東京電力エナジーパートナー(TEPCO)が今年6月から導入した「再エネ企業応援プラン」をご存知でしょうか。本プランは一般家庭の卒FIT世帯(自宅で太陽光発電を導入して10年が経過した世帯)が自宅で発電して余った電力の環境価値を、自分で選んだ企業に届けることができるプラン。しかも、その企業からは謝礼品が届くという、いわば“電気版ふるさと納税”とも言える、卒FIT世帯にとっては注目のプランとなっています。
「自宅の余剰電力で生まれた環境価値を企業に届ける」とは?耳慣れない言葉ですが、これが実にユニーク。今後こうしたプランが増えていく先駆けともいえるプランです。特に、ご自宅で太陽光発電を導入している方は必聴の内容かと。本稿では、本プランの魅力を東京電力エナジーパートナー担当者への取材も交えながら解説していきましょう。
【背景】固定価格買取期間が終了するユーザーがまもなく激増
本プランを理解するには、まず固定価格買取制度の現状について知る必要があります。2012年7月にスタートした再生可能エネルギー固定価格買取制度、いわゆるFITの前身である太陽光余剰電力買取制度がスタートしたのは2009年11月。FIT同様に買取期間が10年と定められているため(10kW未満の一般家庭用発電)、2019年11月以降は買取期間満了を迎えたユーザー、いわゆる卒FITユーザーが続々と生まれています。
全国累積では2023年までに約165万件が卒FITユーザーとなることが見込まれていますが、関東エリア内においても既に累積約26万件、2025年までには累積で60万件に達すると見込まれています。
2009年11月に余剰電力の固定買取価格制度を利用し始めたユーザーは1kWhあたり48円の価格で買い取られていましたが、卒FIT後は電力会社毎に価格が異なり、1kWhあたり約7円~9円と、従来よりも大幅に下がります(東京電力エナジーパートナーの場合は8.5円/kWh)。そのため、ユーザーとしては発電し使いきれなかった電気を売らずに自家消費するという選択肢が生まれてくるのですが、昼間しか発電できない太陽光の電気を全て自家消費するためには蓄電池が必要になってきます。
災害時の停電に備えて蓄電池を導入するケースは増えていますが、まだまだ高価で気軽に購入できるレベルではないため、蓄電池の導入は一部のユーザーにとどまっています。そのため、卒FIT後もそのまま余剰電力の売電を続けるユーザーが多いのが実情です。
こうした卒FITユーザー向けに新電力会社各社も魅力的な買取価格を提示し、価格競争が激化していますが、卒FIT後も東京電力エナジーパートナーとの取り引きを継続するユーザーが多いのが実情です。その理由の1つは、10年来、取り引きを続けてきた安心感や信頼感にあります。しかし、東京電力エナジーパートナーとしては、そこに甘んじることなく、新たなプランをユーザーに提示して顧客満足度を高めたいと考えるのが自然の流れですよね。
そこで展開しているのが、「再エネ買取標準プラン」と「再エネおあずかりプラン」の2つのプラン。「再エネ買取標準プラン」は、従来どおり余った電気を東京電力エナジーパートナーに売るものです。一方、「再エネおあずかりプラン」は、余剰電力を一旦、東京電力エナジーパートナーに預けたものとみなし、その後、ユーザーが使用した電気(東京電力エナジーパートナーから買った電気)料金に充当するもの。
いわば、東京電力エナジーパートナーを蓄電池のように使うことで、蓄電池を購入する費用をかけずに余剰電力を有効活用できるプランです。こうした形でユーザーの選択肢を豊かにする施策を増やしていますが、これら既存のプランに加わる形で新たにスタートしたのが、今回紹介する「再エネ企業応援プラン」となります。
企業にクリーンエネルギーを届けることで環境への取り組みに貢献
再エネ企業応援プランは、太陽光発電というCO2を排出しないクリーンエネルギーの「環境価値」を企業に提供する仕組みです。環境価値を提供した一般家庭に対しては、企業側から感謝の気持ちが1年に1回届きます。例えば、既にこのプランに参画しているロッテの場合、ロッテグループの公式オンラインモールで使用できる1000円分のクーポンが届くなど、具体的なインセンティブが届くのが特徴。
地球温暖化防止のため、政府は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言しているため、そのためにはさまざまな経済活動においてCO2の削減努力が求められており、現在、日本国内でも多くの企業が脱炭素社会の実現に向けて積極的な環境活動に取り組んでいるところです。
今回、一般家庭で作り出す太陽光発電の「環境価値」を企業に提供することで、企業側としては自社の環境活動をより一層推し進めることができ、一般家庭ユーザーとしては謝礼が受け取れるという、双方にメリットのある仕組みとなっています。
「一般の家庭のお客さまと企業をつなぎ、お客さまが企業の環境活動を応援できることで、お客さま自身が環境に貢献しているという意識を持つことができます」と、東京電力エナジーパートナー販売本部再エネ推進部の安保陽平グループマネージャーは説明します。一般家庭の一戸一戸が生み出す環境価値は小さいですが、たくさん集まれば大きな価値となり、地球環境保全活動に大きな貢献ができることとなります。
自分のお気に入りの企業、ブランドの環境活動を応援することで、その企業・ブランドの価値が上がり、さらに地球環境にも貢献できる。また、こうした活動が認知され、広まることで、これをきっかけに一般家庭で新たに太陽光発電を導入するきっかけにもなるかもしれません。つまり、クリーンエネルギーの普及拡大への貢献も期待できます。
申し込みは簡単、今後参画企業の拡大も予定
卒FITユーザーが再エネ企業応援プランに加入するのはとっても簡単です。東京電力エナジーパートナーの専用ホームページに氏名・住所・電話番号・メールアドレス・受電地点特定番号(再生エネルギー固定価格買取満了の案内に記載)を入力するだけ。もちろん、応援したい企業も自分で選ぶことができます。
現在の参画企業はロッテと日本生命の2社ですが、今後続々と増えていく予定です。「多くの企業が参画に向けてご関心を持っていただいているところです。今後、ユーザーの地元に本社を置いていたり工場があったり、ユーザーが応援しているスポーツや娯楽施設に関連する企業などに参画してもらうことで、“環境価値の地産地消”にも貢献していきたいと思っています」(安保陽平グループマネージャー)。
10年前、世間に先駆けて太陽光発電を導入した一般ユーザーは、もともと環境に対する意識が高い人が多いことと思われます。もちろん、高い売電価格に魅力を感じた人も多いと思いますが、それだけを背景に当時とても高価だった太陽光設備の導入に踏み切れるはずもなく、高価な機器を購入してでも環境保護に少しでも貢献できればという意識が根底にあったはずです。
そうした人たちが卒FITを迎えたことで、自分で作ったクリーンエネルギーを純粋に地球環境に役立てることができたなら、と考えるのは当然の流れと言えるでしょう。実際、大きな告知をしていないにもかかわらず、既に100件を超える加入の申し込みがきています。
近年、日本だけでなく、世界各地で異常気象が相次いでいます。その一因とされているのが地球温暖化であり、それを食い止めることが世界的な課題となっています。政府まかせ、企業任せとするのではなく、われわれ一人ひとりが意識を高く持ち、小さいことから環境活動に取り組む必要があるでしょう。
既に太陽光発電というクリーンエネルギーを手に入れている卒FITユーザーも、もう一歩踏み込み、企業の環境活動を後押しすることで自身の環境貢献度を高めてはいかがでしょうか。