この時期は旅行や帰省などで、スーツケースが必要になってきます。でも、お店に行けば、大小無数のスーツケースが売られていて、どれが自分に最適なスーツケースかを見分けるのはなかなか一苦労です。
そこで今回は東急ハンズの名物バイヤーであり、「スーツケースの伝道師」と呼ばれている佐藤宏樹さんに、現行で販売されている数々のスーツケースの「個性」をわかりやすく解説していただきました。これを読めば、自分に合うスーツケースを見極めるだけでなく、他人のスーツケースの個性もわかるようになりますよ!
【プロフィール】
東急ハンズ・バイヤーの佐藤宏樹さん。自ら20個以上のスーツケースを愛用し、スーツケースにまつわるイベントやサミットも開催するという、まさしくスーツケースの伝道師。あまりに「スーツケース愛」があるからでしょうか、各スーツケースを「この子」「この人」と呼んでいました。
スーツケースは、アイドルユニットのメンバーと同じだと思うべし
ーー東急ハンズはもちろん、様々なお店でスーツケースが売られていますが、自分にとって、どれを選ぶべきかがイマイチわかりません。
佐藤宏樹さん(以下、佐藤) そうですよね。まず、すごくザックリ大別するとスーツケースには「ハード」「ソフト」があります。「ハード」は硬い素材のスーツケース、「ソフト」は布製のスーツケースです。
さらに開閉部分が金属のフレームで守られたタイプとファスナーのタイプに分かれます。一般的に「フレームのほうが頑丈だ」と思われがちですけど、実はそう言い切れないところがあります。フレームは、何か衝撃を受けた際、衝撃を逃がす遊びの部分がないので、本体が歪んだり曲がってしまう可能性があります。ただし、スーツケース自体は壊れることがあっても中の荷物への衝撃は加わりにくいという利点があります。
対して、ジッパータイプは、ジッパー部分がクッションの役割をするので本体そのものは壊れにくいというものです。しかも、軽くて小回りも利く、そして値段も安いので、一概にどちらが得とは言い切れないところがあります。
ーー一番オススメのタイプはどちらですか?
佐藤 だから、それも言い切れないんですよ(笑)。お客さん個々に違う用途や値段にもよりますので。
ただ、ここ7~8年の流れでは、ハード、ソフトともに「機内持ち込みサイズ」が売れています。そして、「前にポケットがついているタイプ」であり、「とにかく走行時に静かである」といったものが売れていますね。一時期ヨーロッパ旅行が冷え込んだ影響やLCCの浸透などもあって、近場のアジアといった海外旅行や国内旅行を楽しむ人が増えたことに加え、スマートフォンなどデジタル技術の進化で荷物が減ったことも、こういったタイプのスーツケースが売れている要因だとは思いますけどね。
ーーでも、そうは言っても、まだやっぱり何を選んだら良いかわかりません。どうしたら良いですかね?
佐藤 そういうお客さまは多いですし、私自身も「どうやって選ばれているんですか?」と聞かれることも多いです。そういうとき、決まって私は「スーツケースはアイドルユニットのメンバーだ」と答えています。
ーーアイドルユニット、ですか?
佐藤 はい。まず、センターのスーツケースを決めて、脇にキャラクターの立つスーツケースを並べていく。みんなそれぞれ「推し」は違います。旅行のスタイルって、それぞれ違いますからね。
そこで、お客さまの好み、旅行スタイルをヒアリングしながら、「この方なら、この子(スーツケース)がお勧めだな」というものをピックアップし、お見合いさせていただく……ということをしています。
ーーつまり、まずは使う側の用途、好みを明確にしないことには、ピッタリのスーツケースも選び込めないということですね。
佐藤 そうです。ですから、お客さまの好みやスタイルによりますが、最近のお勧めのスーツケースと、それぞれの特徴を紹介させていただければと思います。
値段は張るが、通常の半分くらいの軽さのスーツケース
佐藤 まず「センターの脇を固めるメンバーのひとり」が、PROTECAのエアロフレックス ライトというスーツケースです。ポリプロプレン繊維とグラスファイバーを掛け合わせた新素材で、かなり軽いです。一般的な機内持込サイズのスーツケースが3キロ台の重さであるところ、本商品は1.7キロで小指でも持てちゃうくらいです。とにかく軽さにこだわっているので、内装も細かいものは多くつけていませんが、飛行機に乗る際重量オーバーしがちな方にはお勧めです。
内輪と外輪が別々に動く、静音性抜群のスーツケース
佐藤 続いてが走行性に特化したフリクエンターのマーリエですね。私から見て「世界一」と言って良いかもしれないキャスターが、フリクエンターのものです。
これ、内輪と外輪が別々に動く構造になっていて、このことで、振動を分散させてくれるんですね。振動が弱いから移動中に中の荷物を守ってくれるだろうし、静音性にもかなり優れています。さらに、キャスターが摩耗してきたら自分で交換できる構造です。
さらに、このスーツケースのすごいところは、前ポケット。縦、横からの両方を開けることができるので、人前で広げなければいけないときなどに、効果を発揮すると思います。USBポートもついているのでモバイルバッテリーをつなげばスマホの充電もできますし、ぜひ店頭で手にしていただきたいスーツケースですね。
海外で絶大な支持を得た、収納性特化スーツケース
佐藤 私含めた業界の有識者集まって決めた日経プラスワンの「スーツケースランキング」というものがあります。その中で1位を獲得したのが、LOJELのCUBOというスーツケースです。元々は日本生まれのブランドですが、海外での評価を受けて、逆輸入のようなカタチで人気が出たスーツケースです。
普通のスーツケースは、貝のように開けるものが大半ですが、この商品はフタを開けます。スーツケースの境になっている部分はあくまでも拡張用で開きません。
このことで、ホテルの開閉台が仮に狭かったとしても開けやすいというスーツケースです。デザインもスタイリッシュで、サイドハンドルもしっかりついているので、旅行以外の場面でも使われる方が多いようです。
余談ですが、ウクレレ奏者の方が海外遠征される際、「機材など長いモノを運ぶためには、どんなスーツケースが良いか」というご相談を受けた際には、迷わずにこのスーツケースをオススメしました。高さがあるの分、斜めにすれば長いモノでも綺麗に入りますからね。
業界最軽量の超ロングセラーのスーツケース
佐藤 そして、超ロングセラーのスーツケースがサンコー鞄のスーパーライトというモデルです。マイナーチェンジを繰り返していきながらも、「スーパーライト」という名前を使っている以上、常にフレームタイプでは業界最軽量をキープし続けています。73Lモデルで約3.8kgです。他社が、軽い商品を出してきたら、すぐに新しいのを出すっていうこだわりがあるようです。
フレームを軽量金属のマグネシウム合金にしたり、細かいパーツを肉抜きするなどして、少しでも軽くなるよう工夫がなされています。また、傷に強くするためエンボス加工を加えています。他のメーカーではなかなか真似できないスーツケースですね。
センターを飾るのは、全方位優等生なポリカーボネートのスーツケース
佐藤 最後に。数多くのスーツケースを、アイドルユニットのメンバーだとして考えた際、間違いなくセンターを飾るのが、このhands+ライトシリーズ フロントオープンですね。
これはhands+という弊社のオリジナルのスーツケースです。別に弊社の商品だから推したいということではないのですが、でも、某新聞社のスーツケースランキングでも3位に輝いたもので、グレードは申し分ない商品なのです。
素材はポリカーボネートで、非常に強度が高く割れにくい割に、軽いんです。さらに内装、外装にも細かいこだわりがある上、スーツケースでは絶大な支持を得ているHINOMOTO製の消音キャスターを採用しています。これだけのクオリティで2万円台前半で買えるのもお勧めの点です。
容量の目安は「1日=約10リットル」
ーー佐藤さんお勧めのスーツケースを5つ紹介していただきましたが、使う人個々によってオススメ商品が変わってくるということですね。まさにアイドルユニットのメンバーのように。
佐藤 はい。例えば、アルミのスーツケースで人気の海外ブランドものがありますよね。旅行の際にテンションが上がるし、ステータスのような役割もスーツケースの魅力ですが、機能そのものでは同クラスの「イノベーター」ブランドのスーツケースがその3分の1くらいの値段で買えたりと、スーツケースには、まだまだ個性豊かなラインナップがあります。
あるいは女性向けのエレガントなスーツケースも海外ブランドには複数ありますし、世界一のシェアを持つ「サムソナイト」ブランドもあります。
容量のことを加えていったら、さらに膨大な種類になってきますので、実に様々です。奥が深いものだと思います。
ーースーツケースの容量表記はだいたい「リットル」で表されていますが、ユーザーにとってわかりやすく言い換えることはできますか?
佐藤 これも人によって違うので、一概には言えませんが、だいたい「1日=約10リットル」と思っていただければ良いと思います。「2泊3日」なら「20~30リットルだから、機内持ち込みで良いだろう」とか、「4泊5日」なら「50~60リットルは欲しいだろう」とか。これに加えて、寒い地域に行く場合は、防寒着がかさばったりするので増やしたり、逆に暑い地域に行く場合は、減らしたり……と、こうやってスーツケースを選んでいけば良いと思います。
スーツケース個々の特徴を把握していただき、ご自身の旅に適したものを選んでみてください。
実に奥が深かったスーツケースの世界。一生のうちにいくつも買い換える人は稀だと思うので、ぜひご自身の嗜好、旅、条件と照らし合わせて、ぴったりの1台を選んでみてください!
撮影/我妻慶一
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