ライフスタイルが変化している昨今、大型のテレビやソファは、マストアイテムではなくなりつつあります。部屋が広く使えることはもちろん、レイアウトもより自由に考えられるようになります。
一方で、部屋の定位置におさまり部屋の印象を左右してきた主役級アイテムを置かないことで、インテリアのバランスに悩むことになるかもしれません。「テレビとソファを置かない部屋」の、レイアウトの例や居心地の良い部屋にするコツは? インテリアコーディネーターの室岡卓さんに教えていただきました。
大型のテレビやソファを置かない家庭が増えている!?
まずはインテリアや部屋づくりに関するトレンドを確認してみましょう。普段、一般ユーザーやハウスメーカーなどの企業を相手にインテリアの提案を行っている室岡さんに、仕事をする中で感じていることをお聞きしました。
「最近の傾向として感じるのは、大型家具を置かない家庭が増えているということです。私は5年ほど前までインテリアショップに勤めていたのですが、その頃は、『部屋に大きなソファを置くことに憧れる』という意識が、今より強かったと感じます。ところが今は、新築で家を建てる方でも、最初からソファのように使えるベンチを設置したり、ソファを置かないコーディネートを考えたりするお客様が増えている印象です。その背景には『なるべくお金をかけずにコンパクトに暮らしたい』という考えがあるのではと感じています。
大型テレビについても同様で、そもそもテレビを置かない人や、大型ではなく小型のテレビを選ぶ人が出てきています。最近は動画配信サービスによって、いつでもどこでも動画が楽しめるようになり、そのライフスタイルが住環境にも影響していると言えます。とはいえ、もちろん人それぞれで、とくにお子さんがいる家庭などでは、まだまだテレビを置かれているところも多いと思います。
あくまで私の予想ですが、今後も大型家具を置かない家庭は増えていくと考えています。とくに若者たちのなかには、スマホやPCさえあればいいと考える方も多くいるはず。最小限の家具を持って住む場所を変えていくような生き方や、物を持ちすぎずにフットワーク軽くいることに価値があるという考え方も、今後さらに広まっていくのではと感じています」(インテリアコーディネーター・室岡卓さん、以下同)
今後、さらにスタンダードになっていきそうな、大型のテレビやソファを置かない部屋。そもそもこれらを部屋に置かないことに、どのようなメリットがあるのでしょうか?
「大型のテレビとソファを置かないことの最大のメリットは、当然ながら部屋を広く使えるようになることです。部屋の中に何もない空間があるのは、それだけで心の余裕にもつながります。また、大型のソファは置くだけで1~2畳のスペースが取られるので、なくすことで部屋のサイズ自体を小さくできる=家賃を抑えることもできるはずです。
そしてもう一つの大きなメリットが、部屋のレイアウトを自由に考えられるようになることです。部屋にテレビを置くと、それを軸にレイアウトを考えなければならず、ある程度決まってしまいます。しかしテレビをなくすことで、例えば、椅子を置く向きなどを気にしなくてよくなるなど、レイアウトの自由度がグッと高まるのです」
テレビとソファを置かない部屋のレイアウトアイデア 3
大型のテレビとソファを置かないことでレイアウトが自由にできる一方で、だからこそどのように配置すればいいのかを悩んでしまう方も多いはずです。そこで室岡さんに、テレビとソファを置かないレイアウトを考えるときのポイントや、具体的なレイアウトの例を教えていただきました。
1.ダイニングテーブルだけのシンプルなレイアウト
「こちらは、一般的な大きさのダイニングテーブルを置き、リビングスペースに大きなラグを敷いただけのシンプルなレイアウトです。ラグを敷いたスペースは、寝転がったり、動画を見ながら筋トレやストレッチしたりと、自由に広々と活用できます。またこのスペースに、大きめのビーズクッションや折り畳みチェアなどを置くのもおすすめです」
2.テーブルをメインにしたレイアウト
「こちらは、ダイニングテーブルを壁にくっつけて置いたレイアウト。テレビが見えるかどうかを考えなくていいからこそできる配置です。テレビとソファを置かない分、大きめのデスクもそこまで圧迫感なく置くことができます。
テレワークをする方など、作業スペースを確保したい方はワークデスク兼ダイニングテーブルのように使うのもおすすめです。私自身もテレビを持っていないのですが、前に住んでいた部屋では大きな窓に向かってデスクを配置し、景色を眺めながら仕事ができるようにしていました。テーブルを部屋の真ん中に置いて、テーブルメインのお部屋にするのも良いと思います」
3.「兼用」の家具を活用したレイアウト
「こちらはダイニングテーブルにダイニングソファを合わせたレイアウトです。ダイニングソファはダイニングチェアとソファの中間のようなアイテム。クッション性があり、深めに腰掛けることができるのでソファ代わりになります。ダイニングソファに限らず、こうした兼用の家具を使うと部屋のスペースに余裕が生まれます」
「テレビとソファを置かない部屋」とひとことで言っても、レイアウトのパターンはさまざま。自身の部屋でレイアウトを考えるときに大切なのは、「どのような部屋にしたいか」をまず考えることだと室岡さんは言います。
「例えば、『テレワークをするので広めの作業スペースが必要』『来客が多い』という方は、大きめのデスクや折り畳みチェアを取り入れたり、『ソファは置きたくないけどリラックスできる場所が欲しい』という方は、自分に合ったソファ代わりになるアイテムを置いたり……。レイアウトを考えるときにはまず、自身のライフスタイルやどのような部屋にしたいのかを明確にしてみてください」
テレビとソファがなくても快適な部屋をつくるためのアドバイス
テレビとソファを置かないことで、部屋全体をすっきり見せることもできます。しかしその一方で、殺風景に見えたり、ゆったりできないと感じたりするかもしれません。では、テレビとソファが無くても過ごしやすい部屋にするためにはどうすればいいのでしょうか。部屋にプラスすると良いアイテムを教えていただきました。
「プラスするアイテムとして特におすすめなのは間接照明です。広さに余裕のない部屋にテレビとソファを置き、そこに間接照明をプラスすると家具の数が増えて窮屈に感じますが、空間にゆとりができると取り入れやすくなるはず。部屋の光源は天井のライトだけという方も多いと思いますが、例えば、目線の高さに一つ、床に一つと、さまざまな高さに光源をつくると部屋にできる影が立体的になり、一気にこなれた空間に仕上がります」
「スタンドライトを置くのも良いですし、飾り棚の上などにデスクライトを置くのもおすすめ。好みや用途にもよりますが、暖色の光を選べば、よりリラックスできる空間をつくることができます。間接照明のほか、観葉植物を置くのも良いと思います。
また、テレビの代わりにプロジェクターを置くのも、過ごしやすい空間づくりや豊かな暮らしにつながるのではないでしょうか。最近は、壁際に設置できる短焦点のプロジェクターもあるので、置き場所をそこまで気にせず、気軽に取り入れることができると思います」
ソファ代わりになるものもいろいろありますが、個人的におすすめしたいのが『ニーチェアエックス』。座り心地がとても良いことに加え、楽に持ち運べる軽さも魅力です」
「ニーチェアエックス」は、1970年にデザイナー・新居猛(にいたけし)によって生み出された日本の名作です。約6.5kg。折り畳めるので移動や収納も楽。
「そのほか、ソファメーカーなどから販売されているようなソファと同じファブリックを使用した座布団も、リラックスして座りたいときにぴったりです」
自分のライフスタイルや性格に合った部屋づくりを!
さらに室岡さんから、部屋づくりをする上で押さえておきたい、インテリアを選ぶときのポイントについてもアドバイスをいただきました。
「インテリアを選ぶときに特に気を付けたいのが、家具のサイズ感です。店で見るとそこまで大きく見えない家具でも、壁に囲まれた部屋に入れるとやっぱり大きかった、というのはよくあることだと思います。部屋のサイズに合わない家具を入れると、動線が確保できなくなったり、圧迫感のある空間になったりしてしまうので、サイズは必ず測ってから購入するようにしましょう。特に海外ブランドの家具は元々の規格が大きいものも多いので注意が必要です。
そのほか、インテリアのデザインに統一感を持たせることも大切です。そう言われると、『色味を合わせないといけない』と思われるかもしれませんが、濃い茶色やナチュラルな茶色の家具を合わせてもまとまって見える部屋もあります。例えば、丸みのあるシルエットやアイアン素材で統一するなど、家具のシルエットや素材を合わせることで、色味が違っていても、グッとまとまりのある部屋をつくることができます」
最後に、室岡さんが考える「居心地の良い部屋」について教えてもらいました。
「私が考える『居心地の良い部屋』は、『限りなくストレスがかからない部屋』です。その定義は人によって異なり、例えば、すっきりと片付いている部屋が好きな人もいれば、お気に入りのものに囲まれた空間のほうが落ち着く人もいます。もちろん、テレビやソファを置く・置かないも、置かない部屋をどうレイアウトするかも人によって自由です。自分のライフスタイル、趣味、性格などに合わせて、『どのような部屋が自分にしっくりくるのか』を考えながら、部屋づくりを楽しんでほしいと思います」
Profile
インテリアコーディネーター / 室岡 卓
1987年9月8日生まれ。岩手県、盛岡市在住のインテリアコーディネーター。インテリアショップでの店長を経験後、2019年の4月に独立。現在は、一般客やハウスメーカー、飲食店などの企業にインテリアを提案している。さらに、各種家具メーカーから家具を仕入れ、販売も行う。
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