高い防風性、透湿性、耐久性、耐久防水性を備え、幅広いアウトドアアクティビティや様々なライフスタイルに快適性とプロテクションを提供する「GORE-TEXプロダクト」。多くの方が愛用しているゴアテックスを使ったアウトドアウェアですが、あなたはどのようなケアをしているでしょうか? もしかして、「ゴアテックスウェアは洗ってはいけない」という“昭和の常識”をいまも信じていませんか? そこで、アウトドアウェアのケアについて、人気のアウトドアブランド3社とパナソニックが業界の垣根を越えてトークセッションが行われました。
アウトドアウェアを永く快適に使う方法
ゴアテックスブランドを展開する日本ゴアで、「CARE FOR PERFORMANCE〜アウトドアウェアを永く快適に使う方法〜」と題した合同トークイベントが開催されました。そこで議論されたのが、アウトドアウェアを永く快適に使用するためのケア、特に“洗濯”についてです。
「かれこれ10年以上、洗濯に関して啓蒙してきましたが、1社で発信しても限界がある。1社が駄目なら2社、2社が駄目なら3社、4社と、弊社は素材メーカーですので、アウトドアブランドを横串で通す形で今回主催させていただく運びとなりました。併せて、非常にいいタイミングでパナソニックから素晴らしい洗濯機が発売されたこともあり、今回は業界の垣根を越えた5社が集まってのトークイベントとなりました」(日本ゴア GORE-TEXブランド アカウントマーケティングの阿部功氏)
イベントに参加したアウトドアブランドは、アークテリクス、ザ・ノース・フェイス、パタゴニアの3社で、各社ともゴアテックスウェアの洗濯によるケアを推奨しています。
「ゴアテックスウェアのケアについて我々もずっと言い続けているが、なかなか消費者の皆さんに伝わっていません」(パタゴニア マーチャンダイジング テクニカルラインコーディネーターの片桐星彦氏)
「防水の素材に関しましては、洗っていただくことをおすすめします。もちろん洗い方はブランドによって差があるかもしれませんが、洗濯することはすべてのウェアにおいて推奨しています」(ザ・ノース・フェイス マーケティング部部長の山下浩平氏)
そして、アークテリクス アフターセールス/リバードマネージャーの室田剛氏からは、同社のリバードカウンター(修理専用カウンター)に持ち込まれるウェアから、洗濯の重要性を語りました。
「洗わないでリバードカウンターに持ち込まれたアウトドアウェアというのは、ほぼほぼ致命的な破損、不具合が多く、修理できないということが起こっています。反対に、マメに洗っている方のウェアは、修理できることが多いというケースが統計的に見えています」
“洗う”より“洗わない”方がダメージは大きい
そもそもゴアテックスの撥水のメカニズムはどのようなものなのか。生地の表面を科学的な薬品で加工することで、「撥水基」と呼ばれる細かいうぶ毛状の層ができます。その撥水基が立つことで水分がコロコロと転がって撥水をしてくれるのです。
しかし、ウェアを着用していると、皮脂や油分などが生地に付着するなどして撥水基が寝てしまいます。そうなると水分がはじかれずに表地が濡れた状態になるため、透湿性が低下します。撥水基は洗濯することで汚れが取り除かれ、熱を加えることで再び立ち上がり、撥水性が回復するため、本来のパフォーマンスを取り戻すことができるのです。
先述のように各社がゴアテックスのケアを発信しているなか、洗濯したあとの撥水回復に着目したのがパナソニック。同社は「はっ水回復」コースを搭載した新・ななめドラム洗濯乾燥機「LXシリーズ」を発売したのです。
「これまで私たちは、洗濯を通して衣類を長持ちさせる衣類のロングライフをコンセプトに開発をしてきました。ドラム式洗濯機は、洗う水、風だけではなく、熱乾燥時の熱もあるので、この熱をうまく使って何か貢献できないかと考えていました。そんなときに、ちょっとしたことで(はっ水生地が)熱をかけることで回復することを知りました。それだったらこの洗濯機でも何か新しいことができるかもしれないと検証を始め、温度は何度くらいがいいのか、時間はどのぐらいがいいのか、など、衣類のダメージを気にしながら『はっ水回復コース』を作りました」(パナソニック ランドリー・クリーナー事業部衣類ケアBU商品企画部の中込光輝氏)
これまでは、洗濯、乾燥後にあて布をしてアイロンをかけたり、ドライヤーで熱を加えたり、撥水機能の回復にはひと手間を加えることで必要でした。しかし、そのわずらわしさがパナソニックの洗濯機の新技術により、解消されるというわけです。
「雨が降っているときに表生地に水がじわっと沁みることで汗の蒸気が抜けてくれないのは不快な体験につながります。アウトドアシーンに置き換えると、標高の高い場所や季節によっては、命にかかわることもあります。製品寿命で考えると、汗や油分など体から発生するものがゴアテックスウェアの裏地につくと、それがいずれメンブレンと裏地を圧着する樹脂に到達して、それを劣化させて、その結果、メンブレンと裏地の層の剥離を招くことがあります。洗濯するだけでパフォーマンスが回復するだけでなく、製品寿命も長くなる。ぜひ洗濯はやってもらいたい」(パタゴニア/片桐氏)
半数以上は洗っているが15%は「洗ってはいけない」という現実
日本ゴアがアウトドアショップでアンケート調査を行った結果、53%の方は「ゴアテックスウェアを洗っている」と答えていました。しかし、これはアクティビティをやっている方。アクティビティをやらない普段使いでゴアテックスウェアを愛用している方を含めると、ゴアテックスウェアを半数以上が洗ってはいないようです。
半数の3割弱が「洗ったり、洗わなかったり」。そして23%が「洗っていません」。洗っていない方の内訳は、39%がまず「洗い方が分からない」、次いで36%が「あまり汚れない」。さらに18%が「洗わなくても性能や耐久性に影響ない」で、残りの15%が「洗ってはいけない」。15%の考え方は都市伝説のようなもので、かつてゴアテックスは洗ってはいけない、洗うと駄目になるという噂が実際にあったそうです。
「このアンケートはアウトドアをされている方に伺っていますので、アウトドアをされていない方だと当然もっと高い数字になるかと思います。15%の『洗ってはいけない』という方は、何としてでも洗っていただきたい。さらに、汚れていないと思っている方、こういう方はかなり多くいると思いますので、これからケアをすることは大変ではないということ、簡単に撥水回復できることをしっかり伝えていきたい」(日本ゴア/阿部氏)
「本当にぜひ洗っていただきたいということに尽きます。洗うと駄目になることは当然ないですよね。むしろ洗うことによってより、ゴアテックスウェアは長持ちしますと明確に言っておきます」(パタゴニア/片桐氏)
「アンダーウェアを洗わない人はいない思うので、基本使ったら洗ってもらう。なぜかというと、空気はキレイではない。一番簡単な例でいうと雨水なんですが、クルマが雨水に濡れると、その後、汚れがひどいですよね。そういう状況になっていますので、雨に濡れてなくても1週間に一度ぐらいは洗ってもらうのがいいかと思います」(アークテリクス/室田氏)
「我々も店頭でメンテナンスのイベントなどをお客様に対して実施することもあるのですが、やはりほとんど方が洗い方がわからないという反応ですね。それと、ゴアテックスウェはかなり高価じゃないですか、なので大切に扱いたいという思いが強い。洗うことによってシームが剥がれてしまうんじゃないか、壊れてしまうんじゃないかっていう不安が強いっていうのがあります」(ザ・ノース・フェイス/山下氏)
ゴアテックスウェアの洗濯方法が詳しくわからないという方は、YouTubeやWEBサイトなどで簡単に検索できます。ぜひご参考に。
「PFASフリー」の切り替えでよりケアが必要に
イベントの終盤には、世界規模で取り組まれている環境に懸念のある素材PFAS(有機フッ素化合物)を使用しない「PFASフリー」にも言及。ゴアテックスも撥水剤とメンブレンと呼ばれるフィルム素材でPFAS素材が使用されていましたが、すでに2018年から撥水剤を、そして2022年からはePE(延伸ポリエチレン)素材への変更が進んでおり、2025年には全面的に切り替える予定。アークテリクス、ザ・ノース・フェイス、パタゴニアの3ブランドも25年をめどに全面的に切り替わります。
日本ゴアの阿部氏は「アクティビティがしやすい環境を守る取り組みは続けていかなければいけない」と、ブランドとしての使命を語りますが、PFASフリーへの切り替えによって撥油性が低下するため、これまで以上にウェアのケアが必要になってきます。
今回のイベントに参加したアウトドアブランドの共通認識は、「ゴアテックスウェアは洗える」ということ。洗うことで製品寿命が長持ちし、快適に使用することができます。また、シェルやパンツも定期的に洗濯し、手入れすることで製品が長持ちし、快適に永く使用することができるそうです。
「ゴアテックスウェアは洗えない」とお思いのあなた、今からでも洗濯してみてください。ケアすることで寝ている撥水基が再び立ち上がり、着心地やパフォーマンスが蘇るはずです。
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