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2017/7/2 16:00

なぜ女はBLが好き? 男が知らない本質的な理由

覗けば深い女のトンネルとは? 第30回「共感はしたい、でも距離はおきたい」

 

先日、男性から「BLのどこがいいんですか?」と直球で聞かれました。確かに男性にはわかりづらいんだろうなと思います。リアルな恋愛は男性とする女子でも、BL大好きなんてことはざらです。BLモノが生まれて50年近く経ちますが、どうしてこんなことが起こるのでしょう? なぜBLはこんなにも普遍的な人気があるしょう? 今回はそんな話をひとつ。

 

昔、漫画研究家の藤本由香里さんの講座を受けたときのことです。BLの事始め、耽美少年ものの元祖である『風と木の詩』(竹宮惠子)を解説していました。「風木」は1970年代の、そして竹宮先生の代表作です。主人公は美少年ジルベールと誠実な少年セルジュ。2人はとあるギムナジウム(少女マンガで頻出の寮制男子校のこと)で出会い、真面目なセルジュは退廃的なジルベールに翻弄されていきます。問題はこのジルベールです。

 

ものすごく多くの女子たちが、このジルベールにめっちゃくちゃ惹かれました。女子校育ちの知りあいは「ジルベールを知って高校3年間頭がボーッとしていた」と言っています。そして和久井の高校の文集、表紙はジルベールでした。女子校なのに。「表紙描いた子が大ファンだから」という理由以外に思い浮かびません。そんな話はあちこちにあるのでしょう。耽美少年といえばジルベール、くらいの代名詞になっているんです。『パタリロ!』(魔夜峰央)や『きのう何食べた?』(よしながふみ)などにジルベールはコメディネタとして登場しています。どちらも、本編を知っていると腹がよじれるほど笑えます。

 

一方、本編は真面目な話です。そこで彼は学校の生徒たちにめっちゃくちゃにレイプされまくるんです。暴力を振るわれ、犯されボロボロです。藤本さんは、

「読者の女子たちは、ジルベールに共感してストーリーを読んでいた。だけど彼が本当に女性だったら、彼の痛みをリアルに感じてしまい、耐えられなかっただろう」

と言っていました。

 

これこそが、BLの本質です。つまり男性同士の恋愛を描くことで、女子たちは自分と完全に切り離して、客観的にストーリーを楽しむことができるんです。

 

多くの女子は、大人の恋愛をする前に、いやらしい言葉をかけられたり、身体を触られるなどのセクハラの経験をするものです。愛のある行為ではなく、自分を単なる肉の塊のように扱われることに、大きな嫌悪感を感じます。女の裸体を嬉しそうに眺める男性のことも、女からすれば複雑です。

 

だけど、恋愛にもスキンシップにも興味がないわけじゃない。好きな人と触れ合いたい。でも、実際に自分の身に起こることだと思うのは恐ろしい(だって愛の行為って身体に異物が入ってくることですよ)。その葛藤の末に、自分とは距離を置いて楽観的に楽しめるのがBLなんです。

 

多くのBLストーリーは、片方がノンケです。「え? そんな、やめてやめて!」と躊躇して、抵抗する。そのとまどい方は女子そのものです(ついでに感じ方も)。でも襲われるのが女性だとしたら……自分の経験と重なって、ちょっと恐いです。男女のエロを描くティーンズラブコミックも、そこらへんはたいへん繊細なところで気を遣っているなと感じます。

 

またBLは「禁断の関係なのがいい」という女子もいました。結ばれてはいけない関係の2人。今はだいぶLGBTという言葉も浸透して、同性愛が禁断ではなくなってきましたが、BLの背徳感がたまらないのだそうです。確かに、あの禁断っぽさは男女ではなかなか作りにくい。

 

女は性に関して男性ほどあっけらかんと楽しむことができません。以前、和久井がAVについて書いたら、女性編集者が「自分は性を茶化すのが苦手だ」と言っていました。だからAVやエロもの全般が苦手なのだそうです。

 

官能小説家の睦月影郎さんは「エロ三原則」として「妊娠しない、生理がない、処女でもイく」と言っています。なるべくムダな心配事を排除してエロそのものを楽しみたいのでしょう。でもこの3つはどれも女にとっては自分の身に起こること、まったくないことにはできません。多くの女にとって性とは、自分の人生や業のようなモノと切り離して考えることができないのです。なので女が描くエロ小説は、男女の生い立ちが念入りに描かれ、ラストにとんでもないことが起こるパターンが多いらしいです。確かに、和久井が先日書いたAVのシナリオもそんな感じだったな……

 

確かにこのエロ三原則、BLにはほぼ当てはまりますね。男性は妊娠もしないし生理もありません(たぶん)。なるほど、BLは、男性たちがエロを楽しむ際にするのと同じくムダな心配事を排除して、女があっけらかんと性を楽しむための最善手なのです。