去る4月のはじめに、なんの予告もなく「タイムギャル」というゲームタイトルがAndroidとiOS向けのアプリとして登場しました。オールドゲーマーは、この嬉しいサプライズに大歓喜しました。
「タイムギャル」って、そもそも何? と思われる方も多いでしょう。「タイムギャル」のアーケード版がリリースされたのは1985年のことなので、かれこれ32年も前になります。30歳以下の人は当然まだ生まれていませんが、アラフォーの人でもリアルタイムでプレイしたことがあるかと聞かれると疑問符が浮かび上がってしまうほど昔の作品です。
当時最先端のLDゲーム
この「タイムギャル」は、なつかしのLDゲームとしてリリースされましたが、若い世代のなかにはLDを知らない人も多いので簡単に説明しましょう。LDことレーザーディスクは、直径30cmという巨大なサイズの光ディスク規格で、いまでいうDVDやBDのように、主に映像コンテンツを収録するメディアとして開発されました。CDやDVDの大きさが直径12cmですから、現物を見たことのない人でもその大きさは想像できるでしょう。個人向けの映像ソフトとしても販売されましたが、レーザーカラオケのように業務用としても使われました。
アーケード版の「タイムギャル」は、このLDを記録媒体として用い、筐体の中に内蔵されたレーザーディスクのデータを読み取って遊ぶという、「プレイステーション」シリーズなどの光ディスクソフトを使う現代のゲーム機の先祖ともいえそうなものでした。家庭用ゲーム機としてファミコンが隆盛を極めていた時代に、コンピューターグラフィックスで全編アニメ表現をし、それをリアルタイム操作できるゲームとして遊べた画期的なもので、当時メインだった映像再生機器がビデオテープだったことを考えると、その映像の美しさは特筆すべきものでした。ちなみにDVDが普及するのは、それからさらに10年くらい先の話となります。
「タイムギャル」は、基本的には全編アニメーションで構成されており、時折、画面上のどこかが黄色く光って矢印やボタンが表示されたら、その方向にレバーを倒す(アプリの場合はその方向の矢印をタップする)、ボタンを押すなどの行動をとります。ゲームの難易度が上がると矢印やボタン表示はなくなり、画面内のどこかが黄色く光るだけになります。初見で遊ぶには難易度が高すぎるので、まずは矢印、ボタン表示ありのレベルから遊ぶのがオススメです。
また、矢印やボタンの表示があったとしても、表示されてから操作するまでの時間が反射神経のみで対応するには短すぎる場合もあるので、初見でクリアするのは極めて困難です。操作する場所と種類は決まっているので、基本的には失敗を繰り返しながら行動パターンを覚える必要があります。いわゆる“覚えゲー”ですね。
ボタン入力は先行入力をしてもミスにはならないので、「次は左だ!」という場面は、表示が出るまでずっと左を連打する感じでオッケーです。
ステージごとに操作順番を覚えても、それだけで安心はできません。ひとつだけ落とし穴があります。それはステージによっては矢印が左右反転になる場合があり、ステージが始まるまで反転するかどうかわかりません。ちなみに1ステージで操作が必要になるシーンは4~10回程度で、全部で16ステージが用意されています。最終ステージのみ固定で、残りのステージはランダムで出現します。
現代のゲームでも使われているシステムも
矢印での操作は基本的に回避行動になっていて、レイカはゲーム中ひっきりなしに逃げ回ることになります。ただ、ボタン操作になった場合は、光線銃を使って反撃したり、時間を止めて何かしらの行動を取ろうとします。
時間を止めた場合は、3つの選択肢が登場し、7秒以内に次の行動を選ばないといけません。時間が止まっているのに7秒というのはおかしな表現ですが、でも7秒なんです。このシステムは今でもゲーム中に良く使われているシステムでQTE(クイックタイムイベント)と呼ばれているものです。制限時間ありで、なにか選択肢を選ばなくてはならないアレです。「龍が如く」シリーズなどにもよく出てきます。
このQTEで思い出すのがセガ・サターンでリリースされた「サクラ大戦」の“LIPS”ですが、これはおそらくセガのアーケードゲーム「ダイナマイト刑事」登場したものがベースになっていると思われます。「サクラ大戦」や「ダイナマイト刑事」の場合は、選択に失敗してもそれほど大きな影響はなかったのですが、「タイムギャル」の場合は選択失敗がミスになるので、よりシビアといえそうです。このQTEの選択肢の内容も固定なので、覚えてしまえば難なくクリアできます。
フォントやアニメの表現に感じる80年代感
もとはアーケードゲームなので、ゲームの進め方によりスコア(得点)が加算されていきます。このスコアが高得点であれば、デモ画面などに自分のスコアが表示されるので、アーケードゲームにおいてはやりがいのひとつになっていました。
この得点表示のフォントや色使いにも時代を感じます。数字やアルファベット、カタカナのみの無機質な感じが、いかにも80年台のアーケードゲームって感じです。まあ、ゲーム中のアニメにもその当時に流行っていた表現が多く使われているので、当時を知る人であれば懐かしさを感じられるでしょう。例えば、1985年というと「機動戦士Zガンダム」が放映された年ですが、ハイライトがキツめでテカテカしたメタルの表現は、Zガンダムでも良く使われていた表現ですよね。
アプリのオリジナル要素も
アプリオリジナルのお楽しみとしては、QTE部分のかな漢字表現ができたり、難易度が調整ができたりとコンフィグメニューが充実している点と、クリアしたステージのアニメやミスをしたシーンのアニメをあとから見られるムービーシアターモード、クリアしたステージのみを遊べるトレーニングなどを搭載しています。ミスしたムービーをすべて集めるには、すべての選択肢でミスをしなくてはならないので、なかなか過酷な作業です。
アプリの価格は840円と、買い取り式のアプリとしてはちょっとお高めの印象。当時、遊んだオールドゲーマーにとっては妥当な価格ですが、はじめて遊ぶヤングゲーマーにはちょっと高めに感じるかもしれません。また、移植具合はかなり高いと思いますが、いかんせん80年代のゲームなので、最新のゲームに慣れているヤングゲーマーにとっては演出不足な印象も否めないでしょう。
例えば、ゲームプレイ以外のアニメシーンがほとんど入っておらず、レイカが何者か、ミスすると登場する高笑いするおっさんが何者か、レイカは何をしたいのか、なんでいろいろな時代に飛んでいる(飛ばされている)のかが説明されていないままゲームが進行してしまうなど、はじめて遊ぶヤングゲーマーのために、そこを補完するアニメを制作してもよかったかなぁと思ったりもします。オールドゲーマーの為にオリジナルもちゃんと用意したうえで。
まあ、端からオールドゲーマーにしか向いていないっていわれてしまうと、そうなんだろうなぁと思ってしまう次第なんですけどね。