近年の自然災害による甚大な被害に、不安を抱いている人は多いでしょう。被害の拡大を抑えるには、被災地以外にいる人たちが適切なタイミングで適切な支援をできるかにかかっています。
情報が錯綜するなかでの支援は困難ですが、最近はさまざまなサービスやテクノロジーを駆使することで、被災地を助けることができるようになってきています。
2011年3月11日に起きた「東日本大震災」のあと復興支援を目的に発足した、一般社団法人RCFで防災・災害対応チームリーダーを担っている四登夏希(しのぼりなつき)さんに話をうかがいました。
災害時の物資支援は「プッシュ型」と「プル型」に分かれる
災害が起こると、通信網が途絶えて正しい情報が得られなくなり、現地の状況を把握するのが難しくなります。東日本大震災でも、被災者に物資がうまく行き渡らなかったことがありました。
そこで政府は、被災地からの要請を待たず、必要だと思われる物資をすぐに緊急輸送する「プッシュ型支援」を始めました(2016年熊本地震で初めて本格的に実行)。
「プッシュ型で輸送するのは、飲料水や食料、毛布やおむつなど命に関わるような8品目で、今後起こり得る、南海トラフ地震や首都直下型地震においては、最大被害をもとに必要数量などの支援計画が定められています。
プッシュ型輸送を行う“プッシュ期”は、発災後4〜7日目で、その後は被災地の状況把握をし、ニーズを聞いてから物資を送る“プル型支援”に切り替えられます」(一般社団法人RCF 防災・災害対応チームリーダー/四登夏希さん)
勝手な物資輸送は被災地にとって迷惑かもしれない
災害時は、被災地の様子がテレビなどのメディアからしか伝わらず、「何か力になりたい」という思いから、個々に支援物資を送る人もいるでしょう。しかしそれは、被災地にとって迷惑になることも多いのです。なかには、千羽鶴や寄せ書き、あまりに着古した古着などが送られてくることも少なくありません。
「いてもたってもいられない気持ちはわかりますが、個々に物資を送ると、ただでさえ混乱している現場の仕事を増やすことにつながります。
たとえば、個人の方には、ひとつの段ボール箱に必要と思われるものをぎっしり詰めて送ってくださる方がいるのですが、これでは空けてみないと何が入っているのかわかりませんし、必要なものと不要なものを選別しなくてはなりません。現地からの情報を待ち、被災した自治体がウェブなどで個人寄付を呼びかけている場合にのみ、送るのがいいでしょう」(四登さん)
被災地をテクノロジーを駆使して支援する方法
それでは災害が起こったとき、被災地に対してどのような支援をしたらいいのでしょうか? テクノロジーの力を使って遠隔地からも支援ができる方法を、災害発生から一週間のプッシュ期と、その後のプル期に分けて紹介します。
【プッシュ期にできること 1】
データ入力のボランティアをする
東日本大震災の災害時、Googleが提供している「パーソンファインダー」というサイトの運営に、たくさんのボランティアが集まりました。
「パーソンファインダーは、2010年のハイチ地震から Google が提供しはじめたサービスですが、震災発生後Googleが急遽日本語版に翻訳して、なんと災害発生から2時間弱でリリースした安否確認のサイトです。数日後には、より多くの安否情報を把握すべく、“避難所名簿共有サービス”も追加されました。避難所に貼られている名簿を写真に撮ってアップロードすると、Googleの社員がテキスト化してパーソンファインダーに登録してくれ、名前を検索して安否確認ができる、というわけです。
ところが東日本大震災のときも、現地の方々が撮った避難所名簿の写真を、Googleの社員たちが名簿に入力していましたが、膨大な量が集まったために、それでは全然追いつきませんでした。そこで、写真を見てデータ入力するボランティアを募ったところ、3月29日までに5000名以上の方がデータ入力に携わり、登録件数は14万件以上となったのです」(四登さん)
【プッシュ期にできること 2】
むやみに自治体に問い合わせない
2019年10月の台風15号・19号による災害時も、被災自治体のサーバーがダウンすることがありました。
「なによりも、被災者となった方が情報を求めていることを忘れないでください。外部からのアクセスは必要最小限にとどめ、役所や対策本部に『どうなっていますか?』と電話をかけるのもNGです。
ただでさえ災害時は、関係省庁や自治体・支援者や被災者からの問い合わせが殺到し、公的機関の方々はご自身が被災者でもあるのに被災者対応に追われているのです。自分は何も食べていないのに、住民の方に優先して食料や物資を配布したり、責任を感じて眠らなかったり、大変な思いをしているということも、知っておいていただきたいのです」(四登さん)
【プッシュ期にできること 3】
インターネットの通信量を減らす
災害時は、被災地の状況の確認や安否連絡などで、普段よりも通信量が多くなります。そのためサーバーダウンや通信状況が悪くなるなどして、さらに情報収拾や連絡が困難になってしまうのです。
「あるインターネット会社の調査によると、東日本大震災の際は9割の通信規制があったそうです。被災地以外の方も、とくに災害発生から6時間は、携帯電話やインターネットの使用をなるべく控えるといいと言われています。被災者が円滑に情報収拾できるよう、通信網を空けておくことも支援のひとつです。また被災地の方も、緊急のとき以外は使わないようにして通信量を減らすことが、スムーズな支援につながります」(四登さん)
ではその後の“プル期”にできることとは?
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【プル期にできること 1】
Amazonのほしい物リストを活用する
Amazonでは、被災者に必要なものを届けられるよう、「ほしい物リスト」の活用をしています。
「被災者は、Amazonにある『ほしい物リスト』に必要な物資を登録しておきます。支援者がそれを購入すると、被災者に荷物が届けられるという仕組みです。被災者が必要だと思うものを届けることができるので、送ったけれど不要だった、使えないものだった、などということがなく、物資支援としては理想的な形でしょう。
最近では千葉で起きた台風被害で、壊れてしまった屋根に貼るブルーシートを千葉市がほしい物リストにアップしていました。すると当初必要としていた100枚を大幅に上回る900枚の支援の申し出があったそうです。必要なものを必要な量だけ支援できると、使わなかった支援物資の片付けなどの余計な労力もかかりません」(四登さん)
【プル期にできること 2】
クラウドファンディングに参加する
災害が起こると、その地域の生産物が出荷できなくなったり、風評被害を受けたりすることがあります。被災地に暮らす生産者が行うクラウドファンディングで、出荷できなくなった生産物を購入する支援の方法があります。
「たとえば2018年に発生した西日本豪雨は、愛媛県宇和島に甚大な被害を及ぼしました。出荷を待っていた柑橘類をダメにしてしまっただけでなく、土砂崩れによって苗も機械も失った農家も多く、再建には長期的な支援が必要でした。
復興を願った寄付集めにクラウドファンディングを使ったところ、わずか十数日で500万円の寄付がありました。また、長野の台風19号被害でも、出荷できなくなったりんごをリターンするなどしていました。支援するだけでなく、現地の状況も知ってもらうことができ、また、継続してファンになってくれることで、復興につながっていくのです」(四登さん)
災害支援は、災害が起こったときだけでなく、復興に向けて長期的に関心を持ち、支援していくことが大切です。離れていても被災地のためにできることを実行してみましょう。
【プロフィール】
一般社団法人RCF 防災・災害対応チームリーダー / 四登夏希
大手総合商社を経て2017年よりRCFに参画。内閣府事業における防災システムの開発、休眠預金を活用した台風災害支援、災害対応研究会等の事業を担当している。この一般社団法人RCF は、2011年4月、震災復興のため「RCF復興支援チーム」として発足した団体。現在は復興や社会課題の解決に向け、大手飲料メーカーや外資系金融企業など、多様な企業、自治体および省庁とともに、社会事業を企画・推進している。