みなさん、こんにちは。中曽根陽子です。ここでは、子育てをがんばっているみなさんにぜひ知っておいて欲しい、「子どもの力を伸ばすためのヒント」をお伝えしていきます。第4回のテーマは「やる気スイッチ」です。
きっかけはどこにあるかわからないから
前回、親の仕事はエサまきだと書きました。子どもはなにをきっかけにしてやる気を出すかわからないので、いろいろな世界を見せてあげるといいのではという意味です。しかし、親が与えられることには限りがあります。
もっといろいろな世界を見せるには、いろいろな場を活用するといいですね。特にこれからは、受け身ではなく自分で考える力が必要とされます。家庭で選ぶプログラムも、できるだけ、体験ができるものを選んでください。たとえば、科学館や博物館で実験や工作を行う教室、美術館での造形体験、図書館でのお話会など身近な施設でも探してみるといろいろなイベントをやっています。
なにに興味を持つかは子どもしだいなので、親も気負わずに。まずは、楽しむことが大切です。
大人に混じって、対等にアイデアを出し合う
昨年、日本科学未来館(以下未来館)で、そんな体験型のプログラムが行われたので、取材をしてきました。それは、「未来館の未来をつくる<アイデアソン&ハッカソン>」※1という催しです。
今回のプログラムは、未来館と慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(神武直彦研究室)が共同で主催したもので、未来館のサービス向上のプログラムをつくるというプロジェクトのひとつとして行われました。
アイデアソンには10人ほどの小・中学生が参加して堂々と意見を述べ、大人では考えつかないアイデアを出していました。
午前中は、未来館のバックヤードをフィールドワーク。午後は4〜5人のグループに分かれて、「こんな未来館だったらいいな」というアイデアを考え、それが実現した時のシナリオを作って発表します。
進行役の神武先生から
「どのような時に、だれが、どこで利用するのかを明確にし、実現した時に、利用者がハッピーになる体験かどうかを使う人の目線で考えよう」
という呼びかけのあと、まずグループで話し合いが始まりました。
限られた時間のなかで話しあい、具体的なアイデアにして、最後は未来新聞という形にまとめて発表しなくてはなりません。
一見ハードなワークショップですが、子どもたちは真剣そのもの。互いの意見を尊重するというルールのもとで、学生や社会人などに混じって議論に積極的に参加。大人が考えあぐねている横で、
「来てもらうのを待つんじゃなくて、自分たちから出かけていけばいいんじゃない」
「待ち時間に飽きないようにお楽しみがあったほうがいい」
などなど、大人をはっとさせる自由な発想でアイデアを出していきます。なかには机の上に座り込んで、そこで出たアイデアを図や文章にしながら未来新聞作りに熱中する子も!
最終的に「世界を旅する移動式の未来館」とか、「待ち時間を楽しくするお絵かきボード」など9つのアイデアが作られ、子どもたちも大人に混じって堂々と発表していました。
参加した小学生からは、
「未来について考えるのは楽しかった」
「普段は会えないいろんな人の意見を聞けてよかった」
という感想がありました。子どもたちにとっては、実物にふれたこと、自分のアイデアが実際に使われるかもしれないというワクワク感と、大人と子どもが一つのチームとなって対等に話せることが、やる気につながっていたようでした。
思考力・判断力・表現力が新しい学力の重点課題だと言われていますが、教え込まなくても、場を与えれば子どもたちは持っている力を発揮できるのです。
身近なテーマで、家庭でもアイデアソンを!
イベントに参加していた子どもは、だれもがスーパーキッズだったわけではなく、ちょっと科学や科学館が好きな、普通の子どもたちばかりでした。あるお母さんは、「幼稚園のころに連れてきたら大好きになって、なんども来ているうちに会員(クラブMiraikan)になりました。このイベントもそのお知らせで知りました」と言っていました。
とはいえ、大人と混じってアイデアを出し合うイベントに参加するのはハードルが高いと思われるかたも多いでしょう。
でも、堅苦しく考えることはありません。たとえば、「未来の乗り物」とか「お家をきれいにするアイデア」とか、「日曜日の予定を計画する」とか、なんでもいいので、なにかお題を決めて親子でいっしょにアイデアを出し合う時間をとってみませんか。
その時に、たとえば時間を10分と区切って、できるだけ早くたくさんアイデアをポストイットに書く競争をする。次にその中でいいと思うものに投票するなどというやり方も試してみてください。親子でいっしょに考えるというのは、なかなかおもしろい体験ですよ。
まずは学ぶ楽しさを感じることから。ぜひお家でもホームアイデアソンを開催してみませんか?
未来館の未来をつくるアイデアソン&ハッカソンについて
http://qzss.go.jp/news/archive/miraikan_160630.html
クラブMiraikan について
http://www.miraikan.jst.go.jp/friendship/
※1
「アイデアソン」というのは、アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を掛け合わせた造語。ある特定のテーマについて多様性のあるメンバーが集まって、対話を通じて、課題を解決する新たなアイデアを短期間で創り出すイベント。
「ハッカソン」は、ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を掛け合わせた造語で、アイデアソンで提案されたアイデアを、短期間に集中して具体的なシステムやサービスを創り出し、成果を競う開発イベント。
【著者プロフィール】
中曽根陽子
教育ジャーナリスト
教育雑誌から経済誌、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。子育て中のママたちの絶大な人気を誇るロングセラー『あそび場シリーズ』の仕掛人でもある。 “お母さんと子ども達の笑顔のために”をコンセプトに数多くの本をプロデュース。近著に『1歩先行く中学受験成功したいなら「失敗力」を育てなさい』『後悔しない中学受験』(共に晶文社)『子どもがバケる学校を探せ』(ダイヤモンド社)などがある。教育現場への豊富な取材や海外の教育視察を元に、講演活動やワークショップもおこなっており、母親自身が新しい時代をデザ インする力を育てる学びの場「Mother Quest 」も主宰している。公式サイトhttp://www.waiwainet.com/