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2022/10/17 20:00

独創的すぎる仕掛けで「ポイ捨て」が激減!気鋭スタートアップが考える理想の喫煙所・喫煙環境

「吸い殻を撮影してアップすると総額100万円」「究極の質問に吸い殻で投票する投票型喫煙所」など、これまでにないポイ捨て抑止のキャンペーンで話題になっているのが2019年設立の株式会社コソドです。「喫煙のあり方をイノベーションする」をコンセプトに掲げ、非喫煙者と喫煙者の心地よい共存を目指した新しいカタチの喫煙所「THE TOBACCO(ザ・タバコ)」を展開しているコソド。

 

もし、あなたが喫煙者であっても、非喫煙者であっても喫煙環境の問題は重大。そこにはどのような解決すべき課題があるのか? 気鋭のスタートアップを率いるコソドの代表取締役・山下悟郎さんに話を伺いました。

 

↑コソドの代表取締役・山下悟郎さん

 

喫煙所の減少でかえってマナーが悪化

そもそも、2018年に成立した改正健康増進法以降、喫煙者を取り巻く環境は厳しくなっています。特に、飲食店・職場では2020年4月1日から原則屋内禁煙が義務づけられ、喫煙所も減りました。しかし、喫煙所の減少により、吸う場所がなくなった喫煙者が路上でたばこを吸ってポイ捨てするなど、マナーが悪化しているという声が聞かれます。

 

単に喫煙所を減らせばいい……とはならないことが、実証実験からもわかっています。千葉市が2018年から2年間行った「JR海浜幕張駅高架下に喫煙所を設置する」という実証実験では、喫煙所設置後に路上喫煙による過料処分件数が57.2%減、散乱ごみ数も34.0%減と違反行為の防止に一定の効果がありました。

 

遊び心ある啓発活動が話題に

では、「吸う人と吸わない人」の両者が納得できる状態とはどのようなものでしょうか。喫煙マナーに関する課題を解決するためにまずコソドが行ったのが、たばこのポイ捨てを減らす参加型のプロジェクト「ポイ捨て図鑑プロジェクト」(2021年12月~)です。

 

ポイ捨てされた吸い殻を「喫煙所に戻れず、迷子になった吸い殻モンスター」と位置づけ、写真を撮影して場所を投稿することで街のポイ捨て状況を可視化するというゲーミフィケーション的な取り組み。これにはどのような意図があったのでしょうか?

↑「ポイ捨て図鑑」の画面。ユーザーからの投稿により、吸い殻の多いエリアが可視化される

 

山下「我々としては改正健康増進法が2020年4月に全面施行されると、吸う人と場所の需給バランスが崩れると予測しました。そうなると吸う人も困るし、ポイ捨ても増えて環境も悪化する。それを踏まえ、社会課題を解決する文脈で喫煙所事業の展開を計画しました。

 

AIカメラを設置してデータを集めるなど実証実験をしたところ、然るべき場所に、然るべき機能を持たせて喫煙所を設置すれば周辺のゴミが減ることがわかりました。そこでゴミが多いエリアの可視化と、ポイ捨てに関しての啓発を兼ねて『ポイ捨て図鑑プロジェクト』を立ち上げたのです」

 

お堅い啓発運動ではなく、遊び心のあるプロジェクト。その反響は大きく、想像以上の手応えがあったそうです。

 

山下「今、吸い殻の投稿数は6000弱ほどです。当初の想定以上に吸わない方の投稿が多かった。たばこ関連なので吸う方が中心になると予測していたのですが、8割が吸わない方の投稿でした。みなさん、面白がって参加していただけたようで、これが社会貢献につながるのだったら非常にありがたいです」

 

「ポイ捨て図鑑プロジェクト」でもっとも投稿が多かったエリアは渋谷センター街。この結果を受けて、コソドは2022年5月から土日限定で渋谷センター街宇田川クランクストリートに投票型喫煙所を設置しました。

 

カラフルな投票型灰皿5台にそれぞれ「人生に大事なのはお金? 愛?」「聞き続けるなら過去の武勇伝? 生々しい愚痴?」など、究極の2択が掲げられています。吸い殻を自分の思う答えのほうに捨てて投票する。溜まった吸い殻の量は外から見えるので、吸わない人も思わず吸い殻を拾って投票したくなるような仕掛けです。

 

↑吸い殻を撮影したポスターには、それぞれユニークなニックネームが付けられている。渋谷センター街などに掲出して自社PRと啓発に活用している

 

山下「各種メディアで『ポイ捨て9割減』と取り上げていただき、SNSでもバズりました。これは『ナッジ』と呼ばれる行動経済学をもとにした仕組みで、イギリスではすでに行われています。ただ日本だと事情が違って難しかった。

 

今回は幸い設置場所が私道でオーナーさんに協力を頂いたのと、継続的なものではないということで実現しました。単純にポイ捨てを減らす以外にも、話題になることでポイ捨ての問題を考えてくれる方が増える意味でもうまくいったのではないかと思います」

 

たばこを取り巻く環境はどう変わるか?

実はコソドは最初から喫煙所事業ありきというわけではなかった、と山下さん。

 

山下「私自身はいくつかの法人の経営を経て、社会貢献事業をやりたいと考えていました。たばこは最近嫌われる社会風潮になっている一方でダイバーシティ(多様性)の意識は個人に浸透し始めている。『たばこは嫌いだけど、吸う人たちが許容されてもいい』という揺り戻しが必ず来るのではないかと。

 

また、たばこの文化的なバックグラウンドも面白いですよね。たとえば昔は神と交信するためのツールだったなんて、謎めいているじゃないですか。たばこはホモ・サピエンスがはるか昔から付き合ってきたものなので歴史があります」

 

喫煙所の運営と喫煙所設置コンサルティング、喫煙所に設置したデジタルサイネージでのネットワーク広告の3つを事業の軸にしているコソド。現在コソドが展開する喫煙所「THE TABACCO」は9か所。年内に計14~15か所になり、来年中には数10か所の設置を計画しているそうです。

 

↑THE TOBACCO IIDABASHI(飯田橋)の様子。白を基調にしたシンプルな建物を入ると、ラウンジのような高級感ある空間で喫煙を楽しめる

 

それでは、山下さんは現在の喫煙環境についてはどのように見ているのでしょうか?

 

山下単純に吸う人と場所の需給が見合っていないと思っています。マナーのいい人には喫煙所を提供しつつ、ポイ捨てなどマナーを破る人たちにも受け皿となる場所を作らないといけない。

 

また、インバウンドと喫煙所の関係という観点も必要です。中国では男性の喫煙率が50%近くあり、屋外で吸ってOKのところが多い。『日本では外でも屋内でも吸えなくて、ホテルでもダメ。どうしたらいいの?』と聞かれることがあります。そうした外国から来た方たちの喫煙所問題がこの2、3年で大きくなるのではないでしょうか」

 

確かにコロナ禍が落ち着き、外国人観光客も戻りつつあります。観光地や繁華街で喫煙に困る人の数が増えるのは間違いないでしょう。

 

最後に山下さんにとって、いい喫煙所とはどのようなものでしょうか? 理想の喫煙環境について伺いました。

 

山下「喫煙環境でいうと、まず煙たくないのが第一ですね。ただ、そこは機械による排煙機能や人数制限で可能でしょう。それから立地も大事ですね。吸いたいと思ったときに歩いて1キロのところにあってもしょうがない。喫煙所が然るべき場所にあるというのは重要です。

 

また、これはプラスαになりますが、僕は見た目やクリエイティブな意味での心地良さも大事だなと思っています。喫煙所に類似する公共施設を考えると公衆トイレが近くて、公園にある夜中のトイレだと緊張感が半端ないじゃないですか(笑)。

 

清潔かどうか、トイレットペーパーがちゃんとあるかも気になりますよね。喫煙所も同じで、見た目がキレイで、行きたくなるようなしつらえがあり、喫煙をする自分が歓迎される感覚はたばこを吸う体験価値にもつながると思っています」

 

それでは、吸わない人にとっての理想の喫煙環境はいかがでしょうか?

 

山下「狭苦しくて汚い喫煙所が近所にできたら嫌ですよね。ですので、その街と共存できる施設になっていることが重要です。煙が外にあふれて住環境を壊さないのはもちろん、外観も求められると思います。また街との共存でいうと、喫煙所は人流を生みます。

 

例えば、商店街にあると人をそこに集めて他の店に誘導できる。喫煙所に災害時に必要なものを備蓄しておけば防災にもなる。そうした企画を我々は立てています。受動喫煙をなくすのは吸わない人たちの当然の権利なので、それ以上の喫煙所のメリットがあればご理解いただける方も多いと思います」

 

“たばこを吸う人”と“たばこを吸わない人”を完全に分離するという考え方もありますが、同じ街で暮らして、同じ空気を吸い、同じ景色を見ている社会の一員でもあります。喫煙所はどうあるべきか。コソドの取り組みが、現状を変えるきっかけになっているのは間違いありません。

 

まとめ/卯月 鮎 撮影/鈴木謙介(人物・ポスター)