みなさんご存じの通り、宅配便の再配達問題が社会問題化しています。国土交通省によると、ネット通販の一般化で近年の宅配便の取扱個数が急伸。直近5年では取扱個数が約5億個増加し、2016年度の取り扱いは約40.2億個に到達しました。
宅配業界のブラック化で脚光を浴びる宅配ボックス
うち、再配達となるのが約2割で、この手間を労働力を換算すると、年間約9万人のドライバーの労働力に相当します。その労働力が新たに補充されるわけではないので、負荷はおのずとドライバーに降りかかり、宅配業界のブラック化に歯止めがからないのが現状。また、再配達のトラックから排出されるCO2の量は、年間でおよそ42万トンと膨大で、環境への悪影響も心配されているところ。そんななか、にわかに脚光を浴びているのが宅配ボックスです。
宅配ボックスとは読んで字のごとく、届け先が留守の際に宅配物を入れておくボックス(設備)です。再配達が不要となるため、受け取り人は荷物を待つ必要がなく、宅配ドライバーの負担も減るという両者にうれしいアイテム。ここ1年で急激に販売を伸ばしており、パナソニックでの販売実績は前年比で5倍、2年前と比べると実に10倍にまで伸びているそうです。
京都を舞台に「宅配ボックスがあったならどうなる?」という実験を実施
そんな時代の流れを受け、今回、この宅配ボックスを使った大掛かりなプロジェクトがスタートしました。それが、「京(みやこ)の再配達を減らそうプロジェクト」です。本プロジェクトは、簡単にいえば「もしも、宅配ボックスが学生のアパートと大学にあったならどうなる?」という実証実験。京都市が主催し、パナソニックと京都産業大学および宅配事業者(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便)が協力して実施します。
具体的には、パナソニック製のアパート用宅配ボックス「COMBO-Maison(コンボ-メゾン)」合計39台を京都市内5か所のアパート(合計106世帯)に設置。併せて京都産業大学キャンパス内にも公共用の宅配ボックスを設置して、約3か月にわたって利用実態や再配達抑制効果などを調査します。平成29年度の調査によると、人口に対する学生数(大学・短期大学の合計)の比率は、京都市が10.0%と政令指定都市の中で最も高いことがわかっています。さらに、京都市には39もの大学・短期大学があり、人口の1割に相当する約15万人の学生が学ぶことから「大学のまち」「学生のまち」と言われています。
この、日本一学生が集中する「大学のまち・学生のまち」京都において、ネット通販のネイティブ世代に対し、日中に留守にしていても宅配便が受け取れる方法を提供しようというのが、今回の産学公連携による試みです。
なお、昨年11月から4か月にわたって、福井県あわら市では、103世帯をモニターとした同様の実証実験が行われ、再配達率が49%から4か月平均で8%に減少するという目覚しい成果を挙げました。今回、これを大都市の京都に舞台を移すということで、その結果には否応なく注目が集まるところです。
わかりやすい操作のアパート向けアイテム「COMBO-Maison」
さて、まずはアパート向けの実証実験に目を向けてみましょう。アパートに設置されるのは、パナソニック製のアパート用宅配ボックス「COMBO-Maison(コンボ-メゾン)」。こちらは複数の入居者が共用で使える、アパート対応の屋外用宅配ボックスです。1台で複数の入居者に対応し、入居者ごとに暗証番号を設定できるので、個別に荷物を取り出すことができます。また、電気を使わないので取り付け時の配線工事が要らず、電気代などランニングコストもかかりません。
今回、実験に使われるのはコンパクトタイプ(W390×H450×D150㎜/耐荷重5kg)とハーフタイプ(W390×H590×D225㎜/耐荷重10kg)の2タイプ。薄型デザインで狭いエントランスでも設置可能。かつ雨水が内部に漏れにくい構造なので、屋根のない場所でも設置できます。
使い方はカンタン。配達者は、扉の内側にあるレバーを該当の部屋番号に合わせてセットするだけで施錠できます。荷物の受け取り状態と宛先の部屋番号が色でわかりやすく表示されるので、荷物の有無も一目瞭然。また、印鑑を内蔵できるため、配達者は伝票差込口に伝票を入れ、「なつ印」ボタンを押すだけで押印できます。
宅配業者にとってはありがたい存在で操作に迷うこともない
さて、宅配業者にとって宅配ボックスとはどんな存在なのか。初めて宅配ボックスを目にした際は、「こんなん出たんや」と驚いたと語る佐川急便の毛利廣忠(もうり・ひろただ)さんに話を聞くことができました。
「一人暮らしの再配達の比率は、体感だと30%くらいです。宅配ボックスがあることで、1回で配達が終われるというのはメリット。何日間かご不在が続いて、なかなか配達が終わらない荷物もありますので。学生さんは日中はおられないことが多く、再配達の連絡もなかなか入ってこないこともあります。そういう場合、ボックスがあればありがたいですね。新たにできたマンションは宅配ボックスが付いているイメージですが、このエリアは元々、宅配ボックスがあまり設置されていないエリアですので」(毛利さん)
上記インタビューでは、宅配ボックスがあれば「うれしい」「とても便利だ」といったわかりやすい言葉はもらえませんでした。再配達も仕事の一部。だから、表立って「宅配ボックス歓迎」とは言えないが、やっぱりあればありがたい……。インタビューの行間からは、そんな感情が垣間見られました。
さて、気になるのは宅配スタッフが宅配ボックスを正しく使えるのか? という点。会社では宅配ボックスを正しく操作するための講習などはないのでしょうか?
「特にありません。実際に現場で仕事をしているときに、先輩が後輩に宅配ボックスの使い方を教えます。使いづらいといった印象はなく、たいていは宅配ボックスに操作方法が貼ってあるので、それに沿っていけば大丈夫。機能しているのかどうかわからない、よほど古いタイプだと使用を避けますが、それ以外の場合で使い方に困ることはありません」(毛利さん)
話を聞く限りでは、宅配スタッフが基本的に操作に困ることはなく、「使ってもらえない」という心配は少ないことがわかります。
次に、ユーザーとなる学生にとって宅配ボックスとはどんな存在なのでしょうか。モニターとなった京都産業大学、経営学部2回生の女子学生に聞いてみました。
「『再配達は申し訳ない』という気持ちはあります。特に服や本など、賞味期限がないものは『どこかに置いておいてくればいいのに』と思うことも。服の購入やフリマアプリで宅配便はよく使いますが、昼間は学校、夜はバイトや部活に行くので、『絶対この時間は家にいる』という時間帯はありません。気づいたときは、不在票が3枚くらい入っているときがあって……。だから、宅配ボックスができて良かったなと思います。ただ、いままで受け取った荷物では入るものが多いですが、生鮮食品は入れられないし、ボックスに入らない場合もあります。(緩衝材などで)荷物が大きくなっている場合もあるので」
彼女の言葉からは、再配達への後ろめたさは感じながらも、宅配便を使わずにはいられないというジレンマが見て取れます。また、大きめの荷物が入らない、生鮮食品を入れておけないなど、宅配ボックス自体にもまだまだ課題はあるようです。
さて、次回はもうひとつの実証実験の舞台、京都産業大学をレポート。現地では、大学に設置されたボックスの詳細とともに、パナソニックの担当者に対して将来の展望に関するインタビューを実施。インタビューでは、街の至ることころに宅配ボックスが立ち、いつでも荷物のやり取りができて、旅先では身ひとつで行動できる…そんな、ワクワクするような未来が見えてきました。ご期待ください。
【プロジェクト概要】
●プロジェクト名称:「京(みやこ)の再配達を減らそうプロジェクト」●実施期間:平成29(2017)年11月8日(水)~平成30(2018)年1月末(予定)●実施場所:京都市内のアパート(5箇所)及び京都産業大学内●主催:京都市●協力:パナソニック、京都産業大学、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便
<モニター製品>
アパート:パナソニック製 アパート用宅配ボックス「COMBO-Maison(コンボーメゾン)」…ハーフタイプ CTNR4630R(L) 10万5500円(税別) ステンシルバー色 共有6錠タイプ、ハーフタイプ CTNR4830R(L) 11万1500円(税別) ステンシルバー色 共有8錠タイプ
京都産業大学…パナソニック製 公共用宅配ボックス (実証実験用)
<モニター対象>
アパート:設置協力アパート(5か所、106世帯)居住の学生・単身者、京都産業大学:京都産業大学の学生、職員