アウトドア
2023/4/6 10:30

唯一無二のキャンプギアを生み出す集団「HikU」。クリエイターにイチオシ品を聞いた

年々盛り上がるキャンプブームですが、ハマッていくなかで出合うキャンプギアが「ガレージブランド」です。これは基本的に個人や少人数のクラフトマンが手掛けるブランドを指し、小規模メイドならではの人間味あふれるモノづくりや、個性の光るプロダクト、フェイス・トゥ・フェイスな販売手法でファンを増やしています。

 

本稿で紹介するのは、そんなガレージブランドのひとつ「HikU(ハイク)」。5人のつくり手が中心となって活動するクリエイティブチームで、そのアイテムは即完売するほどの人気です。各クリエイターにインタビューし、オススメの作品についても伺いました。

↑HikUは3人のクラフトマンと、フォトグラファー、デザイナーの計5人が中心メンバー。加えて裏方に、広報とブランディングをそれぞれ担う2人のマーケターもいます

 

個々のクリエイターがHikUというチームを結成したワケ

まずはHikUの成り立ちから紹介。代表を務める中村友洋さんが教えてくれました。

 

↑中村友洋さん。レザークラフト、木工、鉄工といった技でキャンプギアを生み出すクラフトマンであり、アウトドア体験のプロデュースなども手掛けています

 

「もともと僕は働きながらDIYで作品をつくっていました。その後自身のブランド『omadesign』を立ち上げましたが、個人的な目標を達成したときに振り返って気付いたんです。『これは自分の力じゃなかった』って。お客さんや仲間、家族などへの感謝の気持ちが沸き上がるとともに、もっとたくさんの人に貢献したいとも思いました。それが18年働いた前職を辞めたタイミングでして、同時に出会いや縁も重なり、2022年2月にHikUを設立。それから約半年後、繋がりがあったモノづくりキャンパーにも声をかけていまに至ります」(中村さん)

 

出会いと縁の舞台となったのが、中村さんが前職でもたびたび訪れていた滋賀県の長浜市。この地で3人の若きクリエイターと出会い、一緒にアウトドアの創作活動をして彼らの才能を世に広めると同時に、地域を盛り上げたいと思ったのがきっかけでした。

 

「最初は、長浜で続く仏壇店の五代目塗師・箔押し師の中川君(中川喜裕さん)という職人から連絡をもらい、そこからデザイナー兼イラストレーターのユキちゃん(前川有季さん)と、写真家の辻田君(辻田新也さん)が合流して結成。中川君は『GNU(ヌー)』というブランドも手掛けているのですが、家業もやっていかなければならないということでHikUからはいったん離れたのですが、一方で旧知のモノづくりキャンパーであるよねじ(柴﨑祐樹さん)とシュンちゃん(畠中俊介さん)が加わり、現メンバーとなりました」(中村さん)

 

柴﨑さんと畠中さんはそれぞれ自身のガレージブランドを持ちながらも、HikUの理念に賛同。中村さんは兵庫、柴﨑さんは埼玉、畠中さんは愛知と住まいは異なるものの、ときには長浜に集結してイベントなどの活動を行っています。また、サポートメンバーとして広報の稲見敦さん(神奈川)とブランディング担当の田村亮輔さん(東京)も在籍。

 

即完売。完成を待つファンが多い珠玉のギアを一部紹介

ここからは、各クリエイターとオススメの作品を紹介。柴﨑さんから教えてくれました。

↑柴﨑祐樹さんはキャンプギア制作のほか、パッケージデザインも手掛ける「YONEJI BASE」の主宰。使い手の“モノづくり体験”をセットにした商品展開も特徴です

 

「僕はもともとミュージシャンで、メジャーデビューも経験しました。そのバンドは約2年で解散してしまったのですが、クリエイターとしての活動は音楽以外にもあるってことをギアのDIYで見出しまして、いまは会社員をしながらモノづくりをしています」(柴﨑さん)

 

そんな柴﨑さんのイチオシが、クーラーボックススタンド「01-STAND」。個人での生産が追い付かず、100人以上のファンが完成を待っている人気アイテムです。

 

↑「01-STAND」。鉄、木、革の異素材を使うことで生まれる、コントラストとシンプルなシルエットを追求したクーラーボックススタンドです

 

「初級~中級に上がる段階でよくぶち当たる問題が、車への積載。僕自身苦しみまして、それなら作っちゃおうということで開発しました。折りたたむことで厚みが約4cmになる収納性と、僕自身がDIYで身につけた鉄、木、革の技術を全部取り入れた、ビンテージ感、ワイルドさ、ナチュラルな風合いが好評です」(柴﨑さん)

 

このアイテムは、購入者自身が蜜蝋ワックスを塗ることで完成するというのも特徴。ワックスは別売り「よねじのミツロウ」としても毎回即完売・予約待ちの人気商品でもあるとか。

 

次に紹介する畠中さんは、17年勤めたアパレル企業を辞めてクリエイターとして独立。「PURIBASE」の代表として活動しながらHikUにジョインし、アウトドアに限らないギア開発や、コーヒーを中心とした飲食展開も視野に活躍の場を広げています。

 

↑焙煎士でもある畠中俊介さん。テーブル、チェア、棚、子どもの遊具など、持ち味である発想力とそれを形にする能力を武器に、様々なギアを生み出すクリエイターです

 

「僕からはふたつ紹介させてください。ひとつが、ダイヤカットグリップ『利休 Rikyou』です。キャンパーに人気のマルチグリドルという鉄板のような調理器具があるのですが、取っ手の部分が熱くなるんですね。それをカバーするための木製グリップです」(畠中さん)

 

↑「利休 Rikyou」。持ち手の角度に合わせたゆるやかなアールの溝に耐熱シリコンゴムを内蔵し、着脱しやすく木が熱くなり過ぎない仕様に

 

↑表面には角度が120度のダイヤモンドカットを施し、光を当てるとまるで寄木細工のような美しさのあるアイテムとなっています

 

製品名は、自害する最後の瞬間までも見送り人に対しお茶を振る舞ったとされるブレない職人・千利休のセンスとやり抜く心から。なお、こちらもミニ蜜蝋付きで、最後は「あなた(you)の手で完成させてください」という想いから「Rikyuu」ではなく「Rikyou」に。そしてもうひとつのオススメギアは、2023年夏ごろに販売開始予定のランタンシェード。

 

↑「ウッド提灯シェード (仮)」。LEDランタンを内部に入れ、光をやわらかく温かみのあるものにするための「かさ」の役割を果たします

 

「木材を2mmの厚さにスライスし、絶妙なバランスで配置することで木材の隙間から光が漏れ、神秘的な灯りを演出。持ち運びを容易にするため、収納時は3cm厚にたたむことができ、使用時は上部を持ち上げるだけでお互いのパーツが支え合い、一瞬で広げることができる提灯のような構造です。市販されている様々なLEDランタンに合うよう工夫もしました」(畠中さん)

 

製品名は仮ですが、これから発売とのことでHikUのなかでも注目アイテムといっていいでしょう。そして3人目は代表の中村さんが渾身の作品を紹介してくれました。

 

「僕が会社員時代、ふたりの娘のためにつくったレザーのボトルカバーをHikU用に仕立てた『bottle cover 470ml 「ayano to saki」』です。姫路を拠点に100年以上の歴史を誇る日本トップクラスの高品質レザーをつくるタンナー『株式会社 山陽』と、1951年に大阪で創業したレザーファクトリー『株式会社 曽我部』との協業により製作しました」(中村さん)

 

↑「bottle cover 470ml 『ayano to saki』」。革本来の美しい経年変化・風合いを楽しめる、紀元前から続く手法”ベジタブルタンニンなめし”を施した本ヌメ革が特徴です

 

「キャンプギアって、一生モノが多いですよね。使うほどに愛着が沸き、どんな高価な商品よりもその人にとっては価値がある、僕もそんなプロダクトをつくりたいと願うひとりです。そのうえで、キャンプだけじゃなく日常生活でも使えるアイテムをつくりたい、それを子どもにプレゼントして宝物にしてほしいなと。その代表作が『ayano to saki』です」(中村さん)

 

↑このレザーカバーは、水筒界のマスターピースであるスタンレーのボトル用。ネーミングは愛娘姉妹の名が由来となっています

 

ブランディングをビジュアルで支える写真とデザイン

フォトグラファーの辻田さんも、柴﨑さん同様にかつてはバンドマンとして活躍。脱退後はまちづくりを目指す地元企業で働きながら写真活動を始め、2018年に独立しました。2020年にはクリエイターチーム「aicco design works」を設立し、2022年にHikUへ加入。HikUではブランドに関する撮影のほか、キャンパーのスナップや記念撮影などを行っており、好評を博しています。

 

↑辻田新也さん。「#琵琶湖を撮る写真家」として活動するほか、HikUのコマーシャルフォトやアウトドア関連撮影など、活躍の幅を広げています

 

「特に、ファミリーキャンパーの方に重宝いただいています。HikUが大切にしているテーマに“家族”があるという点も大きいのですが、お客様に話を伺うと、キャンプ中はじっくり写真を撮る機会が少ないという声があるんですね。そうして気付いたらお子さんが大きくなって、キャンプの思い出が写真で残ってないと。こういった思いに応える形で撮影サービスを始めました」(辻田さん)

 

琵琶湖をテーマにした辻田さんの作品のなかで、HikUがキービジュアルに採用しているのが「生命の木」。HikUの製品購入時にはこの写真もセットになる仕様になっており、HikUユーザーのなかでは実際に「生命の木」の見物に訪れたり、Instagramでシェアしたりといった共感が生まれているといいます。

 

↑「生命の木」

 

「こうした活動に行政の方々も共感いただき、2023年の10月7日から22日まで、長浜駅前の『えきまちテラス長浜』で初の写真展を開催することが決定しました。ここには『HikU GALLERY & OFFICE』もあるのですが、僕自身写真展はすごく楽しみにしています」(辻田さん)

 

↑「えきまちテラス長浜」はJR長浜駅東口から徒歩10秒の場所にあり、「HikU GALLERY & OFFICE」は2022年6月にオープンしました

 

グラフィックデザイナー兼イラストレーターの前川有季さんは、建築系の大学を卒業後、立体物以上に平面の美しさに魅了されデザインの専門学校へ。広告デザイン制作会社を経て2021年6月に独立し、2022年にHikUの一員となりました。

 

↑「伴創するデザイナー」を掲げる前川さんは、ブランドロゴ、名刺、ポスター、販売ツールなど、クライアントに合わせた幅広いデザインを展開

 

↑前川さんは、HikUのグラフィック全般を手掛けるほかカタログや製品の説明書などを製作。また、オリジナルイラストによるグッズも手掛けています

 

「イラストレーターは小さいころからの憧れでした。HikUを機に積極的に挑戦するようになり、代表作がオリジナルキャラクター『ハイキングモンキー』です。ステッカーやTシャツを販売したり、スマホ待受画像の無料配布やイベントでの子ども向け塗り絵企画をしたりしています」(前川さん)

 

↑左が「ハイキングモンキー」のクリスマス限定ステッカー。右は2023年1月の待ち受け画像

 

「ハイキングモンキー」のテーマは、「生きづらい世の中をもっと優しくやわらかく」。体のパーツや表情の一つひとつは、他者への優しさを象徴したものとなっています。

 

「大きな耳、左右非対称の顔、胸にあるハート。相手の心の声に耳を傾け不完全なところも受け入れて、愛と優しさをもって接する。そんな人がひとりでも増えたら、きっと世の中はもっと優しくやわらかくなるというメッセージを込めています」(前川さん)

 

なぜHikUにはECや価格表記がないのか

売り切れ必至の人気を誇るHikUのアイテムですが、実は公式オンラインショップはなく、InstagramでのDMを中心としたコミュニケーションでの販売が中心となっています。これはほかの「ガレージブランド」にはみられない特徴ですが、理由を中村さんが教えてくれました。

 

「ありがたいことに好評をいただいており、大々的に作って積極販売していくほうがビジネス的には正しい戦略でしょう。ただ僕らとしては、一つひとつ丁寧にコミュニケーションし、ずっと愛着を持って使っていただける方に買っていただきたい。モノだけではなく想いも届けたくて、価格を表に出してない理由もそこにあります。そもそもハンドメイドなのでたくさんつくれないという事情もあるのですが、販売チャネルのプラットフォーム化は検討段階ですね」(中村さん)

 

↑前述の「HikU GALLERY & OFFICE」もあくまでギャラリーで、いまのところメンバーの常駐や常設販売はしていません

 

今後の展望を聞くと、「いま決まっている大きなイベントは辻田君の写真展。成功させるのはもちろん、メンバーそれぞれが個々の力をさらに発揮していく一年にしたいですね。中長期的にはより長浜の発展に貢献していくために、多くの方を巻き込んでいけるよう、いっそう活動の幅を広げていきたいです」と中村さん。暖かい春夏のキャンプシーズンを迎えるこれからの時季、HikUのスポット販売やイベントに、ますます注目です。

 

@hiku_story (https://www.instagram.com/hiku_story/

 

撮影/辻田新也