本日9月1日は「防災の日」。様々なメディアで防災グッズが紹介されていますが、GetNavi webでは少し視点を変えて身近なあるものに注目してみました。それがマンション、ビル、ホテルなどでよく設置されている避難器具メーカー、「オリロー」。わかりやすくかわいい名前と、徹底した安全機能で、避難器具全体での国内シェアはなんと6割オーバーだそうです。
誰でも一度は目にしたことがあるこのオリローですが、しかし、実際にこの避難器具を使って降りたことがある人は少ないはず。
今回は、そのオリローの知られざる歴史と真実を、同社・家崎典久さん、山越 貢さんにお聞きしながら、実際に避難器具を体験させてもらいました。
オリローの名のルーツには、箱根駅伝と関係があった!
――マンション、ビル、ホテルなどでオリローの避難器具をよく目にします。ただ、「災害の当事者になっていない」ということで言えば幸いですが、実際にどういった歴史、避難器具の種類があるのかはあまり知りませんでした。
家崎典久さん(以下:家崎) もともと弊社は松本製作所という、消火器や農業衛生噴霧器を作る会社が始まりです。やがて松本機工という会社になり、そこから避難器具を作るようになり、今日に至っています。
ちょうど、最初の松本製作所から今年で90周年になのですが、これを機に“オリロー株式会社”と、社名変更をしました。
――それまで“オリロー”は避難器具の商品名で、企業名ではなかったんですね。
山越貢さん(以下:山越) そうです。最初は避難器具以外も作っていましたが、避難器具が会社の主流になっていきました。そこで社名も商品名と同じ“オリロー”にしたんですね。
おかげさまで現在では避難器具全体での国内シェアは6割以上となりました。
――この名前は「降りる」が語源ですよね?
家崎 はい。ただ、これには裏話があります。弊社の松本という顧問が昔、立教大学の応援団をしていたのですが、学生時代、箱根駅伝を応援しに行ったところ、雪が降ってしまい、乗っていたバスが雪で滑ってしまい立ち往生したことがあったそうです。
その際、松本顧問が応援団の後輩に「バスを降りろ! 降りてバスを押せ! 降りろ! 降りろ!」と叱咤したらしいのですが、この「降りろ!」を、商品名「オリロー」とし、採用したようです。
一口に“避難器具”と言えど、8種類ものカテゴリが
――そんなオリローですが、一口に避難器具と言っても、様々な種類がありますね。
家崎 国家検定に準じると、8種類あり、避難はしご、固定はしご、救助袋、緩降機、滑り台、滑り棒、避難ロープ、避難橋です。
――ということは、あらかじめ国が定めた基準に応じて開発をしていくということですね。
山越 そうです。国が提示する厳しい基準を受けて、開発をし、検定を受けるという流れです。
――そうなると、奇想天外な避難器具、斬新な避難器具は開発しにくそうですね。
家崎 そうです。ただ、その基準内であっても、より使いやすく安全性の高い避難器具を日々研究しています。設置する建物自体もどんどん変わっていっていますから、当然避難器具も日々進化させないといけないわけです。
■折りたたみ式スライドはしご
■固定はしご
■救助袋
■緩降機
■滑り台
■避難ロープ
■避難ハッチ
■滑り棒
映画「ゴーストバスターズ」でも登場した、垂直固定の棒をつたって避難します。
半年に一度はメンテ会社が避難器具を点検しなければいけない
――国の基準をクリアし、日々進化も続けるオリローですが、ただ、器具自体を実際に使ったことがある人は少なそうです。
家崎 たとえばマンションなどでオリローの設置登録をしていれば半年に一度、必ずメンテナンス会社、運営会社が点検し、一定期間内に消防署へ報告するという義務があります。
本来、こういった点検の際に合わせて、住民の方や、万一の際に使うであろう方々の避難訓練もやっていただきたいですね。万一の際、せっかくの避難器具の使い方がわからない……となったら意味がありませんので。
――ということで、今回はその体験をさせてください。
家崎 もちろんです。本当は高さ50メートルの緩降機をはじめ、すべての避難器具を体験していただきたいですが、今回は救助袋型の避難ハッチをやってみましょう。
オリローで実際に降りてみた
――ハッチを開けた瞬間、袋がありますね。
家崎 この袋の中に入って避難します。まず、ハッチのフチに腰掛けていただき、膝から足を先に入れます。そしてハッチのフチの両脇を掴み、腕力で体を支え、態勢を整えた後、上のベルトに手を移します。その後、手を離し、一気に体を救助袋の中に入れていく……という流れです。
――救助袋に入った後、そのまま体が下へストンと落ちていきそうで、すごく恐いんですけど。
家崎 大丈夫です。この救助袋はらせん状の構造で、下にそのまま落ちるわけではなく、袋の中で体を緩やかに回しながら、地面に着地し、逃げられる構造になっています。
――では恐いですが、実際に手を離してみますね。
↑一連の流れを家崎さんに解説していただきながら、筆者も体験。袋の中に身体を入れた後、最後のベルトから手を離すのが恐いですが、見ての通り、体は緩やかに下降していきます。
――恐かったですが、確かに救助袋の中で安全に着地することが出来ました。
家崎 これは実際に体験したことがあるとないとでは、万一の避難時に大きく影響しますから、本当はもっと多くの人に体験していただきたいんです。
――他の避難器具ももちろんそうですね。火災などの際、そうでなくても頭がパニックになっていると思いますから、こういった機会はもっと多くあったほうが良さそうです。
山越 ただ、個人的に勝手に使うのはダメです。必ず保安会社の方、メンテナンス会社をされる方など、有資格者や識者と一緒に避難訓練をしてください。そういった避難訓練の場で、避難器具に触れ、構造を知っていただくだけで、万一の避難時のスピードが大きく変わると思いますから、これはぜひお願いしたいです。
↑避難はしごの開閉も体験しました。片手で簡単に開閉が行えます
↑はしご型の避難ハッチも体験しました。ご覧の通り、短時間で気持ち良いほどにはしごが伸びます
オリローの実例データは!?
――実際に、なんらかの災害の際、オリローが活躍したという事例はありますか?
家崎 この話はよく聞かれますし、実際どこかで必ず役立っているはずなのですが、こういったデータは国が発表しないので、わからないんです。
――しかし、6割以上のシェアということですから、やはり現場レベルでは、なんらかの口コミがありそうですが。
家崎 例えば、口コミレベルの話で「オリローが設置されているビルで火災が起き、全員避難出来て無事だった」と聞いても「オリローで避難出来たから」と言い切れません。だから、こういったデータは全く持っていないのが現状ですね。
――そうであっても、他社製品よりもオリローが優れていて、多くの支持を受けている理由は何だと思いますか?
山越 やはり、常に開発を繰り返し、安全性を高めているところだと自負しています。
家崎 本当は火災が絶対に起きないような世の中になれば良いと思います。でも、それは難しいでしょうから、常にそれまでよりも使いやすい器具を開発し、より安心して避難していただける器具をご提供できるよう、これからも研究、開発を重ねていきたいと思っています。
オリローのストイックで実直な避難器具開発は、家崎さん、山越さんのお話からも随所に感じられました。お話の通り、実際に避難器具に触れたことがあるかないかでは、万一の際に大きく変わります。避難訓練などで、器具に触れられることがあれば、ぜひあなたもご参加されてください!
撮影/我妻慶一