「足立 紳 後ろ向きで進む」第56回
結婚22年。妻には殴られ罵られ、2人の子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々──それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!
『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。
今月も引き続き、足立監督が多忙につき、妻が代打ちです。
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11月1日(金)
10月末にクランクアップしたので、夫は滞りまくっていた舞台の台本執筆のため朝から喫茶店へ。私は元の家の片づけ。ずっとロフトに置いていたガラクタや本、VHS、DVDをひたすら片づける。
15時から浜松町で夫と共に、とあるドラマの打ち合わせへ。実現してほしいが、ハードルも高そう。次の予定まで1時間あったので、浜松町の焼きトン「秋田屋」で立ち飲み。久しぶりのホルモンが体に沁みる。体中煙臭いまま、私だけ18時半から東京国際映画祭関連のパーティーへ出席。外国圏の方々が多く、片言の英語でどうにかコミュニケーション。汗だくだく。
11月2日(土)
夫と朝から大ゲンカ。夫は捨て台詞を吐き散らかして別府短編映画の本編集作業に向かった。
朝から降雨で寒く、娘も息子も引きこもっていたので、パソコン作業をしながら『レッド・ノーティス』(監督:ローソン・マーシャル・サーバー)を観る。我々は皆ドウェイン・ジョンソンが好きなので、出てくるだけで笑ってしまう。14時に家を出発してクソ夫が本編集作業をしている半蔵門へ向かう。意見などを言って、夕方別府のプロデューサーの真帆さんと、娘と、最近知り合ったHさんと新大久保へ韓国料理を食べに行く。
クソ夫も来たそうだったが、絶対に誘わない。タコもエビもカニも肉もすべて美味しかった! ご飯のあとは4人でカフェ(私はチャミスル)。4人とも多分ADHDなので、ADHDあるあるや、生きづらいけどどうにかうまく乗り切って生きていく方法に花を咲かせる。
帰りにスマホを見るとママ友からLINEが。息子は本日友達の家にお泊りに行かせてもらっていたのだが、息子が友達の家に10キロのダンベルを持って行ったらしい。友達と筋トレしたかったとのこと……。息子の自転車にはカゴがないので、夕方暗い時間&雨の中、片手運転で10キロのダンベルを持って行ったかと思うと、頭が痛くなった。
11月3日(日)
娘、今日は一日引きこもり配信DAYにするとのこと。夫と両国へ行き、臼田あさみさんと川島小鳥さんの展覧会「ソウルメイト」を見に行く。臼田さんの透明感とソウルの空気感が感じられ、とても素敵な空間だった。
急いで帰ってたまった仕事をしなければならないのに、夫が「両国まで来たからには亀戸餃子が食べたい」と食い意地が発症してしまい、こうなると止まらないので仕方なく向かうも、長蛇の列。これは長すぎると話し、それでは錦糸町に向かい、「孤独のグルメ」で紹介していた町中華に行こうという話になり、45分近く歩いてその店に向かうも、これまたものすごい行列。ここまで来たら適当なお店で食事するのが嫌になり、夫が血眼になって食べログを検索。必死に検索した結果、昼からやっている「楓」というお店に入店。もつ焼き、もつ刺し、煮込みが美味しくて、焼酎の杯を重ねてしまう……夫が締めに食べた自家製ラーメンもさっぱりとして美味しかった……。これから仕事しなくちゃいけないのに、やれるのか……。
とりあえず急いで帰宅し、夕飯まで怒涛の仕事。でも全然終わるはずもない。子どもらにおでんとうどんを作って、夕飯後も仕事をしようとしていたのに、まんまと息子に本を読んでいてそのまま寝落ちしてしまった……。
11月4日(月)
朝、9時半に息子と娘を祖父母にあずけ、市ヶ谷にある都市センターホテルに向かう。先日、夫が鳥取県のフィルムコミッショナーのアドバイザーに任命されたので、鳥取県人会でご挨拶をさせていただくのだ。ホテルに着くなり物々しい雰囲気。なんでも本日鳥取一区の石破総理も来られるとのことで、我々もSPに全身くまなくチェックされる。夫がご挨拶に登壇すると、客層的に完全にアウェイ感丸出しで夫の緊張が伝わる。
なんとか20分ほどの挨拶を終え、そのままダッシュで東京駅へ。本日は岐阜県飛騨市で『雑魚どもよ、大志を抱け!』の上映イベントがあり、45分後の新幹線に乗らないと間に合わないのだ。ひたすら走る、なんとかセーフ。
富山駅からちょうどいい時間の在来線がなかったためタクシーで会場に向かい、無事登壇の30分前に到着。臼田あさみさんと、岐阜新聞社の後藤さんとつつがない45分のトーク。途中、質疑応答で客席からバンバン手が上がり、大変ありがたかった。
上映イベントのあとは、飛騨市の都築市長と、撮影でさんざんお世話になった観光課の方々と岐阜新聞社の方々、臼田さんとマネージャーさんと娘さん(撮影の時から背が伸びていて驚いた!)と坂井プロデューサーと会食。飛騨市神岡の地酒を散々飲んでから、神岡のディープなスナックへ。元炭鉱町の風情があって、趣ハンパなし。深い時間までいってしまった……。
11月5日(火)
朝イチで東京に戻る。子どもたちには富山の笹寿司、押し寿司のお土産。喜んでいた。
11月6日(水)
朝、オンライン打ち合わせ。その後、11時に家を出発し、12時から対面打合せ。韓国の方との打ち合わせなのだが皆さん日本語ペラペラ。私も最近Duolingoでハングルを勉強しているがなかなか身につかない。覚悟が違うのだろう。
打ち合わせ後、少ししか時間がないがここで逃すと食べる時間がないので、夫と有楽町のベトナム料理屋さんへ。薄味で野菜も取れて美味しかった。その後、夫はアフレコのスタジオへ。私は息子の習い事のお迎えへ。
11月7日(木)
午前中、赤坂で打ち合わせ。業界に長くいらっしゃる方。夫はその方と久しぶりに会ったようでうれしそう。次の打ち合わせまで少し時間があるとのことで、赤坂で昼食を食べようとぶらつき、偶然見つけた地下の小さいフレンチに入店。ランチ2000円で大満足。とても美味しかった。
その後、夫は打ち合わせへ。私はダッシュで帰り、仮住まいの引っ越しの見積もりを業者と打ち合わせ。あと4日で荷物を全て梱包しなければならないことにどっと疲れが押し寄せる。たった3か月の仮住まいだったが、物がとっ散らかっていて、片づけるのに苦戦しそう。
11月9日(土)
朝から仕事。11時から息子の転校先の最初で最後のイベントの音楽会があるので夫と行く。今までだったら絶対に行き渋っていた音楽会だったが、息子は今回スムーズに登校できた。
最初がリコーダーで「喜びの歌」。あんなにリコーダーが苦手だったのに、どうにか吹いている。そして合唱のあと、「スターウォーズ」の大合奏が始まると、息子はすかさずイヤーマフを付けた。と、同時に大太鼓、シンバルなど打楽器、大迫力。私と夫が目があい、息子がスムーズにイヤーマフを付けられたことに涙が出そうになる。というか夫は号泣。大きな音が苦手なりに、自分で対応ができていた。すごい成長を感じる。
家で待っていると、息子、はにかんで帰宅。自分でも頑張ったという自負があるようで見ていてうれしい。今日は矯正の日だが、いつものようにグズグズにならず、歯医者さんにもスムーズに行けた。
昼ご飯を食べていなかったため、歯医者のあと、近所のラーメン屋さんへ。チャーハンとチャーシュー麺大盛りを平らげる息子の姿を見て、喜びの焼酎を数杯飲む。
11月10日(日)
夫、朝から喫茶店。娘は明日の引っ越しに備えて部屋の片づけをするとのこと。私と息子は朝から入試体験会。朝が早いのでかなりぐずぐずしていたが、どうにか行けた。顔なじみ母子もできて、一緒の教室で体験入試をし、一緒に学食でご飯を食べ、練馬まで一緒に帰ってくる。今度練馬で飲みましょうと約束する。息子は新しい友達ができてうれしそう。
帰宅後、毎日「忙しい忙しい忙しい、もう無理だ無理だ無理だ」と言っている夫が、娘と娘がドはまっている池袋の麻辣麺屋に1時間も並び、その後、カフェでスイーツを食べていたことが発覚。
娘と過ごすことは全然いい。いいのだが、毎日毎日口を開けば「忙しい忙しい、死ぬ死ぬ」って言っていたくせに! 私は夫の忙しいアピールを真に受けて、家のこと(主に引っ越し)、育児、仕事、その他大半のことをめちゃくちゃ請け負って半ばパニックになっていたのに、オマエ全然余裕あるじゃねーか! と怒り心頭。でも、夫は夜まで編集で家にいないから直接言えないので、悶々としながらやけ酒。
もう夫の「大変」は真に受けないようにしようと誓う。優しくしてやって、いろいろやってやって損した気分。酒をがぶ飲みしながら、明日の引っ越し片づけをしていたが、荷物は半分も片づけられていない。でも心身ともに疲れすぎて、体が動かない。もうなるようになるしかないと思う。
※夫の一言
仕事の合間のわずかな隙間をぬって娘と昼食を食べにいっただけで、まさかあんなにも怒り狂われるとは思いませんでした……。
※妻の一言
娘とご飯食べることは全然いい。むしろ、大歓迎です。ただラーメン屋に1時間並ぶとか、その後スイーツ行くとか、そんな余裕があるのなら、少しは家のこともやって下さい!
11月11日(月)
朝6時起床。朝食を食べている娘と夫を傍に見て、ひたすら梱包作業。そうこうしているうちに息子起きるも、ご飯を食べたあとに「だめだ、疲れた、行きたくない」と動かなくなる。「おい! 転校して1か月も経っていないのに、またそれをやるのか‼」と朝から怒鳴りつけ、相手にせず片づけていたら、どうにか遅刻登校。
朝9時、引っ越し屋さん到着。8月の引っ越しの時と同じ方だったのでやりやすい。どんどん運んでもらい、元家で大物家具の場所を指定し、10時半には引っ越し完了。なんという力持ちか。しかし積み上げられた段ボールを見て途方に暮れる。これから、この荷物をほどいて片づけなければならない……そして明日から、夫の映画学校の同級生の太田さんが5日間泊まりに来る。このごみ屋敷にどうやって寝るのか……思考は一気に停止。
11月14日(木)
夫、朝からダビングで大泉のデジタルセンターへ。娘、1時間目の体育のあと、咳き込んで吐きそうになったということで10時半には早退帰宅。
私と息子は午後から中学校就学相談。11時、息子に出るよーと声かけるが(就学相談の話は1か月前から言っており、3日前から11時に出て、くら寿司食べてから就学相談に行こうね、と前向きな約束をしていたのだ)、就学相談が検査かなにかと思っているのか不安が勃発してしまい、トイレから出てこず全然動けない。
もし公立中学校に行った場合に、特別支援級を週に1コマでも受けさせたいのだが、そのためには就学相談を受けなければならない。日程が今日しか合わなかったからどうにか行かせたいのだが、一向に動かない。説得しても、怒っても、悲しんでも怒鳴ってもだめ。もうこれはダメだ……と思って、大変落ち込んでいたら、ようやくようやく、スローモーションに動き始めて、どうにか行けた。
こう書くとたいしたことない感じだけれど、1時間半の膠着戦はすごくエネルギーを消費する。私は息子が約束していたことで動けなくなることにとてもダメージを食らう(息子と約束するというのは学校関係、区関係とかかなり大事なことが多い。遊び系イベントは行けなくてもどうってことないので全く気にしない)。
どうにか手を引っ張って、光が丘の発達支援センターにギリギリ入る。医師面談、小集団の活動(読み書き、粗大運動)、校長面談の2時間だが、息子は楽しそうにこなし、帰りは達成感でご機嫌多弁だったが、私の気持ちは切り替えができず、優しく話を聞くことができなかった。
さっきまであんなに困らせたくせに、なんでそんなにご機嫌なんだよ……と悲しくなってしまい、無言で帰宅。息子、立ち読みして帰るというので、「どうぞ」と答え、家に帰るが心身の疲労感が半端なく、黙って居間に座っていたら、お昼の息子の出る出ないの1時間半をずっと聞いていた娘が自部屋から出てきて「あれはママしんどいよ」と言った。「そうなんだよね、私もうまく対処ができなくて……どうしていいかわからない」と言うと、「あれはどうにもできないよ」と娘が言ってくれた。息子のことを誰かに相談してもなかなかわかってもらえない、とても孤独な悲しみだったので、娘が一部始終を見て、話を聞いてくれたことに救われた。
夜は娘と息子のはまっているきのこトッポギと、チキンステーキを作り、刺身も付けた。
11月15日(金)
10時に新宿の喫茶店で打ち合わせ。企画実現に向けて、いろいろ話す。夫も違う場所で違う企画に向けて打ち合わせ。2つとも上手く行くとよいなと思う。
帰宅後、仕事。息子帰宅。塾に「行きたくない行きたくない、僕ができないと連帯責任で居残りさせられる」とまた、発作が始まったので、先生に「今日は脳調が悪いので居残りをやめてもらってもよいか」とLINEしたら先生が了承してくれて、息子渋々行けた。
夜、塾の先生からライン。息子がとても塾では楽しそうだった、連帯責任とかの話はしていないとのこと。
息子は話を聞いていないことが多く、聞いていないなかで聞こえたセンテンスで話を作るので(事実でないことも多い)、結果不安になり、パニックになることが多い。人が話しているときは全力で聞け! と百万回くらい言っているが、彼は無意識に違うワールドに飛んでいるから、気をつけようもないのだろうな……と思う。どうか自分の取説を早めにマスターして、パニックになって悲しむことが減るとよいなと思う。
娘は学校後、バイト。「年上のバイトの方々が優しくて面白い、私やっぱり同世代が苦手なんだわー」とのこと。バイトを楽しむようになってから、娘が少し明るくなった気がする。よかった。
息子が太田さんと『ジョーズ』(監督:スティーブン・スピルバーグ)を観たいというも、太田さんは今日遅いので一緒に『龍が如く』第2話を観る。最近毎日『龍が如く』を観ている。
11月16日(土)
娘、学校→バイト。
息子と私は午後からもう1つの志望校のミニ学校説明会。1時間で終わったので、途中の駅にある藤子・F・不二雄ミュージアムに行く。展覧物はあまり見ず、3時間マンガを読んでいた。そしてお土産に買うマンガを30分かけて選び、夕方帰宅。
夫は9月に亡くなった友人のお葬式を同期の仲間たちと。ちゃんとした葬儀は当然すでに終わっているのだが、同期で集まってやってもらったとのこと。
11月17日(日)
今日は別府短編に出演していただいた天野はなさんの芝居「太鼓たたいて笛ふいて」(こまつ座)に行く日。
2時間55分(途中休憩あり)の演劇を、息子が最後まで観られるか心配したが、最後まで座ってちゃんと観られたのでよかった。娘も「面白かった!」とのこと。主人公・林芙美子の創作への強い意志に、背筋が伸びた。中途半端に仕事をしてはいけないな、身が引き締まる。
その後、一緒に観劇していた映画監督の武正晴さんと、新宿花園神社の酉の市へ。夫と息子がどうしても見世物小屋へ入りたいというので、みんなで見世物小屋へ。生のうじ? 巨大なミミズ? を食べるやもり女や、ろうそくの火を口で消す人や、暴れて奇声を出す野獣? や、ホチキスを刺しまくるOLさんを、ぎゅうぎゅう詰めのなかで見る。息子は最前列で見ていたので、ミミズをかみ切った時の飛び散る汁が顔にかかって興奮していた。
井上ひさしからの、見世物小屋のカオス。すごい経験だった。酉の市のあとは、着替え終わった天野さんと、偶然見に来ていた俳優の佐野弘樹さん(同じく別府短編映画に主演してもらっている)と、一緒にご飯を食べに行き、とても楽しい夜だった。
11月19日(火)
仮住まいの電気・ガス・水道すべて停止。そして、レンタル家具もすべて返却。仮住まいは空っぽ。3か月間、有難うございました。それにしても夫がずっとズボンを探している。引っ越し中に大のお気に入りのズボンが2本、行方不明になったようで、ずっと私のせいにしている。もちろん、私は全然知らない。夫の服以外はなくなっていないから、日ごろの行いが悪いというか、夫のポイ脱ぎのせいだと思う。
11月22日(金)
10月末まで撮影していたドラマ『それでも俺は、妻としたい』の情報解禁。
『喜劇 愛妻物語』の豪太&チカの、また別のお話。皆さんが、笑ったり、怒ったり、呆れたりしながら見守っていただければよいな思う。これ、足立は「ほぼ実話」って言っているが、豪太より足立のほうがかなりのクズだと思う。
※夫の一言
そして妻の言葉遣いはドラマのほうが数百倍ソフトになっています。
11月25日(月)
今日から韓国へシナハン。5時に娘と息子に挨拶して出発。祖父母が6時に来るからねと伝える。
昨晩の夫のいびきで完全不眠のため、空港でとりあえず酒を買い一気飲み。機内は爆睡できた。到着後、ソウルやカンナム付近の都市部をシナハン。都市部は東京と全然変わらない。
夜は韓国のフィルムコミッションの方と制作会社の方、夫の日本映画学校の後輩で、今韓国で映画監督をしているイ・ユンソクさんなどと食事。肉もうまいが、付け合わせのキムチの種類が多くて、興奮。
21時に会食を終え、そこから23時まで町で子どもたちの塾を町で取材。寒いなか22時過ぎると至るところのビルから子どもたちがわらわらと出てくる。スマホ片手に、バスやお迎えの親の車に無言で乗り込む。22時に子どもたちで埋め尽くされたぎゅうぎゅう詰めバスを見て、韓国の受験競争のすさまじさを感じる。月曜日からこの時間まで勉強して、土日は一体どうなっているんだろう。韓国の出生率が著しく下がっていると新聞で読んだが、これは子育て大変だと思う。金銭的にも心身的にも。
23時半、ホテルに戻る。フラフラで眠かったけど(いつもは21時には寝ている)大浴場があるホテルだったので、意地で入浴。寒いんだもの。爆睡。
11月26日(火)
韓国シナハン2日目。アンドン(安東)付近の河回村で伝統のお面の演劇を見る。まったく期待していなかったが、妙に面白くて、老婆の舞の真似をしたくなった。その後、村をひたすら歩く。
昼食は鯖焼きと鶏肉の煮物。鯖は驚くほど日本の干物に似ていた。鶏肉の煮物は日本とは少し風味が異なり、これまた美味しかった。夕方からプゴク(釜谷)に移動。温泉街なのだが、寂れ方が半端ない。道には人が歩いていない。ホテルも我々しか宿泊していなさそう。
最近娘と息子と『シャイニング』(監督:スタンリー・キューブリック)を観たばかりだったので、なんだか怖くって仕方がない。夕飯にホテル前のお店でカムジャタンを食べる。とても美味しかったが、お客さんは我々のみ。21時半解散。飲み足りなかったので、韓国の女性スタッフMさんと飲みに行くも、どこも店が閉まってしまったので、セブン-イレブンでチャミスルとビールを買って、Mさんの部屋で飲みなおし。
このホテルは各部屋に4メートル四方の浴場がある(昔の韓国の温泉は大浴場ではなく各部屋に大きな風呂が付いているような感じだったそうだ)。このまま飲んでいたらお風呂に入る時間が確実になくなると思ったので、Mさんの部屋の風呂に温泉を溜めて、2人で酒を飲みながら温泉に入る。コイバナやら韓国の撮影現場の話などがめちゃくちゃ楽しくて1時間以上お風呂に入ってしまった……。明日も朝早いので24時に解散にする。Mさんの部屋を出ると、廊下が薄暗く、人の気配がない。我々の部屋がみんなと違う階だったのだが、1人でエレベーターに乗るのが怖すぎて、Mさんに部屋まで送ってもらう。
11月27日(水)
6時起床。夫は1人で早朝ロケハン。私は朝風呂。オンドル(床暖房)が最高。朝食はホテルの人に教えてもらったもやしクッパの店へ。そこはなんと15人ほどのお客さんがいた。この町にも人がいたと驚く(昨晩は明らかに無人だった)。もやしクッパは酒が残っている身体に沁みた。付け合わせの豚ひき肉の乾いたやつが美味しくて、夫が店のおじいさんに「美味しい!これはスーパーとかに売ってるの?」と聞くと、「売ってない」とそっけなく言われた。食べ終えて、会計をしていると店の奥からおじいさんがタッパーに入れた豚ひき肉の乾いたやつを持ってきて「もってけ」と言ってくれた。そっけないのに温かい。たくさん「カムサムニダ」と言って、シナハンに向かう。
その後、プゴク温泉村の観光協会に取材、温泉村の閉館したスパランド、周辺のスーパー、小学校、などをシナハン。どこに行っても皆さん、質問に対してかなり多めの情報を答えてくれて話が弾む。その後、もう少し田舎の村に行き、シナハン。村でキムチの準備をしていた老婆に声をかけて(韓国ではこの時期に1年分のキムチを仕込むらしい)、雑談していたら、制作部のSさん、Mさんがお婆さんに交渉してくれて、2軒も家に上げていただけた。ドラマや映画では見たことがあるが、本物の民家に上がって、生活感を生で感じられてよかった。敏腕の制作部に感謝。
その後、プサン(釜山)に向かう。道中2時間ほど。
夕方17時釜山到着。18時に地元の映画館をシナハン。その後、ムーダンという祈祷師に取材をしつつ、足立を見てもらった。ムーダンが震えながら伝えたのは「あなたの妻は気持ちがとてつもなく広い。彼女の言うことを聞くべき! あなたはとても頑固だし、自分のペースが強すぎる。自分の好きに生きていたら上手く行かない。彼女の言うことに従いなさい」と言われていた!「ほらみたことか!」と思う。足立はとても頑固だし、私の話は頑なに聞かない(仕事仲間の話は多分に聞く)。私は最近言うのを諦めていたが(無駄に口論をしたくないので)、もう諦めるのをやめようと思った。あと、本当に体に気をつけろ!特に血管と内臓!と何回も言われていた。
その後、地下組織のアジトみたいなお店でコプチャンをいただく。「健康に気をつけろ!」と言われたばかりなのに、油たっぷりのホルモンを何度もお代わりして、お店のおばちゃんにも「そんなに食べたら血管詰まるよ!」と言われていたが、人生最後のホルモンにする!と言って、思う存分ホルモンとミノを食べていた。キムチが美味しい美味しいとみんなで食べていたら、帰りに店のおばちゃんがキムチを大量にくれた。ビニール袋を三重に巻いて。なんとありがたい!楽天で10キロ買ってすぐ消費する我が家には本当にうれしいお土産だ。
22時半解散。まだ飲み足りなかった私とMさんは、近所で腸詰(スンデ)やらおでん(魚のすり身)やら天ぷらを買って、また近所のセブン-イレブンでチャミスルを買って、Mさんの部屋で飲む。また韓国の制作現場の話をたくさん聞いているうちに2時を過ぎてしまう。Mさんが3時まで飲んでいけとおっしゃってくれたが、もう体がフラフラなので、申し訳ない!と断って部屋に戻る。夫がすごい音のいびきを出していたが、もう止める気力はなく、気絶するように眠った。
11月28日(木)
韓国シナハン4日目。釜山の市場をシナハン。市場には見たことのない肉の塊や、貝や、魚が売っていて興奮。その後、お寺を見ていたら、韓国のお寺は誰でも無料で食べられる食堂があって、そこで我々も精進料理やスープやフルーツをいただく。食事をした人は各自食器を洗うのだが、足立が食器洗いにはまってしまい、お寺の手伝いの方とかなり大量な食器を洗い始める。そして妙に感謝されて、またまた大量のお餅のお菓子をいただいた。ありがたや……。
その後、キムヘ(金海)付近をひたすら歩く。銀杏並木がきれいな坂が多い町だった。昼に食べたキンパがとても美味しかった。夕方、金海空港を出て、少し遅れて成田着、2100自宅着。娘も息子も寝ておらず、「お土産は?」と待ち構えている。
娘には化粧品、お菓子、K-POPアイドルみたいな洋服。息子にはお面とざくろと洋服。喜んでくれた。写真を見せると2人とも韓国料理が好きなので、いいなーいいなーと連呼。今度は家族で行きたいと思う。
息子の頬に結構深めのかさぶたがあり気になったが、聞いても何も答えないのでそのままにして、寝かせた。
11月29日(金)
夫、朝6時に山口県の周南市へ出発。本日は特別支援学校で講演。周南映画祭で知り合ったご縁だ。企画してくださった宮本さんから非常に充実したイベントだったとご報告をいただきホッとした。
息子は4日間我慢していたのか、朝甘えた感じが強く、「今日は月に1回のお休みデイにする!」というのでお休みさせた。先生へのアプリの欠席連絡と共に、「顔に結構深めの傷があるのですが何かありましたでしょうか? ここ4日間不在でしたので、様子に気づけなかったので何かありましたら教えてください」と入力。
仕事を溜めに溜めていたので、すぐにでも仕事に着手したかったが、息子がなんだか訳ありそうなので、仕事を諦めて一緒に韓国映画『無双の鉄拳』(監督:キム・ミンホ)を観て、16時ごろ、練馬の三の酉に行く。息子は学校休んでいるのに、同級生に何人か会ってしまったため、気まずそうだったが、射的だけはやった。帰り道、それとなく頬の傷を聞くと、「煽られたからどついた」と一言のみ。ちょうどその時、担任の先生から電話があり「下校中に他クラスの子とトラブルが発生したらしい、相手の子は木も金も休んでいるので状況がわからないから月曜に連絡します、見ていた子がいるのですが、足立君が一方的に手を出しているわけではなく、お互いやりあったようです」とのこと。
ようやく、話がわかったので、少し安心。息子も話せたことで少し気持ちが楽になったようだ。帰宅して、今度は『悪人伝』(監督:イ・ウォンテ)を見る。マ・ドンソク2本立て。
11月30日(土)
周南映画祭にて『百円の恋』と『百元の恋』の上映。2012年、周南映画祭の松田優作賞で受賞しなかったら、足立は今のように好きな仕事をできていないと思うと、感謝しかない。
娘は朝から友達と勉強しにファミレスへ。私は息子と部屋の大片づけ。10月の誕生日にベンチプレスや懸垂機を買ったのだが、クリスマスはルームランナーが欲しいそうで、物が多くて、狭く汚い部屋にはもう無理だと伝えたら「片づけるから手伝って!」とのこと。
鉄は熱いうちに打て!ってことで、ノリノリの音楽をかけながら部屋を片づけ、卒業したマンガを段ボールにひと箱詰めてBOOKOFFに売りに行った。全部で800円!お気に入りのチェンソーマンフィギュアももう飾ってないので売ったら開封済は一律100円です、と言われ、まぁ仕方がないと納得して売った(その後店頭で1900円で売られていたが……)。部屋が片づいてうれしかったのか、売ったお小遣いでまたマンガを8冊買っていた。
【妻の1枚】
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【プロフィール】
足立 紳(あだち・しん)
1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作『百円の恋』が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品『佐知とマユ』(第4回「市川森一脚本賞」受賞)『嘘八百』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『こどもしょくどう』など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。最新作は『雑魚どもよ、大志を抱け!』。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『春よ来い、マジで来い』(双葉社・刊)。