「足立 紳 後ろ向きで進む」第31回
結婚20年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!
『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHKの連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。
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10月1日(土)
息子の運動会。ソーラン節と積み木積み上げみたいな遊戯のみ。運動会好きとしては、あまりにもあまりにも物足りなさすぎる。せめてクラス対抗リレーくらいは見たい。遅かろうが早かろうがムキになってしまうのが運動会の面白さ。遅い子が傷つくという理由で今のような形にしていれば、同じような理由で音楽会や学芸会、絵の展覧会もなくなるだろう。傷つくというのはそんなにいけないことだろうか。もちろん尊厳を破壊するようなことはあってはならないが、傷つかないように生きて行くなんて不可能だ。だが、実生活でもフィクションの世界でも「目指せ誰も傷つかない世界!」に向かっている。そこに理想を掲げることまで悪いとは言わないが、凄く胡散臭く感じてもしまう。
カケッコで異常なまでに緊張する息子は去年、真下を見て走った。笑いながら泣きそうになった。そんな経験をさせたいとも思うのだ。
夜、『雑魚どもよ、大志を抱け!』の主題歌を作ってくださったバンド、インナージャーニーのライブに。映画の主題歌も今日が初披露であった。やっぱりいい歌だなあとしみじみ聞いた。他のどの歌もとても良かった。こういったライブに来るのはいったい何年振りか分からないので、とても楽しかった。ライブ後にはプロデューサーの佐藤氏、チーフ助監督の松倉氏、スチールの内堀氏と飲みに行った。
10月2日(日)
息子、朝の7時から友達とオンラインゲーム。9時半にレンタル先生が来るので、それまでメンタルを整えるために、朝からでもやらせることにしている。のだが……先生が来ても気持ちの切り替えができずにかなりのグズグズになる。運動会の疲れが出たのかもしれない(息子は保育園時代から運動会前後は疲れが溜まるのかメンタルが不安定になる)
レンタル先生とも授業にならなかったようで、急遽道徳の時間となったようだ(レンタル先生中にここまで不調になったのは初めて)。いつもより45分早くその授業も切り上げて、妻と私とレンタル先生で話す。自我が出てきてこれから反抗期にも入っていくであろう息子の相談。反抗期は娘でこりごりなのだが(いまだ薄っすらと継続中。時に大爆発もあり)、息子にも同じように来るのだろうか……。
はぁ~~~、それを考えると憂鬱だ。娘とはまた違う男子の反抗期とはどんなものなのだろうか……。私には反抗期というものがなかったので想像がつかない。
息子は昼になっても気持ちがグズグズしているようであったが、ゲームとテレビのリモコンは取り上げた。ゲームやYouTubeなしでこのグズグズから脱出する術を考えてほしかった。
息子はしばしグズグズしていたが、外に出て行った。15分ほどして「ただいま!」と明るい声で帰って来た。公園で学校の友達が数人ゲームをしていたようだ。「公園で友達とやるなら、ゲームしてもいい?」ということで、家で一人でやっているよりははるかにマシなのでゲームを渡したら、嬉しそうに飛び出して行った。友達とやれる!ということもとても嬉しかったのだろう。
が、30分後、息子はしょんぼりしながら帰宅。様子がおかしいが聞いてもあまり話したがらないし、要領を得ない。しつこく聞いていると、どうやら友達たちに撒かれたようだと分かった。私の胸にも痛みが走り、それ以上の追及はやめた。友達と久しぶりに遊べた息子は撒かれたことを認めたくはないようだった。そんな息子の姿を見て、私も激しく落ち込んだ。俺でよければ全力で息子の友達になってやろうと何度目かの決心をしたが、目の前の仕事にそちらを優先させてしまうこともある……。ああ、本当に今、身体が二つほしい。子ども不調休暇というものも、あって当然のものではないだろうか。もちろん妻不調休暇、夫不調休暇もだ。
10月3日(月)
息子、運動会の振替休日で休み。私は仕事をせねばならないが、月曜日の出だしはなかなかやる気がおきないうえに、息子が家にいるのでさらにエンジンがかからない。なのでそれを理由に仕事を切り上げて、近所の映画館に息子が楽しみにしていた『“それ”がいる森』(監督:中田秀夫)を観に行く。だが私は近ごろの寝不足がたたり、予告から撃沈。
「ねえ、父ちゃん、起きてよ!怖いよ!」と息子に起こされたときは、始まってけっこうな時間が経過していたような気がする。息子は期待通りだったと言っていた。
帰り道、「公園に寄ってみるか? 友達いるかもよ」と息子に言うと、息子は先日撒かれたことが頭にあるようで、返事が鈍い。なのに私はもしかしたら息子が友達と遊べるかもと思い、その公園の横を通る。
公園には昨日と同じようなメンバーがいて、息子は寂しそうな表情を見せただけで、公園には入っていけなかった。息子が多くの友達と楽しく遊んでほしいという自分の願いと安心のためだけに息子を傷つけてしまったと、これで何度目の自己嫌悪だろうか(こういう傷つきはいらない)。自分の安心を最優先させてしまうこの思考回路は一生直らないかもしれない。
10月4日(火)
朝7時からファミレスで仕事。昼、近所の銭湯のサウナ。最近、サウナに入るとなぜかモーレツに疲れる。昼休憩のつもりなのだが、昼休憩どころかそこで一日の仕事が終了になってしまうこともある。今日はそのあとに夕方までぐっすりと眠り、盗作がバレてネットで袋叩きとなる悪夢を見る。目覚めたときに、心からホッとした。
盗作というのか、映画を観たり本を読んだりして、「これ、やってみたい!」からスタートして考えて考えてなんとなく自分のオリジナリティが加わって来て、またさらに煮詰めて煮詰めて、「あれ? いつの間にか自分の作品になっている……」というのが、なんだかおこがましいが、だいたいの私の創作パターンだ。
夜、『拾われた男』チームの方々と久しぶりにお会いして、ご馳走していただいた。原作も大好きだったが、この仕事は本当に楽しかった。ディズニープラスでは全話配信中ですので良かったら是非見てください。
10月5日(水)
朝から妻とくだらないことでケンカ。私たち夫婦は高尚なことが原因でケンカをしたことがない。犬も食わないを地で行っているのだが、今朝のケンカも息子にウォシュレットを使わせるかどうかということだ。
私は使わせたい。嫌がる息子が使えるように苦労したのだ。なのに、ここ最近使っていないから(怖いからということでドアを開けっぱなしでトイレに入るから、使っているのか使っていないか分かるのだ。で、あれ? そういえばあいつ最近使ってないな……と気づいたのだ)、「なんで使わないの?」と聞くと「これを使ったら病気になるって母ちゃんが言った」とのこと。
「なんだそりゃ? ならないから使え」と言っても、一度その情報が刷り込まれた息子は「イヤだ、イヤだ、イヤだ!」と叫ぶのみ。「なんでそんなこと言うんだ」と妻に聞くと、「新聞に10万人の肛門をみた医者が『よほど汚れた時じゃない限りウォシュレットの頻発使用はよくない』と書いていた」とのこと。
ネットで検索すると、確かに使い過ぎはよくないという記事も出てくるが、使いすぎなければいいのだ。適度ならばいいだろう。だいたい妻は以前からウォシュレットに反対派なのだ。その理由はよく分からないが、きっと水道代がもったいないというものだろう。
※妻より
ちげーし。なんか水が飛び散ってそうで嫌なだけだし。
我が家でも一人だけ使っていなかった。おそらくは新聞の記事を見て、息子を洗脳したのだと思う。と考えると、使用派の私としてはなんとしてもその洗脳を解いてやりたくなる。だが、こだわりの強い特性のある息子の思い込みを解くのは大変だ。
「余計なことしやがって!」と思った私は妻に口論を挑むも、なぜか「お前は常にお前の価値観を押し付けているだけだ、相手のことなぞ考えてもない、ただの自己顕示欲なだけだ!」とウォシュレット一つでこうまで責め立てられることとなり、激しい怒りを覚えた私は応戦しまくって、結果この日、妻は帰って来なかった。
ケンカはロクなことがないのになぜするのだろうか。戦争がなくならない理由と同じなのだろうか。それは違うな。にしても……最近妻はケンカの時、というのか怒り狂うと英語が混じるようになった。
今日も私の言葉を「ファーック! ファーーック!! ファーーッキュー!!!」と叫びながら両手の中指を立てさえぎるのだが、その姿はもはやDJオズマならぬDJ汚妻だ。これは一体なんの、もしくは誰の影響なのだろうか?
※妻より
どんなに丁寧な日本語で言ってもあなたに通じないからです。
10月6日(木)
朝7時からファミレスで仕事。その後に疲れるのにまた近所の銭湯へ。サウナの中に設置されているテレビのチャンネルがずーっと日テレになったままだ。私が行く時間は「ヒルナンデス!」を放映しているが、正直あまり興味が持てない。
14時に行けば「情報ライブ ミヤネ屋」なのだが、こちらは朝の7時から仕事をしているから、どうしてもそれまでは待てないし、14時だとサウナから戻ってきたらもう息子の帰って来る時間だ。「ヒルナンデス!」はあまり見たくはないが、この時間に行くしかないだろう。「チャンネルの変更には応じかねます」という張り紙があるために、私はなにも言えない。入れ墨のおじさまたちが番台の人に「たまには違うチャンネルにしろ」とお願いしてくれないだろうかと思ったりするが、今のところそういうことはない。
夕方から、小学生の子どもたちとオンラインワークショップ。オンラインのワークショップというのは初めてで、しかもそれが子どもたちを相手にするものだったのでどうなるかと思ったが、今の子たちはオンラインにあまり抵抗がないのか、画面の向こうで完全に自由人となっており、そんな様子を見ているだけでもとても楽しかった。また機会があればやらせていただきたい。
夜、娘の塾の塾長と、これもオンラインで3者面談(妻もいたから4者面談か)。受験生なのだから1日2時間は勉強しようと約束させられていたが、果たしてその誓いを守ってくれるだろうか。
10月7日(金)
『嘘八百 なにわの夢の陣』の初号試写。シリーズ3作目で、安定の面白さ。今井雅子さんと共同脚本といっても、特に今回は自分の映画の準備や撮影とかさなり大部分を今井さんが書いてくださった。
それにしてもオリジナル企画のコメディ映画で3作もシリーズが続くなんて、今の邦画界では奇跡だ。私も『喜劇愛妻物語』の続編を作りたくてたまらないのだが、なかなかうまく事が進んでくれない。今度は妻の罵倒に英語も混じるので、これはマジで抱腹絶倒の傑作になるのだが……。
10月8日(土)
猫の口内が不調なので獣医に連れて行く。ウチの猫は、近ごろ奥歯にものがつまっているかのように顔をしかめて、必死になにかを取ろうとしているのだ。なにか詰まっているのかなと、抵抗する猫を押さえつけて口の中を覗くもよく分からない。
獣医さんに行くと、歯周病じゃないか? とのことでぶっとい注射を一発。「じゃないか?」ってなんだよと思いながらも、ひとまずウェットフードではやめろと言われ、ドライフードに変更。でも、ウチの猫は2匹ともドライフードは死ぬほど腹が減っているときしか食べないんだよな……。
その後、娘の私立高校の説明会へ行く。娘はその高校を気に入ったようだった。今の調子でいくと、チョーギリギリ合格圏と個人説明の場で言われ、娘は喜んでいた。チョーギリギリなのに。
気分が良くなった娘は帰りに古着屋に行きたいと言いだしたので寄る。息子と私の洋服も買い、クレープやジェラートトリプルを食べ歩きして楽しかった。帰宅してそれらを妻に報告すると「何しに行ったたんだよ、ファッキュー、ハウマッチ」と冷たく言われる。説明会に行く前に、沖縄料理屋で飯も食ったし、服も3人分大量に買ったからけっこう散財していた。
10月9日(日)
最近の寒暖差の激しさに、息子がばっちり風邪をひく。なにせ息子は小学4年になっても基本的に裸族なので、風呂上がりも特に下半身はすっぽんぽんでいることが多い。かつ、夜中に布団をすべて蹴る。お尻がぷりんと出てかわいいのだが、いつまで裸族でいる気だろうか。まぁ、妻も裸で歩いていることが多く、息子がニタニタと妻のそんな姿を見ると妻は「見てんじゃねえ」と言うが、私からすると「着ろよ」と言いたくなる。
10月10日(月・スポーツの日)
朝から息子が通っているキックボクシング教室の友達がウチに来てゲーム開始。13時からそのキックボクシングの道場で、大人の練習生のスパーリング大会があるというのでそこに行く約束をしていたのだが、息子は突如行きたくないと言い出す。
どんなに怒ってもなだめても岩のように動かない。仕方なく妻が息子の友達を連れてスパーリング大会を観に行く。私は怒りで息子を放置して家を出た。
きっといつも通っている曜日と違うから不安が発生したのだろうが、友達もいるのに動けなくなってしまったのがちょっとショックだった。最近また不安感が強そうで苦しそうだ。
10月11日(火)
息子、昨日のメンタルを引きずっているのか学校に行けず。今日はもう距離を置こうと私も妻も、テレビのリモコンとゲームを隠して家を出る。外は秋晴れのメチャクチャいい天気。息子は家でふとんにもぐって、何千回も読んだ『ドラえもん』を読んでいる。いまだ読んでいないマンガが家にはたくさんあるのだから、せめてそっちを読んでほしい。それなら欠席も少しは無駄ではない……などとついつい無駄かどうかで私は判断してしまいがちなのだが、息子のような子は休むことでエネルギーを充電しているのですと教育支援センターの方に言われた。せめて充電器を『ドラえもん』からほかの漫画にしてくれとやはり私は思ってしまうのだ……。
10月16日(日)
朝7時からファミレスで仕事。昼過ぎに娘と息子と飯を食いに行き、その後に『カラダ探し』(監督:羽住英一郎)を観に行った。これも息子が楽しみにしていたのだが、息子はいたく気に入ったようだった。娘は原作との違いをなんやかや言っていた。息子は「次はマ・ドンソクの『犯罪都市』!」と叫んでいた。
10月18日(火)
朝食時、妻と娘が大ゲンカ。理由は紺色のハイソックスが乾いてないとかそんなこと。娘がキレて箸を投げる。それにキレた妻が「もうお前のご飯は一生作らねえ!勝手にしろ!」と怒鳴る。すると妻の影響か娘が「ファック!」とわめく。息子、耳をふさぐ。私はそそくさと息子と家を出てそのまま大阪へとむかった。
10月21日(金)
朝7時からファミレスで仕事。
夕方、2階に住んでいる難民仮放免中のSさんと、Sさんを支えているNPO法人の方と、ボランティア協会の方と妻と私で話し合い。RHQ(難民事業本部)の支援も打ち切られ、教会からの寄付などでSさんは生きているが、どう節約しても普通に生きるのは難しい様子。どうしたらよいものか……と頭を抱えるも、「働いてはいけない」という規則がある限りどうにもならないしかもSさん自身、寄付や施しで生きるのがとても辛いと言う。
とりあえず、映画『ワタシタチハニンゲンダ!』の自主上映の時に寄付を募り、冬を越せるように支援するとのこと。
Sさんは毎日起きるのが辛いと言う。そりゃそうだ。朝起きて、今日も一日なにもすることがない。そんな日が続くとどうなるか。私ならおかしくなる。その結果、ロクな行動に出ないだろう。そう考えると、世のロクでもない行動をしてしまう人というのは、やはり困っている人が大半なのだろうなと思う。というか全員かもしれない。
10月22日(土)
仕事場をファミレスから純喫茶にかえる。ファミレスでネット環境につなげてしまい、まったく仕事が捗らなくなったからだ。見つけた喫茶店は“ワイハイ”もないから仕事をするしかない。もうこういう環境にいないと私は書けない。ちょっとでもセリフにつまったりすると、すぐにネットサーフィンしてしまうのだ。結果、数行のセリフのやり取りに2時間くらいかかったりする。
家に戻ると、表でSさんとばったり。寄付でいただいたのだが食べきれないという食べ物をたくさんいただいた。難民の方から食べ物をいただいている私。
10月24日(月)
朝8時から喫茶店で仕事。通い始めた喫茶店は営業が8時からだ。
15時、銀座に向かう。今日から始まる東京国際映画祭のレッドカーペットを、映画に出てくれた少年たちと歩くのだ。この日の為に毎朝YouTubeを聞きながらウォーキングし、体重を5キロ落とす予定だったが、3キロしか落ちなかった。
おめかしした少年たちはみんな初々しく、かわいく、カッコイイ。彼らが喜んでくれたのがなにより嬉しかった。その後、パンフレットの座談会を彼らと、撮影のときの思い出話など。私の印象を聞かれた子どもたちが「優しい」と言ってくれたとき、背後で妻が鼻で笑うのが聞こえた。この子たちには一生私の腹黒さは隠し通したい。
10月25日(火)
息子を塾の体験に連れて行く。毎週日曜日来ていただいているレンタル先生がやっている塾だ。
息子は激しく抵抗したのだが、ゲームと引き換えに行かせた。火曜日と木曜日をゲームなしデーにしているのだが、塾に行ければ火曜もゲームありとする条件だ。あくまで体験の今日は楽しく過ごしていたように見える。が、見学していると気が散るので、私は外で待った。今晩は冷えるので塾近くのスーパーマーケットに入ったのだが、ここも寒かった。なので何の意味もなく、一時間以上もブラブラと散歩をした。
塾、行きたくないだろうなあ……とは思うのだが、ワーキングメモリの容量が小さい息子は習ったことをポロポロと忘れて行く。それでもいいじゃん。という判断は今の私にはできない。
今後なにかのきっかけで、息子自身が「それでもいいじゃん。俺はこうして生きるから」という生き方さえ見つけてくれたら、今習っているような勉強はしなくてもいいのだが……なんてことをつらつらと考えながら時間をつぶして塾に迎えに行くと、勉強が終わってテンションのあがっていた息子が寒空の中、半そでで走り回っていた。
※妻より
きっと友達ができて嬉しかったのだと思います。勉強よりもなによりも子ども同士の付き合いを学んでほしいと思っています。
その後、息子と二人で飯を食いに。「パパ、こういうとこで(普通の定食屋)ご飯食べたらまたママに怒られるよ」などと生意気いいながらバクバクとご飯を食べていた。しかし、以前は外食もなかなか厳しかった息子が(見通しの立たないことは癇癪を起こすので外食は難しかった)、誘うと5回に3回は外で飯を食えるようになったのは大きな成長だ。あとは旅行に普通に行けるようになるといいなあ。
10月26日(水)
朝8時から喫茶店で仕事。夕方から東京国際映画祭『雑魚どもよ、大志を抱け!』の上映のために銀座へ。今日が一般のお客様への初披露。いつもこの時はとても緊張する。私は一番後ろで立って見ていたが、お客さんたちがグッとスクリーンに集中してくれているのを感じ取れた。上映後のQ&Aでもたくさんの質問をいただき嬉しかった。
その後は撮影地の飛騨からかけつてくれた方々と、また思い出話に花を咲かしながら飲む。心地よい疲労感とともに帰宅した。ちなみに、今日は息子の誕生日で、息子も娘も映画を観に来ていたのだが、珍しく二人とも面白かったと言ってくれた。
10月28日(金)
朝8時から喫茶店で仕事。昼から若手監督のシンポジウムに参加した。シンポジウムではたいしたことは話せなかったが、その後に、一緒に参加した監督さんたちにいろんなことを聞けて、私としては有意義なひと時を過ごせた。もはや皆さん海外で制作費用を回収するということに目が向いてらっしゃる。それはもちろんハードルの高いことであろうが、より多くの人に観てもらえると言う意味でもそうしたいと思う作り手が増えるのは当たり前だ。
夕方から『第三次世界大戦』(監督:ホーマン・セイエディ)という映画を観る。なんの予備知識もなく観たのだが、まさかの展開にびっくり。公開されたらまた観たい。
10月29日(土)
朝8時から喫茶店で仕事。昼、娘の文化発表会の合唱を聞きに中学に行く。
私たち保護者は視聴覚室にて、体育館で歌う生徒たちの歌をモニターで見るという形。正直、合唱を聞いたという感覚はなかった。学年曲が「大地讃頌」で、クラス曲がスピッツの「空も飛べるはず」の替え歌だった。替え歌ってのが意外だった。どんなふうに替えたのかちゃんと聞き取りたかったが、モニターがそんなに大きくなく、音響設備も良いと言えるものではなかったので、あまり聞き取れなかったのが残念。
10月30日(日)
海外の映画祭関係者の方々が来ているパーティーに参加する。そこで自分の映画を売り込んだりするのだが、英語がまったく話せない私はこういう場がとても苦手だ。苦手でも慣れろとよく言われるが、今回は妻と佐藤現プロデューサーに丸投げしていた(と言っても二人とも英語が話せるわけではないが、私よりははるかにマシ)。
それにしても、英語圏でない人間がどうして英語を学んで話さなければならないのだろう。人類共通の分かりやすい言語を誰か考えてくれないだろうか。全人類が一からそれを学べば、会話力にとてつもない差がつくとは思えないからボディランゲージなども増えるし、必死に意志を伝えようとするから楽しいとも思う。などと言ってもどうにもならない。とにかくスマホの能力がさらにアップして、通訳スピード100倍アップを願うだけだ。あと2年くらいでそうなってほしいのだが。
ちなみに妻はたいした英語力がなくてもこういう場がわりと平気で、映画祭で観た『カイマック』(監督:ミルチョ・マンチェフスキ)という北マケドニアの映画のプロデューサーとずっとしゃべっており、私のことをほったらかしにしていた。
【妻の1枚】
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【プロフィール】
足立 紳(あだち・しん)
1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。現在、最新作『雑魚どもよ、大志を抱け!!』は2023年に公開予定。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社・刊)。最新作『』