家電
2022/11/16 6:15

パナソニック津工場の「裏側の美学」。100年以上”当たり前”を作り続ける「ものづくりのこだわり」とは?

私たちが日々の生活で毎日触れている、コンセントやスイッチなどの配線器具。日常生活に欠かせないこれらの製品の国内シェアで80%以上を占めているメーカーが、パナソニックです。1918年の創業以来、100年以上にわたって配線器具を作り続けてきており、日本国内はもちろん、海外でも多くのシェアを獲得。世界中の人々の生活を裏で支えています。

 

家のコンセントやスイッチを見てみると、知らず知らずのうちに、パナソニック製の配線器具のお世話になっているはずです。今回は、その配線器具のマザー工場となっているパナソニック津工場を取材。工場内、それに併設されたショウルーム取材を通して見えてきた「裏側の美学」の実像とは—。

↑ショウルーム入口に掲示されている「裏側の美学」

 

1918年から進化し続けてきた、安心安全という”当たり前”

パナソニックが配線器具を作り始めたのは、創業年の1918年。コンセントすらなかった当時は、天井にある電灯のソケットから電源を取っていました。同社はそんな時代に、電灯ソケットから電源を取るための「アタッチメントプラグ」や、それの発展形である「二灯用クラスタ」を開発。特に二灯用クラスタは、電灯の明かりをつけながら家電を使いたい夜に重宝され、人気を博しました。これらの製品は現代になっても、お祭りなどにある屋台で利用されています。

↑ショウルームに展示されている、パナソニックの草創期を支えた配線器具たち。すべてのスタートは写真右のアタッチメントプラグだった

 

↑家庭用コンセントが存在しなかった、大正・昭和初期の部屋の再現。電灯(写真上部)のソケットが二灯用クラスタによって二股に分けられ、電球と卓上のアイロンに電力をそれぞれ供給している

 

100年を超える長い歴史のなかで多くの製品を作ってきた同社ですが、創業当時から現在まで通底しているコンセプトが「安全性」です。配線器具は毎日、24時間にわたって使われるものであると同時に、一つ間違えば発熱、さらには発火などの事故を起こす危険性があります。

 

安全に使えるのが当たり前の配線器具を、同社はずっと追求してきました。それを象徴するロングセラー製品が「フルカラー配線器具」です

↑ショウルームに展示されているフルカラー配線器具。1970年代に開発された商品ながら、その信頼性の高さから、いまだに売れ続けているというから驚きだ

 

このフルカラー配線器具、「一度も見たことがない」という読者はほとんどいないのではないかと思うほど、非常にポピュラーな商品です。本品が登場する前の配線器具は、内部にネジ止めをしなければいけない箇所があり、それが発火事故の原因になっていました。フルカラー配線器具は内部に「錠ばね」と呼ばれる導電性の部品を仕込むことで”ネジレス化”に成功。配線器具の安全性を飛躍的に高めました。

↑錠ばねの形状と役割を説明した図。配線器具の安全性を高めただけでなく、長寿命化にも貢献している

 

↑フルカラー配線器具の心臓部ともいえる錠ばねを生産・選別する機械。錠ばねは海外向けの製品にも用いられており、この機械が製造しているものは、8割が海外向けである

 

↑10kgのダンベルを錠ばねからぶら下げた展示。錠ばねの高い耐久力を示している

 

工場スタッフが”津工場のお家芸”と語るほど熟達した技術があります。それが、不燃性の樹脂「ユリア樹脂」を用いた圧縮成形加工です。この樹脂はその燃えにくさから、コンセントの差し込み部分など、発熱・発火をしやすい部品に用いられています。配線器具の安全性には不可欠な存在と言えます。

 

津工場では、150度以上に熱して溶かしたユリア樹脂を金型に流し込み、それを圧縮して成形するという圧縮成形マシンが52台稼働。その台数に反して、スタッフは交代勤務でわずか2名だといいます。これは、成形とバリ取りという二段工程を全て無人でできるほどに自動化しているから。高い安全性を誇る製品を高効率で生産する、津工場を代表する技術です。

↑圧縮成形に用いられる樹脂と、成形後の部品

 

同社が追い求める安全性は、現代に至ってさらに進歩。発熱を感知すると自動で異常を知らせ、給電を停止するコンセントや、コロナ禍になってからは手をかざすだけで電源のオンオフ切り替えができる非接触スイッチも登場しています。

↑異常な発熱を検知して火災を防ぐ「感熱・トラッキングお知らせコンセント」の仕組み(写真右)。左では、ドライヤーでコンセントを実際に加熱し、しっかり給電がストップすることを確認できる実演スペースがある

 

↑手をかざすだけで操作が可能な非接触スイッチ(写真中央)。操作を感知する動作距離を、5cmと10cmの2通りに設定できる

 

↑工場内には、職員の安全意識を高めるためのVR講習などを行う「安全道場」が設けられている。工場の全スタッフが、ここでの研修を経験し、生産にあたっているという

 

快適性&デザイン性をテーマに、新たな”当たり前”を生む

開発努力の積み重ねで、配線器具の安全性を当たり前にしたパナソニック。フルカラー配線器具でそれを確立して以降は「快適性」にも力を入れています。現在同社が販売している配線器具の約7割を占めるという主力商品・コスモシリーズ ワイド21は、「ワイド」の名の通り、スイッチ部分が大型化して押しやすくなりました。

 

工場スタッフに聞いたところ、このスイッチ部分の押し心地にはかなりこだわっているそう。同シリーズのスイッチは、ソフトなタッチ感としっかりしたクリック感を両立しています。

↑コスモシリーズ ワイド21の商品群。スイッチ面がフルカラー配線器具と比べて大型化している

 

ショウルームの展示では、世界各国に向けて出荷している同社製のスイッチがありましたが、その押し心地は国ごとに大きく異なっていました。ご当地にあわせた快適性を実現するため細かな調整をする、徹底したものづくり精神には頭が下がります。その成果として、同社の配線器具は世界シェアでも第2位を獲得。海外にも製造拠点を設けるなど、事業をグローバル規模で拡大中です。

↑世界各国で使われているパナソニックのスイッチ。押し心地や形状が国ごとに異なっており、筆者の感覚では、サウジアラビアやトルコ向けのスイッチは柔らかく押し込める一方、インド向けのものは強いクリック感があるなどの違いがあった

 

2010年代に入り、パナソニックの配線器具はさらなる進化を遂げています。角ばったデザインを採用したアドバンスシリーズや、マットな白と黒によるシンプルなデザインのSO-STYLEシリーズ、金属の質感が上品さを演出するエクストラシリーズが登場。既存の概念を覆す製品が生み出されています。

↑エクストラシリーズの、メタルプレート・ハンドル。そのメタリックな外見には、エイジング感のような深みがある

 

高品質と高効率生産を両立するためのものづくり思想

津工場は、配線器具のマザー工場として、日本のみならず、海外へ輸出する製品も多く製造。グローバル展開を支える母艦といえる存在です。そんな津工場には、高品質の維持はもちろん、膨大な生産量が求められ、ここで製造される配線器具の数は月産約650万個にも及んでいます

 

それを支えているのが「一貫内製化」と「五設一体思想」。この2つの思想には、同社が培ってきたものづくりの神髄が凝縮されています。

 

津工場の標語に「良い商品は良い部品から、良い部品は良い金型から」というものがあります。この言葉の通り、津工場では部品製作に用いる金型から、部品、製品そのものまで、全てを自社内で製造。ものづくりのためのものづくり=一貫内製化が徹底されています。

↑工場内で行われている金型のメンテナンス。自社内で金型を開発しているからこそ、精緻なメンテナンスが行える

 

その一貫内製化の根底にある考え方が、五設一体思想。これは、「マーケットニーズ・”設”計」「商品”設”計」「工法”設”計」「設備・金型”設”計」「工程・管理”設”計」の各部門が、商品の開発段階から緊密に連携するというものです。この連携が取れていないと、開発の初期段階では思いもしなかった問題が生産段階になってから判明する、というようなことが起こり得ます。五設一体思想はそういったトラブルを防ぎ、品質の維持向上と開発の効率化に寄与しています。

↑津工場を支える一貫内製化と五設一体思想の模式図

 

この工場があるからこそ、現代人の生活がある

パナソニック津工場が生産している配線器具は、私たち現代人が日常生活を送るうえで欠かせないものです。もはや、これらが存在しない生活は想像できません。一方で、当然の如く存在する配線器具に、生活者の意識が向くことはあまりないでしょう。

 

しかし発火を心配せず使えるコンセント、何度使っても故障しないスイッチなどが当たり前にあるのは、長年にわたって培われた技術や思想があってこそといえます。津工場は、その技術や思想が実践され、さらに進化していく現場であり、併設されているショウルームはその博物館といえる存在です。

 

その取材を終えた筆者が胸に抱いたのは、私たちの日常を裏側から作り、支えてくれている技術者たちへの感謝の念でした。

「世界は誰かの仕事でできている」

津工場は、その事実を強く感じられる場所なのです。