肩こりは、首から肩の“筋肉の張り”が原因。慢性的に悩んでいる人は多いのではないでしょうか? 都内のオフィス街にクリニックを構える、チームメディカルクリニックの理事長で整形外科医の小橋大恵先生に、肩こり解消のセルフケア方法を教えていただきました。
肩こりに現代人が悩まされるワケ
「『肩こり』は、厳密には病名ではありません。首の後ろから肩甲骨あたりの筋肉が張っている症状をいいます。長時間のデスクワークやスマホの見過ぎなどにより、肩や目にかかる負担が大きくなることが主な要因です」(チームメディカルクリニック理事長・小橋大恵医師)
また、肩こりが重症化して受診するのは、20~40代の女性が圧倒的に多いと言います。
「男性よりも女性に多く見られるのは、なで肩や首の細さ、猫背やいわゆるスマホネックなどになりやすい体型的な問題、デスクワークが多い傾向にあることや運動不足などが影響していると考えられます」(小橋医師)
なで肩や首の細さがなぜ、肩こりを引き起こすのでしょうか?
「左右の鎖骨の位置が下方にあり、肩の傾斜が強いなで肩は、首から肩甲骨あたりの筋肉に、腕の重みがかかりやすくなります。両腕を合わせると、腕は体の約12%の重みがあるので、体重50kgならば、6kgが肩にかかることがわかります。頭の重さは体の約8%なので、同じように計算すると、約4kg。首が細ければそれだけ、首の筋肉に負担がかかります。ここに、猫背やうつむいた姿勢でスマホを見る『スマホネック』が加われば、首から肩の筋肉はますます緊張し、疲労物質が溜まることに。肩こりになるのは必然といえます」(小橋医師)
また、冷えによる影響も気になります。
「ストッキング、素足による足の冷えやパンプスで足を締め付けることが、直接、肩こりの要因になるわけではありません。しかし、ヒール疲れや冷えにより、首や肩まわりに力が入ったり、筋肉の緊張が高まったりすることで肩こりが引き起こされやすいので、冷えを予防することは大切です」(小橋医師)
現代人の8割がスマホネック!? 意識して目線を上げることが大事
正常な首の骨は“く”の字のようにカーブしているのに対し、首の骨がまっすぐの状態になっていることを「ストレートネック」といいます。近年、このストレートネック状態の人はとても多く、うつむいた姿勢でスマホを長時間見ることが大きな要因であることから「スマホネック」ともいわれています。
「肩こりで受診される患者さんのほぼ9割が、スマホネックですね。女性や子どもは男性と比べると骨が柔らかいので、スマホネックになりやすく、日頃から姿勢には気をつけることが大切です。スマホやタブレットを見る際には、目線の高さまで液晶画面を上げるように意識しましょう」(小橋医師)
「うつむく姿勢は首の骨がまっすぐな状態になります。頭の重みが、首の骨と背中の筋肉にかかってしまうのです。目線の高さにスマホやタブレットの画面を上げると、頭の重さを上半身全体で支えられる上に、背中の一部の筋肉に負荷が偏りません」(小橋医師)
次のページでは、肩こり解消のためのセルフケアを紹介します。
ここからは、肩こり解消のためのセルフケアを紹介しましょう。
【仕事中】1時間に5~10分の休憩で筋肉内の血流を促すこと
日中のデスクワーク時には、1時間に1度ペースで小休憩をするのがポイントです。
「パソコンに向かって集中していると、1時間くらいはあっという間に過ぎてしまうこともありますよね。できれば1時間に5~10分間、肩の上下運動や、肘を背中の中央に引き寄せて肩甲骨を動かす動作、首回しや目を閉じてリラックスなどをして、肩まわりの血の巡りを促しましょう。両手を天井にむけてグーッと伸ばしたり、席を立って歩いたりするのもおすすめです」(小橋医師)
仕事の合間にできる簡単ストレッチ
1.肩の上下運動
両肩を耳に近づけるように上に上げて、ストン! と下に落とすように下げる。この動作を5〜6回、繰り返しましょう。
「パソコン画面に集中し、肩に力が入って緊張した状態が続いていたはずです。そのような背中から首の筋肉を、ほぐすイメージで行います。この動きにより、筋肉内の血液が巡り出し、肩こりの痛みを引き起こしている疲労物質を、血管を通して流し出すことができます」(小橋医師)
2.肩甲骨の引き寄せ
肘を曲げて後ろにグッと強く引いて肩甲骨を寄せ、肘を脇腹の位置まで戻す。これを5〜6回繰り返し、肩甲骨を開閉します。
「同じ姿勢で長時間座っていたり、考え事やストレスで肩に力が入っていたりすると、肩甲骨周辺は萎縮しています。伸び縮みさせる運動をすることで、萎縮していた筋肉がほぐれてやわらかくなり、筋肉に血液中の酸素が行き渡ります」(小橋医師)
3.両腕伸ばし
腕を組んでグーッと上に伸びる動作は、背中全体の筋肉を縦方向にほぐすことができます。
「肩にかかっている腕の重さを解放してあげる動作です。気持ちがいいし、大きなリラックス効果があるので、定期的に取り入れて欲しいですね。デスク付近でやるのが難しければ、トイレ休憩の際に行うのがよいでしょう。席を立って歩く際には、腕を振ったり、肩を回したりして、背中から首周りの筋肉を動かすように心がけてください」(小橋医師)
セルフケアで筋肉をほぐしたあとは、骨と筋肉のつなぎ目あたりを自分でギュッギュッと押すのもおすすめとか。
「いわゆる肩もみですね。専門家や上手な人にやってもらうのはいいのですが、肩もみになれていない他人にやってもらうと、力加減が合わないことで“もみ返し”が起きて筋肉を痛めてしまう場合もあります。自分の手で心地よく感じる圧をかけながら、行うのがいいでしょう」(小橋医師)
【帰宅後】腕や頭の重みから肩を解放して温めること
仕事から帰ってホッとひと息つける、自由なくつろぎ時間。ここで肩こりケアに時間を費やすのは、正直おっくうになりますよね。
「肩を温めることと、首や腕の重みから解放してあげること、リラックスすることを意識して過ごすだけでも、肩こりの症状をやわらげることができますよ」(小橋医師)
自宅でできる肩こり解消のコツ
1.肩を温める
湯船にゆっくりと浸かる余裕がない日は、シャワーを肩に数秒間当てて、じんわりと温かさを感じるだけでも効果があります。「肩を温めることで筋肉がほぐれ、血の巡りがよくなります。肩にシャワーを数秒間かけ続けたり、ホットタオルをのせたり、温湿布を貼ったりするのがおすすめです」(小橋医師)
2.頭の重みから首を解放する
ソファに座るときは、背もたれに頭をのせて、首にかかる頭の重みを減らすように意識します。「首から肩周りへの負荷を減らし、リラックスすることが肩こりをやわらげます。目を閉じてボーッとするだけでもOK。スマホやパソコンを見る際には、くれぐれも目線を落とさないようにしましょう」(小橋医師)
3.寝具は硬め、枕は低めに
「横になったときに体がフワフワと安定しない状態は、肩に力が入ってしまいます。理想は、硬いマットの上で仰向けに寝ること。この際、枕は低めにして、首の骨は湾曲を保てるようにします。枕の代わりにバスタオルを折りたたんだものでもいいくらいです。横向きで寝る場合は、抱き枕を使うと、腕の重みが分散され、肩こりの痛みがラクになります。寝返りは自由に打てる方が、体への余計な負担がないので、寝返りが問題なく打てるくらいのゆとりのあるスペースで眠るようにしましょう」(小橋医師)
多くの現代人が悩まされている肩こりですが、セルフケアを行うことで、症状を改善することができます。首から背中の筋肉が萎縮したり、緊張したりし続けることがないように、定期的にほぐすようにしましょう。
どうしても肩の痛みが引かないときは、消炎鎮痛効果のある薬を飲んだり、湿布を貼ったりして対応するといいそうです。整形外科でも物理療法や飲み薬を処方してくれるので、辛いときには一度、受診をするのもおすすめです。
【プロフィール】
チームメディカルクリニック 理事長 / 小橋大恵
整形外科医。群馬大学医学部出身。大学卒業後は研修先に救命救急を志望し、前橋赤十字病院ほか、複数の病院で経験を重ねる。2016年に巡回健診をメインとするクリニック(現「チームメディカルクリニック」)の理事長に就任。筋・骨・靭帯・神経などの運動器官の診察のほか、スマホの長時間使用による、現代ならではの肩や首の不調に対する診察やアドバイスを行っている。趣味は乗馬と空手。3歳と1歳のお子さんのママ。