長時間のデスクワークや立ち仕事など、腰痛を引き起こす要因はさまざま。なかでも、スマホやPCを使うときになりがちな、前屈みで猫背の姿勢が大きな要因になっているようです。この姿勢で長時間過ごしていると、首や腰に大きな負担がかかるためです。
痛みや疲労感は、マッサージや消炎鎮痛薬入りの湿布を貼るなどしてやわらげる方法もあります。でも、生活習慣や家具などを変えることで、日常的に痛くならない体作りができたらいいですよね。今回は整形外科医でカイロプラクターの、竹谷内カイロプラクティックセンター院長・竹谷内 康修さんに、腰痛軽減に役立つ環境作りについて聞きました。
生活習慣で変わる、腰痛を軽減する方法5
腰痛の原因となる生活習慣の中で、もっとも見直したいのが“姿勢”です。長時間同じ姿勢をとり続けたり、正しい姿勢がとれない椅子に座ったりしていると、筋肉疲労を起こしやすく、慢性的な痛みにつながってしまいます。
「現代に多いのは、“スマホ首”という言葉で知られている『ストレートネック』の症状です。ストレートネックとは、スマホやPCを操作するときの悪い姿勢が習慣化することで、背骨の構造が変わってしまうことをいい、慢性的に首や肩、腰に負担がかかるようになります。自宅でもスマホなどを年中見ている人が多くいるため、ストレートネックは多くの現代人が抱える症状なんです。環境を見直して正しい姿勢を意識することで、腰痛や肩こりは軽減されていくでしょう。生活習慣を変えることで、体に負担をかからなくする方法を5つ紹介します」(竹谷内 康修さん、以下同)
1. 筋肉のこわばりがない環境づくりを心がける
職場では、自分の快適な温度に室温設定するのが難しく、寒すぎて肩に力が入ってしまうことがあります。また、騒音や人の話し声が耳障りだったり、緊張した状態が続いたりすると、筋肉は硬直し続け、肩こりや腰痛の原因となるのです。
「職場で受けたストレスをリセットできるよう、自宅に帰ってきたらきちんとリラックスできるような、体がこわばらない環境づくりを心がけて。暑すぎたり寒すぎたりすると、体が体温調節しようと、自律神経を使って筋肉疲労を起こしますから、夏であれば汗をかかずにいられる温度に室温を設定し、冬は手足が冷えないよう調節しましょう。また、スマホやPCから出ている強すぎる光は目や神経を刺激し、至近距離で長時間凝視することで、大きなストレスとなって目の疲れや頭痛、首や肩こりなどを引き起こす場合もあります。これらは、画面を暗めに設定するだけでもかなり軽減されるはずです」
2. スマホやPCを使う姿勢を正しくする
前屈みで、頭が突き出た姿勢で長時間過ごしていると、ストレートネックになりやすく、重たい頭を支える首の筋肉に大きな負担がかかります。頭が首の真上にまっすぐ乗った状態なら、首への負担が最小限で済みますから、背中と首、頭が一直線になるような姿勢を心がけましょう。
「スマホを見るときに背中を丸めないよう、できるだけスマホを顔の正面に持ってきて見るようにします。スマホを持っている腕が疲れるようなら、もう一方の手で肘を支えましょう。PCは、肘が肩のまっすぐ下にくる姿勢を保てるよう、キーボードを手前に引き寄せます。ディスプレイは、見るときに首が下を向かないよう、まっすぐ前を向いたときの目線の高さに合わせて調節しましょう。ノートPCの場合はなかなか良い姿勢をとりにくいので、外付けのキーボードを使うなどして、ノートPCを箱や台の上に置いて目線を高く保ちます」
3. 同じ姿勢が続かないよう30分ごとに休憩をとる
どんなに良い姿勢でいても、それが長時間続くと筋肉疲労につながりますから、30分に一度はトイレに立ったり部屋を歩いたりして、姿勢を変えるようにしましょう。
「アナログ時計を見て、長針が12と6に来たら休憩、などというようにルールを決めておくといいですね。集中して作業を続けたいときや、会議中で立てない場合などは、首を回したり腰を少し伸ばしたりして、筋肉をほぐします。運動できる場であれば、腰や首、胸の筋肉を伸ばすストレッチを取り入れましょう」
4. 立ち姿勢は胸を起こして頭を正しい位置に
立っているときの姿勢も、猫背にならず背骨がまっすぐになるように心がけます。
「背中の中心、肩甲骨のいちばん下くらいの高さに、ボタンがあると想像してみてください。そのボタンをぐっと押すと、胸が開いて背筋が伸び、視線が真正面に向く良い姿勢がとれます。重たい頭が自然と、首の上の良い位置に乗りますから、腰や首に負担がかかりません」
5. 椅子やソファ、寝具などの家具を見直す
肩こりや腰痛は、立っているときではなく、座っているときにかかる負担から起こります。ダイニングチェアやデスクワークをするときの椅子は、大腿部を圧迫せず、腰や背中をしっかり支えて楽に正しい座り方ができるものがおすすめです。
「床に座る和式の生活は、実は背中が丸まりやすいのでおすすめしていません。できるだけ洋式の生活に変えていきましょう。あぐらや体育座りの姿勢も、背中が丸まって頭が前に突き出てしまいます。座椅子を使えば背もたれに体重を預けられるので、多少よい部分もありますが、できれば足が下に伸ばせる椅子の生活がよいでしょう。寝具も、布団よりベッドのほうがより体を包みこみやすいので、布団で寝起きしている方は低反発マットを敷くなどして、床の硬さが体に伝わらないようにします。椅子やソファを新たに購入するのが難しい方は、下記に挙げたようなクッションや、タオルを使ってみてください」
腰痛にならないためのおすすめアイテム
それでは具体的に、竹谷内先生がおすすめするアイテムを紹介しましょう。ポイントは、「正しい姿勢をとれること」です。
1. 体に合わせて調節できるデスクチェア
オカムラ「シルフィー」
6万円〜(編集部調べ)
作業に集中するときのデスクチェアは、自分の体に合わせて高さ調節できるものを選びましょう。背もたれがないものや、背もたれが湾曲していないものは腰を支える負担がかかりますから、座面にも背面にもクッションがあるものがおすすめです。
「シルフィーは、背もたれのリクライニングのほかにも、座面の奥行きを変えることができるので、よい姿勢で座れるように調節がききます。肘掛けつきのものを選ぶ場合は、シルフィーシリーズのような肘掛けの高さが調節できるものを選ぶことで、デスクとの距離をいい位置に保つことができます」
【座り方のポイント】
「座面に対して骨盤が垂直になるようまっすぐに腰をおろし、背もたれにお尻があたる位置で深く座ります。膝の裏が圧迫されず、足の裏がしっかり床につく位置に座面の高さを調節しましょう。その形がよい姿勢ではあるのですが、デスクワークをするときにこのままの姿勢では疲れてしまいますし、疲れるとまた悪い姿勢に戻ってしまうので、そのまま背もたれに体重を預け、筋肉に緊張のない状態を作ります」
2. 人間工学から考えられたソファとダイニングチェア
カリモク「2人掛椅子ロングUT7312K281」
22万1400円
カリモクのソファは、クッションは体圧の偏りがなく、太ももや腹部が圧迫されないよう考えられています。「硬い素材のものはそれだけでお尻や腰が痛くなりますし、柔らかすぎると体が沈みこんでしまうので背中が丸まりやすくなってしまいます。カリモクが作っている、人間工学に基づいて作られたEISマークのある椅子はどれもおすすめです。ソファもダイニングチェアも肩甲骨がきちんと収まり、背中をしっかりサポートできる作りになっています」
カリモク「食堂椅子 CT6115E562 張地合成皮革」
4万3848円
食事や書きものなどの作業にも使うダイニングチェアは、3本の横桟すべての角度、カーブを変えて作られています。背中や腰に優しくフィットするような形状になっているため、カリモク独自の「座り心地研究」から導き出された理想の姿勢を作ることができます。
3. 使っている椅子の座り心地を変えるクッション
江崎器械株式会社「バックハガー」
6804円
江崎器械株式会社「サテライト」
7344円
椅子を購入することが難しい場合は、正しい姿勢になるようクッションを使ってみましょう。腰や背骨への負担が少なく、長時間デスクワークをする方におすすめです。「背中に当てるものは、カイロプラクティックの知識に基づいて作られたバックハガーがおすすめです。背骨の自然な形を保てるように設計されているので、長時間座っても疲れにくく、腰に負担がかかりません。骨盤と背骨を支え、大腿部を圧迫しない座面用のサテライトと併用するのがよいでしょう。座り心地がよく疲れにくい環境をつくることで、正しい姿勢を無理なく続けられるのがポイントです」
4. ベッドマットの上から敷けば面で体を支えられる低反発マットレス
ショップジャパン「トゥルースリーパー プレミアケア」
2万6784円
ベッドマットは、一体型のコイルで作られたものではなく、独立コイル型や面で体を支えられる低反発のものがおすすめです。「低反発マットは体の凹凸に合わせて沈むので、リラックスしたときの姿勢を保ったまま眠ることができます。ベッドマットを新たに購入するのは大変ですが、敷き布団やベッドマットに敷けばいいトゥルースリーパーが便利でしょう」
最後に、腰痛や肩こりを軽減するための“よくある質問”にも答えていただきました。
腰痛対策Q&A
他にも腰痛や肩こりを軽減する方法はあるのでしょうか。ここでは竹谷内先生によくある質問に答えていただきました。
Q 枕はどんな硬さのものがおすすめですか?
A 枕が柔らかすぎると頭全体が沈み込んで埋もれてしまうので、ある程度の硬さがあり、首をしっかり支えるものがいいと思います。楽な姿勢がとれるならば、抱き枕なども有効です。
Q 腰痛はお風呂で温めた方が良くなりますか?
A 温めると筋肉が和らいで楽になる方もいらっしゃいますが、汗をかくほど温めると、体温調節するために自律神経が働いて疲労につながってしまうので、ぬるめ(39〜40℃)のお湯に10〜20分くらい浸かって温まりましょう。
Q 温湿布と冷湿布、どちらを使えばいいですか?
A 温湿布も冷湿布も、貼ったときに温度を感じたり、ひやっと感じたりするだけで、患部を温めたり冷やしたりすることはできません。また、温めたり冷やしたりしても腰痛を根本的に解決することはできないので、心地よいほうを使う、ということでいいと思います。
寒くなってくると体が縮こまることが多く、筋肉がこわばり、腰痛の原因になることも。腰痛は日頃のケア次第で予防できることもあります。定期的な休息と体操を心がけて、体に疲れがたまらないようにしていきましょう。まずは生活環境と生活習慣を見直し、腰痛に負けない環境に整えていきましょう。