今や東京のシンボルとなっている「東京スカイツリー」。離れた場所からちょこっと見えただけでもテンションが上がりますよね。そんなスカイツリーのライティングが今年春前にリニューアルしたのをご存じですか? スカイツリーの照明器具およびそのコントロールにはパナソニックの技術が使われていて、今回、地上約500mの上空に設置された器具を見ることができました。新しくなったスカイツリーのライティング演出のキモを交えながらレポートします。
オリンピックに向けて照明が増強され、2月から運用開始
本来なら今年は東京オリンピックが開催され、訪日外国人が大挙して東京にやってくるはずでした。その時、東京の新しいシンボルであるスカイツリーも注目されることは確実。そこで、運営会社の東武タワースカイツリーでは、2015年からライティングのリニューアルの検討をスタート。2019年5月から「2020年、東京にさらなる輝きを!パワーアップライティング」をテーマに照明の増強工事を実施してきました。それが今年2月に完成し、2月27日から運用を開始していたのです。
残念ながら東京オリンピックは延期となり、訪日外国人の数は極端に減少してしまっていますが、ライティングニューアルの意義を東武タワースカイツリー電波塔事業本部の工藤裕之課長は次のように話します。
「コロナ禍が続いているが、日本のシンボルとして東京の夜景を彩るスカイツリーのライティングを見てもらうことで、一人でも多くの人に明るい気持ちになってもらいたい。遠くからも見えるスカイツリーの星のような輝きが、たくさんの人の願いや祈りに通じるものになれることを願っています」
今回のリニューアルは地上150m付近と250m付近の塔体中間部、および、地上500m以上のゲイン塔(アンテナ設備設置部)の大きく2か所で行われています。簡単に言うと、照明器具347台の増設によって明るく、鮮やかに、ダイナミックになっており、そこには様々な最新技術が投入されています。それではリニューアルのポイントを一つ一つ具体的に見ていきましょう。
スカイツリー横のイーストタワー屋上に照明器具を設置して視認性を検証
まずゲイン塔は、630mの塔頂部に18km先からも見える72台の輝度光を増設するとともに、塔頂部をライトダウンする照明24台を増設しました。18km先の羽田空港や東京都庁に光軸を向けるため、塔頂部の輝度光はマイナス2度ほど下を向いています。18km先からの視認性を検証するのに、エレベーターのないスカイツリーの頂部に機器を設置して何度も上り下りできるものではないため、スカイツリー横のイーストタワー屋上に照明器具を設置し、19km離れた埼玉県越谷市の越谷レイクタウン屋上から視認する方法をとったとのこと。
この結果、RGB3色のLEDでは輝度が足りず演色性も低いため、白色LEDも加えRGBW4色とすることを決定。ただ、白色を加えて輝度を上げると近距離では眩しすぎる「光害」となる懸念が生じたため、頂部の光源は超狭角配光にすることにしました。
加えてゲイン塔には、615mにライトダウン23台を新たに設置。497mではライトアップ用既存照明60台を撤去し、新たな照明器具60台を設置しました。これにより、暗がりのあったゲイン塔がすべてフルカラーで光るにようになったのです。天望デッキより下の塔体中間部も250m付近に96台、150m付近に72台の照明器具を増設してスカイツリー全体の視認性を向上するとともに、暗がりをなくすことで連続性のある躍動感あふれるライティング演出ができるようになりました。
時間帯によって華やかな3つの照明演出を行う
現在、スカイツリーは時間帯によって3つの照明演出を見ることができます。19:00~20:00は照明器具を最大限に近い輝度で白色に点灯し、ゲイン塔と中間部に虹色を加えた爽やかな演出を施しています。
20:00~24:00はメインとなる3種類の通常ライティング「粋/Iki」「雅/Miyabi」「幟/Nobori」を日替わりで点灯します。3種類の演出は、心地よくゆったりとした動きのベーシックモードと、賑やかで活発な動きのスペシャルタイムで構成され、3分で1セットとなります。
「粋」は、隅田川の水をモチーフにした淡いブルーの光を基調に、水色と白色の光によって泡のゆらぎやきらめきをイメージした「水泡」の緩やかな動きと、パステルカラーの水風船をイメージしたアクティブな動きを新たに追加しました。
「雅」は優雅な衣をイメージした江戸紫をテーマカラーとし、羽衣の動きをイメージした光が螺旋状に塔を上昇する動きと、一対の扇子を使った舞踏をイメージしたアクティブな光の動きを追加。
「幟」は、元気さや賑わいを表し、縁起の良いとされている橘色(オレンジ色)を基調に、幟が風にはためいているようなゆるやかな動きと、たくさんの幟が担ぎ上げられている祭りをイメージしたアクティブな動きを追加しました。それぞれの演出は下記の公式動画で確認できます。
新ライティング【粋/Iki】
新ライティング【雅/Miyabi】
新ライティング【幟/Nobori】
なお、24:00から06:00までは、天望デッキおよび天望回廊の時計光に加え、1月はガーネットのレッド、2月はアメジストのパープルというように、月ごとに誕生石をイメージした色でゲイン塔の頂部を点灯。さらに、中間部も明滅する交点照明を点灯します。
独自の技術「リアルCG」を利用してシミュレーションを重ねる
こうした光の演出を実現するための照明器具の種類、数、配置、角度、輝度、色なども、実際に器具を設置して検証することはできません。そこで今回、リニューアル照明器具の製作を担当したパナソニック・ライフソリューションズ社が持つ独自の光環境シミュレーション技術「リアルCG」を利用することとしました。リアルCGは器具の種類による色・広がりなど配光の違いだけでなく、周囲の建造物の素材による反射率や、空間の広さによる輝度・照度の違いなども忠実に再現できるもので、街づくりの際の街灯の配置シミュレートにも活用されています。
リアルCGでのシミュレーションの結果、ゲイン塔の497mと630m地点には狭角10度のRGBW器具を追加することでゲイン塔全体が発光しているように見せ、630mには広角30度のRGBW器具を追加することで輝度を強調。送信機室の存在によって暗がりが発生している150m付近と250m付近には広角30度と超広角120度の照明を設置して暗がりを解消する、という方向性が決定しました。
これらのシミュレーション結果を踏まえ、最終的に「ダイナシューター」と「ダイナペインター」という2種類の器具をスカイツリー専用にチューニング。ダイナシューターはRGBW光束約4000ルーメン超狭角7度のピンスポット配光器具で、塔頂部630mの18km先まで届く輝度光と497mのライトアップに使用。ダイナペインターは狭角・広角・超広角と幅広く調整できる高出力RGBW器具で、光束はRGB100%点灯時で約9400ルーメン、W100%点灯時で約1万4000ルーメンと、従来の器具の約10倍の明るさになりました。これらを630/615mからのライトダウンとして、497mからのライトアップとして使用するとともに、150/250m付近の真柱を照らす投光照明として使用することで暗がりをなくし、塔全体が発光できるようになったのです。
プログラム作成の効率を劇的に向上させる「ピクセルマッピング」を導入
なお、シミュレーションに基づいた正確な器具の配置により、スカイツリー全体が明るく鮮やかになったのですが、先に説明した新しい照明プログラムにも新技術が投入されています。一般的なライトアップの場合、カラーチャートから各器具の色を選択し、それを器具1台ごとにRGBそれぞれの値を入力するという手法が取られています。これだとプログラム制作に膨大な手間と時間がかかり、複雑な動きには対応できません。そこで今回は「ピクセルマッピング」という手法が導入されました。まず演出用の映像ソースを作成し、そのデータから色、明るさ、動きを決定、自動的に制御信号に変換してプログラムを作成するという方法です。
実際に設置された照明器具を見に行く
さすがに630mのゲイン塔頂部には素人は上れないのですが、実際に450mの天望回廊の上からゲイン塔の根本(497m)まで階段を上って照明器具の見学に行きました。天望回廊の上から見上げると、天望回廊上部をライトダウンする既設の照明器具が見えます。これから内階段を使ってここを上ります。497mのゲイン塔の付け根に到着すると、ダイナシューターとダイナペインターがゲイン塔をぐるりと囲むように並んでいました。眼下に見下ろす東京の街の風景と相まって、極めて壮観です!
東京の街を歩いていると、ビルの谷間からスカイツリーがひょっこりと見えることがよくあります。コロナ禍の影響により、まだまだ外出がはばかられるご時世ではありますが、東京の夜を彩るスカイツリーの光の競演を見れば、窮屈な気持ちが少しはラクになるはず。行き詰まったら夜空に輝くスカイツリーを見て、もう少しガンバロー!
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