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2023/1/15 20:30

映画監督・足立紳、年に一度の豪華な食い散らかしを妻になじられ2022年最後のケンカに突入する12月

「足立 紳 後ろ向きで進む」第33回

 

結婚20年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHKの連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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12月1日(木)

朝、息子を学校まで送りそのままいつもの喫茶店にて仕事。まったく進まない。

 

シナリオを書いていると、自分の構成力のなさを呪う。次にどんなシーンがくれば効果的なのかというのが毎度毎度わからない。脚本は国語力よりも数学力が必要と聞いたことがあるが、私は国語も数学も苦手だ。というか得意な教科はない。

 

それにしても、シナリオを書いている人はなにが楽しくて書いているのだろうか。構成なのかセリフなのか? 人それぞれだろうが私は面白いシーンを思いついたときが一番幸せだ。今、書いているとあるシナリオに、夫と妻と小学校低学年の娘が「赤あげて、白あげて」ゲーム(そんな名前ではないだろうが)をやっている場面がある。

 

娘が「赤あげて、白あげて、赤さげないで、白さげない」などと言い、いつもは不機嫌な妻がムキになって旦那に勝とうとするがぜんぜんダメで、娘がバカ笑い、旦那がニタニタしていることから夫婦ゲンカになるのだ。書いているだけで私はすごく笑えるのだが、こうして日記に書くと面白くもなんともない場面に思える。

 

いずれにせよ私は、見ている人にはどうでもいいような場面とか、あるいは低俗な会話を書いているときが一番楽しい。が、近ごろはそういうシーンなり会話なりは不快なだけと思われがちな気がしてならない。ますます私の出番は減るような気がする。

 

夜、近所にお住いの俳優Uさんと飲んだ。飲みましょう、飲みましょうと会うたびに言いながら、そういう口約束を実現する能力がゼロの私にかわって誘っていただいたのだ。とても楽しい時間だった。

 

会えば「今度、飲みましょうよ」という口約束だけして、その今度は永遠にない生き方をしてきたが、考えてみればそれは「ない」よりは「ある」ほうがいいから、「今度って約束、いつにしましょうか」と私も少しは積極的に生きてみようと思った。

 

12月2日(金)

朝、息子の行き渋りがいつもよりややひどい。来週、社会科見学で浅草に行くのだが、その不安が今から発生しているのだ。今日は同級生の友達が迎えに来てくれたのでなんとか行った。

 

12月4日(日)

日曜は喫茶店が混んでいてうるさいので、家で仕事をすることが多いのだが、やはり家だと、今日もYouTubeを見ながらその合間にわずかに仕事をする感じだ。

 

野球の乱闘シーンや野生動物のケンカや古いプロレスの試合、AV女優さんたちのトークや世間の評価は高いが私としては理解できなかった映画(たくさんある)の解説をしてくれているチャンネルなど見ながら、その合間にわずかに仕事をすすめる。

 

夕方、家族で近所の回転寿司に行くために、保育園時代の友だちと公園に遊びに行った息子を迎えに行くと、息子が一人、公園で怒り狂っていた。なんでも他校の子に「クズ扱いされた!」とのことで興奮している。

 

「なんで?」と聞いてもよく分からない。興奮していと眉毛が八の字になってかわいい息子は「クズ扱いされたんだよ!」の一点張りだ。「今度クズ扱いされたらやり返しちまえ」などと言いながら、妻と娘の待つ回転寿司に行った。

 

今日は娘と息子が行きたいというから来たのだが、妻は相変わらず外食に来ると不機嫌になり(ちげーし。外食は好きだし。食い意地張ってるアンタを見るのが嫌なだけだし。by妻)、中トロを頼もうとすると息子には「マグロでいい」。私がなにか注文しようとすると「ほら、パパがきっと金のお皿頼むよ、よく見ときなさい」などと言ってこちらの食欲をそいでくる。その甲斐あってか娘も「パパ、また金のお皿?」などとつまらぬことを言ってくる。彼氏ができたときにどんなデートになるのか、私は今から心配している。

 

12月6日(火)

今日は息子の社会科見学の日だ。昨晩から脳調がすこぶる悪くなり、行きたくない行きたくないと連呼していたが、今朝はブツブツと文句を言いつつも行った。これはすごいことだ。絶対に無理だと思っていた。私も気分よく仕事場にしている喫茶店に行けた。

 

昼に妻と合流して、中華を食べた。ニラソバと餃子とイカとセロリの炒め物を食べながら、最近私がクヨクヨしているとある事柄に関して、妻にそのクヨクヨを漏らしたのだが、「どうしようもないじゃん。考えてもどうにもならないことをなんで考えるの。時間の無駄じゃん」と言われてしまう。クヨクヨするとは、どうにもならないことや終わってしまったことをいつまでも悩み続けることだが、その性分でない妻がうらやましい。時間の無駄なことは私だって重々わかっている。でも、どうにもならない。

 

※妻より

私だってクヨクヨしまくります。でも、それを他人に垂れ流して、ダークサイドに引きずり込んだりはしません。一人でクヨクヨクヨクヨして、どうにか抜けられるように生きるしかないのです。夫は巻き込み型なので質が悪いです。案の定、私もクヨクヨに引き込まれてしまい復活に時間がかかりました。

 

夕方、息子が社会科見学から帰って来る。浅草は楽しかったようだ。が、疲労と頭痛を訴え、格闘技教室と塾を休みたいとのこと。もしかしてこの引き換え条件を考えて、朝は必死に出て行ったのかもしれないと思った。

 

12月8日(木)

昨日の疲れが残っている息子が学校に行かないことで、娘が不機嫌になる。自分は学校でいろいろあっても頑張って行ってると娘は言う。なのに弟は行きたくなければ行かないでいいとなっているのがズルい、と。娘の気持ちもわかるのだが、ここで上手な言葉を娘にかけることができない。「弟は行けなくてかわいそうだろ」とか「行きたくなければお前も休めばいい」とかの言葉はなんだか違う気がする。

 

昔の親なら「だったら行かなくていい」の一言だったかもしれない。親の中での優先順位が子どもが一番ではなかったのだ。子どもは宝だと思うが、今の世の中、子どもに気をつかいすぎではないだろうかと思ったりする。やつらはもう少し荒っぽく扱ってもいいような気がするのだが。といっても私は荒っぽくも扱えず、かといって細やかにも扱えず、自分の機嫌に左右されながら子どもと接しているという有り様だ……。

 

12月10日(土)

娘と息子、テレビのチャンネル権争いで大ゲンカ。ちょっと前まで息子は姉に合わせていたが、近ごろは自我が出てきて、自分の見たいものを主張する。『チェンソーマン』は2人で仲良く見てくれていたのだが……。

 

12月11日(日)

娘は朝からV模擬へ。その後に、妻と合流してランチして買い物に行くというので、私は息子と『ブラックアダム』(監督:ジャウム・コレット=セラ)を見る。今の子にとって、というか、私の息子にとってはドウェイン・ジョンソンとか、ジェイソン・ステイサム、あるいはマ・ドンソクが、私にとってのスタローン、シュワルツェネッガー、ジャッキー・チェンなのかもしれない。

 

息子はドウェイン・ジョンソンの眉毛の動かし方(上下になるやつ)をマスターしたいようで一生懸命練習している。そしてドウェイン・ジョンソンが出ているだけでその映画は息子の中で傑作となる。私もスタローンの映画を親が否定するとムキになって怒っていたのだが、そんなことをと書いていると、ふと「映画少年」と「映画青年」の違いについて書かれていたとある文章を思い出した。

 

「映画少年」とは幼少期に映画が好きになって、そのまま止まっている人、「映画青年」とは青年期に映画の魅力に取りつかれた人で、そこから映画について深く考え抜いて生きていく人だそうで、だから「映画少年」はダメなのだと。実際にそう書かれてはいないが、私にはそう感じた。

 

私は思いっきり「映画少年」のほうだ。そして、今の世界の映画界をけん引するのは「映画青年」たちだと思う。が、そこに一矢報いたい気持ちは沸々とある。

 

12月15日(木)

妻と朝一で近所のPCR検査場に行って久しぶりの検査。17日から長崎に行く予定があるのだが、そのための陰性証明が必要なのだ。

 

こういう街場というのか、簡易的な場所で検査するのは初めてなのだが(まったくすっぱくなさそうなレモンと梅干しの絵がたくさん貼ってあった)、どこでそういったバイトの募集をしているのか知らないが、金髪のお兄ちゃんとか、大学生のような女の子とか、やたら若い子たちが仕切って楽しそうにやっていた。若いころに散々やっていた日雇いバイトを思い出した。

 

2階に住むSさんが家賃を持ってきた。仕事をすることもできず、寄付で生活する中からわずかばかりでも払いたいとのこと。Sさんの誇りを尊重していただくことにする。

 

12月16日(金)

午前中、仕事。午後から我が家にて打ち合わせで、14時半スタートくらいだったから、14時10分くらいから神業的に掃除をしようと思っていたら、その14時10分くらいにお客さんたちは到着してしまい、妻が私に「なぜ掃除していないのか!」とキレた。

 

※妻より

私は銀行と区役所の用事で外出していたのでギリギリの帰宅になると事前に夫に言ってあったのにもかかわらず、夫はごみ部屋で、ハナクソほじりながらテレビ見ていたのでした……信じられん……。

 

おまけに今日は息子が学校に行っていない。散らかった部屋にお客さんを招き入れ、息子にはとりあえずゲームを持たせて自分の部屋に行かせたのだが、なぜか息子はこういときに限って「ボクねー、今日学校行ってないんだけど、今から外に遊びにいっていいー?」などとヘラヘラとやって来る。打ち合わせに来ていた方たちのお子さんも、それぞれに不登校気味で、理解がおありで良かった。

 

12月17日(土)

8時15分発の飛行機で長崎へ。私の数少ない自慢の一つに、市川森一脚本賞受賞というのがあるのだが、その市川森一脚本賞を主催している市川森一財団が解散し、市川森一脚本賞もなくなることになった。最後のシンポジウム的なものを市川森一さんの故郷である長崎で催すこととなり、なぜか私が受賞者を代表して(おそらくもっとも声をかけやすかったのかと)行くことになったのだ。

 

到着した長崎は東京よりもだんぜん寒かった。中華街で妻と腹ごしらえをしたのち、近くだったのでグラバー園へ路面電車で行く。ウロウロするも私はとにかく歴史に疎いのでよくわからない。しかもめちゃくちゃ寒い。妻と写真を撮っていただく。しかし園の真っただ中のようなところに普通の民家もあったりして、こんなところに住んでいるとどんな気分なのだろうか。

 

帰りの坂をおりていると、お土産物屋などがたくさん並んでいて、なぜか長崎まで来て息子に『マッドマックス』のようなゴーグルを買い、娘には妻の選んだ手作りネックレスを買った。(息子は大変気に入り、習い事にしていくようになった)

 

 

夕方、軽く明日の打ち合わせをして(私は少し挨拶程度の言葉を述べるだけなのだが)、夜は妻と寿司を食いに行った。久しぶりに夫婦仲良くすごし、かなう確率3%未満の夢を私が大口で語り、妻が「絶対いけるよ、それ」(※そんな風には言っていないが、夢物語に思わずうつつを抜かしてしまうのは私のダメなところだ by妻)などとまるで『喜劇 愛妻物語』の寿司屋のようなバカなシーンを演じていることにはたと気づく。何年たっても変わらないというのか、成長がない。映画のようにろくでもない電話がかかってこなくてよかった(ご覧になっていない方はまったくわからない内容ですみません)。

 

12月18日(日)

朝起きると雪が降っていた。しかも大降りだ。まだ真っ暗な6時前にのこのこ起き出した私は雪の中、ウォーキングに行った。10分も歩いていると、靴の中までビショビショになってしまった。もう何年もはいていてボロボロの靴だから雨の日などすぐ中まで濡れてしまう。濡れた靴で挨拶したくないと妻にダダをこねて、宿の近くにあったABCマートで靴を買ってもらう約束をして、私は昼まで宿で仕事。妻はどこかにブラブラと雪の中を出かけて行った。

 

昼、ABCマート前で待ち合わせて靴を買っていただき、すぐ近くにある「吉宗」というお店で昼飯を食った。東京にもある茶碗蒸しが有名なお店だが茶碗蒸しがバカでかい。私は卓袱定食、茶わん蒸し好きの妻は茶碗蒸しと刺身定食。美味しくてバッテラも8個追加して妻と食べた。

 

注文したらお店の人に「え?」と聞き返されました(多分、量が多すぎて)。

 

その後にシンポジウムの会場に移動。私はシンポジウム前に市川森一脚本賞をいただいたころの話(そのころ、まったく仕事がなかった)などをさせていただいたのだが、その後のシンポジウムはとても面白かった。

 

以下は私のSNSからの転用。

 

市川森一財団は、市川森一さんが亡くなられたとき、大河ドラマ『黄金の日日』の演出部の方々の語らいから発足した。

 

解散式のシンポジウムを聞いていると、市川森一の脚本というのは演出家や俳優にものすごく愛されていたのだなあとしみじみ思った。

 

これをどうやって撮るんだ? どう演じるんだ? と挑発してくるような脚本を演出家や俳優、プロデューサー、評論家の方々が予定時間を大幅にオーバーしながら嬉々として語り合っている姿を見ると、ああそういう脚本を自分も書きたいなあと心から思った。

 

日曜劇場で放映された『バースディ・カード』という作品は、札幌のジャンプ台を舞台になにかドラマを作れないかと思った北海道の製作スタッフが市川森一さんをジャンプ台に連れて行き、飛距離は出るがいつも着地に成功しない選手の話をしたところ、それでいこう! となり、あがってきたシナリオを読んで度肝を抜かれた。刑務所から脱走してきた男がジャンプ台から飛ぶ話だったらしい。私なら安易にスポ根モノを書きそうだ。なぜこんな話があがってくるんだと演出された方がすごく嬉しそうに話されていた。

 

ちなみに、市川森一脚本賞をいただいた私は、長崎を舞台になにか書いてほしいと言われ、数年前に3泊4日で長崎をシナハンした。バカな私はその旅に家族を同行させ、当時4、5歳だった息子がシナハンを案内してくれた方の膝の上からおりなくなり、行く先々で裸になって走り回ってしまい、妻はブチ切れ、娘は不貞腐れ、私は思考停止に陥るという、史上最悪のシナハンになってしまった。連れて行っていただいた海水浴では、我々家族は水着を忘れてきてしまい、海の家で買おうとしたのだが、妻が持ち前の節約根性を発揮して、海の家の人に、「忘れ物の水着はありませんか?」と聞いたのは人生で五指に入る恥ずかしい瞬間だった。

 

そんな長崎だったのだが、不勉強な私は市川森一作品をほとんど見ていない。

 

真っ先に思い浮かぶ作品も、『異人たちとの夏』(監督:大林宣彦)だ。大好きな映画で何度も見たが、原作が山田太一だから、市川森一のオリジナリティが存分に発揮されているのかどうか私にはわからない。シンポジウム前に3本ほど市川森一作品の上映があったというのに、私は1本も見ずに仕事をしていた。一日くらい仕事を休んで(どうせ半分以上はボケっとしているのだから)どっぷりとつかるべきだったとシンポジウムを拝聴して大後悔した。

 

市川森一作品の上映会場に行けばよかったと本当に後悔でした。写真は5年前の長崎五島列島のシナハン。息子は下半身マッパ by妻

 

12月19日(月)

朝一で東京に戻り、そのままいつもの喫茶店で仕事。

 

12月20日(火)

朝から仕事、午後Zoom会議。歯が痛い。

 

12月22日(木)

大阪にて仕事。帰りに武正晴監督から、「iPadで書いていたシナリオがすべて消えてしまいました。絶望的な気持ちになったので連絡しました。それだけです」とメールが来て、申し訳ないが笑ってしまった。

 

武監督も私と同じ機械音痴だ。iPadの文面をコンビニのコピー機でコピーして、真っ黒にしかならないと言っていたことがあった。どういう事情で消えてしまったのかわからないが、その様子を想像すると笑うしかない。

 

かくいう私も、妻に打ち込んでもらったシナリオをパソコン上で直しているときに、理由はわからないがすべて消えてしまったことがある。慌てて妻がパソコン屋に持って行ったが、もうどうやっても消えた文書は帰ってこないと言われた。

 

私は悔しさのあまり、パソコンを叩きつけそうになったが、それは踏みとどまってパソコンを罵倒した。「お前、バカだね。賢い振りしてさっきのシナリオもう出せないんだ。なくしちゃったんだ。ほんとバカだね。バーカ! バーカ!」と思いっきり言ってやった。別にすっきりはしなかったが、こちらのちょっとミスで二度と文書を戻せないなんてポンコツもいいとこだろう。人間は、思い出しながらそれを書くことができるのだ。その時も思い出しながら書いたが、あまりの絶望で書いていたものの十分の一くらいのクオリティになってしまった。

 

12月23日(金)

『雑魚どもよ、大志を抱け!』の予告編が今日からご覧になれます。

 

公開は来年の3月24日です。出演者は無名の子どもたち、作り手も無名の大人たちでとにかく後ろ盾がない。厳しい勝負になりますがどうか一人でも多くの人に観ていただきたいです。まずは映画の存在を知っていただけたらと!

 

12月24日(土)

妻が実家からかっぱらってきたオーブンでチキンの丸焼きを作った。娘と息子と食い散らかした。とても美味しかった。

 

寝る間際になって、サンタへの手紙を書き直すと息子が言い出して聞かなくなる。丁寧に書かないと伝わらないぞと私が言ったからだ。余計なことを言うなと妻から言われる。

 

息子のサンタへの手紙は自分の名字以外は漢字がない。アルジャーノン状態でとても読みにくい。

 

「さんたさんへ。ぼくのクリスマスプレゼントはだいらんとうすまっしゅぶらざーすのかせっとです。まえにもっていたけどなくしてしまいました。りゆうはかぞくみんなでやりたいからです。とくにともだちです。ぼくのすきなことはゲームとほんです。とくにからださがしです。きらいなことはおこられることです。あしたをたのしみにしています。4ねん2くみ 足立〇た。あしたからしゅくだいやります。かんじでかいてなくてすみません」

 

※妻より

ようやく宿題やる気になったのか…それにしても字が汚くて読めない……。

 

12月25日(日)

朝、枕元にあるクリスマスプレゼントを息子はなかなか発見できず、やはり来なかったとパニックを起こしかけたので、そこにあるだろうと教えたら、私と妻がサンタになりかわって書いた手紙には目もくれず、置いてあったスマブラをはじめた。

 

昼から妻と娘が特殊造形の飯田さんの工房でケーキとクッキーを焼いてきて、私と息子で食い散らかした。手作りピザもとても美味しかった。

 

 

12月26日(月)

喫茶店で仕事をしていると冬休み中の娘が昼飯を食いに来る。私が仕事をしている喫茶店の隣の隣が娘の通う塾で、高校受験を控えた娘は今、冬期講習中なのだ。なのでたびたび昼飯を食いに来るのだが、中3の娘にとっては純喫茶というのがちょっと珍しくて楽しいようだ。

 

サンドイッチのメニューも豊富なので、いつも違うものを注文しては「いいなあ、パパはこんなとこで美味しい物を食べながら仕事して。私はクソ勉強だよ」などと言っている。

 

私はここぞとばかりに父親ぶって「こういうところで仕事したければ、パパみたいになれ」などと意味もなくエバりくさって言うと、娘は「高校生になったらこういうとこでバイトしようかな」と成り立っていない受け答え。

 

そして食ったあとは突っ伏して昼寝して、「あーあ、イヤだなあ」と言いながらまた塾に戻って行く。偉いなあと私はそんな娘の姿を見て思う。

 

私が中3の冬休みはなにをしていただろうか。行きたかった私立高校があったのだが(新設だったので一期生になれるということだけが志望理由だった)まったく勉強はしていなかった。結果その私立は落ち、公立高校も志望校には手が届かずだった。

 

12月29日(木)

我が家で忘年会。『雑魚どもよ、大志を抱け!』に出演した俳優さんたちが集まってくださった。そして私の大先輩の方が、素敵な恋人を連れてきてくださった。昼から楽しく飲んでいたが、私は夕方に一度中座して、今年最後の打ち合わせに行く。打ち合わせは軽めで終わり、その近くでやっていた知り合いの忘年会に30分ほど顔を出す。その後、『拾われた男』チームの忘年会にも顔を出す。なかなかできていなかった忘年会が今年はぐっと増えた。

 

長居はせずに自宅に戻らなければと思っていたのだが、その忘年会が楽しく、しかも打ち上げ的な様相も呈して、結局終電過ぎまで残ってしまい、帰宅したときには当たり前だが誰もいなかった。

 

12月30日(金)

今日は今井雅子さん宅にて忘年会。私が『嘘八百』でご一緒してできた縁だが、今では妻がすっかり今井さんと仲良しになってしまっていて、時おり度を越した私への文句などをぶちまけているし、私の娘も今井さんの娘さんの1学年下で名前も一文字違いで仲良しだから、ほぼ毎年末家族で伺って私は食い散らかし、妻は飲み散らかしている。

 

ちなみに今年は、映画狂の地上げ屋であるTさんが差し入れてくれた最高級牛肉のステーキが死ぬほどうまくて、お腹がびっくりしてしまい、帰りの電車で地獄を見そうになったが、途中下車した駅でズボンを脱ぎながらほとんどフルチン状態でトイレに駆け込みギリギリセーフだった。

 

12月31日(土)

朝、少しだけ掃除。その後、最後の仕事。それから、近所の簡易施設で家族4人でPCR検査。

 

明日の元旦に西武遊園地に行き「ゴジラ・ザ・ライド」に乗る予定なのだが、陰性証明書を出せば一人1000円引きになるという情報を妻がゲットしてきて検査に行ったのだ。検査場で息子が興奮して走り回った。

 

検査後、家族で銭湯に行く。私がいつも行っているサウナ付きのところだが、そこは反社会的勢力らしきお客さんも多く、以前息子を連れて行ったときに、「ねえ、背中に絵描いてるねえ」と話しかけるものだから、連れて行くのを避けていたのだ。

 

だが、今日はそこにした。近ごろ息子は、理由はわからないが入れ墨にモーレツに興味を持っており自分も入れたいなどと言っているから、入れ墨だらけの人がいたら興味津々だろうなあと思ったら、入れ墨だらけの人が2人ほどいて、息子はさすがにもう話しかけるようなことはなかったがガン見。そして私のところに来て普通にその人たちに聞こえる声で「ねえ、今日は手下の人もいるよ。ねえ、ほら。オチンチン以外、全部入れ墨だねー」とうるさい。やはりここの銭湯には息子と来るべきではない。

 

銭湯を出たあとにオオゼキで買い物。大晦日だから豪勢なものがたくさん売っている。私はついつい年の瀬にハメを外したくなるタイプだから、普段は買わないようなものをガンガン買った。妻は見る見る不機嫌になったが、年末くらいはいいだろうとそんな妻を見て見ぬ振りして、娘や息子にも好きなものを選ばせた。

 

それらを食い散らかしながらダラダラとお笑い番組など見ていたが、妻の機嫌は戻らず、(年に一度の)飽食極まりない私たちに嫌味を言うものだから、ついつい口論に。妻は食べおわるとさっさと2階へあがってしまった。このケンカは明日に持ち越すことはもう間違いない。西武遊園地が今から憂鬱だ。

 

※妻より

だって一人でウニやら牛やら大量の寿司やら食い散らかしてるんですもの。もうブクブク太って、病気にでもなんでもなってしまえばいいと思います。

 

息子は妻にくっついて行ってしまったため、娘とお笑いを見ていたが、娘も11時には「寝る」と言って自室に戻り、私は録画していた『未解決事件 松本清張と帝銀事件』を一人で見ながら年を越すという訳のわからない年越しになってしまった。

 

やっぱり大晦日には「笑ってはいけない」を見ながら、だらだらと年を越したい。

 

今年1年もご愛読ありがとうございました。これがアップされるのはきっと正月気分もまったくなくなったころでしょうが、良いお年をお迎えください。

 

 

【妻の1枚】

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。現在、最新作『雑魚どもよ、大志を抱け!』は2023年に公開予定。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社・刊)。