ライフスタイル
2019/11/19 19:30

観光客や移住者に媚びない!「地方創生」の新しい方向性とは

さまざまな注目を集めている“地方”ですが、20年以上この地方と向き合い、「土のにおいがするメディア」として情報を発信し続けてきたのが、雑誌『TURNS』と、それを中心としたプロジェクト。雑誌のほか、宿泊付きの移住体験ツアーや、地方で活躍する人を東京に招いてのイベントや講演を通じ、ローカルに暮らす魅力を発信し続けています。

 

今回はプロデューサーの堀口正裕さんに、これまでとこれからの地方について、ノウハウを踏まえながらお話いただきました。聞き手は、“ブックセラピスト”として活動する元木 忍さんです。

 


『TURNS』
880円/第一プログレス

農業や子育て、仕事といった地方に地に足をつけて暮らす人のリアルな声や、最近ではパラレルワークや他拠点居住による暮らし方、働き方のヒントが詰まった雑誌『TURNS』。最新刊のテーマは「地域資源×人 でつくる新しい仕事」で、これまでに38号刊行されている。

 

経験ゼロからのスタート! 広告代理店がつくる地方雑誌『TURNS』

元木 忍(以下、元木):私がこの本に出合ったのは今年の2月でしたが、これからの生き方を導いてくれるような内容で、気がつけば何度も読み返していて、今ではすっかり愛読書です。

 

堀口正裕(以下、堀口):うれしいですね、ありがとうございます。『TURNS』を立ち上げたのは2012年です。私たちは2001年から『LiVES』という雑誌を発行してきて、『TURNS』の前身でもある『自休自足』という雑誌もそれと同時期に発売を始めました。

本業は広告代理店なので、雑誌の編集経験者もいませんでした。でも全員が営業的スタンスを持って「原価計算もできる編集者」になろう! とスタートさせ、自分たちの“思い”を大切にしながら「世の中のにニーズにマッチ」するメディアを運営しています。『TURNS』という名前には「Uターン、Iターン、Jターンのターン」と「折り返し地点としてのターン」と「次に行動を起こすのはあなたの番(your TURN)」、この3つの意味を込めています。

↑「TURNS」プロデューサーの堀口正裕さん
↑「TURNS」プロデューサーの堀口正裕さん

 

元木:そうだったのですね。20年近く、地方としっかり向き合ってこられたからこその説得力がありますよね。

 

堀口:タイトルを『TURNS』と変え、ターゲットを中高年から、20代〜40代を中心にした若者世代に変更したのは2012年6月からなのですが、東日本大震災を機に「この国のために何かできないか? 日本を元気にしたい!」という思いで創刊しました。今はいろいろな企業が「ローカルだ!」「地方創生だ!」と活気付いてますが、我々としては20年地方と向き合っており、ライフスタイルデザインカンパニーとして、現地の土のにおいとリアルな現状を紙面を通じてお伝えしてきたという自負があります。

また『TURNS』は、多くの方から“雑誌”というカテゴリで認識いただいていると思うのですが、雑誌というのはひとつのパーツにすぎません。毎週のようにイベントを行ったり、移住希望者と一緒に現地ツアーに出かけたり、企業と地域を繋いだ商品開発なんかも行っています。

 

元木:広告代理店という立場で雑誌を作っていると、少し宣伝っぽく感じてしまいそうですが、その“TURNSする”場所のイベントも含めて運営をしているんですね。

 

堀口:この前は、TURNSのターゲットと親和性の高いユーザーをもつ小売の大手企業と、「曲げわっぱ」の後継者を探すことを裏テーマに、30名規模のイベントを行ったんですが、なんと800名のキャンセル待ちが出たんです。ちゃんと集客して、注目を集めるという部分には、広告代理店のノウハウを活かしていますね。

でもそれだけではなく「なるべく現地に行く」ということを心がけていて、“観光”ではなく、移住先として暮らし方を検討できるような宿泊型ツアーも、定期的に開催しているんですよ。

 

元木:ビジネスとしてはもちろんですが、しっかりと地域の土のにおいも感じられるメディアにしているのはとても素晴らしいですね。堀口さんはたしか、自家菜園もおもちなんですよね? 畑仕事もやりながら、イベントで地方に行きながら、雑誌も作って……ととてもお忙しそうですが。

 

堀口:畑では、じゃがいもや里芋を育てたり、キウイやブドウなんかも。私と親戚の2名に加えて、我が家には合気道の道場があるんですが、教室の生徒さんやそのご家族といっしょに作業することもあります。

 

元木:畑や教えること・教わることを通じて、まずは小さな地域から関わることが、とても大切ですよね。

 

堀口:そうですね、地域といい意味で“しがらみ”を持つっていうのは大切だと感じています。

 

移住希望者と自治体とをつなぐ取り組みを進めながら、ご自身も“地域とのつながり”を体感しているという堀口さん。なんと地方からの人生相談まで、自分のことのように熱心に対応するのだといいます。

 

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地方からの“人生相談”もドンと来い!

元木:ここであらためて、堀口さんの『TURNS』における役割を教えていただけますか?

 

堀口:役割でいうと『TURNS』のプロデューサーとして、全体のマネタイズや雑誌だけでは表現しきれない部分を講演会やイベントを通じてお伝えしています。ツアーにも参加するし、イベントにも登壇します。よく講演会に登壇すると「どうせ“コンサル”でしょ?」なんて思われちゃうんですが、ビジネス視点だけのコンサルタントの方とは違って(笑)、あくまでメディアを運営する立場から、困っている地域に事例をもとにヒントを差し上げるというスタンスをとっているので、けっして“コンサル”ではありません。

いろんな地域の実例・成功例を多くの人に知ってもらいたいし、活用してほしい。そんな思いを持って地域のためになる仕掛けに取り組んでいます。そのため、地域に合わせたイベント企画をするし、地域の魅力が最大限に伝わるツアーを考えるし、オリジナリティ重視で動いています。

元木:手間を考えたら目が回りそうな役割ですね。先ほど、原価計算のできる編集者になろうともお話されていましたが、雑誌やイベントの企画立案はどのようにされているんですか?

 

堀口:実は『TURNS』に関わるスタッフは5名だけなんです。もちろん、雑誌では編集プロダクションにお願いしている部分もあるので、この5名が実際に全国を飛び回って……ということではなく現地のスタッフにお願いすることはありますが、幹となるのは5名。まず『TURNS』としてこれを取り上げていこうという大きなテーマに沿ってイベントや雑誌の特集テーマが決まっていくような作り方を取り入れています。もちろん最初から「今号の特集テーマはこれだ!」と作っていくこともありますが、イベントを通じて常に地域の情報を吸い上げながら仕事をしているので、自然と「これだね」って決まるイメージですね。

 

元木:たった5名とは驚きです! たとえば、地方の自治体側から「TURNSさんと一緒にイベントをやりたい!」という企画要望もあるんですか?

 

堀口:そうですね。イベントはどちらかというと地域側からの要請が多めです。独自でもやっていきたいんですが、マンパワー的にも足りなくて。そのため、お断りしている地域もあります。イベントも決して安い金額ではないと思うんですが、ちゃんと結果を出して工数もかけてオリジナルなものを作っていくので、そこは説明して納得いただいた地域の方からご発注をいただいています。私たちも結果出すために必死ですよ(笑)

 

元木:話を聞けば聞くほど、コンサルではないですね(笑)

 

堀口:コンサルの人って多分、個人のちょっとした相談を受けないと思うんですよ。携わる期間も決まっているでしょうから。でも私の場合、地方からの人生相談どんと来い! なんです。相談には乗るけど、「〇〇したら△△になる」という地方創生のための方程式なんかは持ち合わせていないよ、と冒頭にお伝えするんですけどね。

 

元木:コンサルのあり方もいろいろとあると思いますが、相談だけなんて「お金にならない」って思う人も多いのかもしれませんね。

 

堀口:私からするとチャンスでいっぱいなので、寝る時間は毎日3〜4時間になっちゃいますが(笑)うれしい相談なんです。

 

ひとり静かに暮らしたいなら都会のマンションがいい

元木:ちょっと話がダークな方に言ってしまいましたが(笑)、堀口さんのこれまでのご経験の中から感じる、地方にあう人、移住先でもビジネスで成功する人ってどんな方なんでしょうか?

 

堀口:東京でも活躍しちゃう営業マンタイプの人ですかね。地方では、コミュニケーション能力が高いほうが、有利かなと感じています。「TURNSがキッカケで〇〇に移住を決めました!」なんて人も増えてきてうれしい限りなんですが、それと同じくらい、失敗した人も見ています。失敗している人に共通するのは、地方がユートピアだと思っている人。あとは、どこへ行っても「自分探し」をしちゃっている人。本当にひとりで悠々自適に暮らしたいなら、都会のマンションが一番なんですよ、って移住したい人に向けてお話してます。

 

元木:たしかに田舎暮らしは、まずはご近所付き合いからですもんね! 東京にいたらご近所付き合いなんてほとんどないですからね。静かに暮らすなら、山の中より都会のマンションは納得です。ちなみに移住先で成功された方の特徴などがあれば具体的に教えていただけますか?

 

堀口:地域資源を使って、ビジネスを生み出せている人といいましょうか。移住先でビジネスを成功させるって、相当な営業努力が必要なんですよね。

山口県に「向津具(むかつく)半島」という所があるんですけど、「ムカツク」って響き面白いですよね。ここに移住した人が「純米大吟醸 むかつく」を作って、毎年大ヒットする商品にまで盛り上げたんです。「酒蔵を復活させたい」という地域の人たちの思い、課題があって、そのために使われなくなった棚田を使って酒蔵米を作るところからプロジェクトをスタートさせたんですが、地域の人を巻き込んで、応援者を募って、地域全体で成功に向けて動いているところを見ると「絶対続くな」って感じました。『TURNS』でももちろん取材させてもらいましたが、僕も本当に大好きな方です。

これから移住先でビジネスをしたいという人には「営業力」と「ホスピタリティ」の大切さを伝えますが、ホスピタリティっていうのはお互いに。外から来た若い人も地域の人も、お互いにリスペクトできる環境がないと成功には届かないですよね。これは移住相談の段階からも同じことが言えますね。

 

元木:「お互いに」認め合うということが必要なのですね。では、その地域のおじいちゃんおばあちゃんたちは、移住してきた若者にすぐに協力してくれるものなのでしょうか?

 

堀口:排他的な地域ももちろんありますよ。移住希望者を募ってツアーに行った先で、現地の人から「うちは移住者が来ると困るんだよ」なんて言われた時もあります。これは、これから移住しようと考えている人に対して、あまりにも失礼。さすがの私も憤りを覚え、主催する自治体に怒ったこともあります。

別に、移住者がいらない地域があっても悪くはないと思うんです。でもどうであれ、その地域が元気になるために血税を使うのだから、「移住者を増やせと言われたから」という消極的な姿勢で仕事に向き合うのではなく、この地域の未来を自分が作っていくんだ! という気概をもって、真剣に考えて仕事に望んで欲しいですね。もっともっとそこに住む人と向き合って、お互いに受け入れる体制が整ってから、移住施策を始めましょうとアドバイスすることもあります。

 

日本全国のさまざまな自治体が、課題を抱えながら、地域を活性化するために奮闘しています。そんな地方を取り巻く今後を、堀口さんはどう見据えているのでしょうか?

 

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これからのキーワードは「well-being」

元木:移住者の思いがあっても、それだけでは何もできませんよね。まずはそこに住む人たちのニーズを、行政側がうまく汲み取ってから進めないと。

 

堀口:地方にいる人は大工じゃなくても家を建てちゃったり、なんでもできちゃう人多いんですよね。そういう人に惹かれて自分も移住するっていう方もいますよ。最近では、移住しなくても、何拠点か自分の住まいを持って、そこで繋がりを持って暮らす人も増えてきました。定住という選択だけじゃなくて、複数拠点の中のひとつに選ばれる地域になる努力っていうのも行政には求められていると思いますね。

 

元木:農業を軸に移住しようという方も多いと思うんですが、中には助成金だけを目的に始めちゃう人や、地域で真面目に第一次産業をしている生産者からお金を吸い取っている人がいたりと、正しいことをしている人たちが不利になることも聞くことがあります。本当に胸が痛くなりますね。

でも、国からの助成金だけを頼りにしたお金の儲け方ではなくて、年間で400〜600万円の稼ぎが生み出せる農業を、地方でも必ずできる方法があると思っています。日本はもう少し第一次産業の仕事をリスペクトする時だ、とも感じます。

 

堀口:正しく使えば、助成金は本当に素晴らしい制度なんだけど、助成金がなくなったら職を失ってしまう人がゴマンといるのが現状なんですよね。これは地方創生の悪しき影だと思っています。お金って生きていく中では大切だけど、それだけを追求するのは違う。かといって、幸福だけを追求して、お金なんていらないというのも違う。

僕も会社の役員をやりながら数字と睨めっこして、でも一方で畑で野菜を育てたり、週末には地方にツアーに出かけたりお金だけではない価値にも触れ合っている。ある程度は自由にやらせてもらいながら、でも株式会社なのでやはり利益も追求していかなければいけないけど、それだけでは今後の社会において企業は難しいと思っています。「well-being」(ウェルビーイング)って言葉も最近よく聞きますが、それが今の自分に重要だと感じているんです。

 

元木:実は、私も「well-being」はここ数年、注目している言葉なんです。

 

堀口:そうでしたか。これも取材を通して地域を盛り上げているキーパーソンに教えてもらったのですが、今、「コミット」って言葉よりも「エンゲージメント」の方が多く使われていますよね。それも結局、「well-being」のための仲間づくりだと感じるんです。うまくやっている人たちは、いろんなことに折り合いをつけているんですよね。

例えば、年収が思いっきり下がっても「幸せだ」という人もいれば、お金が大好きで東京も大好きだからここでバリバリ稼ぐぞ! という僕みたいな人もいる(笑)。答えはひとつじゃないから難しいけれど、自分で折り合いを付けられることが大事だと思います。

 

ライフステージに合わせて関わる地域を変えていける仕組みづくりを

元木:最後に堀口さんの考える、理想の地方の姿をぜひ教えていただけますか?

 

堀口:それぞれの地域によって理想は異なりますが、近年、移住者とか観光客に媚びるような施策を行ったことで本来の地方の良さが消えてしまった地域もあるんですよ。だからこれから期待したいこととしては「本来ある地域資源を生かした媚びない施策」をやってほしい。あと、「移住者を離さない施策」に力を入れてほしいとも考えています。

愛媛県西条市では、平成27年度の移住者が3名だったんですが、平成30年度には289名まで増加したんです。これは、移住施策を担当する部署を他業務を兼務する体制から“専属”とし、徹底的に移住者を囲い込む施策をできたことがポイントだったんですが、本気を出した担当者に地域住民は協力してくれるし、移住希望者とも1対1で面談ができるから本気度もわかる。「本当に移住する意思」がある人には全額旅費を負担して移住ツアーに参加してもらっても、高い確率で移住してくれているから、市にとってはプラスになるくらい結果がついてきたんです。

 

元木:素晴らしいですね。あとは企業ももっと地方に目を向けてほしいという気持ちもあるんですよ。

 

堀口:「well-being」にもつながりますが、働き方改革が進んでいく中で、地方と大企業の関わり方もすごく大事だと思っています。工場の誘致とかそんなもんじゃなくて、会社に属しながら、地方で暮らしてその地域とつながっていくという仕組みは作れると思うんです。老後とか退職後に田舎暮らしをって考えている人もいるかもしれないけど、若いうちからいろんな地域と関わりが持てる、ライフステージに合わせて住む先・関わる場所を変えていけるっていうことを企業が率先して取り組んでいくと、もっと地方創生や本来の意味での働き方改革が進んでいくと思うんですよね。結局、今の会社を辞めて収入をゼロにして地方に住むなんてことはあまりにもリスクがありますから。会社側が「週2~3日出社してくれて、あとはテレビ会議と仕事をしてもらって、空き時間はお好きにどうぞ」って言えば、モチベーション上がった社員が増えて、さらには地域貢献もできるわけですから。

 

元木:これまでの日本は、経済発展することを第一目標に進んできたけど、これからはその発展の中で失ったものを取り戻す時代になのかもしれませんね。ほんのちょっとでもいいから、社員の気持ちに寄り添ったり、首都圏主義をなくしたり、今までの常識に固執しない考え方ができれば、最新技術も使いながらよい社会にできると思っています。PCあればどこでも仕事できちゃうんだもん!

 

堀口:本当ですよね。過疎化の進んだ小学校では、近隣の小学校と遠隔授業をやっていたりするんですが、大きなスクリーンにたくさんの生徒が映し出されて、教室に入った瞬間その場に他の学校の生徒も一緒にいるような感覚になるんですよ。その子たちが中学生になって、ひとつに統合されると、画面越しでコミュニケーションをとっていたから「やっと会えたね」ってすぐに仲良くなれるんですって。ICTの進化が目に見えて効果を表してきているなと実感するし、技術の進化が地方を変えるかも? と希望にもなりますよね。

 

元木:少しでも『TURNS』を意識する人が増えるといいですね。ずっとお話をお伺いしたいのですが、今日はこのあたりで。続きはまたお話しさせてください、ありがとうございました。

 

堀口:ありがとうございました。

 

【プロフィール】

『TURNS』プロデューサー / 堀口正裕

北海道生まれ。早稲田大学卒。株式会社第一プログレス取締役。国土交通省、農林水産省、文部科学省の地方創生に関連した各委員、BBT×JTBコミュニケーションデザイン「ツーリズム・リーダーズ・スクール」講師、社会起業大学講師、丸の内朝大学講師、その他、全国各自治体の移住施策に関わる。東日本大震災後、豊かな生き方の選択肢を多くの若者に知って欲しいとの思いから、2012年6月「TURNS」を企画、創刊。地方の魅力は勿論、地方で働く、暮らす、関わり続ける為のヒントを発信している。毎週木曜日18時25分からは『スカロケ移住推進部』という東京FMのラジオ番組にも出演中。
https://www.tfm.co.jp/sky/iju/

 

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