調理の時短、省手間、料理のおいしさに大きく貢献する調理家電。2023年も数多くの調理家電が発売されましたが、どのようなトレンドがあったのでしょうか。数多くの調理家電を取材し、自身でも頻繁に料理を行うIT・家電ジャーナリストの安蔵靖志さんに、印象に残った製品を4つのカテゴリに分けて振り返ってもらいます!
個性豊かな「進化版ホットプレート」が続々登場
コロナ禍の影響で、2020年度(2020年4月~2021年3月)はホットプレートが数量・金額ともに前年度比150%を超えるヒットになったものの、その後は一気に落ち着きを見せました。とはいえ、それまで過去のもののように見られていた、ホットプレートをはじめとする卓上調理家電が見直されたように思います。こうした背景もあって、2023年は“進化版ホットプレート”とも言える卓上調理家電が続々と登場しました。
まず、注目したいのは、バルミューダが2023年10月に発売した「BALMUDA The Plate Pro」(実売価格4万2900円・税込/以下同)です。ヒーターの上に6.6mmの分厚いプレートを配置することで加熱ムラをなくし、まるで鉄板焼きのような調理を実現するというもの。フチがなくて油などが飛び散るリスクはあるものの、「卓上調理の楽しさ」に全振りしたような潔さが感じられます。
シロカが2023年12月に発売した「おうちいろり」(土鍋あり実売価格3万9600円)も卓上調理の楽しさを前面に押し出した製品です。焼き網で焼き鳥や焼き肉などのあぶり調理、深皿でホットプレートや煮込み調理などを楽しめるほか、伊賀焼窯元長谷園製の蒸し皿付き土鍋が付属するモデルも用意。まさにいろりのような“和”の雰囲気で卓上を彩ってくれます。
鋳物メーカーの石川鋳造とドウシシャが共同で開発し、2023年12月に発売した「おもいのフライパン スクエア 電気卓上コンロセット」(実売価格5万5000円)は、さらにユニークな製品です。販売累計7万枚を超え、入荷3年待ちを記録したという人気の鋳物フライパン「おもいのフライパン」と専用ヒーターを組み合わせたもの。フライパンは無塗装の鋳鉄製のため、うまく使えるようにするためには「油ならし」などの手入れが必要になります。テフロン加工(フッ素樹脂加工)に比べて長持ちするものの、取り扱いが難しいのは事実。しかし「世界で一番肉がおいしく焼ける」をコンセプトにしたフライパンの火加減を電気コンロで正確にコントロールできるのが売りなので、コンセプトに共感する人にはぴったりの製品です。
2023年は自動調理鍋の“当たり年”だった
ここ数年、調理家電で最も注目されているのは「自動調理鍋」でしょう。電気圧力鍋は50年近く前からありますが、「予約調理機能」と「自動で食材をかき混ぜる機能」を同時に搭載したのはシャープが2015年に発売した「ヘルシオ ホットクック」が最初でした。そして2023年2月、いよいよ自動かき混ぜモデルの“決定版”とも言える製品が満を持して登場。それがパナソニックの「オートクッカービストロ NF-AC1000」(実売価格7万9200円)です。
食材自動かき混ぜ機能を搭載する従来の電気調理鍋は非圧力タイプでしたが、オートクッカービストロは最大2気圧の圧力調理を実現。圧力調理による「時短」と食材自動かき混ぜ機能による「ほったらかし調理」、予約調理による「調理時間のタイムシフト」を実現しました。ヘルシオ ホットクックと違い、鍋底からしっかりとかき混ぜる機能を備えているのも大きなポイントでした。
それに対し、シャープはヘルシオ ホットクックの新製品を発売することはなく、2023年10月にヘルシオ ホットクック対応アクセサリーの「もっとクック TJ-U2A」(実売価格9900円)を発売したのが興味深いところ。こちらは従来の「まぜ技ユニット」では混ぜきれない鍋底の食材をヘラによってしっかりとかき混ぜられるアイテム。圧力調理には対応しないものの、「あめ色玉ねぎ」や、高速回転で「メレンゲ」を作れるなど、従来のホットクックユーザーにとってうれしいアクセサリー追加となりました。
2015年に初代モデルが登場してからロングセラーとなっているティファールの電気圧力鍋「クックフォーミー」シリーズからは、2023年10月にタッチパネル液晶を搭載する初のスマホ連携モデル「クックフォーミー タッチ」(実売価格7万2000円)が登場しました。
クックフォーミーシリーズは人数を設定するとレシピの分量や手順を画面で教えてくれて、手順通りに進めることで初心者でも手軽に料理を覚えられる電気圧力鍋です。調理の手順ごとに操作が止まることも多いため、従来は次の作業待ちで調理が中断してしまうことがありました。しかし、スマホアプリと連携して通知が来るようになり、画面での分かりやすい手順の表示も相まって、より使い勝手のいい製品になりました。2023年の自動調理鍋は、魅力的な製品がそろった“当たり年”だったように思います。
新規参入メーカーも増え「おひとりさま調理家電」がさらに充実
ここ数年で注目度が高まっているのが「おひとりさま家電」です。コンパクトでおしゃれな調理家電ブランドといえば、「ブルーノ」や「レコルト」、「ビタントニオ」などが有名ですが、PC周辺機器メーカーとして有名な「エレコム」も2022年に調理家電カテゴリーに参入し、さらにプレーヤーが増えてきました。エレコムは2023年5月に美容家電や調理家電などを展開する「テスコム」ブランドを持つテスコム電機グループの親会社、ティーエスシーを買収したことで、さらにおひとりさま調理家電のカテゴリーも盛り上がりそうです。ここ数年の流れとしては「ヘルシーな食事を手軽に作れる」という製品が多いように感じます。以下では、写真とともに筆者おすすめの商品をいくつか紹介しましょう。
おひとりさま調理家電とは少しジャンルが異なりますが、パナソニックが少人数世帯向けに注目の製品を投入しました。自動的にお米を計量・給水して炊飯してくれるスマホ連携対応の自動計量IH炊飯器「SR-AX1」(実売価格4万5540円)です。0.5合から2合まで0.25合単位で炊飯でき、「いつでも炊きたてのご飯を、好きな量だけ食べたい」というニーズに応える画期的な商品です。
応用がきく「道具として使える調理家電」に注目
オーブンレンジを中心に、これまでの調理家電のトレンドは「全自動」「多機能」「豊富なメニューを内蔵」というのが大きな流れでした。「調理メニューを選んで材料をセットしてスタートすればできあがり」というもので、初心者でも作りたい料理を作れるようになっています。しかし、これらは“ハレの日”の料理をおまかせで作るのは得意なものの、そこから日常的なメニューを覚えていくのは難しく、結果として初心者が料理上手に育たない弊害があります。
これに対して、様々な料理に応用がきくのが“道具”として使える調理家電。こちらは全自動ではなく、手動で調理メニューや調理時間を調整する必要はあるものの、できあがりを確認しながら仕上げるという料理道具に近い感覚です。調理工程の一部を任せられる電気圧力鍋や「BALMUDA The Toaster」に代表されるトースターなどは“道具感”がありますし、葉山社中の低温調理器「BONIQ(ボニーク)」シリーズなども同様です。
筆者としては、期待を込めて2024年は調理家電でより一層の“道具化”が進むと見ています。そのキーワードの一つが「プローブ(芯温センサー)」。テスコムが2022年11月に発売した「芯温スマートクッカー」(実売価格2万2000円)や、業務用のスチームコンベクションオーブンなどで採用されているものです。食材の内部温度を計測しながら調理することで、生焼けや生煮えのようなリスクを回避して安全かつおいしく料理を作れます。
プローブは、海外で販売されている電気オーブンやバーベキューグリルなどでは既に採用されているのですが、日本では全く普及していません。使いこなせばプロ並みの火入れが可能になるのですが、ユーザーが間違えて使うとリスクにつながるというのもあるのでしょう。技術的にはスチームオーブンレンジにこれを搭載すると業務用のスチームコンベクションオーブンに近づくので、そろそろこういったとがった製品が出てくることに期待したいところです。