サブカル好きのファンが多く訪れる複合小売店、ヴィレッジヴァンガード(ヴィレヴァン)。書籍を始め、CDや雑貨、食品などを幅広く扱っており、全国390店舗を展開する。
売り上げが最も大きい東京・下北沢店は作家やアーティストの常連客も多く、「サブカル聖地」と言われる。芥川賞を受賞したお笑いタレントのピース・又吉直樹氏も頻繁に通うことで知られ、同氏が選び抜いた本100冊や、自ら書き込んだポップを配置した「又吉直樹の本棚」というコーナーが出現したこともある。
■首都圏にはない「路面店」ならではの魅力
本店は地下鉄鶴舞線の駅から徒歩15分と、やや不便な場所にある。売り上げ規模では東京の下北沢店や渋谷宇田川店に遠く及ばないが、旧刊を中心に店員の推す書籍を積み上げ、関連商品や雑貨を並べるヴィレヴァン独自の店づくりは健在で、遠方から訪れるサブカルファンが途絶えない。
本店は路面店ならではの魅力に溢れている。ガレージ風の外観に加え、店内は板張りの床に階段が設けてあり、全体が見渡せるようになっている。独特の棚作りのエッセンスも詰めこまれている。時計や財布を並べる販売台がビリヤード台だったりと、遊び心もたっぷりだ。
都心の小規模店舗では、本をほとんど置かないところが少なくない。ただ、本店は広い店内にしっかり書籍の棚が設けられている。
漫画家の大友克洋コーナーでは、1984~1993年に刊行された代表作の『AKIRA』を中心に全面展開しており、絶版中の日本SF大賞を受賞した伝説的漫画『童夢』も「今も注文を出し続けている」(本店の書籍責任者、加藤清希さん)という執念だ。
同じく人気漫画家の松本大洋の作品もずらり。昭和50年代の三重を舞台にした『Sunny』全6巻を平積みでプッシュし、同作の登場キャラをあしらったTシャツなどの関連グッズも併売。ここまでの展開は他社店ではまずお目にかかれない。また、「サブカルの総本山」と呼ばれた漫画雑誌『ガロ』(2002年に事実上廃刊)のバックナンバーまで並べている。
■特製の「黄色いポップ」に踊るユニークな表現
作家、永江朗の『菊地君の本屋』(主人公はヴィレヴァン創業者の菊地敬一会長)などヴィレヴァン関連本コーナーも設置するが、先出の加藤さんが復刊を切望するのは、菊地氏が1997年に出した著書『ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を』だ。「これが絶版になっていて並べられないのは、本当に悔しい」(加藤さん)。
芸術家・岡本太郎関連のコーナーには、ソフトビニール製の「太陽の塔」が鎮座する。さらに、人気作家・森見登美彦のファンタジー小説『太陽の塔』まで一緒に並べるという遊び心も見せる。1990年代から、本店で売れ続けている書籍『リトル・トリー』も依然平積みだ。
こうした書籍については、特製の黄色いポップに店員が推す理由をユニークな表現で書き込んでいる。村上春樹『風の歌を聴け』には「名言まんさい。なにかと引用したがるニュービーはまずコチラから」、沙村広明『波よ聞いてくれ』には「ズベ公描かせたらやっぱ天下一だわ!」、開高健『オーパ!』には「驚きの言葉オーパ!」のキャッチが書かれている。
さらに、石ころコーナーには「生まれ変わるなら、次は石ころがいい」といった、これまたユニークなポップが添えられている。ただ、あまり挑発的なポップは破かれてしまうことも多いそうで、首都圏店舗よりも比較的マイルドな内容が多い印象だ。
本店では現在、売れ残っても返品できない雑貨に偏重した売り場構成を見直し、書籍の棚を改めて強化している。この点も本好きには嬉しいところだ。書籍と関連雑貨を一緒に並べ、ついで買いを促す仕組みを確立している。
名古屋市の東隣に位置する長久手市では、1993年に開店し、本店に次ぐ古さを誇るイースト店が営業を続けている。本店同様、創業者の菊地会長が自ら店づくりと運営を指揮した伝説の店舗だ。
入り口は大きな倉庫の2階にある。階段を昇って、2階から入り、店舗の大半を占める1階に降りる独特の造り。フロアに降りる際に、店内をジオラマのように一望できる開放感がある。
「階段を一段下りるごとに売り上げが1万円落ちる」と出版取次に反対された設計のこの店舗は、すぐに利益貢献する成功をおさめ、現在も安定した売り上げを計上する。
■ダメな店は潰す…意外にシビアな経営スタイル
ヴィレヴァンは1986年創業以来、急成長を遂げてきた。2003年5月期の売上高は87億円、それが2015年5月期で363億円、連結(ヴィレッジヴァンガードコーポレーション)では460億円規模に成長した。不良在庫を圧縮した2013~2014年には最終赤字に陥ったものの、足元のヴィレヴァン事業の利益は回復歩調にある。
ただ、2~3年前の構造改革の中で、ファンが多かった店舗の閉鎖も続いた。2014年に閉店したPAPA店(名古屋市名東区)もそのひとつ。こちらも最寄りの駅から20分以上歩く不便な場所にあった。前述の菊地氏の著書『ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を』で5章にわたり、1995年の開店までの様子を伝えた店舗だった。一部にファンの多かった東京・高田馬場店も、今年8月末での閉店が決定している。売上動向を厳しくチェックし、スクラップ&ビルドを積極的に進めるヴィレヴァンの意外にシビアな経営スタイルが透けて見える。
「名店だからと言って、いつまでも存続するというわけではない」との認識から、本店を中心とする伝説店舗を急ぎ訪れるサブカルファンは絶えない。「遊べる本屋」の総本山、その存在感は健在だ。
文・撮影:山内 哲夫(東洋経済 記者)
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