プラスチックの代替素材として、注目を浴びている紙。ストローや商品パッケージなど、さまざまなものが紙へと置き換わっているなか、「紙への安易な切り替えは、森林破壊につながるのではないか?」と疑問を抱く人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、紙とプラスチックの違いや紙が選ばれる理由、森林保護の取り組みである「森林認証制度」などについて、紙袋や紙箱、紙コップなどを製造する紙製品メーカーであり、環境問題へのアプローチに力を入れている大昭和紙工産業の西嶋裕之さんに、話を伺いました。
プラスチックの代用品として、紙が選ばれる2つの理由
海洋プラスチックごみ問題や気候変動問題といった課題に対応するべく、使い捨てプラスチック削減に向けた取り組みが、今、世界中で推進されています。日本も例外ではなく、2019年に政府は「プラスチック資源循環戦略」を策定。2030年までに、使い捨てプラスチックを25%排出抑制することを目標としています。
地球環境における諸問題以外に、日本がこれまで廃プラスチックを輸出していた諸外国が、輸入の規制強化に乗り出したことも背景にあります。なかでも、主な輸出国であった中国は、2017年末に生活由来の廃プラスチックの輸入禁止を宣言。行き場を失った廃プラスチックの処理についてもあらためて考えなければならない今、政府は「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」に加え、再生可能資源への適切な切り替えを意味する「Renewable(リニューアブル)」を基本原則として政策を推進しています。
そしてこの「Renewable」を促進するためにと、注目されているのが紙素材。食品、化粧品、アパレルなど、さまざまな業界で包装をプラスチックから紙へと切り替える動きが加速しています。では、なぜ紙が選ばれているのでしょうか? その理由を西嶋さんに伺いました。
1.紙は持続可能な資源である、木からできている
「理由の一つとして、やはりプラスチックと紙の原材料の違いが大きいと思います。プラスチックは、基本的に枯渇資源である石油から作られています。限りある資源である石油に比べて、紙の原材料である木は、植樹や適切な森林管理を行うことで再生可能な資源。さらに、木はCO2を吸収するため、焼却されたとしてもカーボンニュートラルなサイクルを生み出すことができる素材です。そうした理由から、よりサステナブルな素材として紙が選ばれているのだと思います」(大昭和紙工産業 紙で環境対策室 主任・西嶋裕之さん、以下同)
2.自然由来で、生分解性の性質がある
「もう一つは、生分解性があるということ。プラスチックは海に流れ出しても分解しきれず、マイクロプラスチックとなって恒久的に海に漂います。一方で紙は、自然由来の素材で作られているので、自然の条件下で分解されるという性質があります。ごみが意図せず土壌や海洋に流出してしまう可能性を考えると、『紙に置き換えられるものは紙に置き換える』という選択をする企業が増えています」
木を切る=森林破壊?森林資源をとりまく国内諸事情
紙を選択するメリットは理解できても、やはり「紙製品を作るために木を切りすぎると森林破壊につながるのでは?」と懸念を示す人も多いはず。もちろん、伐採をし続けていたら森林は失われてしまいます。そうした状況に対し、西嶋さんは「大切なのは、適切に森林を管理すること」と話します。
「たしかに、『木を切る=森林破壊』というイメージを抱いている人は多いと思います。過剰な伐採は控えるべきではありますが、同時に森林を管理し、有効活用していくことも大切なんです。
たとえば、日本国内の問題として挙げられるのが、森林の活用不足。日本は戦後、不足していた木材資源調達のために、国策として各地に木を植えてきました。木はおよそ40~50年で成長し、現在では当時植えた木材がいつでも収穫できる状況になっています。にもかかわらず、手付かずのまま放置されている森林が多く存在しているのです。
森林を放置すると、木が密集しすぎて本来成長すべき若木が育たなかったり、管理が行き届かず土砂崩れの原因につながったりと、さまざまな問題を引き起こしてしまいます。
さらに、木は成長しきると光合成の作用が緩やかになり、二酸化炭素の吸収率も下がると言われています。つまり、計画的に木材を収穫・植樹していくことは、健全な森林の保全のみならず、CO2削減による地球温暖化防止にもつながっているという視点もあるのです」
持続的な森林資源を守るための「森林認証制度」
それでも、世界に目を向けてみると森林破壊は深刻な問題となっています。
「森林破壊の原因は、違法伐採やプランテーション・農地への転換、森林火災などさまざまありますが、現在、『1秒間にテニスコート約15面分の面積の森林が消失している』と言われています。森林破壊が進むと、野生動物や森に住む人々のすみかを奪うだけでなく、気候変動の要因にもなりかねません。私たちが地球上で暮らしていくために、木材は欠かすことの出来ないもの。だからこそ『仕方ないこと』で済ませずに、森林を適切に管理し、次世代に残していくことが大切だと考えています」
そうした背景から誕生したのが「森林認証制度」です。森林認証制度とは一体、どのようなものなのでしょうか?
「森林認証制度とは、適正に管理されていると認証を受けた森林から取れる木材を、生産から流通、加工の全工程に認証ラベルを付けることで、持続可能な森林の活用を図る制度です。つまり、私たち消費者が認証製品を積極的に選択していくことで、森林保護に間接的に貢献できる仕組みとなっています」
世界には多数の森林認証制度が存在しており、なかでも国際的な認証制度として有名なのが、WWF(世界自然保護基金)を中心として発足した「FSC認証(森林管理協議会)」と欧州生まれの「PEFC認証(PEFC森林認証プログラム)」。今回は、大昭和紙工産業が全国に展開する営業所と工場で認証を受けている「FSC認証」を例に、詳しい仕組みを解説していただきます。
森林認証制度における、2つの認証「FM認証」と「CoC認証」
「森林認証制度の仕組みとしてまず知っておきたいのが、認証にも2種類あるということです。
一つは、森林の管理に関する「FM認証」。これは、厳しい基準をもとにチェックを行い、適切に管理されていると認定された森林自体に付与されるものです。もう一つが、加工・流通過程の管理を認証する「CoC認証」です。FM認証を受けた森林から産出された木材を、適切に管理・加工しているかをチェックするもので、製材所や製紙会社、印刷会社、卸売業者などが受ける認証です。
たとえば紙製品は、木を切ってから消費者の手に届くまでに多くの企業が関わるのですが、生産、加工、流通に関わるすべての組織が認証を受けなくては、製品やサービスにFSC認証マークを付けることができません。非常に厳しい条件ではあるのですが、そうすることで『この製品がどのような工程を経て作られた紙製品なのか』という、トレーサビリティを担保することができるのです。
さらにこの認証は、独立した第三者機関によって中立的に審査が行われているのも特徴です。補足ではありますが、2つの認証制度でチェックする仕組みはPEFCも同様です」
森林保護はもちろん、SDGsの達成にも貢献する10の審査基準
FSC認証を受けるためには、厳しい審査基準をクリアしなくてなりません。とくに「FM認証」では、世界共通の10の原則と70の基準に基づいて審査が行われています。その特徴についても教えていただきました。
「『FM認証』の原則は、環境に関する項目だけでなく、社会や経済といった多角的な視点から成り立っています。たとえば、森林の計画的な管理ができているか? といった内容はもちろんのこと、そこで働く労働者の権利がきちんと守られているか、先住民の権利を侵害していないかなどさまざまです。これらのすべての基準について問題がないと判断された場合にのみ、認証が与えられています。
FSCの10の原則を見てみると、貧困や男女平等など、SDGsが掲げる17の目標に関係するものばかりです。さらに、2017年のSDGs進捗報告では、目標15『陸の豊かさも守ろう』の進捗を測る指標として『自主的な森林認証を取得している森林の面積の増加』が挙げられました。つまり、FSC認証マークがついた製品を選ぶことは、環境問題に加え、人権といった面でもSDGsの達成に貢献できると考えています」
森林資源を利用する、私たちが意識すべきこと
日常生活で毎日のように使用する紙製品。森林資源を利用する私たちが意識すべきこととは、一体何でしょうか?
「紙袋やコンビニで買うお菓子の箱などを見ると、『環境ラベル』と呼ばれるマークが印刷されていると思います。『環境ラベル』とは、環境負荷低減につながる製品やサービスに付けられるマークです。
今回紹介した、FSCやPEFCなどの森林認証制度マークもその一種です。他にも古紙を使っていることを示す再生紙マークや、環境に配慮した植物油を印刷インクに使っていることを示す植物油インキマークなど、さまざまなマークがあるので、まずは見つけてみてください。さらに、そのマークはどういう目的で付けられて、この紙製品はどういう風に作られたのか、というところも意識していただけたらうれしいですね」
今回インタビューを行った大昭和紙工産業も、FSC(CoC認証)を取得しているだけでなく、オリジナルの環境マークを作成しています。西嶋さんは、「製造した紙製品にマークを付与することで、環境問題を考えるきっかけにしてほしい」と話します。
「今、プラスチックの代替品として紙製品の需要は確実に高まっています。ですが、ただ安易に紙製品に切り替えるのではなく、やはり一歩踏み込んで考えて欲しいという思いがあります。大昭和紙工産業オリジナルの環境マークをご利用いただくことで、企業のみなさんにも、一般消費者のみなさんにも環境課題を意識してほしいと考えています。
弊社は、持続可能な資源である紙の加工製品を取り扱う会社です。しかし、紙だからといってなにもかもOKというわけではありませんし、ものを作る上ではどうしてもCO2を排出したり、エネルギーを使ったりします。だからこそ、メーカーが果たすべき責任として、環境課題に貢献していきたいという思いで活動しています。
現在は、環境配慮型の製品開発や『カンキョーダイナリー(環境>)』というサイトを通じて、環境問題に関する情報発信をするなど、さまざまな取り組みを行っています。これからも『紙で環境対策』のスローガンのもと、みなさんと一緒にサステナブルで地球に優しい社会の実現を目指していきたいです」
木は、管理された森林を適切に利用することで、将来的にも利用できる持続可能な資源。大切な森林を守るためにも、森林認証を受けた森から作られた紙製品を選ぶなど、意識的な選択で環境課題に目を向けてみませんか。
プロフィール
大昭和紙工産業 マーケティング室・紙で環境対策室 主任 / 西嶋 裕之
美術大学卒業後、デザイン事務所勤務を経て入社。紙を通して環境に関する新しい取り組みにチャレンジする「紙で環境対策室」に所属。ソーシャルグッドな情報コンテンツを発信する「カンキョーダイナリー(環境>)」の運営や、環境配慮型の商品開発などに携わっている。