地方からの“人生相談”もドンと来い!
元木:ここであらためて、堀口さんの『TURNS』における役割を教えていただけますか?
堀口:役割でいうと『TURNS』のプロデューサーとして、全体のマネタイズや雑誌だけでは表現しきれない部分を講演会やイベントを通じてお伝えしています。ツアーにも参加するし、イベントにも登壇します。よく講演会に登壇すると「どうせ“コンサル”でしょ?」なんて思われちゃうんですが、ビジネス視点だけのコンサルタントの方とは違って(笑)、あくまでメディアを運営する立場から、困っている地域に事例をもとにヒントを差し上げるというスタンスをとっているので、けっして“コンサル”ではありません。
いろんな地域の実例・成功例を多くの人に知ってもらいたいし、活用してほしい。そんな思いを持って地域のためになる仕掛けに取り組んでいます。そのため、地域に合わせたイベント企画をするし、地域の魅力が最大限に伝わるツアーを考えるし、オリジナリティ重視で動いています。
元木:手間を考えたら目が回りそうな役割ですね。先ほど、原価計算のできる編集者になろうともお話されていましたが、雑誌やイベントの企画立案はどのようにされているんですか?
堀口:実は『TURNS』に関わるスタッフは5名だけなんです。もちろん、雑誌では編集プロダクションにお願いしている部分もあるので、この5名が実際に全国を飛び回って……ということではなく現地のスタッフにお願いすることはありますが、幹となるのは5名。まず『TURNS』としてこれを取り上げていこうという大きなテーマに沿ってイベントや雑誌の特集テーマが決まっていくような作り方を取り入れています。もちろん最初から「今号の特集テーマはこれだ!」と作っていくこともありますが、イベントを通じて常に地域の情報を吸い上げながら仕事をしているので、自然と「これだね」って決まるイメージですね。
元木:たった5名とは驚きです! たとえば、地方の自治体側から「TURNSさんと一緒にイベントをやりたい!」という企画要望もあるんですか?
堀口:そうですね。イベントはどちらかというと地域側からの要請が多めです。独自でもやっていきたいんですが、マンパワー的にも足りなくて。そのため、お断りしている地域もあります。イベントも決して安い金額ではないと思うんですが、ちゃんと結果を出して工数もかけてオリジナルなものを作っていくので、そこは説明して納得いただいた地域の方からご発注をいただいています。私たちも結果出すために必死ですよ(笑)
元木:話を聞けば聞くほど、コンサルではないですね(笑)
堀口:コンサルの人って多分、個人のちょっとした相談を受けないと思うんですよ。携わる期間も決まっているでしょうから。でも私の場合、地方からの人生相談どんと来い! なんです。相談には乗るけど、「〇〇したら△△になる」という地方創生のための方程式なんかは持ち合わせていないよ、と冒頭にお伝えするんですけどね。
元木:コンサルのあり方もいろいろとあると思いますが、相談だけなんて「お金にならない」って思う人も多いのかもしれませんね。
堀口:私からするとチャンスでいっぱいなので、寝る時間は毎日3〜4時間になっちゃいますが(笑)うれしい相談なんです。
ひとり静かに暮らしたいなら都会のマンションがいい
元木:ちょっと話がダークな方に言ってしまいましたが(笑)、堀口さんのこれまでのご経験の中から感じる、地方にあう人、移住先でもビジネスで成功する人ってどんな方なんでしょうか?
堀口:東京でも活躍しちゃう営業マンタイプの人ですかね。地方では、コミュニケーション能力が高いほうが、有利かなと感じています。「TURNSがキッカケで〇〇に移住を決めました!」なんて人も増えてきてうれしい限りなんですが、それと同じくらい、失敗した人も見ています。失敗している人に共通するのは、地方がユートピアだと思っている人。あとは、どこへ行っても「自分探し」をしちゃっている人。本当にひとりで悠々自適に暮らしたいなら、都会のマンションが一番なんですよ、って移住したい人に向けてお話してます。
元木:たしかに田舎暮らしは、まずはご近所付き合いからですもんね! 東京にいたらご近所付き合いなんてほとんどないですからね。静かに暮らすなら、山の中より都会のマンションは納得です。ちなみに移住先で成功された方の特徴などがあれば具体的に教えていただけますか?
堀口:地域資源を使って、ビジネスを生み出せている人といいましょうか。移住先でビジネスを成功させるって、相当な営業努力が必要なんですよね。
山口県に「向津具(むかつく)半島」という所があるんですけど、「ムカツク」って響き面白いですよね。ここに移住した人が「純米大吟醸 むかつく」を作って、毎年大ヒットする商品にまで盛り上げたんです。「酒蔵を復活させたい」という地域の人たちの思い、課題があって、そのために使われなくなった棚田を使って酒蔵米を作るところからプロジェクトをスタートさせたんですが、地域の人を巻き込んで、応援者を募って、地域全体で成功に向けて動いているところを見ると「絶対続くな」って感じました。『TURNS』でももちろん取材させてもらいましたが、僕も本当に大好きな方です。
これから移住先でビジネスをしたいという人には「営業力」と「ホスピタリティ」の大切さを伝えますが、ホスピタリティっていうのはお互いに。外から来た若い人も地域の人も、お互いにリスペクトできる環境がないと成功には届かないですよね。これは移住相談の段階からも同じことが言えますね。
元木:「お互いに」認め合うということが必要なのですね。では、その地域のおじいちゃんおばあちゃんたちは、移住してきた若者にすぐに協力してくれるものなのでしょうか?
堀口:排他的な地域ももちろんありますよ。移住希望者を募ってツアーに行った先で、現地の人から「うちは移住者が来ると困るんだよ」なんて言われた時もあります。これは、これから移住しようと考えている人に対して、あまりにも失礼。さすがの私も憤りを覚え、主催する自治体に怒ったこともあります。
別に、移住者がいらない地域があっても悪くはないと思うんです。でもどうであれ、その地域が元気になるために血税を使うのだから、「移住者を増やせと言われたから」という消極的な姿勢で仕事に向き合うのではなく、この地域の未来を自分が作っていくんだ! という気概をもって、真剣に考えて仕事に望んで欲しいですね。もっともっとそこに住む人と向き合って、お互いに受け入れる体制が整ってから、移住施策を始めましょうとアドバイスすることもあります。
日本全国のさまざまな自治体が、課題を抱えながら、地域を活性化するために奮闘しています。そんな地方を取り巻く今後を、堀口さんはどう見据えているのでしょうか?