都市の発展はイコール下水の発展でもあると聞いたことがある。たくさんの人が集まる都市では、汚物が適切に処理されないと街に汚物があふれ、感染症などのリスクが高まるからだ。日本は大変衛生的な国だと言われるが、それが一瞬で崩壊してしまうことがある。地震や豪雨などの災害時だ。
災害時のトイレ問題
筆者は東日本大震災の直後に現地の避難所に行き、ボランティアをしていた。そこで一番記憶に残っているのはトイレだ。
3つほどの仮設トイレが避難所の外に作られていた。中は狭く、和式便所で、高い段差もあった。ぼっとんで清潔とは言えず、極力トイレには行きたくないと思ったものだ。
日本トイレ研究所の調べ(*1)によると、「避難生活で困ったこと」の1位は眠れる環境、2位はトイレ、3位は食事と続いている。また内閣府(*2)によると、避難所でのトイレの問題点の1位は衛生面での不安、2位が数自体の不足、3位が利用ルールが明確でないと続く。そのほか「高齢者への配慮がない」「和式トイレが多い」など、仮設トイレの使い勝手の悪さが際立っている。
トイレに不安があるとつい敬遠しがちになり、水分を控えて脱水症になったり、膀胱炎になったりと健康被害にもつながっていく。女性の場合はプライバシーなどの安全面も気になるところだ。
LIXILが、これらの「災害トイレに求められること」を重視して開発したのが、「レジリエンストイレ」だ。
非常時には1/5の水量で流せるシステム
レジリエンストイレは、通常時は普通のトイレとして使用しつつ、災害時に断水になっても快適に使えるシステム。レジリエンスとは、回復力、弾力性などといった意味で、自然災害からの復旧や、ストレスなどに対する対処能力を指す場合もある。
レジリエンストイレは、通常時は5リットルの水で水洗する。しかし災害時にはタンク内にあるピンを外すだけで、1リットルの水で水洗できるようになる。流す水の量が5分の1になれば、使用するごとに大量の水を汲んでくる必要がない。500mlのペットボトルなら2本分だ。楽に運ぶことができるだろう。
<平常時(5リットルの水で水洗)>
<非常時(1リットルの水で水洗)>
また、避難所の仮設トイレを利用した際に感じたのは、高い段差や狭い室内では、足が上げづらい人や介助を必要とする人が使えないだろうということだ。災害時に突然社会がバリアフルになってしまったら、障害のある人や高齢者は生活が立ちゆかなくなってしまう。
その点、レジリエンストイレは、車椅子の人や手指が不自由な人が使いやすいよう、デザインに工夫がある。例えば、車椅子に乗っていても近寄れるよう、便器前の側面が傾斜している。あるいは、洗浄ハンドルは通常よりも長く、手にかけやすい。
衛生面にも配慮され、便器内の凹凸はなるべく少なくし、清掃しやすいようになっている。もちろん抗菌加工も施されている。
量的充足と質的充足の両方が大切
1リットルの水で下水道まで確実に汚物を搬送するには、追加で水を流すシステムが必要で、専用の配管がいる。そのため家庭での設置というよりは、災害時に避難所などに指定される学校や公民館、ショッピングセンターの駐車場トイレなどでの普及を目指しているとのこと。
避難所などでは、携帯トイレや仮設トイレなどの量的充足を目指すものと、レジリエンストイレのように質的充足を目指すものとの併用を想定しているそうだ。
筆者は熊本地震の際に、現地の障害者支援センターでボランティアをしたが、仮設所で生活することがどれほど不便かという話をいくつか聞いた。災害時にはさまざまな不自由やトラブルが起こる。そのなかで、できることは解決したいし、なるべく普段と同じレベルの生活を保てるようにしたいものだ。特に、災害時の高齢者や障がい者対応はこれからますます重要になっていくだろう。