上がる上がると言われて、伸ばされてきた消費税の増税。「このまま消費税は据え置きされるんじゃないか」と思っていた方もいるかもしれませんが、今年10月に安倍晋三首相が2019年10月に消費税を10%に引き上げることを表明。各業種ではすでに様々な動きが出ているようです。1年を切った消費税増税までの間にしておいたほうが得なことは何か? そして、消費税増税以降の社会はどうなるのか? 税理士法人レディング公認会計士・税理士の木下勇人先生にお話を伺いました。
駆け込み需要で気をつけたい「住宅」と「クルマ」の違い
消費税増税を宣伝文句に、住宅業界や自動車業界は駆け込み需要を睨んで販売合戦を繰り広げています。このような対応をしているのは耐久消費財を販売する企業だけでなく、小売業界も同様。そんななかで消費者はいつ、どのようなモノを買うべきなのかを冷静に考えることが大切になっています。
――消費税増税前の販売合戦は分譲不動産が顕著ですが、それ以外にもありますか?
木下勇人先生(以下:木下)「駆け込み需要」と呼ばれる消費の流れは、やはり不動産業界で一番顕著に見られますね。不動産は金額が大きいので、2%の差額も当然大きい。また、売買契約が増税の半年前(19年3月31日)までに済んでいるなら、仮に住宅工事の完成引渡が19年10月以降になったとしても、適用される税率は旧消費税率(8%)のまま。したがって、不動産購入の計画がある方は19年3月31日までに物件を決めて契約しておくほうがよいですね。
自動車業界でも販売合戦がすでに始まっていますが、クルマを買う予定がある人はできるだけ急いだほうがよいでしょう。住宅購入では契約時で判断されるのに対して、クルマは納車時の税率が適用されてしまうため、納車までに時間がかかったり、人気車種だったりして納車が遅れる場合は、先立って手続きをしておかないと、新税率(10%)で税金を払う羽目になります。納車までに10か月以上かかるケースは稀だと思いますが、注意しておきましょう。
ただし、増税前の宣伝に煽られて、無駄な買い物までしないように気を付けてください。増税前には「本当に必要な高価なもの(耐久財)を買っておく」ことが鉄則です。
消費税増税にメリットはあるのか?
消費者の行動を変える消費税ですが、そもそも、なぜ消費税というものは存在しているのでしょうか? これで誰が得したり、損したりしているのかについて考えてみることは、私たち納税者にとって大切なことでしょう。消費税増税からは社会がどのように機能しているのかが垣間見えます。
――消費税増税にメリットはあるんですか?
木下 国にとって消費税のメリットは「景気動向に左右されにくく、幅広く国民から徴収できる」ということ。つまり消費税は、所得税のようにお金持ちだけが高く課税されるわけではなく、誰からでも広く浅く取れるものなんですね。しかも基本的には脱税もない。これは国の財政にとってはすごくいいわけです。
しかし、ほかにメリットがあるかどうかと聞かれると、残念ながら思い当たりません。日本は借金だらけなうえ、少子高齢化の影響で年金や介護、子育てなどの社会保障費が2040年には現在の1.6倍(約190兆円)になると推計されており、だから消費税増税が必要だと政府やメディアは論じていますが、増税した結果、社会保障制度が本当に変わるかどうかは疑問です。
消費税増税のデメリットには、消費者の負担が増えることが挙げられます。その結果、消費者の購買意欲は低下。これは増税後、最低でも1年くらいは続くでしょう。これによって中小企業などの倒産が増えるかもしれません。また、前述の駆け込み需要の反動で、高額な製品は売れなくなります。したがって、高級品だけを扱う業種の売り上げは下がるだろうと予測されます。
これに伴い、株価も動くでしょう。消費税増税に伴うシステム関連企業(例、レジメーカーや電卓メーカー)の株価は上がるでしょう。株をしている方はこのような企業に投資をすると、ある程度リターンが期待できるかもしれませんね。その逆に、駆け込み需要の反動を受けそうな企業の株価は下がるかもしれません。
増税後はより堅実でスマートな消費生活を
消費税が上がっても、私たちの生活は続きます。家計の悩みが増えてしまいますが、見方によっては増税は「より賢い消費者」になるためのきっかけとも言えるかもしれません。
――やはり消費税増税後は倹約したほうがよいですよね?
木下 そうですね。ただし、消費者が消費を控えると、企業側は儲からないわけです。企業が儲からなかったら、社員の給料が減る。給料が減っただけでなく、会社自体が倒産するかもしれない。これは負のスパイラルです。そうならないように、政府や官僚も増税に伴う買い控えの緩和策をいろいろ考えていると思います。お店などでキャッシュレス決済した消費者には購入額の2%分をポイント還元するとか、年収775万円以下の住宅購入者に支給する「すまい給付金」の上限額を50万円に引き上げるとか、自動車購入者に対する税金の軽減とか。
自動車に関しては、消費税増税の時期と合わせて環境性能割(燃費課税)というものが始まります。燃費性能のよいクルマは税負担が軽く、燃費性能の悪いものは税負担が重くなるというもの。その税率幅は0~3%と言われています。車種やグレードによって税率が異なるわけですが、増税後にクルマを買う予定がある人はこういったことはよく調べて把握しておいたほうがよいでしょうね。
それでも、やはり景気は厳しくなるでしょうね。消費税を5%から8%に増税した2014年には5兆5000億円の景気対策が講じられましたが、それでも個人消費や住宅投資、設備投資は大きく減少。家計の購買力も低迷状態が続いたままです。
過去の増税と比べると、今回の影響度は小さいという試算もありますが、一般的な消費者にとっては打撃が大きいはず。こういう厳しい時代を迎えるからこそ、住宅やクルマに関して述べたように、情報をうまく仕入れて分析し、より慎重に消費活動をすることが賢明なのではないかと思います。