「足立 紳 後ろ向きで進む」第45回
結婚21年。妻には殴られ罵られ、2人の子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!
『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHKの連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。
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12月1日(金)
母校の鳥取中央育英高校(私が通っていた頃の名称は由良育英高校)に講演に呼んでいただいて、久しぶりに母校に足を踏み入れた。卒業以来だから32年振りだ。校内や外観は私が通っていたころとほぼ変わりはないが、生徒数は3分の1になっている。講演は小体育館で行ったのだが、我々の頃は全校生徒が入るとぎっしりになっていたのに、今回は「あれ? 3年生だけだっけ?」と一瞬感じてしまうくらいだった。
講演と言ってもひとりでしゃべると5分で話題の尽きてしまう私は、情けないことに3人の生徒さんに話し相手になっていただきながらの形式に。話した内容といえば、高校時代に軽犯罪(軽と書くところが言い訳がましい)を犯して停学になったことや、朝から夕方まで映画を観ては部活だけしに学校に行っていたこと、私でも生きていけたのだからあまり将来に不安を抱かないほうがいいことなど、高校生にとってはほぼ役に立ちそうもないことばかり。でもまあ、高校生に限らず人様の役に立つことなど言えないし、言えたとしても言う気もない。
夜はいつもの高校時代の悪友と集まって、高校時代とまったく変わらぬ、「だから、おじさんはダメなんだ」と言われる話ばかりしていた。しかも女性のいるお店で。本当に申し訳ないと思うが、でも楽しかった。ただ、こうして女性が我々のくだらない話を聞いてくださるお店の形式もアップデートされており、今は女性が男性の間に座るということはない。正面に座る。そして男性がバカなことをせぬようにママさん(という言い方も現代ではいかがなものなのだろうが)がきっちりと目を光らせている。良いことだと思う。
12月2日(土)
幼なじみとその息子、私と私の息子でプールに行く。私と幼なじみはほとんどサウナと寝湯にいて、子どもたちは勝手に遊ばせておく。
夜、中学時代の同窓会が行われたので参加。70人以上の同級生が集まり大変楽しく、日付が変わるまで飲み散らしていた。
12月3日(日)
両親に空港に送ってもらいがてら、鳥取砂丘に寄って息子と走り回った。木曜日から学校を休んで鳥取に行っていたので息子は大喜びの週末だった。
12月4日(月)
朝からいつもの喫茶店で仕事。午後、筋肉マッチョのプロデューサーの方と筋トレに行く。取材の一環だ。普段はchocoZAP(チョコザップ)で自主的なしょぼくてユルユルな筋トレを週に1回か2回しているだけなので、今日は短時間ながらもなんだか本格感のあるトレーニングができた気がする。この企画が実現することを願う。
12月7日(水)
朝から家を必死に片付ける。週刊文春の方が「新・家の履歴書」のコーナーで取材に来てくださるのだ。10時から2時間以上、これまで住んできた場所についてしゃべり倒した。
午後からK’s CINEMAで『ホゾを咬む』(監督・髙橋 栄一)のトークイベント。妻をストーキングする話でまさに私好み。面白かった。
夜、池袋にて会食。会食という言葉にはなにか金品めいた響きを感じるのだが、「自分が会食をした」ということを書いてみたかった。
12月8日(金)
朝から仕事。昼、ずっとやりたかった企画の打ち合わせ。賛同はしていただけたが、この先どうなるか? いつ実現するのかしないのかは、さっぱり分からない。
12月9日(土)
学校公開。ガンダムのプラモデルを作る授業ということで楽しみにしていたが、3時間目を見に行ったら、ひたすら座学で「めあて」とか「目的」とか「学んだこと」とかを板書したりノートに書いたりしていて、退屈だった。やることなすことすべて「学び」に結び付けるのはまあ仕方のないことか……。
午後、『雑魚どもよ、大志を抱け!』TAMA映画祭最優秀作品賞受賞祝ということで、久しぶりに大勢のキャストスタッフが集まってお祝いの会。賞をもらうために映画を作るわけではもちろんないが、賞をもらうとこうして公開後だいぶ時間がたってからも集まれることがうれしい。
特殊造形の飯田さんから、映画で使ったオオサンショウウオのサンチャンをサプライズプレゼントをされて、めちゃくちゃうれしかった。ずっと欲しかったのだが、制作にはえらくお金がかかったようで言い出せなかったのだ。遠慮なくいただいた。ありがとうございます!
12月10日(日)
午後、娘を中野のまんだらけまで送りつつ、そのまま妻とともに三鷹へ。
庶民的な寿司屋で、握りセットとチラシセットと、鮪山かけセット(各サラダ、汁もの、デザート付き)を食すも、足りなくて、甘味が食べれる喫茶店を小1時間探し、ようやくかわいいかき氷屋さん発見。冬にかき氷が食べられるのはうれしい。かき氷はどんなに食べても太らなそうなので、迷わず「宇治金時・白玉・ソフトクリーム乗せ」の大を平らげる。妻はマンゴーの小。
快調にかき氷を食べていたのだが、案の定、途中で寒くなり暖かいほうじ茶をいただいた。
その後、城山羊の会『萎れた花の弁明』を鑑賞に向かう途中、俳優の水澤紳吾さんが奥様とお子様を連れて散歩をしているところに遭遇。久しぶりにお会いしたが、脚本で参加している「ブギウギ」に出演していただくことになっているのだ。その役は水澤さんにぴったりすぎるので今から楽しみなのだが、この日記がアップされるころには発表されているかもしれない。
そして会場でも偶然、新刊『春よ来い、マジで来い』を企画し連載させてくれたキネマ旬報のK女史と旦那さんと、『喜劇 愛妻物語』や『雑魚どもよ、大志を抱け!』に素敵な映画評を書いてくださった轟夕起夫さんとお会いした。帰りに一杯飲みたかったが、子どもと夕飯を食べる約束をしていたので後ろ髪を引かれながら帰宅。
お芝居はいつも通りすごく面白かった。
12月12日(火)
第1回北九州国際映画祭に向かうため、6時45分出発で一家で羽田空港に向かう。『喜劇愛妻物語』の上映があり、妻とトークをすることになっているのだ。
子どもたちも行きたいと言うので連れて行く。ふたりとも学校が休めるというのがついて行きたい大きな要因だろう。まあいい。
昼過ぎ、北九州空港に降り立ち、まずは小倉出身の息子の塾の先生に聞いた「資さんうどん」へ。こんなお店が24時間営業だなんて。飲んだ後には必ず寄ってしまいそうだ……。というかずっとここで飲んでいたい。
その後、腹ごなしに門司港まで電車で移動して港や街を散策。はしゃいで展望台にも上る。焼きカレーが有名らしい。食べたかったが腹いっぱいだ……。
夕方、ホテルにチェックイン。家族4人で3泊するからと出費を抑えに抑えた妻が見つけてきた宿。部屋は広かったのだが、カーテンを開けると壁……。閉所恐怖症で圧迫感に弱い私は「え……この部屋やだ……」と声が出てしまった。すると娘も「タバコ臭い……。やだなー」と文句を言い出し、文句はないくせにふざけて「僕もヤダー!」と息子が笑顔で言うと妻がブチ切れた。
本当ならゲストは駅近くのリーガロイヤルホテルに皆さん宿泊されている。私もそちらに泊まりたかった……。
※妻より
リーガロイヤルに4人で三泊したら、一体いくらになると思ってるのでしょうか。
夜は夫と会合に参加することも多いため、ホテル内に漫画が何万冊もあり、24時間開いているロビーラウンジにはファミレスにあるドリンクバーがあり、セルフうどん機械があり(ネギ、揚げ玉、しょうが入れ放題)、焼き立てのパン(6種類くらい)とカレーとご飯と福神漬けが常時置いてあり、味噌汁、コーンスープ、オニオンスープも飲み放題(万が一子どもがお腹空かしても困らないように)なところを選んだのに、部屋に入るなり、夫「なんか暗い、窓小さい、大浴場無いの?最悪」、娘「タバコ臭い、お風呂狭すぎ」とまず文句。
予算内ではかなり広い床面積の部屋で、マッサージガンや、高そうなヘアアイロンなども借り放題。どうしてまず文句なのか……。夫は自分で旅をコーディネートしたことないから、こーいう苦労は分からないのだろう……。
腹たつが、怒ると疲れるので怒鳴って風呂入って汗と共に色々流します。
夜は美味しいものを食べたい!! と強く願い、「食べログ」ではなく、「ヒトサラ」というちょっと高級風なサイトで店を物色。これは! と思える、こだわりの個室居酒屋(北九州の郷土料理・鮮魚)と書いてあったところを妻に予約してもらい喜び勇んでいったら、ぜんぜん郷土料理でもなんでもなく、東京やどこにでもあるチェーン店風味な居酒屋。
妻はさらに不機嫌になり、不機嫌な娘とケンカをおっぱじめ、雰囲気も最悪に。私と息子は名物鮮魚刺身の盛り合わせ(薄っぺらい刺身が4切れ)と特選名物馬刺(うっすいのが3枚)というのを黙々と食べ、早々に店を出た。妻と娘は互いにそっぽを向いてさっさと帰ったので、私と息子は飲み屋街に売っていたりんご飴を買った。おいしかった。
※妻より
今まで色々なお店に入ってきましたが、なかなかここまでのお店には出会えません。お値段もかなり高かったので、残念でした。
12月13日(水)
朝、近くのスーパー銭湯に家族4人で行く。昨日の気まずい関係はサウナと温泉で洗い流して、旦過駅付近から旦過市場を散策。昭和な雰囲気の市場でめちゃめちゃ楽しく、すぐにお寿司のパックを買って息子と食べ歩き。娘はいちご大福とか芋のスイーツとかを買っていた。
昨日の夜をあまりに外したので、再び息子の塾の先生に妻がLINEでおススメのお店を聞き「ぎょらん亭」というラーメン屋さんへ。ここはメチャクチャうまかった。全部乗せの「どろ」というのを選んで、なおかつ、替え玉。スープまで飲み干してしまった。
息子も替え玉。娘は炒飯追加。そのたびにたった数百円ポッチなのにいちいち妻が舌打ちする。(※してねーし。by.妻)。
その後、映画祭のウェルカムセレモニーのある小倉城へプラプラと街歩き。小倉駅前の商店街は大変賑わっていて楽しい。
15時から小倉城内でレッドカーペット、JCOMホールでオープニングセレモニー。その後オープニング作品の『無法松の一生』の短編ドキュメンタリーと、『無法松の一生』(坂東妻三郎版)を鑑賞する。
夜は小倉城の天守閣でレセプションパーティー。子どもに夕飯を食べさせた妻も合流。
パーティーで人と話すのが苦手な私はひたすらに食べることに集中していた。
その後、22時過ぎから生ラムのお店でまたまた会食。リム・カーワイ監督や俳優の尚玄さん、別府の森田真帆さん、田尻大樹さん、福岡在住の旧友、太田さんや中川さんらと日付が変わるまで飲んでいた。
深夜ホテルの部屋に帰ると、漫画がベットの上に30冊位積み上げられていて、電気がこうこうとついたまま、娘と息子が爆睡していた。
12月14日(金)
早朝に目が覚めてしまったため、小倉駅前のchocoZAPで少し運動をして付近を散策。新橋と歌舞伎町を足したような飲み屋街の早朝な感じがいい。
部屋で朝風呂に入っていると、もそもそ子どもたちが起き始め、黙ってマンガを読んでいる。凄いな、漫画。子どもたちが静かだ。ロビーで仕事をしていると、子どもたちと妻が起きてきたため、朝からカレーうどんとチョコデニッシュの朝食。
昼前からまたアーケード商店街をふらつき、息子に深海魚フィギュア、娘にジブリのタオルなどのお土産を購入。全く北九州らしくない。
11時45分、駅前のJCOM劇場中ホールで打合せ。バカでかい劇場で焦る。隣の小ホールでは二ノ宮隆太郎監督の『逃げきれた夢』が上映されており、まさに地元出身の光石研さん、吉本実憂さんの舞台挨拶があるのだ……。絶対みんなそっちに行ってしまう……。
私も、作品の『喜劇 愛妻物語』も北九州に縁もゆかりもないので、せめて小ホールにして欲しかったところだが(いや、なんなら復活した小倉昭和館でかけて欲しかった)、上映前に会場を見たら思ったより埋まっていて少し安心した。
お客さんと一緒に久しぶりに『喜劇 愛妻物語』を観たが、一番笑っていたのが妻だったのでビビった。というか少し引いた。娘も息子もこの映画をすでに観ているのだが、息子はときおり家でも見ているからお気に入りなのはわかっている。高校1年の娘は中1の劇場公開以来の鑑賞となるため、私はやや不安だった(なに自分の両親のセックスレスをテーマにした映画なのだから年ごろにはきついかなと)が、めっちゃ面白かった!とのこと。こいつもどうかしているのかもしれないと少し思ったが、うれしくもあった。
上映後、今回『喜劇 愛妻物語』を選んでくださったプログラマーの森田真帆さんと妻とトークイベント。森田さんにはこの映画をいろんなところで紹介していただいてるので感謝しかない。
最後に「北九州の感想は」と聞かれて、「ご飯が美味しい!」しか答えられなかったことが恥ずかしかった。
トークイベント後、娘、息子と合流し、またまた旦過市場散策へ。なにもかもが美味しそうで、ちょこちょこ食べ歩きしながら、息子の塾の先生に聞いた「旦過屋台寿し満天」に向かう。広いお店ではないが15時半過ぎていたので我々家族貸し切りだった。中途半端な時間に入れるってのがまたうれしい。
4人でべらぼうに食べても東京の半分以下の金額。おまけになにもかもが美味しい。娘が「つぶ貝レモン」とか「赤貝酢の物」とか「なまこ酢」とか「白子ポン酢」とか酒飲みみたいなアテを沢山食べるので、将来妻みたいな大酒飲みになりはしないかと心配になった。
夜は本日復活した昭和館にてリム・カーワイ監督のミニシアターへの愛に溢れるドキュメンタリ映画『ディス・マジック・モーメント』を観て、そのままロビ―にて打ち上げ。その後、また生ラム屋に移動して深夜まで飲んでしまった…。
※妻より
この4日間で4キロは太りました…本当によく食べました……。
12月16日(土)
家族みんな映画祭の疲れで朝寝坊。
昼前に慌てて飛び起きて、妻と息子と家を出る。中学の体験会だったのだ。少人数で穏やかな校風でいい学校のようだが、息子はあまり楽しそうではなかった。
しかし、息子に合いそうな中学校をいろいろと探し回っているが、どこも偏差値はめっちゃ低いのに競争率が高いという状況……。同じような悩みを持った子どもやその親がとても多いのだなと痛感すると同時に、簡単に伸び伸びと通える中学校はないものだろうかと切に思う。
12月17日(日)
朝から妻と息子はママ友たちと公園ピクニックへ。私は渋谷のヒューマントラストでやっているカンヌ監督週間イベント上映で『In Our Day』(監督:ホン・サンス)『Riddle of fire』(監督:ウェストン・ラズーリ)2本立て。『In Our Day』はなんと英語字幕だった……。なので心置きなく睡眠時間にあてた。『Riddle of fire』は悪ガキたちと謎の集団の話でこちらは私の好みでとても面白かった。
12月18日(月)
朝から仕事。夕方、脚本家の横幕智裕さんと出版社の方々と飯を食った。横幕さんはマンガの原作も手掛けられており、『ラジエーションハウス』や『ゴールデンエッグ』は大ヒットしている。私もそのおこぼれにあずかろうというのだ。なんだかむちゃくちゃ美味しい物をご馳走していただいた。いつも横幕さんはこんなものを食べているのだろうか。
12月22日(金)
朝一で息子のスクールカウンセリング。カウンセラーの先生と息子について話す。私としては息子はかわいくてたまらないの一言ではあるが、彼の持つ様々な特性についていろいろと話を聞かせてもらったり、将来のことなども相談する。もちろんその短い時間でなにが解決するというわけでもないが、こういう短い時間を積み重ねていくしかないのだろうとも思う。
夜、私が相米慎二監督のところにいたときに、お世話になっていたおふたりの女性に誘われて食事。おひとりは相米さんのマネージャーをされていたTさん、もうひとりは私が相米さんにくっついていたときに相米さんが進めていた企画のプロデューサーのYさん。
お二方とも私の20代前半を知るこの業界では数少ないかただけに、正体がなにもかもバレている気がして恥ずかしくてたまらない。だが、時を経てこうして食事に誘っていただけることがとてもうれしい。この日に話したことは半分は冗談なのだろうと思うが、私としてはとてもうれしいことを言っていただけた。そっと胸にしまっておく。
12月23日(金)
再来年の1月に芝居をする予定がある。コロナ禍真っただ中の2020年にやる予定だったのだが、中止になったのでその時に主演する予定だった方とやる予定だ。再来年の1月と言っても1年後だから時間はそんなにない。その時にやる予定だった話は反故にして新しい話にするのだが、俳優さんだけ決まっていて話はなにも決まっていない。今日は出演したくださる俳優さんたちが我が家に来てくれて忘年会をした。ほかに『雑魚どもよ~』のスタッフや若い人たちも。
12月24日(土)
朝から仕事。息子は公園と立ち読みへ。娘は部活へ。妻も仕事へ。
各自、各々のやるべきことを全うして、クリスマスイブは特にクリスマスイブ的なこともせずに終える。というのは明日からタイに行くからだ。
去年と今年、映画と朝ドラが重なり自分史の中でもっとも忙しい年を過ごしたから、妻にご褒美がほしいとねだっていたのだ。で、私は20年くらい前にタイのどこなのかは忘れたがリゾート地に撮影で行ったことがあり、そのとき仕事なのに仕事のことはなにもかも忘れるくらい最高に楽しかったので、どうしてもまた行きたかったのだ。
12月25日
朝、4時に娘と息子を叩き起こして始発で成田に向かう。空港では旅行前にありがちな浮かれ気分になり、なんだかいきなり高いもんを食ってしまい、妻がさっそく超不機嫌になる。
9時の飛行機に乗り込んで、すぐに爆睡した。香港で乗り換えて、夜9時にプーケットにつき、私と娘と息子は完全に浮かれスイッチが入ってしまい、妻はずっと不機嫌なまま。とりあえず、年明けの3日まで滞在予定だ。
12月26日
※妻より
夫の浮かれぐあいが目に余り、人様に読ませるべきでないと判断し割愛します。
12月27日
同上
12月28日
同上
12月29日
※妻の日記
タイに来てようやくの休日。身体が悲鳴をあげて今日は1日中ひとりでいる宣言をした。ようやくようやくホテルでゆっくり過ごせる。娘も疲れて部屋で寝ている。夫と息子は海に行った。毎朝毎晩、海に行って、まるでバカとしか思えない。
浮かれた夫と娘と息子はすべての手配を私に任せて遊びまくっている。特に夫と息子は目に余るものがある。元来暑さと湿度と海が嫌いな私がここにいる理由がわからない。あまりの怒り、ストレスに不正出血まで始まる始末。
夜、夫は松本人志の文春砲についてなにか言っている。頭の悪いことを言っている。タイにまで来てやはりバカとしか思えない。私は具合が悪すぎて、酒ですら缶ビール2本しか身体に入らない。
12月30日
※妻の日記
夫、息子の浮かれ具合が目にあまり、割愛。夫は財布とスマホをぽい置きして何度も慌てふためてパニック怒声をあげている。知らない。口中の口内炎が全然治らない……
12月31日
※妻の日記。
夫、息子だけでなく、今日は多くの人が浮かれている。大晦日にこうなるのは日本だけではないのだな。我々がこうしているときにも、戦争は続いている。そのことも、自分が楽しむことも、両方とも忘れないようにしようと絶え間なく上がり続ける花火を見ながら思う。夫と娘と息子は爆睡している。イライラする家族ではあるが、私を存分に楽しくもさせてくれる。そのことも忘れないでいようと思う。
【妻の1枚】
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【プロフィール】
足立 紳(あだち・しん)
1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。現在、最新作『雑魚どもよ、大志を抱け!』は2023年3月24日に公開。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『春よ来い、マジで来い』(双葉社・刊)。