ライフスタイル
2019/9/25 20:00

疲れた大人こそ読むべき…絵本『はかれないものをはかる』で作者が伝えたいこと

テクノロジーが進化し、日進月歩で便利でスピーディーな時代となっても、人間の喜びや悲しみ、感動をはかることは難しいかもしれません。測れたところで、それは重さ、長さ、一体どんな単位になるのかわかりませんよね。

 

『神の聖所と祭壇と、そこで礼拝している人々とを、測りなさい。』

 

これは、『ヨハネの黙示録』の第11章にある一節です。ここに、「一人ひとりの心にある信心の深さや強さを注意しなさい」というメッセージが含まれているのではないかと感じ、一冊の絵本にまとめた人がいます。岡山県生まれで現在はイタリアに暮らしているアーティストの工藤あゆみさんです。この絵本『はかれないものをはかる』には49個のはかれないものが綴られており、今まで気がつかなかった日常に溢れる「はかれないもの」を通じ、自分自身と対話していくことで、心のドアをコンコンッとノックされたような気持ちにさせられます。

 

この絵本が大好きで、置き薬のように自分の心を癒してくれると語る“ブックセラピスト”の元木忍さんが、工藤あゆみさんの人生に触れながら、誕生秘話を聞いてきました。

 


『はかれないものをはかる』
工藤あゆみ/青幻舎
自分の心と対話するような49のことばとイラストが描かれている本作は、クスっと笑えたり、ずしんと心に響いたり、読む人・タイミングによって全く違う内容に思えてくる不思議な一冊。大切な人へのプレゼントにもオススメ。

 

日本から逃げたくてたどり着いた地で、運命の歯車が動き出す

元木 忍(以下、元木):この本に出逢って、どうしてもこの作家さんに会ってお話を伺いたいと思って出版社を訪ねたら、なんとイタリア在住と言われたのです。なぜイタリアにお住まいなのか、というところから、お話をお伺いしたいのですが?

 

工藤あゆみ(以下、工藤):2002年にイタリアへ渡ったんです。なんかこう、日本を脱出したくて、その時ちょっと抱えていた問題からも逃げたくて、環境を変えたくて。英語も苦手だったので、フランス・ドイツ・イタリアの中からどこがいいかな~と考えてて、旅行で行ったイタリアの印象がとても好きだったのとイタリア語の響きが気に入ったので、「イタリアにしよ!」と決めました。

 

元木:そんな感じでイタリアですか! でもその、ふら~っと決めたイタリアで今も暮らしているわけで、その先に何があったのでしょうか?

 

工藤:最初にフィレンツェの語学学校に入ったんですけど、1か月後くらいに今の主人が入学してきて。その時に「この人と生きていこう」って直感で感じたんです。彼の人柄に触れていくうちに、どうしたらいいかと考えて、イタリア国立カッラーラアカデミア美術大学に入学しました。彼も私も20歳くらいだったので、今思えば“若気の至り”の極みですよね(笑)。親にも「美術を勉強するから」ってイタリアへ行くことを説得したので、今思えば、よく許してくれたなと思います。

↑ほんわかとした雰囲気がある工藤さんだが、話す言葉には芯があり、彼女の世界観へどんどん引き込まれてしまう

 

元木:若いとは言え、行動力が半端ないですね! きっとその彼やイタリアという開放的な街にとても素敵な出会いがあったんですね。特にイタリアに知り合いがいたわけでもないのに、そこまでできる行動力も素晴らしいですが、当初予定もしていなかった美大を卒業して「現代アーティスト」という肩書きがつくまでには、いったいどんな流れがあったのですか?

 

工藤:2010年秋に美大を卒業して、しばらくは彼の作品作りを手伝っていました。彼の大理石彫刻をシュコシュコ磨きながら「この先どうしようかな〜」なんて思っていた頃、2011年の東日本大震災が起きたんです。被災者を支援するために、イタリアに住んでいる2名の日本人女性が義援金展を企画してくれて。現地に住んでいる日本人と、イタリア人アーティストを50人くらい集めてチャリティーを行ったんですが、結果として1000万円くらい集まったんですよ。

 

元木:日本で起きた震災に、イタリア人アーティスト達が動いてくれていたんですね。それはすごい! そこに工藤さんの作品も出されたんですか?

 

工藤:はい。主催の人から「あゆみちゃんも出してね」って誘われて。そこで初めて「私って作家だったの!?」と思っちゃったんです。でもそれがうれしくて。私は3点出させてもらったんですが、展示と同時に買ってもらえて。1万円にも満たない作品でしたが、東北のためにやれることが何もないと思っていたのが、こういう風に社会と繋がれる、貢献できるんだっていうのがすごいうれしく感じたんです。その感動と喜びと、こういう生き方あるんだなってぼんやり思っていた1か月後くらいに、イタリアにある主人の知り合いの画廊から、「あゆみ展示しない?」と声をかけてもらったんです。

 

元木:イタリアのアーティスト達からも、このように復興支援を頂いていたことにも感謝ですが、工藤さんのアーティストデビューのきっかけがすごい! まるでシンデレラストーリーですよ!

工藤:画廊を運営している方と主人が仲が良かったので、よく泊めてもらったりしていて。お礼のお手紙を置いていったんです。それをみて、「あゆみ、これだって作品なんだよ。なんでもいいから発表してごらんよ。一部屋提供するから」って言ってくれたんです。

 

元木:導いてくれる人、背中を後押ししてくれる人、作品を見てくれる人が揃ったのですね。

 

工藤:そうですね。私自身は「作品」とは思っていなかったんですけど、だんだんと現代アートに足が向くようになって、周りのみんなも私の手紙の中に「オリジナリティ」を認めてくれて、やっぱりアートの根本って、「美」と「オリジナリティ」なんだっていうのを感じて、現代アーティストと言えるようになりましたね。

 

25メートルも連なった“世界旅行”ブック

元木:さて、『はかれないものをはかる』についてのお話しに入りますが、この本になる前は、自分でいくつか書籍を作っていたんですよね?

 

工藤:ミラノでヤングアーティスト向けのコンクールに参加したんですが、そのコンクールでは画廊から「旅」というテーマを与えられたんです。旅と聞いて思い浮かんだのは、うちの両親のことでした。その当時はイタリアに一度も来たことがなかったのに、「デパートでやっているイタリア展行ってきたよ」とか、「イタリア食材を買って美味しく食べたよ」、「テレビ番組録画したよ」とかをその都度報告してくれて。両親の心は完全にイタリアに来ていたんです(笑)。これってすごく幸せなことだなと思って。私も世界中に心を飛ばして、思ったことを描いてみるといいんじゃないかな? と思って『あゆみの世界一周ブック』を作ったんです。

 

元木:体は岡山に置いておきながら、心はイタリアにいるなんて、本当に素敵なご両親ですね! 今度ご両親にもお会いしたいです。この『あゆみの世界一周ブック』のレプリカを持ってきて下さったのですね。

 

工藤:はい。革で包んでいるものなんですが……。

 

元木:わお!(笑)。この厚さ、この絵の量すごいですね。わー、全部お伺いしたいですが、いくつか解説してもらってもいいですか?

↑革のブックカバーに包まれた『あゆみの世界一周ブック』は、1ページ毎に世界各国をイメージしたイラストが描かれている

 

↑たとえば、左ページに描かれているのは「日本」のイラスト。同じ価値観やモラルの中で生きていながらも、他者との小さな小さな違いを楽しむ、もしくはそこに悩まされる国民性を表現したとのこと

 

工藤:これ蛇腹になっていて、全部を広げると25メートルくらいになっちゃうんですよね。約200の国名や詳細な情報のすべては覚えてなくて(笑)

 

元木:そういう少し悪戯が入っていてチャーミングなところは、工藤さんらしくて、とても好きです(笑)

 

いよいよ、重版を重ねる絵本『はかれないものをはかる』について、話は及びます。

 

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ヨハネの黙示録の一節から生まれた『はかれないものをはかる』

元木:ではでは、本題の『はかれないものをはかる』についてお話を聞かせてください。日本で書籍化するという話は、どのように進んでいったのですか?

 

工藤:『Giromondo di Ayumi(あゆみの世界一周)』を発表して、コンクールで2位だったのですが、1~3位だった3人は、ミラノの画廊で別の展示ができることになっていて。そこでもらったテーマが「ヨハネの黙示録」だったんです。そこから思考を巡らせて出来上がったのが『はかれないものをはかる』でした。

 

元木:本が始まりではなくて、展示作品が本になったという流れなんですね。

 

工藤:はい。「ヨハネの黙示録」の第11章に『神の聖所と祭壇と、そこで礼拝している人々とを、測りなさい。』っていう記述を見つけたんですけど、これ以降、ヨハネが神にはかった数字を報告する記述はなかったんです。それで「神は何をヨハネにはからせたかったんだろう?」と思って。例えば「そこにいる人の数をはかりなさい」とあって、頭数を数えるのは簡単だけど、ここではその数字を求められていない。そして、信者としてどれくらいの信心深さを常にもっているかを神が世界の教会に問う! という記述も黙示録の冒頭にある。そうなると、ヨハネが「1」と数えようとするその人が、どういう心を持って日々生活してるか? どれくらいの信心深さやどんな信仰の質をもっているか? ということに神様は注目させたかったのかな? と私なりの解釈が生まれてきました。だったら数字じゃ表せないけど、今ここにある程度とか温度とかの小さな変化とかに注目してみようと。はかることが大事じゃなくて、そこに目を向けてみるっていうのが面白いんじゃないかな?と。

 

元木:なるほど、すごく深く考えられているのね。はかれることじゃなくて、そこに目を向けること……奥が深いですね。その時はどのように展示されたんですか?

↑本の原画は、7×7インチの木の板に描かれたイラストと言葉

 

工藤:どの絵が一番とかはなかったので、すべてを並列で見て欲しいという思いがありました。額には入れず、板に絵と日本語とイタリア語で言葉を書いて展示しました。ヨハネの黙示録って「7」という数字が繰り返し出てくるんです。そして7はカトリック的に聖数であり、正方形と立方体が聖なる形であり、そのことは黙示録でも言及されています。なので、7×7=49枚の作品を、正方形を意識して展示しました。板の大きさも7の倍数、21cmの正方形です。

 

この作品で私の個展を開催した際に、来てくれる人にお持ち帰りしてもらえる何かを作りたいなと思って、カタログのようなものを考えていたのがどんどん本格的なアーティストブックとなり、『はかれないものをはかる』の最初の1冊が生まれました。

↑青幻舎からの出版に至るまで、左奥にある1冊目から黄色い表紙の4冊まで自費出版で作品を発表した。同じものを増刷せず、発表のタイミングに合わせて表紙や装丁を変更。自費出版の本では、中ページは蛇腹になっており、「はかる」を感じてもらうため表紙にメジャーをつけている

 

元木:最初は49枚の展示作品をご自分で自費出版されたのですね。増版するたびに表紙を替え、真ん中のメジャーもちゃんと工夫されていますね。4冊の自費出版を経て、青幻舎から『はかれないものをはかる』が発売されたんですね。

 

工藤:自費出版のものに私が表現したい形でつまっているので、これでいいかな? と思ったんですが、売れている数を考えると、イタリア9:日本1くらい差があったんですね。イタリアの人ってプレゼントのための本を探しているんです。大事な日に贈る、誕生日とか、大事な人の記念日のプレゼントにこの本をよく使ってもらってるらしいです。

 

でも日本では「食べ物にはお金出すけど、本にはお金を出さないよ」って言われてたから……本を読み終えた後おいしく食べられたらよかったんですけど(笑)。値段が高かったこともあって、なかなか動かなかったので、出版社さんから出してみるのもいいかなと思ったんです。実際に出版するとなると、編集者さんがついて、ブックデザイナーさんがついて、これまでにない空気が入っていいものが生まれるきっかけになるかな? って期待もあって、引き受けることにしました。

 

元木:本にしてくれたから、こうして私も出逢えたので感謝しています。なかなかアーティストブックとは出逢えなかった人も多いと思います。私はたまたまタイトルで見て「このタイトルなんかある! ヤバイ面白そう!」って。そして取り寄せて、1枚目「心の扉の強度を測る」を開いて、胸がバキュンとやられてしまいました(笑)。この作品は、絵から書き出すの? それとも文字から生まれてくるのでしょうか?

↑1ページ目に描かれている「心の扉の強度を測る」。人のような動物のような見かけでいて、なにものでもないこのキャラクターは、工藤さんの中にふっと出てきたんだそう

 

工藤:絵を描く時には、文章は8割くらい出来上がっていますが、絵を描いた後に日本語を書いて、最後にイタリア語を考えています。イタリア語に訳す時には、例えば「幸せ」って辞書をひくと5個くらい候補が出てくるんですよね。そこからスーパージャンプしちゃいます。

 

元木:え、なになに? スーパージャンプ?

 

工藤:あ、ごめんなさい(笑)。なんて言うんだろうな、言いたいことが何かって見えてくるというか。「幸せ」でもこういうことが言いたかったなとか、幸せよりも「喜び」って使った方がしっくりくるなとか。イタリア語と日本語を行ったり来たりするのが、最後の仕上げとしてはすごい大事で。イタリア人には確認してもらっているので、文法は大きな間違いはないはずですが、表現っていうことでいうと、日本語の直訳にはしていないですね。

 

元木:それこそ、工藤さんの感性のかたちなのですね。想像を超えた素敵な絵と文章たちです。

 

『はかれないものをはかる』は、読む人それぞれが自分なりの受け止め方をできる絵本。では作者である工藤さん自身は、どのように感じているのでしょうか? そこに、工藤さんがイタリアに渡った理由もありました。

 

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「ダメになっても大丈夫」、そんな環境が必要だった

元木:工藤さんが、一番好きなページってありますか?

 

工藤:う~ん、その時によって引っかかるものが違うんですよね。

 

元木:私も周りにオススメしている本ですけど、人によって好きなページがみんな違うっていうのがいいですよね。私がお贈りした人たちも、この本を好きになってくれる人が多いです。男性でも「俺はこれ」「ここが好き」とか言ってくれたりするのは、ユニセックスなキャラクターだからこそ男女問わず、子供から年配まで楽しめる作品だと思うんだよね。

 

工藤:つい最近、イタリアでこの本のプレゼンをしてきたので、その思いをひきずっているのかもしれないですけど、今一番気になるのは「ふとんのぬくもりを測る」ですね。イタリア人はこれみて笑うんです(笑)。

描いた時のコンセプトとしては、自分の場所を自分で温める力が人間にはある、っていうのを描きたかったんです。布団一枚かぶると、心地よい暖かさになるじゃないですか? 自分で自分を温められるし、その隣に誰かが入ってくれば、その人を幸せにもできるので。例えば心が冷えている時にも、誰かが優しい言葉とか音楽とか絵とかなにかを「かけて」あげることによって、生きている限り熱量を人間は持っているから、冷えた心を温める力をみんながもっているんだよ〜ってことを伝えたくて描いたんですよね。イタリア人がどう読み取ってるかはわからないけれど、なぜかみんな爆笑してしまうし(笑)、日本人は誰1人としてこの絵に反応した人はいないんです(笑)

↑イタリア人が爆笑するという「ふとんのぬくもりを測る」のページ。工藤さんにも爆笑ポイントはわからないという

 

元木:工藤さんの思いを全ページ、じっくりゆっくり解説をお伺いしたいですね。全体的に本当は伝えたいメッセージなどはありますか?

 

工藤:自分で自分の過去を振り返った時、自分の過去を優しい目で見れたり、クスって笑えたり、それで自分の心が楽になれたので、読んでくれた方がこれからを生きていくヒントとして役立ってくれたらうれしいですね。具体的な伝えたいことはないんですけど、うーん、こんな視点もあるよ、ってことですかね。

 

元木:私はめちゃくちゃ役に立っていますよ! 読むとホッとするというか、この絵本には日常の「あるある」が詰まっているんですよね。私も日によって色々と共感をしているので49枚のすべて好きなんだけど、少しだけ気になる1枚があるんです。

 

ここなんです、最後「憧れと現実の差を計れない」。なんでここページで終わっているのかな? いろんな想像を膨らませながらこの最後のページを合わせてこの本1冊と向き合っています。もしも聞いてもよければ、なぜ、ここには制服が飾ってあるのですか?

↑最後のページを飾るのは、「憧れと現実の差を計れない」。「●●を計る」と続いた最後にある、その“計れない”理由とは?

 

工藤:これは私が高校の時の制服です。ソフトボールがしたくて、すごく憧れて入った高校だったんです。頑張って入学できたんですが、高2の夏から不登校になってしまって。自分の憧れと、現実との差がはかれない。今でもはかれない、あの時のあれはなんだったんだろう~って。今でもその時のことを考えると「うーん」って考えちゃうので、「計れない」としたんです。

中学くらいから自分の思っていることが外に出せないジレンマを抱えていて、高校に入ってからそれがより具体化されて、食べない、寝ないの摂食障害になったんです。いろんなことを「いやだ」とか「そうじゃない」って拒否することができなくなっていっちゃって。誰かに遠慮することなく自分ができることは「食べるを否定する」「寝るを否定する」っていう選択だけで、そこにすがっちゃったんですよね。そのうちドクターストップかかっちゃって。だからイタリアに行って現状を変えたかったし、私を見て悲しそうにしている両親からも逃げたかったんです。思いっきり、誰の目も気にせずに苦しみたかった。「ダメになっても大丈夫」って環境が必要だったと思います。

 

元木:そうだったのですね。最後読んだ時に、ここのページにはすごく考えさせられたんです。私は登校拒否していたわけでも、いじめられていたわけでもないんだけど、「我慢」することが正しいと思う人や、「つらい」という言葉さえ出せない人ってまだまだたくさんいると思うのです。

 

工藤:病気の期間が10年あって、病気が治ってからも5年くらいは思い出すのも辛かったんですけど、そこから年月が経ったから語れます。でもあの時のことって、はかれないんですよね。直視できないというか。でも作品を作り続けている理由は、この時に見守ってくださった先生、学校行かずにお洋服屋さんの一角で座り込んでいたり、通っていたスポーツジムの方、関わっていた大人たちに「ありがとう」を伝えたくて、描いているっていうのもあります。

同じ悩みを抱えていた人にも届けたいと思うけど、こういう時って本なんて読めないんですよね。なので、それを支えてあげている先生とか親御さんに届くといいなーって思いながら発表しているんです。私も病気がひどい時は、2年くらい外から何も情報を入れたくなくて、読めませんでしたから。

 

元木:もちろん工藤さんの苦しかった時の気持ちを知ることなんてできないけど、こうやって触れさせてもらって、フラッシュバックのように昔の記憶が蘇ってきたんですよね。今お話を聞いていて、私こそ「現実を計らないようにしていた」のではないかと感じられる過去があるのかもしれないと思ったら、涙が出ちゃいました。素直にお話ししてくれてすごくうれしい、本当にありがとうございました。

これからの工藤さんは「こんな本を作りたい」とか、「こういうことをやりたい」とか、具体的な計画はありますか?

 

工藤:家族ができて、心から「生きていてよかった!」って感じるんです。この人たちを抱きしめられる体を残しておいて良かったって。今は育児で自分の時間がないなーとか思っちゃいますけど(笑)日常にかわいい喜びがあふれてて溺れそうです。作品や本を作りたいもあるけど、んー、今まで出会った人、これから出会うであろう人たちに、工藤あゆみという人間や作品を使ってもらえたらうれしいかな。あとは作品を通じて、自分の両親の喜ぶ顔が見たいなっていうのもあるのかもしれません。

 

【プロフィール】

アーティスト / 工藤あゆみ

1980年岡山県生まれ、イタリア在住。一児の母。2011年に世界各国をイメージして描かれた”Giromondo di Ayumi(あゆみの世界一周)”で、プレミオサンフェデーレ大賞2011/2012(ミラノ)2位を受賞。2013年にアーティストブックとして『はかれないものをはかる』を発表したが、初版はすぐになくなり、2017年までに4版を自費出版で販売。そんな中、日本の出版社である青幻舎から声がかかり、2018年5月に同タイトルで書籍化。2019年6月29日から8月12日まで板橋区立美術館でボローニャ国際絵本原画展が開催されており、会場では2011年に発売された本物の葉っぱが使われている絵本『A Little Thing』の復刻版も発売される。
http://www.ayumiart.com/
https://www.instagram.com/ayumikudogram/

 

↑すべて工藤さんが手作業で作っている『A Little Thing』。手作業で作品を作り上げていくことが何よりも大好きなんだとか

 

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