新型コロナウイルスの感染拡大を受け、私たちの暮らしは大きく変わりました。自宅で仕事をしている人、仕事も遊びも予定がすべてキャンセルになってしまった人、さまざまな事情を抱え込まざるを得ない人も大勢いるでしょう。とはいえ、ただ膝を抱えているだけでは、暮らしは立ち行きません。今私たちは、この状況をどう捉え、どう意味のあるものにしていけばいいのでしょうか?
「断捨離」の視点から、暮らしや人生を取り巻くさまざまなものごとのあり方を提案してきた、やましたひでこさんに「今、私たちがするべきこと」を語っていただきました。今回は、やましたひでこさんの人生と断捨離の極意を教えていただく連載を1回お休みしての、緊急提言です。
世界でなにが起きているのか?
―――やましたさんは、今の状況をどのように捉えていらっしゃいますか?
やましたひでこ「世界中で驚くようなことがたくさん起きていますね。これまで以上に、この状況に心を痛めている人が大勢いるでしょう。蔓延しているのは、新型コロナウイルスというより“不安”ですよね」
―――たしかに、不安なことだらけですよね。
やましたひでこ「テレビの街頭インタビューでも、人々に『不安ですか?』って聞くんですね 。電気・ガス・水道のライフラインは確保されているし、スーパーに行けば、食材もちゃんと販売されている。飛行機は仕方がないけれど、タクシーも鉄道も新幹線も走っているのは本当にありがたいこと。右往左往しなくても大丈夫と、冷静になれば誰でもわかるはず。でも、それが出来ないっていうのは、“不安や恐怖に支配されてしまっている”ということなのだと思います」
―――不安や恐怖に支配されている。まさにそう思います。
やましたひでこ「今は、家から出られないですよね? これまで、ワクワクやキラキラを“外”の世界に求めていた人たちにとっては、本当にしんどい時期だと思います。外、つまり他者からの評価を求めていた自分が、否応なく、自分の“内面”と向き合わざるを得なくなっているんです。でも、家で過ごすことにすでに価値を見出していた人は、『自分の家という内側と、自分の内面を磨こう』と切り替えられています。部屋のありようという現実を受け入れて、この状況も俯瞰しているから、“今”自分がすべきことを理解しているし、前向きな気持ちで希望を語れるんだと思います」
―――以前の取材で、『断捨離をする前に、自分を知ることが大事』ともおっしゃっていましたね。
やましたひでこ「断捨離は、現実逃避できませんからね。どうあがいても目の前の部屋が現実なので、嫌な現実の中にずっといなければいけないのはイライラするし、つらいでしょう。逃げずに『これが現実なのだ』と受け入れて、前向きに行動していきましょう」
―――自分を理解しようとせず、現実から逃げてワクワク症候群(※1)になってしまった人たちは本当に辛い時期ということですね。
やましたひでこ「そうですね。いつかこの状況は終わるでしょうけれど、終わった後の世界がどうなっているかなんて、今のところ誰にもわかりません。でも、まったく違う世界になっていくと思います」
※1:ワクワクすることが人生の基準になってしまった状態。
【参考記事】これから「断捨離したい!」という人へ。やましたひでこさんの人生から見えてくる、本当の「断捨離」-第1回-
“分断される世界”とはなにか?
―――具体的にどんな世界になっていくと思われますか?
やましたひでこ「これまでは“格差社会”と言われてきましたけど、“分断された社会”になるのではないでしょうか」
―――分断、ですか。格差は段階があって地続きですが、分断というと、完全に隔絶されてしまったような状態ですよね。
やましたひでこ「サラリーマンで例えると、自宅で仕事をするようになったことで今、“仕事ができない人”が炙り出されているわけです。極端な話をすれば、これまでは、会社にさえ行っていれば仕事をしている気になっていたし、お給料ももらえていたし、家族も『うちのお父さんは毎日バリバリ働いてくれている』って思っていた人が、在宅勤務になってみたら、自宅でも仕事は大してしないしゴロゴロしているだけで『おーい、飯!』って……この人、何もしていないじゃない? って家族にバレてしまったりしているわけですね。当の本人も『どうしたらいいんだろう』って悩んでいるし、ましてや会社が倒産してしまう可能性だってある。でも、この状況というのは、強制的な“働き方改革“が起こっている、とも言えるんですよね」
―――そうなると、人間関係にも影響は出てきそうですね。
やましたひでこ「もちろん、大きく変わります。だって、マスクやトイレットペーパーを買い占めて独占する人と、お友達でいたいと思いますか?(笑)」
―――思いません(笑)
やましたひでこ「“買い占め”や“買い溜め”って、思考がコントロールできなくなった人たちの行動なんです。この期間でどれくらいの物の量が必要か、という思考が欠如しているんですよね。一方で“備蓄”は、この量ならこの期間で足りるなってコントロールができている状態。この違いを分からずに、ただただ“買い溜め”しているようでは、物の量がコントロールできていません。結果、買い溜めをしたものをうまく活用できていない、ということになりがちです。ちなみに実は、私は今、あるチャレンジをしているんですよ」
―――どのようなチャレンジですか?
やましたひでこ「最初に緊急事態宣言が発令された4月7日から5月6日まで、スーパーに行きません。この間はもう、(少し意地もありますが)買い物をしない! って宣言したんです(笑)」
―――え! 1ヶ月近くありますけど、大丈夫なんですか?
やましたひでこ「今までは、近所のスーパーが私の冷蔵庫でしたけど、このような事態になったので、3月中旬くらいから少しずつ“備蓄”を始めたんです。もちろん、鎮静化したら備蓄はしません。でも、今の世の中で“最適”なのは、なるべく家で過ごすこと。そうなると必然的に“備蓄しておくこと”が最適になるんです。
日頃から、『絶対にモノは持たない、備蓄もしない!』と決めて“持たない暮らし”をしている人たちは、もしかすると自分でその制約を破ることができないと、厳しい状況に陥ってしまうかもしれません。でも、 断捨離を理解できているなら、今の自分に必要な『要・適・快』なものと、今の自分に必要のない『不要・不適・不快』なものを把握することができるので、この期間に『今』必要なものが何かを考えれば、おのずと最適な量の“備蓄”にたどり着くわけです」
―――「持たない」と、自らに厳しい制約をかけている人たちは疲弊してしまうかもしれないですが、断捨離の考え方は臨機応変ですね。
やましたひでこ「“遊び”があるのがいいですよね。ちなみに、このチャレンジからちょうど1週間が経ちましたが(4月14日に取材)、上段と葉物野菜はすでに空っぽ(笑)。そんな時は不思議なんですけど、友人から『野菜を送ろうか?』って連絡が来るんです、頼んだわけじゃなかったのに。でも、知らないところで誰かが私を思ってくれていて連絡をくれた、ということがうれしいですよね。誰かとつながりがある人は、分断社会にあってもきっと誰かが支えてくれるし、支えることができる。
マスクを転売して儲けようとか、自分だけは確保しておこうとか、そういう人はきっと、冷蔵庫に”買い溜め”しても腐らせてしまうと思います。”備蓄”と”買い溜め”は別だということから、理解して行動に移してもらいたいですね」
最後のチャンスに私たちはどう変わればいいのか?
―――やましたさんとお話していたら、なんだか元気になってきました。最初の“希望を語れる人”の話ともつながる気がしますね。
やましたひでこ「スーパーの棚からインスタントフードが消えた、なんて報道も目にしましたけど、今はインスタントフードを食べている場合ではないと思うんです。丁寧な食事をして、心と体をケアして、健やかに自宅で過ごさなければいけない時なのに、自分の『要・適・快』と『不要・不適・不快』も分からず流されていたら、もうアウトだと思いませんか?」
―――本当にそうですね。でも、自分の『要・適・快』がわからない人たちはどうしたらいいんでしょうか?
やましたひでこ「その質問自体もアウトかも(笑)」
―――すみません、どうしてもマニュアルを求めてしまいます(笑)
やましたひでこ「この期に及んでもなお、他者のノウハウやマニュアルを求めていては、常に人頼みになり、自分では何もできなくなるということを、まずは理解しないといけませんね。でもあえて言うなら、“排泄”を意識して、完全な排泄をできるようになることではないでしょうか」
―――排泄というのは、トイレの排泄でしょうか?
やましたひでこ「社会に出ていた時は、生理現象は我慢しなければなりませんでした。トイレ休憩の時にしかトイレに行けない……、それ自体が本来は不自然ですけどね。でも今は、家にいられることで、好きな時にトイレに行けるようになって、排泄の制限が外れました。その肉体を住空間にまで広げて考えてみてください」
―――以前の取材でも、「まずは出すというのが断捨離の考え方である」と教えていただきました。その“出す”のがいつでも可能になったと?
やましたひでこ「自分の体からいらない物をスッキリ排泄するように、住空間もスッキリさせようと思うと、どうでしょうか? これだけ家にいられる時間が“たまたま”手に入ったのだから、排泄=捨てるものを見極めていったらいいと思うんです。家の中にある『不要・不適・不快』を処分できれば、自分にとって、そして自分が過ごす空間にとっての『要・適・快』が分かってくるはずです。これが断捨離できる最後のチャンスだと思って! まだ間に合いますよ」
―――最後のチャンス、ですか。
やましたひでこ「これからの社会の価値観がどこにシフトするかは、今の時点では誰にもわかりません。でも自分にとっての『要・適・快』が理解できていれば、どんな価値観になっても右往左往することはありません。自分自身を俯瞰するトレーニングができる最後のチャンス、地球から与えられた断捨離できる最後のチャンスだと思って、この機会にしっかり自分自身に向き合えたら、素敵ですね」
やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
https://at-living.press/tag/yamashitahideko-danshari/
【プロフィール】
クラターコンサルタント / やましたひでこ
東京都出身、早稲田大学卒業。学生時代に出合ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を、日常の「片づけ」に落とし込んで応用提唱し、誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築した。断捨離を、人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置付け、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。また『新・片づけ術「断捨離」』(マガジンハウス)をはじめとするシリーズ書籍は、中国、台湾でもベストセラーを記録し、国内外累計400万部を超え、ヨーロッパ各国の言語でも翻訳されている。
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