寒さが増し、明かりの下で過ごす時間が、いっそう気持ちを和らげてくれる季節になりました。とくに夕方以降の時間は、就寝に向けてリラックスして過ごす、大切なひとときでもあります。ところが日本の住宅では、天井にあらかじめ大型のシーリングライトが備え付けられていることが多く、間接照明を取り入れた空間作りは難易度が高いのが現実。
そこで、インテリアスタイリストとして活躍する窪川勝哉さんに、くつろぎの空間を作るためには、照明をどのように取り入れたらいいかを教えていただきました。
「インテリアの基本は照明である」というほど、照明を大切に考えているという窪川さんの別荘は、建築家・前川國男氏が設計したテラスハウス。前川國男とは、ル・コルビュジエなどの下で学び、高度経済成長期の日本建築界を牽引した著名な建築家です。その設計により、昭和32年(1957年)に建てられた際の“戦後の古き良き日本建築の姿”を残しながら、窪川さんがリノベーションしたインテリアをベースに、照明と空間作りとの関わりを確認していきましょう。
引っ越しではまず、照明をどこにつけるかを考える
「引っ越すときは、入居前にまずどこにどのような家具を置こうかと考えますよね。そのとき同時に、どこに照明器具を置くかも考えてみてください。どのような照明をどこに置くかで、インテリアの見栄えは大きく変わります。また、あとで照明を追加することもできますが、壁や天井の照明は工事が伴う場合が多く、思い通りにいかなくなってしまうこともあるので注意が必要です。
とくに新築やリノベーションなど自由度が高い場合は、何をどこに置くかよりも、その空間をどう照らしたいかを考えてみてください。そして照明器具を探すときは、自分の部屋に合うかわからなくならないように、部屋の写真を撮って持っておくのがおすすめ。写真を見ながらの方が、本当に似合うかどうかイメージしやすいですよ」(インテリアスタイリスト・窪川勝哉さん、以下同)
【照明選びの基本】
・引っ越しの時点で、どこに照明を置くかを検討すること
・一から空間作りを考えられる場合は「空間をどう照らしたいか」から逆算すること
・照明器具を探す際は、部屋の写真を持参すること
それでは、どんな部屋にも共通する、照明を取り入れる際のルールについてもう少し詳しくみていきましょう。
1. 部屋のどの部分に照明が必要か調べる
照明を変えたいときにやりがちなのは、天井のシーリングライトをペンダントライトにするアイデアだそう。
「でも、実はこれだけではあまり意味がありません。照明器具のデザインが変わるので、部屋の印象が違って見えるメリットはありますが、明かりが天井から部屋全体に向かって光っている、ということに変わりはないですよね。つまり、光と影のバランスはたいして変わっていません。
重要なのは、照明器具を変えるのではなく、照明の位置を変えること。どこに明かりがあったら部屋がきれいに見えるか知るには、試してみるのがいちばんです。手持ちの照明器具に長めの延長コードをつけて、部屋をうろうろとしてみてください。この棚が明るくなるときれいだなとか、植物の近くに照明があったら影が出ていいなとか、バランスがわかってくると思います」
2. 雰囲気をよくするためには多灯使いする
日本の住宅では、天井からの一灯で照らす方法が古くから採用されてきました。
「この採光の仕方は、部屋全体が明るくてモノが見えやすい反面、いわばフラッシュをたいて撮った写真のように、全体がのっぺりとした印象になってしまうのです。インテリアが活きる空間を作るためには、さまざまな場所にライトを置いて多灯使いしてみましょう。照明はどんなものでも構いません。部屋に陰影がつくことで雰囲気のある空間にできるだけでなく、天井を高く見せたり部屋を広く見せたりすることができます」
3. 光量と色を調節できる電球を取り入れる
照明を置きたい場所が決まったら、そこからどのような照明器具を設置するか、考えてみましょう。照明器具は安価なものでも構いませんが、大切なのはその明かりの色と光の量なのだそうです。
「日本の住宅にはありがちなのですが、照明の明かりが白すぎるんですよね。蛍光灯の青白い光は、デスクワークには最適です。ただ、リラックスする空間には強すぎる色でもあります。照明器具は手持ちのものが使えるならそれで充分なので、それよりも明るさを変える“調光”と、明かりの色を変える“調色”ができる電球を取り入れてみましょう。色と光の強さが変わるだけで、空間の見え方がかなり変わると思いますよ」
「もしかしたらリモートワークしている方は、パソコンを見たり資料を読んだりする時間が増え、自宅を間接照明にすることが現実的でないかもしれませんよね。そんな方にも使いやすいのが、そういった調光と調色ができるタイプの電球です。仕事をしなくてはならない日中は白っぽい光にして作業しやすい明かりに、リラックスタイムに入ったら優しい温かみのある色に変えて、少し光量を落とします。同じ空間でオン/オフの使い分けができるようになりますよ」
次のページでは、寝室とリビングに分けて、どのような照明をつけるといいのかを見てみましょう。
【寝室】どの程度の明るさが必要か考えてみる
リビングや書斎、キッチンなどでは、作業をする上で、ある程度の明るさが必要になるかもしれません。では、寝室にはどのくらいの明るさが必要か、考えたことはあるでしょうか?
「寝室は、枕元でちょっと時間を確認したり、寝る間際に本を読んだりするために明かりが必要な方もいらっしゃいますが、煌々(こうこう)と部屋全体を明るくする必要はありませんよね。ここにも天井照明をつけるフックはありますが、オブジェを飾っています。窓からのちょっとした明かりと足元に照明があるだけでも、実は十分足りるんです」
【リビング】部屋を立体として捉えて壁をデザインする
リビングの明かりは、リラックスできるような色の光を多灯使いし、落ち着いた空間にするのがいいでしょう。多灯使いするとき、もっとも気にすべきところは、明かりの高さだそう。テーブルの上や床、背の高さより少し低いくらいの中間部分、そして天井と、高さを変えて明かりをつけると、空間が高く広く感じられるのです。
「リビングでは特に、インテリアを考えるときに気をつけないとスカスカになってしまう位置というのがあるんですね。たとえばもっとも存在感のあるテーブルやチェアの高さをイメージしてみましょう。ダイニングのテーブルは70cmくらい、チェアは80〜90cm程度、ソファならだいたい背の部分が70-90cm程度ですよね。部屋を立体として見たとき、それらの家具より上の高さが、実はポッカリ空いてしまうんです。リビングならローテーブルでしょうから、もっと低くなります。その空いた空間を有効に使うことを意識すると、部屋のバランスが整うんです」
「背の高いチェストやアート、植物などを取り入れるのもひとつの手ですが、照明で壁に影をつけるだけで、ポッカリと空いた壁が活きてきます。このように植物に光を当てると、まるでアートのように葉の影が出て、ただの白い壁に存在感が出ます。もし賃貸住宅であれば、壁に何かするのが難しい場合もありますから、照明でデザインすることができるといいですよね」
インテリアを工夫したくても、家具や照明器具を新調するのはなかなか難しいもの。でも、ポータブルライトや電球を取り入れるだけでも、部屋の印象を変えられ、自分好みの空間に作り上げることができるのです。天井の一灯で過ごしている人は、ぜひ多灯使いを取り入れてみませんか。
【プロフィール】
インテリアスタイリスト / 窪川勝哉
インテリアのみならず車や家電、ステーショナリーなどプロダクト全般をスタイリング。バンタンデザイン研究所インテリア学部在学中より空間プランナー赤松珠抄子氏に師事し、2002年に独立。小道具や撮影背景のスタイリングを担うインテリア&プロップスタイリストとして、テレビ番組などのインテリアコーナーや、雑誌のインテリアページのスタイリングを手掛ける。2011年渡英し、1年半の英国滞在を終えて2013年より再び拠点を東京に移し活躍中。
KATSUYA KUBOKAWA http://interiorstylist.jp/