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2021/3/8 18:00

防災バッグに何を入れる?“防災散歩”って何? 防災アドバイザーが教える「防災バッグ」の作り方

2011年3月11日に発生した、東日本大震災。甚大な被害をもたらしたこの震災は、結果として日本人の防災意識をより高める契機となりました。ところが徐々に当時の記憶は薄れ、防災に対する意識も、3.11以前に戻ってしまった人もいるかもしれません。

 

今回は、備え・防災アドバイザーとして活動する高荷智也さんに、防災バッグの重要性や作り方などについて、あらためて教えていただきました。どうしても機能性重視で考えがちな防災バッグですが、実は何より重要なのは「防災に楽しく取り組むことで、長続きさせること」なのだそう。これを読めば、防災バッグに対する考え方が変わるかもしれません。

 

「非常用持ち出し袋」と「インフラ代替セット」の違いとは?

防災バッグを準備する際、どのような目的で荷物を詰めていますか? 実は、災害対策として準備すべき荷物には2種類あり、それぞれ用途が異なります。緊急避難の際、命を守る役目を果たすのが「非常用持ち出し袋」、いわゆる防災バッグと呼ばれるものです。そして災害が起こった後、生活を維持するために役立つのが「インフラ代替セット」になります。

 

・非常用持ち出し袋

津波、地震火災、土砂災害、洪水などから逃げる際に持ち出す荷物のこと。あくまで避難所にたどり着くまでに必要なものだけを入れるので、水や食料は1日分にとどめ、素早く動けるよう両手の空くリュックを使用しましょう。

 

・インフラ代替セット

避難所での生活や在宅避難の際に必要な水・食料・日用品を入れておきます。行政の支援が行き渡り始めるまでの3日分を目安に準備するため、大きめの手持ちバッグやキャリーバッグの使用がおすすめです。

 

「避難しなくてはならない時が来たら、“非常用持ち出し袋”だけを背負って逃げる、と覚えてください。ただ、台風が来る前の事前避難や道路が無事な状態での避難など、比較的余裕がある場合には、同時に“インフラ代替セット”を持っていってもかまいません。もちろん、避難所までの道中で津波が迫ってきたり、道路が冠水したり、『死ぬかもしれない』と感じた時には、即座にインフラ代替セットを手放してください」(高荷智也さん、以下同)

 

見た目へのこだわりも“防災”!
家の雰囲気に合う防災バッグを目指す

防災バッグを作る一番の目的は、家を素早く飛び出せること。だからこそ、玄関での保管がマストになります。しかし、防災バッグにありがちな銀色の袋が玄関の目につきやすい場所にあると、なんだか気が滅入ってしまうのではないでしょうか。

 

「気合を入れて実用性重視の防災バッグを準備しても、1週間くらい経つと棚の奥底に追いやってしまうことがほとんどです。それでは、いざという時に役目を果たさずまったく意味がありません。気に入らないデザインは避け、好みのデザインのリュックや保管用のかご、目隠しなどを活用して、できるだけ家の雰囲気に溶け込ませるようにしてください。見た目へのこだわりはわがままではなく、防災を長続きさせるための重要なポイントなのです」

 

玄関の目につきやすい場所で保管するため、他のインテリアとの調和がカギとなる防災バッグ。オシャレで自分が気に入ったデザインだということを前提に、どのようなバッグを選べばいいのか、機能面についても教えてもらいました。

 

「避難時の浸水や火事に耐えられるような、防水素材、難燃素材のものが防災バッグには適しています。チェストベルト・ヒップベルトが付いているものも、走った時に揺れにくいのでおすすめですね。また、雨に降られた場合を想定すると、リュックの上部はふたで覆われている方がいいと思います。

逆に、できれば避けてほしいのは、ナップザックのようなショルダーストラップが紐でできているものです。走っている最中に肩が痛くて捨てたくなるなんてことは、絶対にあってはなりません」

 

これらの条件を高確率で満たしているのが、アウトドアショップに売っているバックパックなのだそう。どこでどういったものを買うべきか迷ったら、アウトドアショップへ行き、気に入ったデザインのものを探してみましょう。

 

防災バッグを準備しよう

保管場所やバッグ選びのポイントを学んだところで、早速防災バッグを作ってみましょう。高荷さんによると、「体の一部」「避難をサポート」「素早い行動をする工夫」の3つが、防災バッグ作りのポイントなのだそう。それぞれの観点から、必要なアイテムを確認していきます。

 

1. 体の一部となる物(これがないと避難はおろか、日常生活すら困難になるもの)

「あなたが今、裸の状態で部屋に閉じ込められたとします。最低限の衣服と食事は提供されますが、それ以外のものは何も用意してもらえません。その時に『ないと困る!』と感じたものこそ、“体の一部”に該当するアイテムになります」

□ 眼鏡、コンタクトレンズ

□ 補聴器

□ 杖

□ 医療機器の予備バッテリー

□ 持病の薬、お薬手帳

□ ペット用品

□ アレルギー対応食品

□ 生理用品……「極力コンパクトに」という気持ちから、タンポンなどの普段使いしていない商品を入れる人もいるかもしれません。しかし、避難所に行ってから初めて使おうとすると、使いづらかったり自分には合わなかったりと、思わぬ落とし穴にはまることがあります。普段から愛用する商品を入れるか、試しに一度使ってみるようにしましょう。

□ ベビー用品……粉ミルクを作る場合、消毒や温めに必要な道具をすべて持っていく必要があります。また、避難所で粉ミルクを作ったり、消毒したりする余裕があるかも分からないため、できるだけ液体ミルクを準備するようにしましょう。

 

「消耗品については、最低3日分を目安に準備してください。というのも、水や食べ物などの全員が必要とするものは避難所にも備蓄がありますが、人によって必要性が異なるアイテムは、そう簡単に手に入りません。また、大きな災害が起こった場合、最初の3日間は人命救助が優先されます。避難してきた人に対する行政からの支援が本格化するのは、早くとも4日目以降のため、数日間は防災バッグに入っている分でまかなえるようにしましょう。

それから、避難所ではゴミ回収が機能していないと考えてください。消耗品を持っていく際には、ゴミ袋などの破棄する道具もセットで持っていくことが鉄則です」

 

2. 避難をサポートする物(主に身の安全を守るアイテムのこと)

□ 身に付ける物(レインウェア、ヘルメット、ヘッドライト、軍手、防寒着など)…リュック同様、両手を空けて避難できるアイテムを準備しましょう。ポンチョや傘ではなくレインウェア、懐中電灯ではなくヘッドライトがおすすめです。

□ 情報収集、安全確認のための物(ハザードマップ、充電器、携帯ラジオ、メモとペンなど)…充電器・ライト・ラジオなどは、全て同じサイズの乾電池にしておくことで、避難中に電池が切れても替えがききます。できるだけ、手に入りやすい単三電池で揃えるようにしましょう。

□ 簡易トイレ、応急手当用品、衛生用品(マスク、消毒液、ウェットティッシュなど)

□ 水と食料

 

「防災バッグは、その家庭の誰が背負っても走れる重さが基準となります。山登りが趣味などの大きな荷物に慣れている方であれば登山リュックいっぱいに詰め込んでも問題ないですが、体力のない方が同じ荷物を持つことは困難です。そのため、誰が持ち出すことになっても大丈夫なように、家庭内の一番体力のない方に合わせておいてください。もし、それではすべてのアイテムが入りきらないということであれば、防水・防寒用のレインウェアや暗闇を進むためのライト、応急手当用品などの『命にかかわるアイテム』を優先して入れてください。

また、防災リュックの中に、避難所で羽織るものや寝袋、ブランケットなどを入れる場合は、色選びに注意が必要です。残念ながら、避難所では女性や子どもを狙った犯罪が生じることもあります。ひと目で若い女性と分かるようなかわいらしいデザイン・色だと、犯罪に巻き込まれるリスクが高まってしまうのです。自分が気に入ったアイテムを選ぶことが大切ですが、一番上に羽織るもの・就寝時に使用するアイテムなどに関しては、男女兼用や地味目な色のものを選ぶことをおすすめします」

 

3. 素早い行動を取る工夫

□ 思い出のデジタル化……避難時に持っていきたい写真やビデオがあったとしても、アルバムごと持ち出すのは非常に大変。移動の妨げになる可能性も否定できません。だからこそ、定期的にUSBメモリ・SDカードなどでデータ化し、防災バッグに入れておくようにしましょう。

□ 避難直前に貴重品を入れることを見越した準備

 

「現金、通帳、パスポートなどの貴重品は、避難時に持っていくべきアイテムではあるものの、玄関の近くで保管すると空き巣に狙われてしまいます。そのため、普段は防災バッグに入れず、部屋の分かりにくい場所などで保管し、避難時にのみ持ち出すようにしましょう。とはいえ、災害が起きるとパニックになり、高確率で何を入れるべきなのかが分からなくなってしまいますよね。

そこでおすすめなのが、必要なもののリスト化です。リュックの中や玄関の分かりやすい位置にメモを残しておくことで、パニックの中でも必要なものを忘れずに持ち出すことができます。また、貴重品を入れることを見越してあらかじめポケットを1つ空けておくことで、よりスムーズに避難することができます」

 

でも、防災バッグを作っただけで満足してはいけません。完成した後の「防災散歩」と「定期点検」こそ、忘れてはならない作業です。次のページで、そのポイントを教えていただきましょう。

防災バッグは詰めて終わりじゃない
「防災散歩」と「定期点検」を忘れずに!

防災バッグを作っただけで満足してはだめ。完成した後の「防災散歩」と「定期点検」こそ、忘れてはならない作業です。

 

「防災散歩」とは、完成したリュックを背負い、避難所までのルートを歩いてみること。実際に歩くことで「意外と重かった……」「もう少しいけそう!」など、使い勝手を確かめることができるのです。また、避難時に危ないポイントがないかを確かめる機会にもなります。

「チェックするポイントは大きく分けて2つあります。まず1つが、ブロック塀や自販機、擁壁のない崖など、地震が起きた時に倒れたり崩れたりしそうなものがないかどうか。もう1つが、手すりの付いていない用水路や外れかけのマンホールなど、浸水して足元が不安定な時に落ちそうな場所がないかどうかです。これらに注意しながら歩いてみて、もし見つけたらハザードマップに印をつけておきましょう。

そうすることで、災害が起きた際、危険を避けながら避難所に向かうことができます。また、今回は晴天時の昼間、次回は夜間、その次は雨の日などと条件を変えることで、それぞれの状況に応じた注意ポイントを確認できます」

そして2つ目の「定期点検」について、高荷さんは「少なくとも1年に1回。できれば半年に1回は点検をしてほしい」と話します。

 

「半年おきの点検では、電池を使ったアイテムが正常に動くかどうかを確認していただければ十分です。そして1年に1回、賞味期限切れの食料はないかなどの全体的な点検を行うようにしてください」

 

しかし実際のところ、「定期点検」と聞くと急に腰が重くなり、ついつい点検を怠ってしまう人も多いのではないでしょうか。そこでおすすめしたいのが、普段から食べている間食を非常食として入れ、点検をルーティーン化するという方法です。

 

「普段から食べている栄養補助食品やチョコレート菓子などを、非常食としてリュックに入れておきます。市販の食料品は賞味期限が1年くらいなので、切れる直前に入れ替え、そのついでに防災バッグを確認するというわけです。また、防災専用の食べ物は賞味期限が長いものの、なんせお金がかかります。防災を長続きさせるという意味でも、安価で済むこのやり方はおすすめですね」

 

外出時は「ライト」と「ホイッスル」をおともに

子どもがいる家庭の場合、災害時の行動について親子でしっかりと話し合っておく必要があります。その際、高荷さんがぜひ心がけてほしいと話すのが、「枕元ポーチ」づくりです。

 

「“枕元ポーチ”とは、その名の通り枕元に置くポーチのことです。子どもが気に入ったぬいぐるみのリュックやポーチを準備し、中に小型ライトとホイッスルを入れておきます。そして、『避難する時にはこれを持ってね』『停電で部屋が真っ暗になった時には、このライトをつけてお母さんを待っていてね』などと話しておくんです。そうすることで、いざという時に取るべき行動を確認できます。

また、いざ避難所に行った際、毎日枕元に置いていたぬいぐるみやポーチがあるだけでも、子どもはすごく安心します。愛用品を持っていける上に防災にもなる一石二鳥のアイデアです」

 

実は「ライト」と「ホイッスル」は、大人が普段外出する際にもぜひ持ち歩いてほしいアイテム。暗闇の中で身動きをとりたい時や助けを呼ぶ時、それらが必ず役に立ちます。カバンの取り出しやすい位置につけたり、ポーチに入れたりして、お出かけのおともにしておきましょう。高荷さんにおすすめアイテムを教えてもらったので、『どれを買ったらいいのか分からない』という方は、ぜひ参考にしてみてください。

 

・人の耳に届きやすいホイッスル

コクヨ
「防災用救助笛〈ツインウェーブ〉」(黒・白・オレンジ)
500円+税

人間の耳に聞こえやすい高さの音が出るよう設計されているため、広範囲の人に音を届けられるホイッスル。キャップが付いており、常に清潔に保てるよう配慮されています。

・8時間点灯するキーライト

GENTOS(ジェントス)
「SK-8GWH 」
770円+税

質量わずか8gながら、8時間の点灯が可能なキーライト。GENRTOSはLEDライト専門メーカーで、国内メーカーならではの高品質・高性能が特徴のひとつ。ヘッドライトや懐中電灯など、高荷さんの防災バッグに入っているライトも、すべて同メーカーのものだとか。

 

何より大切なのは、長続きさせること

「皆さんにお伝えしたいのは、『物を買うのは死なない準備ができてから』ということです。防災バッグの準備はしていたが入れていた棚が倒れてしまった、防災バッグを持って外に出たはいいがどこに避難したらいいのか分からない、などでは、まったく意味がありません。家の中に固定されていない家具などの危険箇所はないか、避難場所はどこなのかなどをしっかりと確認した上で、防災バッグを準備するようにしましょう。

また、繰り返しにはなりますが、防災において何よりも大切なことは『長続きさせること』です。気合を入れ過ぎたり、お金をかけすぎたりすると、必ずいつか息切れしてしまいます。そして災害は、息切れした直後に起こり、命を奪っていきます。だからこそ、好きなデザインのリュックを準備したり、自分の好きなお菓子を非常食にしたり、長続きさせるために必要なことは積極的に行うようにしてください」

 

【プロフィール】

備え・防災アドバイザー / 高荷智也

「自分と家族が死なないための防災」と「企業の実践的BCP策定」をテーマに活動するアドバイザー。自身が運営する総合防災情報サイト「備える.jp」や各種メディア、セミナーなどを通じて、防災に関する賢い知識を伝えている。

備える.jp https://sonaeru.jp/
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