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2023/5/25 10:30

たばこの分煙を巡る自治体の対応。うまくいっている自治体とそうでない自治体の違いはどこ?

東京オリンピック・パラリンピック開催を機に、一気に進んだ禁煙の流れ。2020年4月1日には改正健康増進法が施行され、飲食店が原則屋内禁煙となったのは象徴的な動きです。さらにコロナ禍において、屋外でも多くの喫煙所が撤去されるなど、たばこを吸える場所は大きく数を減らしました。

 

一方で、喫煙所の数が減ったことにより、“本来減るはずだった”受動喫煙がむしろ増えているというケースもあります。というのも、数少ない喫煙所に多くの喫煙者が集中してしまい、その周囲での受動喫煙が余計に起こりやすくなっているのです。また、歩きたばこや、吸い殻のポイ捨てといった問題も解決されてはいません。

 

この記事では、この問題の解決事例を紹介します。その最たるものは、2021年までの10年間で路上喫煙を大きく減少させた、京都府京都市の事例です。

 

10年間で路上喫煙による過料徴収件数が94.7%減

京都市では、改正健康増進法が施行される10年以上前に、京都市路上喫煙等の禁止等に関する条例を制定していました。この条例では、人通りが多く、やけどなどの危険が大きい地域を指定し、そこで路上喫煙をすると1000円の過料を徴収することを規定しています。指定区域には、路上喫煙NGを啓発する立て看板やポスター、路面表示などを展開。日本語はもちろん、英語、中国語、韓国語などの外国語も併記した啓発を行なってきました。

↑京都市中心部の、路上喫煙による過料徴収区域(京都市ホームページより)。これ以外にも、京都駅周辺や清水・祇園地域にエリアが指定されています

 

一方で、過料徴収区域の設定と同時にスタートした取り組みが、公共喫煙所の整備です。現在では、指定区域を中心に19箇所の喫煙所が設置されています。

 

なかでも鴨川のほとり、四条西木屋町に位置する喫煙所は、JTと共同で整備を行いました。JTによれば、この喫煙所の整備前後で、周辺でのたばこのポイ捨てが7割程度減ったという調査結果も出ているとのこと。喫煙所の整備が、喫煙マナーの向上に寄与した事例になっています。

 

京都市では、喫煙所の整備と並行し、市民や事業者と共同しての「たばこマナー向上団体」制度もスタートさせました。これは喫煙マナー向上のための活動をする団体を指定し、官民が協力した啓発活動を行うというもの。この制度には現在12の団体が指定されており、パンフレットの配布や喫煙所の案内などの活動を行なっています。

 

これらの取り組みの結果、2012年のピーク時に年間6794件もあった過料徴収の件数は激減。コロナ禍前の2019年には年間825件にまで減少しました。改正健康増進法施行後もその数は減り続けており、2021年度は363件に。ピークと比較すると、その減少率はなんと94.7%にも及びます。もちろん、コロナ禍による外出人口の減少も影響していると思われますが、2012年以降続いている毎年の純減を、いまも継続中であることは、特筆に値するでしょう。

 

京都市と同様に路上喫煙に対する過料徴収を規定している東京都千代田区でも、非喫煙者・喫煙者の双方に配慮した喫煙所の整備が進められています。結果として、ピーク時の2006年には1万799件を数えた過料徴収件数は、2021年に2730件まで減少しました。千代田区では、助成金を設置し官民一体となった取り組みを行なっているほか、「SMOKING AREA MAP」を作成し周知に努めているなど、場所の確保にとどまらない取り組みも行なっています。

 

路上喫煙に罰則を課す条例の制定と同時に、喫煙者への一定の配慮を行った京都市や千代田区。“新しい分煙の形”の実践により、喫煙者と非喫煙者が心地よく共存できる街がすでに生まれているのです。

 

ほかの自治体でも起こる、喫煙所整備の機運と問題

喫煙所を整備することで、喫煙に関する問題を解決する取り組みの機運は、ほかの自治体でも起きています。ここでは熊本県熊本市の事例を、実際に現地に行って取材しました。

 

まず、熊本市における喫煙環境について触れていきます。熊本市では、2007年に熊本市路上喫煙及びポイ捨ての禁止等に関する条例を施行。中心市街地のアーケード内での路上喫煙を禁止したことから、区域内に入る7か所に灰皿を設置しました。

 

その後、2022年3月までに7か所すべての灰皿が撤去(※1)。これによって、中心市街地では喫煙場所を求める喫煙者が発生。店舗などが独自に設置した私設の灰皿や、灰皿のない場所で喫煙するケースが増えています。特に、銀座通りに面したたばこ店の前に設置された灰皿に喫煙者が集まる光景が多くみられるようになりました。

※1:令和4年第2回予算決算委員会-06月27日-01号より

 

熊本市生活安全課が行ったアンケート(※2)によると、灰皿撤去後の印象について「環境が改善した」と回答した人は39.3%と一定の割合を確保したものの、「環境が悪くなった」と回答した人も26.7%にのぼりました。「環境が悪くなった」と回答した人に具体的に悪くなった点を聞いたところ、「道端でタバコを吸う人が増えた」が46.6%、「吸い殻のポイ捨てなどごみが増えた」が42.4%と、データ面でも喫煙マナーの悪化が指摘されるようになりました。

※2:熊本市生活安全課 公設灰皿撤去後の印象についてのアンケート(結果概要)

 

これに対して2022年6月に、公設喫煙所整備を訴える請願が市内の商店街組合などの19団体により提起され、市議会に提出されました。喫煙者と非喫煙者の共存のために市と民間が連携しての喫煙所整備を求めるこの請願は、9割の賛成により議会で採択されました。

 

2023年4月時点で熊本市がアナウンスしている喫煙場所は5箇所。1つは助成を受けて商業施設であるHAB@(ハブアット/旧熊本パルコ)内に設置された分煙施設。これは喫煙所の撤去に伴い、民間の運営による公設喫煙所の設置に対する助成金して確保された予算で作られた施設です(予算全体としては4000万円)。残りはパチンコ店の協力を得て相乗りしたものになっており、屋外の公設喫煙所はゼロという状況になっています。

 

民間任せにしない協力体制が必要

この状況に対して請願を出した19団体はどのように捉えているのでしょうか?団体を代表して九州中部たばこ販売協同組合連合会会長 益田龍朗氏に話を伺いました。要点をまとめてみます。

・九州中部たばこ販売協同組合では美化活動の一環として、街の清掃活動を行っているが、灰皿が撤去されて以降(2022年3月)はポイ捨てが多くみられるようになっている。喫煙をされる方は数少ない喫煙場所に集中してしまうことになり、受動喫煙防止のために灰皿を撤去したはずなのに、受動喫煙のリスクを高めてしまっている可能性がある

・分煙施設設置費用助成事業は熊本市の側でも進めているが、分煙施設は設置に多額の費用がかかるうえ、維持していく毎月の経費もかかる。予算は助成してもらっているが、主体は民間というのが実態。設置の条件も厳しい面もあり採択されるケースが少ない

・自治体とは定期的に話し合いの場を設け、熊本市長ともお会いして、この事態を進展させたいと考えているが、具体的なスケジュールが引かれているわけではない

 

↑取材に対応いただいた九州中部たばこ販売協同組合連合会会長 益田龍朗氏

 

熊本市では2023年度も熊本市中心市街地分煙施設設置費助成を継続。2023年4月3日〜12月28日までの期間で事業者を募っています。助成金額は最大1000万円まで(パーテーション型の施設は600万円まで)で、工事費、設計費備品・機械装置費が対象。一方で、5年間の継続運営を条件とするなどランニングコスト面には踏み込んでいない内容になっており、どれぐらいの事業者が応募し、採択されるかは不透明となっています。

 

こういった喫煙所整備に関わる問題は、ほかにも大阪府大阪市、広島県広島市などで提起されています。改正健康増進法施行から3年近くが経ったいま、これらの問題は全国的に、かつ潜在的に起きていると考えてよいでしょう。喫煙者と非喫煙者がともに受け入れられる適度な形での分煙を、官民が手を取り合って整えていくことが、いま求められています。