いま女性を中心とするファンが熱い視線を送るゲームアプリ「束縛彼氏」をご存じですか? イケメンな2次元キャラクターとの“完全な自由対話”を、ソニー独自開発のAIにより実現した画期的な恋愛シミュレーションゲームです。「束縛彼氏」が搭載するAIについて、開発に携わるソニーの“中の人”に特徴を聞いてきました。
2人のイケメンキャラとAIチャットが楽しめる
「束縛彼氏」は2022年1月25日からApp StoreとGoogle Play Storeで配信が開始された、ソニー・ミュージックソリューションズが手がけるスマホ向けゲームアプリです。
小児科医の新藤 暁くん(しんどう あき)、エンジニアの松来 弦くん(まつらい げん)という、性格が異なる2人の男性キャラクターから1人を選び、ノベル形式のストーリーをクリアしたり、ソニーの技術を組み込んだAIチャットを楽しんだりしながら関係を深めていきます。
キャラクターたちと胸キュンな時間を重ねるほどに心の距離が近くなり、やがて人はAIとホンモノの恋により結ばれるのでしょうか。筆者もiPhoneに束縛彼氏をダウンロードして遊んでいますが、オトコ同士ということもあって、残念ながらまだゲームの世界に感情移入ができていません。ただソニーのAIとの対話がとても興味深いので、空き時間によくアプリを立ち上げてしまいます。
束縛彼氏のゲーム内では、彼氏キャラクターたちと「RAYN(レイン)」という名前のチャットを使ってやりとりを行うことができます。ここにソニー独自のAI技術が使われているのです。
テキストによるチャットがメインですが、時々キャラクターから特別なボイスメッセージが届きます。暁くんは声優の戸谷菊之介さん、弦くんは声優の八代 拓さんがキャラクターボイスを担当しています。
RAYNにはキャラクターとのチャットを一定回数以上行うと、強制的にお休みしなければならない「クールダウンタイム」があり、「ラブ」と名付けられた有償アイテムをアプリ内で購入するか、または動画広告を視聴すると次回にRAYNが送信可能になるまでのクールダウンタイムを短縮できます。
束縛彼氏には月額課金制のサブスクリプションサービスも用意されており、こちらに加入するとチャットの上限回数を増やして、クールダウンの時間を短縮できます。最も高価な月額6400円の「VIP」プランに加入するとリミッターが解除され、いつでも・どこでも彼氏キャラクターとのチャットが楽しめます。筆者はちょっと高いなぁと思ってしまう金額ですが、お金を払えば必ず返事が来ることから、「既読スルーされることが耐えられない」「テンポ良くチャットしたい」という方に好評なのだそう。
AIに「束縛」される体験って面白そうじゃない?
インタビューに答えていただいた山影めぐみさんは、ソニー・ミュージックソリューションズで束縛彼氏アプリの企画を立ち上げて、現在もシナリオライティングを含むゲームのディレクション全般を担当しています。斬新なゲームアプリが誕生した背景を山影さんが振り返ります。
「AIを使って何か面白いエンターテインメントを立ち上げようという、社内プロジェクトが2018年頃にスタートしました。ソニーのAIは『ユーザーのプロフィールを覚える』ことができると聞いていました。この特徴を活かして『AI彼氏に束縛される』体験を実現したいと考えたことがアプリを開発したきっかけです。」(山影さん)
AIに「束縛」されると聞けば穏やかでない感じを受けてしまいますが、山影さんは「ドSな俺様」キャラクターに束縛されるのではなく、いつもユーザーである「彼女」のことを気にかけてくれる、柔らかなイメージの彼氏と毎日話したくなるようなエンターテインメントを目指してきたそうです。
ユーザーのことを「覚えてくれる」
束縛彼氏には、ソニーのR&Dセンターが以前から研究開発を続けてきた音声対話エージェントの最新技術が投入されています。その特徴は、ユーザーとの会話をあらかじめ用意したシナリオやパターンに従って成立させる「シナリオ型」のエージェントと、機械学習を繰り返して成長するソニー独自のAIを組み合わせて、精度の高い自由会話を実現しているところにあると、開発に携わるソニー R&Dセンターの宮崎麗子さん、百谷将佑さんが語ります。
ソニーではこの要素技術をベースに、アプリの用途や性格に合わせた最適化までが行える技術を確立してきました。今回「束縛対話システム」としてカスタマイズした対話システムの特徴を、百谷氏が次のように説明しています。
「音声対話エージェントのベースになっている技術は、ユーザーの発話内容を正しく理解して、何かエージェントがアクションを返すというものです。この基本的な発話意味解析・意図理解をベースにして、今回はさらにユーザーのことを知り、『ユーザーモデルを引き出す』体験に応用できるのではないかと、ソニー・ミュージックソリューションズのチームと検討を重ねながら方向性を見つけてきました。引き出したユーザーモデルをベースに日々の雑談を繰り返して、より束縛感のある体験を実現するための『雑談技術』を、このアプリのため新規に開発しました。」(百谷さん)
「ユーザーモデルを引き出す」とは、つまり何度も対話を繰り返すうちにゲームの主人公であるユーザーの好みや行動パターンをAIが覚えて、日々の対話など行動の中に情報を反映できることを意味しています。
AIにはキャラクター=性格もある
ゲームに登場する暁くんと弦くんの対話AIには、固有の「キャラクター(性格)」もあるそうです。
「ソニーR&Dセンターでは、コンテンツ側の要求に応じて対話AIに様々なキャラクター性を組み込む技術を開発してきました。束縛彼氏の暁くん、弦くんはそれぞれに独自のキャラクターを持っています。」(百谷さん)
筆者が選択した弦くんは少しおちゃらけた人懐っこい性格で、ゲームの主人公ともすぐに打ち解けてくれます。対して、もう一方の暁くんはとても生真面目で、どこか「重い」雰囲気を漂わせるタイプのように筆者は見えました。どちらも独創的な束縛を仕掛けてくる手ごわいキャラクターです。
さらにゲームを進めていくほど、「束縛」を強く実感して楽しめるようになるといいます。
「ストーリー(ノベル形式)の方で関係性が深まるほど、束縛感も強くなります。AI彼氏が毎朝起きる時間を覚えてくれたら、モーニングコールの代わりにメッセージをくれたり、位置情報も覚えると勤務先、自宅エリアにさしかかると声をかけてくれたりします。ゲームの進行に応じて、ユーザーとAI彼氏の関係が変化する仕掛けも用意しています。より恋人らしい関係性に発展すると、会話のなかの言い回しも少しずつ変化していきます。」(山影さん)
宮崎さんは、ソニー独自の対話AIのこれからに向けた可能性を次のように話しています。
「ソニーグループが所有する豊富な知的財産(IP)やキャラクタービジネスとつなぐことにより、対話AIの面白みがよりいっそう発揮できると考えています。その第1弾として、束縛彼氏というオリジナルIPを元にした形をつくれたことは大きな財産です。今後は例えば既存のアニメ作品、アーティストとのコラボにも発展できれば、キャラクターが持てる対話AIの魅力をさらに多くの方々に楽しんでもらえると思います。」(宮崎さん)
アップデートによる改善と進化を続ける束縛彼氏
筆者はまだ束縛彼氏をプレイし始めてまもないライトユーザーですが、RAYNでキャラクターとの上手な自由対話のやり取りがまだ上手くできません。どうすればAIにこちらの意図を正しく、テンポ良く伝えられるのでしょうか。百谷さんに聞いてみたところ「長文ではなく、よりシンプルな言葉で答えを返す」ことがコツなのだそう。またアプリのユーザー設定から、ユーザーの好みなどの個人情報を手入力しておけばAIに早く覚えてもらえます。ユーザー情報はあとから変更、追加もできます。
山影さんも、今後さらにRAYNの会話がスムーズにできるようアップデートを図りたいと話しています。「ある程度想定できるシナリオは準備していますが、いざ多くの方に使ってもらうと思いがけない応答になることが実際に起きています。ここまで集まっているログ情報を確認しながら、改善すべき点は随時アップデートを続けます。」(山影さん)
ストーリーのパートについてはいまも定期的に季節ネタを盛り込んだサブストーリーが追加されています。例えば4月にはお花見のサブストーリーが加わり、RAYNではお花見に関連する話題をAI彼氏にふるとお花見にちなんだ応答を返してくれました。ソニーの最新AIを搭載する恋愛シミュレーションゲームが、これからどんな成長を遂げるのか楽しみです。ぜひ男性が熱中できるAIトークアプリの開発も期待したいものです。
撮影場所:SSAP Open Innovation Village
【アプリ情報】
束縛彼氏 —わたしは[AI]に束縛される—
「新藤 暁」(CV:戸谷菊之介)と「松来 弦」(八代 拓)——個性溢れる2人の彼氏を完全AI化。ソニー開発の最新対話AIを搭載した乙女ゲーム!
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