしたり、濡れたまま放置しないことが使用の鉄則。そして牛革もコードバンも長持ちさせる秘訣は「保湿」にかかっています。
また、クリームを使ったメンテナンスをする際には、「つけすぎないこと」「から拭きをしっかりやる」という2点を徹底すること。これは取材中に上野さんが何度も強調されていました。
最後に上野さんからメンテナンスクリームの使い分けを教えてもらいました。
「メンテナンスクリームにどんなタイプを買うか悩んだときは、仕上がりに艶を出したいのか、それともマットにしたいのかを考えてください。艶を出したいならノーマルなクリームを、艶をおさえてマットな感じに仕上げたいなら、デリケートクリームを使うといいですよ」
魅力的な革製品を入手したら、同時にメンテナンス用品も取りそろえて、身の回りの革製品のケアを楽しんでみてはいかがでしょうか。ひと手間かけてあげることで、愛用品の寿命が延びるだけでなく、質感が変化していくほどに愛着が深まり、お気に入りがさらに手放せないものになるはずです!
■ホンモノケイカク
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