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日本歯科医師会は10月24日、「腸に到達する歯周病菌を防ぐ!」をテーマに歯周病のリスクとオーラルケアを学ぶ「歯と口の健康シンポジウム2023」を開催した。実は全身疾患につながる危険性があるという歯周病。その原因とリスクの解説にくわえて、ブラッシング講座も開催された。
成人の7割が歯周病患者。自覚のない進行を防ぐためには口内ケアが重要
歯周病は、歯みがき時のみがき残しで生じるプラーク(歯垢)が原因で引き起こされる炎症性疾患のこと。昨今、健康意識が高まっており口内ケアにも注目が集まっているが、実は歯ブラシを使ったケアだけでは歯周病予防には不十分だといわれている。日本歯科医師会が15歳~79歳の男女1万人を対象に行ったアンケートによると、「全身の健康のために口の健康に注意している」と答えた人が全体の9割以上であったにも関わらず、2011年から2016年にかけて歯周病患者は増加しており、65歳~75歳では6割もの人が歯周病を発症していることが明らかとなった。
大阪大学 大学院歯学研究科 予防歯科学講座 教授の天野 敦雄氏は、「歯周病はほとんど痛みがなくサイレントに進行していくもので、気づいたら悪化しているケースが多いです」と、その危険性について警鐘を鳴らした。プラークは溜まっていくにつれ硬化していき、歯石と呼ばれるものになる。これが溜まると歯と歯ぐきの間に歯周ポケットと呼ばれる隙間ができ、歯ぐきに炎症が起こったり、歯を支える骨が痩せていったりして、ひどい場合には歯が抜け落ちてしまうこともあるのだ。
日頃から歯をきちんとみがいているつもりでも、実は歯の汚れは落ち切っていない。天野氏は、歯の汚れが溜まりやすい場所として「歯の表面」「歯と歯の間」「歯と歯ぐきの間」の3つを挙げ、隙間のケアにはデンタルフロスのような補助器具が欠かせないと解説。しかし、補助器具を使用しても、汚れは全体の8割程度しか落とせないため、セルフケアとは別に歯科医師によるプロフェッショナルケアも欠かせないという。
歯ぐきから出血したらすぐに受診を
「歯科医によるケアをしないと、365日ずっと歯周病の原因になる歯垢を溜め続けることになる。これは非常に怖いこと」と天野氏。歯周病の進行具合が分かるセルフチェックリストには、以下の9項目が挙がった。
【歯周病セルフチェックリスト】
・歯ぐきに赤く腫れた部分がある
・口臭がなんとなく気になる
・歯ぐきがやせてきたみたい
・歯と歯の間にものがつまりやすい
・歯をみがいた後、歯ブラシに血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある
・歯と歯の間の歯ぐきが、鋭角的な三角形ではなく、うっ血していてブヨブヨしている
・ときどき、歯が浮いたような感じがする
・指でさわってみて、少しぐらつく歯がある
・歯ぐきから膿が出たことがある
出典:(公財) 8020推進財団
上記項目のうち、チェックが1~2個の場合は歯周病になりやすい、もしくはなっている可能性がある。3個以上の場合は、歯周病になっている、もしくは非常に進行している可能性がある。とくに、歯ぐきからの出血がある場合には注意が必要だ。
「歯周病菌は、タンパク質や鉄分を好みます。これらは血液のなかにある成分ですので、歯をみがいて歯周ポケットの内側に潰瘍面ができ出血すると、血液中の成分を栄養源にして活性化してしまいます。菌のなかでもポルフィロモナス・ジンジバリス(以下、ジンジバリス菌)という細菌は、歯周病のキーストーン・パソジェン(要の病原菌)と呼ばれており、この菌がいるだけで歯周病が容易に発症してしまいます」(天野氏)
歯周病を進行させないためには、自己判断せずに、速やかに歯科医院へ行って治療してもらうことが何よりも大事なことなのだ。
歯周病と全身疾患のメカニズム。口内ケアは腸活にも欠かせない
さらに、歯周病は口内だけではなく、全身にも影響を及ぼす可能性があるという。予防医療のスペシャリストでもある内科医・認定産業医の桐村 里紗氏は、昨今注目を集めている「腸活」で忘れがちなのが口内ケアであることを指摘。糖尿病や高血圧、動脈硬化や癌など、さまざまな全身疾患につながる危険性があることについて述べた。
その原因は、歯周病の炎症により発生した細菌が、唾液や食べ物などと一緒に体内へ入っていき腸内細菌が乱れることにある。歯周病になっていると、ジンジバリス菌10億~100億個、口内細菌全体としては、実に1兆~10兆個も唾液と一緒に飲み込んでしまっていることになるのだ。そうした細菌を殺菌してくれるのは胃酸だ。一般的に胃酸のpHは1~2で、ほとんどの菌を殺菌するといわれているが、桐村氏は「胃酸抑制薬を長期連用していたり、ピロリ菌に感染していたりして胃酸の酸性度が低下していると、歯周病菌が殺菌されないまま腸まで到達してしまいます。それが、さまざまな疾患を引き起こす危険性へとつながるのです。そうならないための予防として、口内ケアは欠かせません」と、毎日の口内ケアの重要性を示した。
「口内ケアをしないでいると、菌が酸に強い『バイオフィルム』状態になってしまいます。この状態では、pH3の胃酸に2時間浸しても、7割の菌が生き残ってしまうため、仮に胃酸の酸性度が低下していなくても、腸への侵入を防ぐことが難しくなってしまうのです」(桐村氏)
歯周病菌が腸内環境を乱してしまった場合、「おならや便が臭うようになる」ことが日常的なサインだという。しかし放っておくと、本来なら身体を守るための免疫細胞が暴走してしまうため、酷い場合には脳や腎臓、血管など、さまざまな臓器に影響して、全身疾患の原因となる可能性も高い。ここでもやはり、歯周病予防に努めることが最も大事であるようだ。
歯周病になりやすい体質は「肥満」と「糖尿病」
このほかにも第1部では、歯周病は遺伝するのか? 歯周病になりやすい体質は? という疑問について天野氏と桐村氏が解説してくれた。天野氏によると、遺伝する因子は皆無ではないが、親から子供へ歯周病菌が移るリスクの方が高いという。歯周病菌は18歳以上の口内に住みつくといわれているため、家族で大皿の料理を直箸でシェアしたり、飲み物を回し飲みしたりすることがそのリスクを高めてしまうのだ。
そして、歯周病になりやすい体質には、「肥満」と「糖尿病」が挙げられた。肥満になると、脂肪細胞自体が太ってしまう。そうして、同細胞から多量に分泌された腫瘍細胞の壊死を誘導する因子であるTNF-αが、歯周病の炎症を引き起こすのだという。糖尿病の場合は、血糖値が上がることが歯周病を引き起こす原因となる。これは、血液のなかの糖分が口内の細菌を繁殖させやすいことや、高血糖の影響で歯の組織が劣化しやすくなるため起こるといえるだろう。
最近では、BIM18.5未満のやせ形の女性が糖尿病になりやすいともいわれている。その原因は、痩せた女性はインスリンの分泌が悪く、食後に高血糖を起こしやすいことにある。口内ケアをしっかり行っていても、やせ型の女性は十分に注意が必要なことが分かった。
第1部の締め括りに天野氏は、歯周病予防や進行を止めるためには、プラークを取り除くだけで対処できる、と積極的な口内ケアを呼びかけた。
桐村氏は、改めて歯周病が万病の元であることのリスクを訴えた。
「寝たきりの状態になるフレイル(虚弱)という状態がありますが、これもオーラルフレイル(口内の虚弱)から始まります。全身疾患の始まりは口だということを十分に理解していただき、ぜひ日常的なセルフケアと定期的なプロのケアを併用していってください」(桐村氏)
歯周病予防に効果的なブラッシング法
第2部の歯科衛生士の重野 悠氏によるブラッシング講座では、まず歯ブラシの正しい持ち方として、鉛筆のように持つペングリップと、肩や握力が低下している人でも握りやすい、手のひら全体で握るパームグリップについてレクチャーが行われた。ブラシの毛先の当て方についても、歯の表面には90度、歯と歯ぐきの境には45度にブラシを当て、横に優しく細かく動かすことが効果的であることが実演とともに解説された。
しかし、正しいブラッシングをしていてもみがきにくい場所として「犬歯のあたりのカーブ」「歯並びが悪い部分」「親知らず」が挙げられた。重野氏は「これらの場所は、意識してみがいてもセルフケアでは汚れが落とし切れない」と、定期的な歯科検診の重要性をアピールして締め括った。