家電
2016/12/19 20:12

ポスト・スマホは「デザイン家電」。サムスンが目指す新たな事業に迫る

総合家電メーカーでもある韓国のサムスンは、今年(2016年)春に家具デザイナーのRonan & Erwan BouroullecとコラボしたTV「Serif TV」を発表した。ここ数年TVのトレンドは4K解像度や曲面ディスプレイ、またスマート化など機能進化が著しく進んでいる。だがSerif TVはそれらの機能を取り込みながら、デザインに注力した製品として注目を浴びている。

 

家電製品はこれからも高機能化・多機能化が進むだろうが、それだけでは製品の差別化要素にはなりにくい。なぜなら今の家電は、すでに必要十分な機能を備えているからだ。そのため消費者の嗜好は「機能」よりも、「生活空間になじむ外観」の製品を求める方向に動き出している。Serif TVはそんな時代のトレンドを先取りした製品と言えるだろう。

↑布素材やパステル系カラーを取り入れた「Serif TV」
↑布素材やパステル系カラーを取り入れた「Serif TV」

 

そのサムスンはスマートフォンで世界一のシェアを誇る。しかし世の中に出回っているスマートフォンのケースやアクセサリ、周辺機器などの関連製品を見てみると、デザインに優れた製品はアップルのiPhone向けのものが多い。それに対し他社向けの製品は、まだまだ機能優先で外見は二の次というものが目立つ。サムスンのスマートフォンも2015年発売の「Galaxy S6シリーズ」以降、金属やガラスを多用した高品質・高デザインの製品が増えている。だがそのスマートフォンを取り巻く周辺機器は、旧来の思想で作られた製品ばかりであるのが実情だ。

 

この状況を変えようと、サムスンはデザインに優れたスマートフォン関連製品を販売するオンラインストア「Samsung WA」を韓国で立ち上げた。「WA」とはその発音の通り驚きを表す言葉でもあり、「Wearable」と「Accessory」の頭文字でもある。Samsung WAのWEBを見ると、同社製のスマートフォンケースやスマートウォッチなどウェアラブル製品も販売されている。だがSamsung WAで最も注力して販売されているのは、デザイン重視の周辺機器なのである。

↑デザイン重視の周辺機器などを扱うSamsung WA
↑デザイン重視の周辺機器などを扱うSamsung WA

 

Samsung WAの立ち上げと共に発売された製品は「ワイヤレス・スピーカー・ボトル」と「バッテリー・パック・ケトル」の2製品。どちらの製品も美しいデザインの外観が大きな特徴だが、メーカー名の「Samsung」のロゴがどこにも見えない点にも注目したい。サムスンはブランド認知度を高めるために、製品の目立つ位置に必ず自社ロゴを配置してきた。だがこの2つのアイテムはインテリアとの調和、あるいは日々持つことが楽しくなることを考えて設計された製品であり、自社ロゴはむしろ邪魔なものとして製品の背面に追いやられているのだ。

 

「ワイヤレス・スピーカー・ボトル」は、革風の取っ手とライトを内蔵したワイヤレススピーカーである。スマートフォンとBluetooth接続してスピーカーとして利用できるほか、ライト部分は再生する音楽に合わせて自動で色や点滅時間を変えることも出来る。もちろんベッドサイドに置いてライトとして使うことも可能だ。スピーカーにありがちな音量などを調整するボタン類はすべて上部に配置され、正面から見たシルエットはまさしく「ボトル」のように見える、シンプルなデザインの製品である。

↑ボトルデザインのスピーカー、「ワイヤレス・スピーカー・ボトル」
↑ボトルデザインのスピーカー、「ワイヤレス・スピーカー・ボトル」

 

1回の充電で連続8時間の利用が可能だが、その充電方法もこだわりを見せている。一般的な電源ケーブルによる充電も可能だが、底面にはワイヤレス充電のアンテナを内蔵。そして別売される充電台「ワイヤレス・チャージャー・トレイ」の上に置くだけで充電が可能なのだ。このワイヤレスチャージャートレイもミニマルデザインに仕上げられており、段差のあるトレイはそれぞれにワイヤレス充電対応のスマートフォンを置いて充電もできる。机の上に置いて、ボトルデザインスピーカーを使いながらスマートフォンと2台を同時に充電することも可能だ。

 

スマートフォンがこれだけ普及しているにも関わらず、自宅でワイヤレススピーカーに接続して音楽を聞く人の数はまだあまり多くない。ワイヤレススピーカーとの接続操作が面倒なこともあるだろうが、一番の理由は自室に置きたくなるようなデザインの製品がないことではないだろうか? 好みのデザインや色合いの家具やインテリアに囲まれた空間に置けるようなスピーカーは、家電量販店店で見つけることは難しい。ワイヤレス・スピーカー・ボトルとワイヤレス・チャージャー・トレイの組み合わせならば、どのような家庭の部屋に置いてもインテリアと調和するだろう。

↑ワイヤレス・スピーカー・ボトルとワイヤレス・チャージャー・トレイの組み合わせ
↑ワイヤレス・スピーカー・ボトルとワイヤレス・チャージャー・トレイの組み合わせ

 

一方、モバイルバッテリーの「バッテリー・パック・ケトル」は2つの容量、2つのカラー、合計4つのバリエーションを提供する。モバイルバッテリーは今では百種類以上の製品が販売されており、高容量や高速充電をうたう機能強化製品も多い。しかし最近ではデザインや質感を高めたり、キャラクターをあしらった製品も出てくるなど、モバイルバッテリーは好みのデザインや外見で選ぶ時代になりつつある。

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バッテリー・パック・ケトルはその名の通り、ケトル=やかんのようなデザインをしたモバイルバッテリーだ。片手で持った時に持ちやすく、また出っ張りのある部分にストラップを取り付けることができる。さらには付属の充電ケーブルを本体に差し込むと、スマートフォンスタンドになるような留め具もついている。見た目と使いやすさを両立した、なかなか優れたバッテリーだ。

 

このバッテリーには上部に取り付け出来る、「USB LED ライト」も別売されている。両者を合体させればライトとして使うことができるのだ。LEDライトを使う機会は実はあまりないだろうが、スマートフォンの充電以外の用途にもモバイルバッテリーを使おうというアイディアは面白い。しかもライトを合体させた姿も美しい仕上げになっている。

 

Samsung WAでは、ユーザーの実利用体験レポートの募集のほか、「こんな製品を使ってみたい」というアイディアの募集も行われている。巨大家電メーカーであるサムスンは、直接ユーザーとの接点を持つチャンネルを持っていなかった。しかしSamsung WAは「デザイン」や「使いやすさ」という共通の言葉で、メーカーとユーザーを結びつける新たな窓口の役割も果たしている。今後は若手や新興デザイナーの発掘の場になることも期待できる。

 

スマートフォンユーザーの生活をより楽しく演出してくれるSamsung WAの製品。2016年11月からはこれらの製品に加え、新製品のワイヤレススピーカーやイヤフォンなどの海外販売が始まった。いずれ製品種類が大きく増えれば、サムスンの名前を一切出さなくとも、独立したブランド製品として消費者に広く認知されていくだろう。

↑11月からは海外でも販売が始まっている(香港)
↑11月からは海外でも販売が始まっている(香港)