9月1日、パナソニックがマイボトル対応食洗機を、サーモスが食洗機対応マイボトルを同時に発売しました。えっ? てことは普通のマイボトルは食器洗い乾燥機に入れちゃダメってこと? 筆者はいままで、何も考えずボトルを食洗機にぶちこんでいましたが、そうですか、ダメでしたか……。
マイボトルユーザーの不満を解消する食洗機が誕生した経緯
でも、そういえば、食洗機でマイボトルを洗う際は使い勝手が良くなかったんですよね。ボトルが細長く不安定なので、洗浄が終わってドアを開けると、手前に倒れ込んでくることも。これを見ると、食洗機の強い水流に踊らされて、しっかり洗えてないんだろうな……と残念な気持ちになります。時々、ボトルの底に汚れが残っているし……。
と、このようなユーザーの不満を解消する新製品が、先述のマイボトル対応食洗機、パナソニックの「NP-TZ300」(実売価格11万円・工事費別)です。
このNP-TZ300の開発の経緯について、パナソニックの食洗機の企画を担当する山田恭平さんが、次のように話してくれました。
「食洗機は普及率30%の手前で伸び悩んでいたので、基本的な洗浄力に加えてもう1つ、消費者を動かす別の視点が必要だと常々感じていたんです。そこで、2019年の春、2020年モデルの開発計画を立てる際、2020年は『増税10%・レジ袋有料化・脱ペットボトル』などの流れにより、エコ意識と節約意識が高まるだろうと想定。これに沿った機能はないか? と考えたところ、マイボトルに行き着きました。マイボトル需要はさらに高まるだろうから、それを簡単に洗える仕組みを作れば、食洗機も注目してもらえるのではないか、と。そこで調べてみたら、そもそも世にある真空マグボトルのほとんどが食洗機に対応していないことがわかったんです。これはマズイなと思いました」
筆者の家にも複数メーカーのボトルが10本ほどありますが、よくよく調べてみると、確かに全てが食洗機非対応。いやぁ、知らなかった……。とはいえ、筆者の場合は自己責任だからいいですが、パナソニックとしては「知らなかった」では済まされません。食洗機で洗えるボトルがほとんど存在しないのに、ボトル対応の食洗機を発売しても意味がない。そんなことをしたら、メーカーとしての信用を失ってしまいます。しかし、ここで山田さんに逆転の発想が生まれたのだそう。「世の中に食洗機対応のボトルがないのであれば、作ってしまえばいい。それが新しい価値になる」と考えたのだとか。
食洗機対応のマイボトルを作りたい! 業界大手のサーモスに依頼するも、反応は微妙だった
とはいえ、パナソニックにはマイボトルを製造する技術はありませんし、今から開発・製造にかける時間もコストもありません。やはり「餅は餅屋」に、ということで、国内真空ボトル市場で大手のサーモスに話を持ち掛けたというのです。
というわけで昨年の5月、パナソニックはサーモスとの初協議に臨みましたが、当初、サーモス側は困惑気味だったそう。サーモスの開発を担当する岩井寿倫さんは当時をこう振り返ります。
「弊社としても食洗機対応マイボトルの開発は視野に入れていました。ただ、パナソニックの山田さんからお話を頂いたときは、すでに自社の開発スケジュールとは合わないタイミングでした。しかも開発期間は1年間と短い。本当に出来るのかな……と、正直不安でした」
なるほど、メーカーによって製品開発のサイクルは異なり、開発のスケジュールも異なります。それが異業種だったらなおのこと。初対面の2社が1年後の同時発売を目指すのは、かなりの困難を伴うものだったようです。
食洗機で使えない理由は、樹脂製パーツの変形と塗装へのダメージ
微妙な反応を見せるサーモス側に対し、「パナソニックとしてはなんとしても2020年に発売したい!」と、山田さんは熱い思いを伝え続けました。その思いが伝わったのは、初対面から3か月後の8月のこと。共同開発に向けて、両社による本格的な検討が開始されたのです。
協業を行うにあたり、パナソニックが最初に確認したのは、「そもそもなぜマイボトルは食洗機非対応なのか?」という点でした。これに対し、サーモスの企画を担当する柏原雄樹さんは、次のように話します。
「食洗機で洗ってはいけない理由は2つ。1つは、せんユニットの問題です。上部のフタと飲み口の部分が樹脂製で、これが食洗機の高温の水流と温風で変形し、水漏れを起こしてしまうおそれがありました。もう1つは、本体の塗装。強い水流と熱負荷で塗装が剥がれてしまう可能性があったんです」
ちなみに、マイボトルのパッキンのシリコンは200℃までの耐熱性があるので、食洗機はOKだそうです。実は、それ以外の部分が非対応だったわけですね。
樹脂パーツの耐熱温度を上げ、塗装を改良して食洗機対応マイボトルが完成!
こうした情報交換を通し、食洗機とマイボトルの構造や改善点を理解したことで、具体的に新製品の形が見えてきました。これを踏まえて、サーモスはせんユニットと塗装の改良を実現します。
「せんユニットの素材の樹脂にガラス材を混ぜ合わせることで、耐熱温度を上げることに成功。これにより熱による変形を防いで、水漏れすることもありません。また、本体の塗装は、密着性の高い塗料の採用し、塗料膜の厚みを増やすことで剥がれにくくしました」(柏原さん)
従来は、ボトル上部のステンレスがむき出しになっている部分と塗装部分の境界は、徐々に塗装膜厚が薄くなっていく仕様でした。しかし、この薄い部分から剥がれが始まるため、この部分の塗装膜圧を全て均一にしたといいます。
こうして完成したのが、「サーモス 真空断熱ケータイマグ JOK-350/500」です。実売価格は容量350mlのJOK-350が3058円、容量500mlのJOK-500が3278円。カラーはブラックとホワイトを用意しています。
ほかの食器を邪魔せず、ボトルをキレイに洗う仕組みを模索
一方、食洗機のほうで行われた試行錯誤について、パナソニックの商品設計を担当する佐藤百合菜さんが説明してくれました。
「食洗機のノズルから噴射される水流は、高さ2mにまで達する強力なもの。そのぶん洗浄力には自信がありました。ですから、その水流をボトルの底にしっかりと当てることができれば、汚れはしっかり落ちるはず。あとは、庫内のどこにどうやってセットすれば、ボトルの底にきちんと水流を当てることができるか、それが問題でした。洗える食器の点数を減らさずに収納できる場所はどこか、ボトルをセットしやすい場所はどこか、強い水流が当たっても倒れない仕組みをどうするか……多くの試行錯誤を通して、最適な形を模索していきました」
その結果、ボトルをセットする場所は、もっとも手前側の位置に落ち着いたとのこと。
「マイボトルの500mlモデルは長尺になるため、最後に入れて最初に取り出せる一番手前のポジションが、もっとも邪魔にならないと考えたのです。次にセット方法ですが、マイボトルを使うたびに収納パーツを取り付けるのは使い勝手が悪いので、常時設置型のパーツを追加しよう、と。また、折りたたみ収納式にすれば食器点数が多いときや、鍋などの大物を入れるときでも邪魔にならずに済む、と考えました。これを踏まえ、サーモスさんからあらゆる形状のマイボトルを借りて徹底的に洗浄試験を行った結果、完成したのが『ボトルホルダー』です」(佐藤さん)
「ボトルホルダー」には、サーモスの知見を活かした細かい工夫を施した
「ボトルホルダー」は、食洗機の下段左側手前に2本、右側手前に1本のボトルを収納できる仕組み(以下)です。食洗機対応マイボトルやタンブラーなど長筒形の食器でも、倒すことなく奥までキレイに洗浄することが可能となりました。
このボトルホルダーにはいくつかの工夫があります。先述の通り、使わないときは折りたたんで収納できるだけでなく、セットできるマイボトルの直径は、7.5cmと6.5cmの2種類に対応しています。これは、サーモスからの情報で、「最近の売れ筋は直径6.5cmのスリムタイプが多い」と聞いたため。7.5cm対応だけにすると6.5cmタイプは水流で倒れてしまい、底まで水流が届かなかったり、ホルダーとの摩擦で塗装に傷がついたりする恐れがあることから、ボトルを支えるパーツを2段階に調整できるようにしたのです。さらに、マイボトルの塗装を傷つけないよう、ホルダー内側の表面はなるべく滑らかになるように、角を落として丸みを持たせているのもポイント。
マイナーチェンジに見える進化のなかに、2社の強いこだわりを見た
こうして卓上型食器洗い乾燥機「NP-TZ300」は完成し、めでたく「サーモス 真空断熱ケータイマグ JOK-350/500」と同じ9月1日に発売することができました。最初の出会いからわずか1年強という短い期間で、異業種メーカーが足並みを揃えて同時発売できたことは「小さな奇跡」と呼べるもの。食洗機、真空マグボトルともにマイナーチェンジではありますが、その裏には、2社のとんでもないこだわりがあったのです。
なお、発売して終わりではなく、2社はプロモーションも足並みを揃えていく考えです。店頭で共通のPOPの展示、ツイッターでの相互リツートほか、「NP-TZ300」の購入者には「JOK-350」が抽選で1000名に当たるプレゼントキャンペーンも実施中です。
ちなみに。パナソニック、サーモスとも、「また機会があれば、今回のような協業に取り組んでみたい」とのこと。今後、さらに面白い商品が開発されるかもしれませんね。サーモスではすでに食洗機対応のフライパンを発売していますが、次はどんな製品が生まれるのか。楽しみです!