2: 家族会議を反映した親の遺言書はマスト!
――ただ、心配なのが、そのときに、なんらかの家族間の合意に至ったとしても、時間が経つにつれ意見が変わっていったり、親が亡くなった後に話が違うことになったりするのではないかということです。
木下 そうですね。だから、こういった家族会議は、定期的にやっておくほうが良いでしょう。「数年前に、合意したから大丈夫」と思って放置しても、みんな忘れてしまいますからね。
あと、やはり親は遺言書を書いたほうが良いです。話し合いをしたら、話し合いの通りに書いてもらったほうが良い。よく「いや、そのために話し合いして、みんなわかったんだから」「うちは大丈夫。モメたりしないから」という親の意見もありますが、ここはきっちり書面で残しておくべきです。
よくあるのは、直接の家族間では合意をしていても、その連れ添いの人がそこを飛ばして権利を主張し始めて揉め始めるパターンです。そうならないためにも、やはり親は遺言書を残し、周知を得ておくことが大事だと思います。
遺言書は法的に成立するように、公証役場の指導などに沿ってきちんと書いておきましょう。法律の専門家である公証人に作成してもらい、原本を公証役場で保管してもらう公正証書遺言を作成しておくことも、法的に正確かつ証拠能力もあるのでオススメ。あるいは、法的な効力はないものの意志や感情を残された家族に伝えるためにエンディングノートを作り、記載しておく。もれなく「これは◯◯に相続、これは◯◯に相続」と親は具体的に書いておくべきです。
こういった遺言書があっても揉めるときは揉めますが、それでも遺言書はあったほうがより確実にトラブルを回避することができるはずです。
3: 家族信託で親の財産を守る
――親が認知症になった場合、遺言書がないとかなりギクシャクしそうです。
木下 そうです。親が認知症にならない間に、家族会議と遺言書は絶対にやっておくべきです。厚労省のデータでは、2025年で、65歳以上の5人に1人は認知症になると見込まれていますが、親が認知症になった場合、その預金はいったん凍結されるんですね。本人確認法で自分のお金を自由に銀行から出し入れできるわけですが、認知症になると本人確認がアヤフヤになるので、お金を一人で下ろさせてくれなくなる仕組みになっているのです。
そうなると、弁護士や司法書士が後見人として本人を代理して、誰が見ても必要なお金(例えば、施設に入るためのお金や食事をするためのお金)を審査して、その都度本人の預金を口座からおろして、そのための費用に充てるという流れになります。
――そうなると、家族間で「まぁまぁ、それくらいのお金ならいいじゃない」が通用しなくなる。
木下 たとえば成人になっても、親が生活を援助してくれるということも最近はよくあるようですが、成年後見制度を使うと、水道光熱費などの生活費を親に負担してもらっていれば、子どもにとっては当然アウト。また、親から毎年110万円の非課税贈与を受けていても同様です。
しかも、一度後見人がついてしまうと、家庭裁判所の管轄となり、親本人の預金はずっと後見人という他人に管理されてしまいます。そうなってしまうと、これまでに話をした家族間のトラブル回避や、税金の問題以上に大変なことになり、多くのものを失ってしまいます。
――親が認知症になっても、後見人をつけないための回避術はないのでしょうか?
木下 家族信託というものがあります。これは第三者の後見人ではなく、家族のなかで後見的な人を立てて、その人がお金を管理していくということ。ただ、それでもその人の裁量でお金を出し入れするわけですから、だんだん使い込んでしまうケースもあります。
何を決めるにしても、どこまでいってもお金のことになります。それを安全に扱い、揉めないようにするためには、まず親が生きている間、そして亡くなった後も、家族間で話し合いをすること。そして、言いにくいお金のことを議題に乗せて周知を得ていくしかないと思います。
親の死去、認知症の発症、葬儀、相続……。これらのことはいつ自分の身に起こるか分かりません。今回のお話では、家族間の話し合いと、考えの共有が家族にとって有効な防衛策となることがわかりました。お金は親が元気なうちは話しにくいトピックですが、残された家族全員が幸せになるために、事前に皆で時間を作り、定期的に話し合うことを意識していきたいですね。