「衣替え(ころもがえ)」とは、次の季節を前に、夏物衣料と冬物衣料を交換すること。正直、ちょっぴり憂鬱な気持ちになる人が多いのではないでしょうか? だからと言ってやらないわけにもいかないし、クリーニングにあれもこれも出すのは、手間も経済的にも負担がかかります。
今回は、いつもの洗濯にちょっとの“ひと手間”を加えるだけで、衣類がグッと輝く洗濯の基本と、冬物と夏物衣類を衣替えする前のコツを紹介します。ワンシーズン頑張ってくれた洋服たちが来シーズンでも活躍してくれるよう、毎日忙しい人でも簡単にできるポイントを、“洗濯王子”こと洗濯家の中村祐一さんに教えてもらいました。
衣替えをする意味とは
最近では衣替えをしないという人や、着る前に洗うという人も多いと聞きます。しかし、普段の洗濯で汚れが落ちきっていなかったり、衣類を洗わずに長期間しまったままにしておいたりすると、変色や虫食い等の衣類トラブルの原因になるそう。
「どんな衣類でも、汗などの汚れが残っていれば、それ自体が黄ばみに変わってしまいます。衣替えの際の衣類トラブルを予防するためには『洗ってからしまう』が基本です。YシャツやTシャツなど、直接肌が触れる衣類に関しては、普段の洗濯だけでは皮脂が残りがちになってしまうので、お湯と粉末洗剤で下洗い(つけ置き)をするなど、黄ばみにくい洗い方をしてからしまってあげましょう」(洗濯家・中村祐一さん)
基本的に衣替えする衣類は、「今シーズン着た物だけ」をしまう前に洗えばOK。着ていない衣類をいつまでもクローゼットの肥やしにしておくのはもったいないですが、今シーズン着た服を来シーズンも着られるよう、しっかり洗っておきたいですね。
洗濯の基本を知ろう
中村さんによると、洗濯の手順は全部で7工程。この工程は、手洗いでも洗濯機を使う場合でも変わりません。「洗濯機は、手でやることを楽にするだけ」とのことなので、工程を把握した上で、衣類の素材や色に合わせて洗濯するのがポイントです。誰かに教わることのない洗濯だからこそ、基本をマスターしておきましょう。
「洗濯機を魔法の箱だと思っている人が多いんですよね(笑)。洗濯は、①下洗い、②洗い、③すすぎ、④加工(柔軟剤やノリ加工など)、⑤脱水、⑥乾燥、⑦仕上げの7工程で成り立っています。この②〜⑤(ドラム式洗濯機であれば⑥も含まれる)を自動化したのが洗濯機なのですが、洗濯機を閉じてしまったら中で何をしているのかよくわからないので、この工程を理解していない人が多いんです。
洗濯は教えてくれる人や場所もないので、柔軟剤の使い方を間違えていたり、効率の悪い洗濯をしていたり、洗濯機に入れればなんとかなると思っている人もいるので、まずはこの7工程を理解した上で、脱水だけ洗濯機を使おうとか、お湯でつけおきしてから洗濯しようとか、洗濯機を活用してもらえたらうれしいです」(中村さん)
【洗濯の基本工程】
①下洗い ②洗い ③すすぎ ④加工(柔軟剤やノリ加工など) ⑤脱水 ⑥乾燥 ⑦仕上げ
また洋服についている「洗濯表示タグ」を見て素材にあった洗濯のレシピを作っていくことも大切。中村さんは、洋服を買う際に必ず洗濯表示をチェックしてから購入しているのだとか。
「基本的には、洗濯表示と素材を見てから洗い方を決めます。すべての記号を覚える必要はありませんが、(写真の)一番左に表記されている、おけの表示に×がついているものは、自宅で洗うとトラブルになりやすい衣類。クリーニングに出すのがおすすめですが、素材の個性を把握できれば自宅で洗うことも可能です。またオシャレ着は一着ずつ洗濯するのが基本。洗濯機に入れてしまわず、色落ちしないかな? 縮まないかな? と様子を伺いながら手洗いしてみましょう。手洗いが楽しいという方も増えているので、ぜひトライしてもらいたいですね」(中村さん)
【洗濯時に心がけること】
・洗濯の工程を把握すること
・洗濯表示を見て素材に合わせた洗濯をすること
・難しいものはクリーニング店に任せること
この3つを理解できると、いつもの衣類との向き合い方が変わってきます。また洗濯表示は、その洋服の取扱説明書。日頃の洗濯の仕方から、変わるでしょう。では早速、夏前に衣替えする冬物衣類から詳しくお伝えしていきます。
冬物衣類の衣替えのポイント
ここからは、冬物衣類を衣替えする際に気を付けたいポイントを紹介します。「しまう前に洗う」という基本はもちろんですが、冬物衣類に使われがちな素材のポイントをご紹介します。
ポイント1. ダウンの首元や手首の汗シミは歯ブラシの背でケア
ダウンなどのアウターは、首元や襟、手首などにタンパク質系の汚れがたまりがち。液体洗剤を直接服につけて、汚れを浮かせます。ゴシゴシと擦らずに、歯ブラシの背の面を使って馴染ませる程度で十分です。
注意点としては、洗剤に蛍光剤が入っているものも多いので、その場合はブラックライトに反応してしまったり、白っぽくみえてしまったりする可能性があるので、注意しておきましょう。
ポイント2. ダウンやセーターは「中間脱水」を活用
ダウンやセーターなど、水をたっぷり吸収するような素材については、①下洗い、②洗い、③すすぎの工程のうちの②と③の間にする「中間脱水」がおすすめ。なかなか洗剤成分が抜けない際に、一度脱水を入れることで絞りやすくなり、工程が楽に行えます。冬用の衣類では「中間脱水」を活用しながら、洗濯の時間を短縮しましょう。
ポイント3. リアルレザー・リアルファーの自宅ケアは無理せずに
冬物衣類の中には、動物のリアルファーを使った衣類をお持ちの方も多いでしょう。ファーだけのものだけではなく、裏地に革を使った製品も多いので、洗濯表示のチェック念入りに。(洗濯表示のないものもあるので、その場合は無理をしないで)
ちなみに、革製品や動物ファーを自宅でケアする場合、色落ちや縮みに加えて革やファーの油分が減ってしまうリスクがあります。プロにお任せするのがベストですが、自宅で「加脂剤」を使った油分のケアもしたいという方には、中村さんの運営する通販サイトからも購入が可能。使い方など詳しいことは、以下から確認してください。
いよいよ次のページでは、冬物衣類に使われる代表的な5つの素材を紹介しながら、洗濯が簡単にできる難易度順に洗濯方法をお伝えします。
素材別のお手入れ方法
ここからは、冬物衣類に使われる代表的な5つの素材を紹介しながら、洗濯が簡単にできる難易度順に洗濯方法をお伝えします。洗濯表示をチェックした上で、洗い方を参考にしてみてください。
難易度1=「ボア」素材の洗い方
もこもことあたたかい化学繊維のボア素材については、手洗いでなくてもOK。洗濯機でじゃぶじゃぶ洗ってしまっても大丈夫な素材です。ただし、水を吸収しやすい素材なので水を入れて洗い始める前に水の吸い具合を確認してみましょう。もし水の吸収が激しい素材や大きめなアウターであれば、「毛布モード」にすると水量多めで洗えます。
1.毛の絡まりがある場合は(豚毛の洋服ブラシや髪の毛用のクシで)ブラッシング。汚れがひどい場合は下洗いをする。
2.ファスナーを閉めて、そのまま洗濯機に入れる。
3.おしゃれ着用洗剤と柔軟剤(静電気を防いでくれる)を入れる。(液体洗剤用の投入口がある場合はそこへ、洗剤を直接洗濯槽に入れる場合は水が溜まってから投入)
4.洗濯機が終わったら、自然乾燥させる。
5.乾燥後、ブラッシングをするとふんわり仕上げられる。
難易度2=「アクリルファー」素材の洗い方
今回は大きなアクリルファーの衣類を紹介しますが、首元だけの物や、てのひらサイズで収まるようなものは、手洗いと脱水だけでも十分。湿気や汚れを吸ったアクリルファーも一度洗えばさっぱり&ふんわり仕上げられます。
1.汚れがひどい場合は下洗い。
2.30〜40℃のぬるま湯をおけにため、水量に合わせたおしゃれ着用洗剤を注ぐ。
3.もみ込むように手洗いする。
4.1分ほど、中間脱水をする。
5.水できれいにすすぐ。
6.水をため、水量に合わせた柔軟剤を注ぐ。
7.3分間脱水する。(大きさに合わせて脱水時間は変更する)
8.大きさに合わせて干す。
難易度3=「ダウン」素材の洗い方
一般的な縦型洗濯機を所有している場合は、手洗いにした方が安心ですが、洗濯おけに収まらないくらい大きなものなら洗濯槽で直接押し洗いするのもおすすめ。今回は、おけで手洗いする手順をお伝えします。
1.皮脂汚れがある場合は、部分洗いをする。(冬物衣類の衣替えポイント1を参照)
2.30〜40℃のぬるま湯をおけにため、水量に合わせたおしゃれ着用洗剤を注ぐ。
3.揉み出すように手洗いをする。
4.30秒ほど、中間脱水をする。(ファスナーがあるものは、ファスナーをしめる)
5.水できれいにすすぐ。(汚れの度合いによって、1〜2回で調整)
6.柔軟剤は使わず、そのまま3分間脱水する。(柔軟剤を使うとダウンが膨らみにくくなるため)
7.ダウンの片寄りが気になる場合は、脱水中一時停止をして、ほぐす。
8.自然乾燥させた後、乾燥機で仕上げるとふんわりする。
ドラム式ならそのまま洗濯機で洗えてしまいますが、糸で縫われていない「シームレスダウン」の場合、洗うことで接着部分が剥がれてしまうことがあります。糸で縫われているものに比べ耐久性が弱いものが多いので、洗濯時はもちろん購入時にも注意が必要です。
難易度4=「ニット」「モヘア」素材の洗い方
自宅で洗う場合どうしても気になるのが「縮み」ですよね。そこで、あらかじめメジャーで袖の長さ、丈の長さを測っておくことで縮んでしまった場合に戻しやすくなります。また干す時に、水の重力で伸びてしまいやすいので、干す時は平干しで。
1.目立つ汚れがある場合は、下洗いをする。
2.常温に近い(20〜30℃まで)の水をため、水量に合わせたおしゃれ着用洗剤を注ぐ。
3.伸びやすい形であれば、洗濯ネットに入れたまま手洗いする。(形崩れが心配なものや毛が長めのニットは、動かさずに5分くらいのつけおき洗いもおすすめ)
4.水のにごりがなくなるまで、2〜3回すすぐ。
5.水をため、水量に合わせた柔軟剤を注ぐ。
6.すすいだ衣類を水の中に入れて、成分をなじませる。(ネットのままでOK)
7.洗濯機に入れて1分脱水。(洗濯ネットのままでOK)
8.平干しして、乾燥させる。
9.ニットは洗濯後ある程度縮むので、スチームアイロンで形を整える。
難易度5=「ツイード」素材の洗い方
ツイード素材は、凸凹した部分の間がつまりやすいため、水を含んで膨らみやすくなります。水を含むことで、ひとつひとつの繊維が寄り、縮みやすいので、干し方や仕上げが重要です。
1.30〜40℃のぬるま湯をため、水量に合わせたおしゃれ着用洗剤を注ぐ。
2.その中に衣類を入れて、優しく揉むように洗う。
3.水のにごりがなくなるまで、2〜3回すすぐ。
4.水をため、水量に合わせた柔軟剤を注ぐ。
5.すすいだ衣類を水の中に入れて、成分をなじませる。
6.洗濯機に入れて脱水。(1分ごとに様子を見る)
7.つまりを戻しながら干す。
8.乾燥後、つまりが気になるようだったらアイロンで仕上げる。
手順を見ていくと、時間がかかって大変そうに見えるかもしれませんが、中村さんは干すまでの工程を大体5分前後で終えていました。洗濯機に入れて洗うと、脱水が終わるまででも45分くらいかかるので、正直「こんなに早くていいの?」と驚いたほど。また手洗いすることで、その服への愛着は倍増するような気持ちになります。
後編にお伝えする夏の衣替えでは、リネン素材やシワ加工されているようなチュールスカートなどの洗濯方法を紹介します。
【プロフィール】
洗濯家 / 中村祐一
1984年生まれ。長野県のクリーニング会社「芳洗舎」3代目。「洗濯王子」の愛称で、テレビ・雑誌など各種メディアに出演多数。「洗濯から、セカイを変える」という信念のもと、2006年から「洗濯アドバイス」という分野を切り開いてきたパイオニア。よりよい暮らし方の提案を洗濯という側面から行い、「衣食住」における「衣」の分野の改革に取り組む。
公式サイト=https://www.sentaku-yuichi.com/
ブログ=https://ameblo.jp/sentaku929/