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2021/1/21 19:00

儲かってこそ広がる!SDGsビジネスアワード大賞受賞者が語る、ビジネスで世界を変える方法

2015年9月に行われた国連サミットでの「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には17のゴールが設定され、2030年までのSDGs(持続可能な開発目標)が記されています。

 

この「SDGs」という言葉、最近よく聞きますよね。地球に良いこと、環境のためになること、多様性を認めるなど、なんとなくは理解しているけれど、実際にいま何が起きていて、自分はいったいどうしたらいいの? と途方に暮れている人も多いのではないでしょうか?

 

今回は、「SDGsビジネスアワード」で大賞を受賞した、フロムファーイースト株式会社の代表取締役をつとめ、『世界は自分一人から変えられる』(大和書房)の著者でもある阪口竜也さんに話をうかがうなかで、そのヒントを探りたいと思います。聞き手は、髪から爪先までフロムファーイーストのスキンケアブランド『みんなでみらいを』を愛用中という、@Livingでおなじみの“ブックセラピスト”、元木忍さんです。

 


『世界は自分一人から変えられる』
阪口竜也 / 大和書房

大学時代、DJになるためにフリーペーパーを立ち上げ、新卒採用で給与交渉! 美容業界に転身し、エクステ専門店で世界進出も果たして順風満帆な人生を送っていた著者は、さまざまな逆境や出会いを重ねながら、2010年には、使えば使うほど体と環境が良くなる商品をと開発した「米ぬか酵素洗顔クレンジング」が大ヒット、さらに2017年には「SDGsビジネスアワード」で大賞を受賞。行動力と勇気を与えてくれると、2017年の出版以降、多くの人に親しまれています。

 

“つまらない大人”ではいたくない

元木忍さん(以下、元木):『世界は自分一人から変えられる』は、2017年に出版された本ですが、知人に紹介をされて、読ませて頂きました。本の中で、阪口さんが幼い頃、「あんなつまらなそうな大人にはなりたくない」と思っていたと書かれていますが、大人になってみて、この日本にはどんな大人が多いと感じていらっしゃいますか?

 

阪口竜也さん(以下、阪口):残念ながら、今も「つまらなそうだな〜」と思う大人がいっぱいいます。ただ、これは社会構造が問題なんだと思うんです。学生の頃は、社会と接することのないコミュニティの中にいるから、つまらない社会構造に触れることはないけれど、大学生で就職活動をするようになると、「これが正解です」「あーしなさい」「こーしなさい」「これは間違いです」とルールでガチガチになった社会が登場するんですよね。「これはおかしいぞ?」と感覚ではわかっていても、その流れに乗らざるを得ない。乗ってしまえばルールの中からは逸脱しにくくなるので、なりたくなくてもつまらない大人へのレールに乗ってしまう社会構造になっているんです。

 

元木:社会構造のおかしな部分に疑問を持てたり、阪口さんみたいに「俺はこうするんだ!」と言えればいいんでしょうけど、ほとんどの人が「おかしいな〜」と思いながらもその中でしか生きられないと……。半ば諦めているのでしょうか?

 

阪口:「なんか違う」っていうことは本人もわかっているはずなんだけど、声を上げたり、変化することが怖いんでしょうね。おかしい部分を変えればうまくいくよって教えてあげたいです。

 

元木:本当に言えていないですよね……。そもそも、いつ頃からこういう社会構造になってしまったのでしょうか?

 

阪口:社会=経済という市場原理ができてしまってからでしょうね。いいものを食べて、いい洋服を着て、いい家に住むのがステータス。さらに、日本人には昔から安定志向があるから、貯蓄や財産が多いほうが偉いという価値観。残念ながら「自分がこうありたい」と言いにくい社会として大きくなってきたという背景がありますね。

大量生産・大量消費の現代に一石を投じるべく一念発起、2017年には並み居る大手企業を抑えて「SDGsビジネスアワード」で大賞を受賞した、阪口竜也さん

 

普段通りに生活をしているだけで環境が良くなる仕組み

元木:阪口さんご自身は、大学生時代にDJをやりたいからとフリーペーパーを立ち上げ、新卒採用でも「1年だけ働く」と条件付きで給与交渉までされたそうですね。このエピソードだけでもビックリしちゃいますが、そこから就職後、本当に1年で退職。最初にフリーペーパーの広告を出してくれた会社さんに転職し、エクステ専門店を立ち上げて、世界進出までされました。驚くほどのスピードで、すべてが順風満帆に見えますが、なぜ「世界を変えたい」と一念発起し、今の事業を始めたんですか!?

 

阪口:話だけ聞くと「どんな変なやつなんだ」って思われちゃいますけど(笑)、実は脈絡なく生きてきたわけではなくて、すべては繋がっています。よく「阪口さんだからできるんだよ」とも言われますけど、目の前にある選択肢を、「やる」か「やらない」か選んできただけのこと。元々、「世界を変えたい」って漠然と思っていましたが、今の事業はあるスピーチがきっかけで始めることになったんです。

 

元木:1992年「地球サミット」でセヴァン・カリス=スズキさんが行った伝説のスピーチですよね。私も記憶にあります。

 

学校で、いや幼稚園でさえ、あなたがた大人は私たちに、世の中でどうふるまうかを教えてくれます。たとえば、
・争いをしないこと
・話し合いで解決すること
・他人を尊重すること
・ちらかしたら自分で片付けること
・ほかの生き物をむやみに傷つけないこと
・分かち合うこと
・そして、欲張らないこと
ならばなぜ、あなたがた大人は、私たち子どもに「するな」ということを、自分たちはしているのですか?

(『世界は自分一人から変えられる』より)

 

阪口:このスピーチを知ったのは、2004年になってからなんですよ。当時からこのスピーチが「感動した!」とか「伝説だ!」って話題になっていたはずなのに、1992年から2004年までの約10年で世界が大きく変わったか? と振り返ってみると、むしろ悪くなっているじゃないか……と思って。「みんなはたとえ感動しても、行動はしないんだな」って実感したんです。だったら、何もしなくても普段通りに生活をしているだけで環境が良くなる、子供たちに地球を残せる、そんな取り組みをすれば世界を変えられるんじゃないか? そう考えて、「みんなでみらいを」の事業を立ち上げました。

 

ナチュラルコスメ「みんなでみらいを(minnade miraio)」の化粧品。無添加な上、排水口に洗い流された排水は微生物によって分解されるため、肌にいいだけでなく、地球環境にもいい。右から、「米ぬか酵素洗顔クレンジング」2310円、「米ぬか酵素洗顔クレンジング+クレイ」3850円、「椿と黒文字のスキンケアオイル」4180円、「米ぬか美容オイル」3850円(すべて税込)

 

元木:「普段通りに生活をしているだけで環境が良くなる」って、本当に素敵な考え方だと思います。だから「みんなでみらいを」にはスキンケア商品や洗剤など日常生活に身近な、毎日使う商品が揃っているんですね。

 

阪口:社会=経済の時代は、便利だとか早いとか楽とか、“モノにあふれた豊かさ”や“効率がいい生活”をすることが最高! とされていたので、その代償として環境は破壊されてしまったように思います。この「経済発展=環境破壊」の構造を、「環境保護=経済発展」の仕組みに変えなきゃいけないと考えるようにもなりました。

美容師さんを例にあげると、見習いの子たちの手ってシャンプーでボロボロに手荒れしているんですよ。これは「今すぐ、美しい髪が欲しい」という社会のニーズに応えるために、合成界面活性剤やいろいろな薬品を使って、企業がスピーディに見た目の美しさを求めた商品を開発した結果なんですよね。そんな人間の手が荒れてしまうようなものを毎日下水に流したら、川や海は汚染されてしまう……。さらに各家庭からも同じようにいろいろな薬品が自然界に流れてしまっていると思うと、100年後もこの地球があるって保証できないだろうと思ったんです。

 

元木:私も美容室と一緒に事業をしていたので、「どうして美容師さんはこんなに手が荒れてしまうの?」と思っていました。髪の毛を染めている液剤が悪いのではないかと少しは疑いがありましたが、地球にも悪いんだとあらためて気が付かされ、私も髪を染めるのをやめました。地球を汚してまで美しくなりたいって何でしょうね? そのあたりのことをきちんと理解しておくことも、とても重要なのではないかと感じました。

 

「SDGs」は企業にとって大チャンス!?

阪口:その価値観も、少しずつですが変わってきています。新型コロナウイルスで自粛せざるを得なくなったのもありますが、「白髪でもかっこいいじゃん!」とか「自然由来の毛染めしようよ」とか地球にも自分にも優しい方向になっていますから。10年前では考えられなかったことです。元木さんの白髪も素敵ですよ!

 

元木:ありがとうございます(笑)。私も「みんなでみらいを」の商品を愛用していて、全身に使っています。正直、髪を洗うときしむんだけど、ドライヤーで乾かすとつるんとして気持ちがいい。今までは、髪の毛がツヤツヤになるとかしっとりするのが善とされていましたが、そうするためにどれだけの添加物や薬品が使われてきたのか? って考えさせられます。

 

阪口:都合の悪いことは、企業は発信しません。“天然由来”って聞こえはいいけれど、石油だって天然物質。無添加でも、植物を育てる時にたっぷり農薬を使っていたらその残留物は表記されません。CMのナチュラルな雰囲気だけで商品を選んでいる人も、正直多いですからね。自分が使う商品なんだから、何が入っているのか? この成分はどういう意味なのか? どうしてこの添加物が必要なのか? 調べれば全て出てくることですから、自分で調べて、理解して欲しいです。元木:たしかに、私たちはいろいろな情報を鵜呑みにし過ぎていますよね。

 

阪口:ネットで検索すれば、それがどんな成分かはすぐにわかりますよ。いろいろな情報を自分で調べて、自分に合うものを見極めて、選んで、使うのが当たり前になって欲しいですね。最近は、その感覚がどんどん薄れているような気がしますし。

 

元木:自分の目を養うことはもちろんですが、メーカーも、環境に優しい取り組みをしたいんだけど……と思っているだけで、踏み切れないという企業も多いのかもしれませんね。

 

阪口:正直、企業は“やらざるを得ない状況”だと考えたほうがいいと思います。社会のニーズはすでに変化していて、全世界70億人の共通目標として2030年までに「これを達成しますよ!」ってSDGsを掲げているわけですから。世界中で国を挙げて、予算つけて大々的に取り組んでいて、SDGsに沿った活動をすればするほど企業価値が高まりますから、マーケティング視点から考えても大チャンス。「経済発展=環境破壊」の価値観でいる企業は、CSR活動で「やってますよ」とアピールするのではなく、SDGsに沿った新規事業を生み出すほうが効果的です。

SDGsは17のゴール・169のターゲットから構成されています。どんな企業でもひとつくらいは事業内容を見直したり、達成に近づける取り組みができるはずです。今までは、商品開発後「どうやってターゲットにリーチするか」を考えていたと思いますが、もうターゲットはSDGsで定められているので、ゼロから新規事業を考えるより圧倒的に効果を得やすいんです

 

元木:なるほど。全人類の共通目標がSDGsと思うとわかりやすい! 今までエコ活動や環境保全はボランティアな印象がありましたが、しっかりビジネスとして経済を回していくことが大切なんですね。

 

阪口:そうそう。これまでの価値観で考えると、CSRってコストがかかるでしょ? 僕自身も社会貢献だけなんてことはしていません。どうすればビジネスとして成立するかをしっかり考えてビジネスモデルを組めば、環境保護しながら儲けることは可能です。「中小規模の企業じゃ無理だよ」って声も聞きますが、むしろSDGsという共通目標があることで大企業と一緒に仕事を生み出せる可能性も秘めています。僕もSDGsを通じて身の丈以上の企業とやりとりしてきた実績もありますから。チャンスがいっぱい転がっているので、あとは自分の所属している組織で「何ができるか」を本気で考えて、行動するだけです。

 

何ができるかを考えて、あとは行動あるのみ。そんなモットーを、阪口さんはさまざまな分野で体現しています。ファッション、はたまた家まで!? 次のページで、くわしく話を聞いていきます。

SDGsに適う暮らしは誰もが「いいね!」と思う。それを行動に起こすこと

元木:阪口さんとお話していると、その“行動力”にも驚かされます。いい意味で少年のままというか(笑)、本当に「やる」か「やらない」かの判断がスピーディですよね。

 

阪口:ありがとうございます(笑)。地方自治体からも「うちの〇〇を使って欲しい」って声がかかるので視察ツアーに参加すると、ほとんどの参加者が「いいですね」で終わるんです。僕の場合は、そこで計算して採算が合えば「今、買うわ」って取引しちゃいます。

「みんなでみらいを」の中にある「椿と黒文字のスキンケアオイル」という商品も、石川県能登半島に椿があるけど何もしてないって言うから地元の人に摘んでもらって、椿オイルを抽出してもらうことにその場で決めたんです。でも能登半島にある椿だけじゃ商品化するまでにはちょっと足りなかったので、伊豆諸島の神津島の町長さんに「椿ある?」って聞いたら「ある」と。じゃあそっちも買うよ! と。半年で商品化することができました。

 

阪口さん(左)と、聞き手の元木さん(右)

 

元木:それはすごい(笑)。米ぬかの後は、椿オイルですね。日本の素晴らしいものを自然のまま商品化していくなんて、本当に素晴らしい。でも、一緒に働いている社員さんは驚かれないですか?

 

阪口:もう慣れてますね(笑)。それに、うちの社員はもちろん、一緒に取り組んでいる商社や百貨店、取引先もひとつのチームという感覚なんです。だって、百貨店だって僕の商品を扱うことで給料をもらえているわけですから。もちろん「みんなでみらいを」の商品だけを取り扱っているわけじゃないけど、一緒に盛り上げていこうよと思っています。

 

元木:チームで取り組むなんて最高ですね。これから阪口さんがやってみたいことはどんなことでしょうか?

 

阪口:衣・食・住に関わっていきたいです。ずっと化粧品をやりたいわけじゃないんです(笑)。化粧品のような生活消費財は、市場にも浸透しやすい、ニーズが高いということで始めていましたが、違う業界でもどんどんやっていきたいと思っています。「住」の話だと、今、自分で家を建てているんですよ!

阪口さんが新たに手がけているタイニーハウス

 

元木:え、家をですか!?

 

阪口:“タイニーハウス”って、DIYで作れるレベルの家です。国産木材を使って、土地さえあれば、材料費はたったの100万円で作れちゃいます。造りもしっかりしているし、自分でDIYするから愛着も出てきます。数年経って「あぁ〜ちょっとここが傷んでるなぁ」となれば自分で補修もできる。これをひとつのパッケージにして販売しようと考えています。

 

元木:なんと100万円! 最近では都内にいなくても仕事ができる時代に急に変化したので、この“タイニーハウス”は流行りそうですね! 友達とのシェア別荘にしても楽しそう。

 

阪口:いいですね。あと「衣」でいうと、パイナップルで作った靴を売り始めました。

ファッショナブルなバブーシュ。“ヴィーガンレザー”で作られていますが、その原料はなんと、パイナップルなのだとか! vegflow「babouche」1万5000円(税別)

 

元木:パイナップルには見えない!

 

阪口:でしょ? おしゃれなんですよ。サステナブルなファッションとして注目をいただき、おかげさまで発売以来たくさんの注文をいただいています。けれど、大量生産はしたくてもできないので、数量限定になってしまうんです。

 

元木:数量限定であれば、さらに価値がついて話題の商品になりそうですね。

 

阪口:そうですね。「食」についてもさまざまな企業さんと展開を進めていますが、サステナブルな企画って、誰が聞いても「いいね!」とか「やってみたい!」ってポジティブな共感を得られるんです。環境にも生物にも経済にもうれしい、まさに“三方良し”な世界に変えるためには、「すごいなー」「いいなー」で終わらせないことですね。僕でもやれているんだから、他の人もやればいいだけのことなんです。

 

【プロフィール】

フロムファーイースト 代表取締役 / 阪口 竜也

2003年、有限会社エクステンド(現フロムファーイースト株式会社)設立。2010年、エクステンション事業を売却し、作れば作るほど使えば使うほど体と環境が健康になる事業「みんなでみらいを」を運営。2009年 Entrepreneur of the year 2009のセミファイナリスト受賞。2014年よりカンボジアで「森の叡智プロジェクト」を開始。2015年パリ開催のCOP21で発表。2017年には、日本ではじめて開催された『第一回SDGsビジネスアワード』では、大賞を受賞した。
みんなでみらいを https://www.minnademiraio.net/