オープン戦も佳境に入り、ペナントレース開幕が迫ってきた日本のプロ野球。2023年シーズンの大きな話題といえば、北海道日本ハムファイターズの新球場、「エスコンフィールドHOKKAIDO(以下、エスコンフィールド)」だ。3月14日・15日にはオープン戦・西武ライオンズ戦も開催され、同球場はついにベールを脱いだ。
この記事では、まだ新球場に足を運んでいない皆様のために、同球場の魅力を野球ファン目線でお届けする。ガラス張りの壁面、ホテル、サウナ、温泉、ミュージアム……もはや球場とは思えない、その全貌をご覧あれ。
屋外球場と異なる独特の開放感。座席は広く座りやすい
エスコンフィールドは、北広島駅から1.7km、徒歩で22分ほどの場所に位置している。周囲に大きな建物はなく、広大な自然のなかに佇むその存在感は大きい。ガラス張りの外観はなんともいえぬ威圧感すらある。もし筆者がエスコンフィールドのことを全く知らずこの建物を見たら、球場だとは思わないだろう。
いざ、ホームベース側のFulltech GATEをくぐり中に入ってみる。目の前にあったのは、ダイヤモンドクラブラウンジ。こちらは、ネット裏のダイヤモンドクラブシートを契約した人のみが利用できるプレミアムラウンジで、軽食やアルコールを含むドリンクが楽しめる。
ダイヤモンドクラブラウンジの入り口を直進すると、そのままダイヤモンドクラブシートにつながっている。ラウンジから座席につながる部分の間口は広く設けられており、内部からでも試合の様子が見れそうだ。
この球場のデザインの特徴として、コンコースと座席の距離が近いことが挙げられるだろう。壁面はガラス張りだし、グランドも見える。コンコースを歩いているときにすら開放感を味わえるのは、新しい感覚だ。
エスコンフィールドは、3つの階層から構成されている。これまで主に紹介してきたのは、「FIELD LEVEL」と名付けられた1階部分。2階は「MAIN LEVEL」、3階は「STAR LEVEL」と称されており、それぞれに特徴がある。ここからは、座席、飲食の両面で、各階の違いを語っていこう。
座席に関していえば、この球場はファンにやさしい。全体に共通していえるのは、横幅が広いことだ。たとえ外野席であっても、体重90kgほどある大柄な筆者が座って余裕のある作りになっているし、背もたれもある。
一部の席は座面のクッションがないが、その問題は自前で持ち込めば解決するだろう。筆者の感覚とて述べると、座席そのものについて、他球場と比較してもそのクオリティに不満はない。
眺望の話をすると、各階にそれぞれの良さがある。今回は、すべてのフロアの同じ箇所から、その眺めがわかる写真を撮影してみた。
1階は、とにかくグラウンドとの距離が近い。選手の躍動を間近で見たいなら、間違いなくこのフロアだ。ただ、選手と目線が近いがゆえに、遠近感はややわかりにくいかもしれない。野球というゲーム全体を見るなら、より上のフロアを選んでもよさそうだ。
2階は、他球場の1階席に近いように感じた。フロアを上がっているのだから、グラウンドから遠くなると思われるかもしれないが、この球場ならそんなことはない。
3階席の特徴は、グラウンドを俯瞰できることと、大型ビジョンに近いことだ。ビジョンはグラウンドの左右に設置されているから、どの位置からでも見やすいが、3階席にもなるとその大きさを如実に体感できる。1階席や2階席とはまた異なった迫力があるのだ。
ちなみに、上階に行くほど階段が急になっていて、3階席には結構な傾斜がある。その傾きのおかげで、満員時でもグラウンドの視認性が高くなっているのだが、高所恐怖症の方にしてみれば、若干の恐さはあるかもしれない。
2階出現した“飲み屋街”。そこにはまさかの人が!?
続いて、飲食店について書こう。各階に店舗があるのだが、それらが特に集中しているのが2階フロアだ。特筆すべきは「七つ星横丁」と呼ばれるエリア。ここは、試合後にファンが歓談できるスペースとして設けられており、テーブルも設置され、フードコートのようになっている。
野球観戦を堪能したあと、お酒を一杯引っ掛けたいというファンは多い。そのニーズを満たしてくれるエリアがまさに七つ星横丁なのだ。
そして、筆者がここを訪問したとき、超絶びっくりする事態が起こった。正直、今回の取材で最大のサプライズといっても過言ではない。炎の飛龍・藤波辰爾がそこにいたのだ。(筆者はコテコテのプロレスファンである)
藤波さんといえば、WWEで殿堂入りしている4人の日本人プロレスラーのうちの1人。69歳になったいまも現役を続けている彼は、名実ともにプロレス界のレジェンドの一人である。彼がそこにいた理由、それは、藤波辰爾プロデュースメニューがここで販売されているからだ。
そのメニューがある店は、「大衆割烹 三州屋」。和風料理を中心に販売しているこの店の看板メニューが「藤波辰爾のスタミナ豚肉丼」(1350円)だ。北海道産の厚切り豚肉がたっぷり使用されたこのメニューは、藤波家の家庭の味を再現したものだという。これをガツガツ食べれば、あなたもドラゴンになれるかもしれない。
七つ星横丁には、ほかにも寿司やたこ焼きなど、多彩なバリエーションの店が軒を連ねている。店選びには迷いそうだ。
エスコンフィールドの個性が凝縮された「Tower 11」
さて、エスコンフィールドで特に話題の施設といえば、レフト後方にそびえ立つ「Tower 11(タワーイレブン)」だろう。ファイターズのスター選手であった、ダルビッシュ有や大谷翔平の背番号を冠したこのタワーには、ミュージアムやスパ、ホテルといった、他球場にはない施設が集まっている。ひとつひとつ見ていこう。
タワー内は、2階がミュージアム、3階が温泉・サウナ、4階がホテルという構成になっている。ミュージアムにはファイターズの歴史が詰まった野球関連の展示がある……と思いきや、そこで催されていたのは「WHAT IS LIFE展〜いのちってなんだろう〜」という、主に小中学生を対象にしたと思われる企画展だった。
担当者に話を聞くと「野球の展示をするか迷った部分もあったが、この球場を野球だけではない空間にするため、このような方向性にした」という。展示の内容はある程度の期間ごとに入れ替えるそうで、「現状では1年程度の会期を想定している」という。
3階のスパ施設、その名も「onsen & sauna」は、野球観戦をしながら入浴できることが話題になっているが、なかの構造も面白い。サウナにはなんと立ち席があるのだ。試合を見ていて興奮すると立ちたくもなるものだが、そんなときでも安心の作りである。このスパ施設に連結した指定席「ととのえテラスシート」も用意されているが、座席数はわずか24席なので、確保するのは骨が折れそうだ。
最上階にあるホテルには、フィールド側、山側に面した部屋が、全12室備えられている。各部屋の内装には、野球に絡めた工夫が施されており、たとえばスイートルームには、ダルビッシュと大谷を描いたアートと2人のユニフォームが飾られている。
また、夕張岳を一望できる山側の部屋には、スポーツ誌「Number」とのコラボルームも設置されている。壁に同誌の歴代の表紙がプリントされているのがこの部屋の特徴だが、よく見ると、清宮幸太郎のサインがあった。これは、彼がここをわざわざ訪れて書いた直筆のものだという。
スタジアムツアーで、ファイターズガールが球場の裏側を案内
新機軸の施設が目を引くエスコンフィールド。だが、球場としての機能も忘れてはいけない。ここは選手たちが戦いを繰り広げる場所であり、彼らのパフォーマンスを支える場所でもある。
そんな球場の裏側を知ることができるよう、一般のファンも参加可能なスタジアムツアーが用意されている。試合がない日に行われるというこのツアーに参加すると、ダグアウトやベンチ、グラウンドはもちろん、ミーティングルームや監督室にまで入ることができる。
しかも、案内してくれるのは、キツネダンスで一世を風靡している、あのファイターズガールなのだ。撮影禁止のエリアが多いゆえ、文字での情報ばかりにはなってしまうが、筆者が見たものについて、下に記していく。
スタジアムツアーで見られるのは、ファイターズの選手たちが使用するホームチームエリアと、グラウンドに分かれる。ホームチームエリアは、ラグジュアリー感とスポーティ感が交わった、非日常なものだった。
新庄監督の「ファンにも監督室を見せたい」という意向のもと、ツアーでの公開が決まったという監督室は、貴族の館を思わせるほどに豪華絢爛な空間。室内に備え付けらえれた複数のモニターからは、練習する選手の様子や他球団の映像などを、同時にチェックできるという。
監督室と対照的だったのが、選手たちのためのスペースだ。日本の球場で最も広い316平米の面積を誇るホームロッカールームは、選手たちがくつろぎ、あるいは試合前に戦闘ムードを高めるための空間。中央にはソファーが配置され、それを囲うように、外周に40個のロッカーが並んでいる。
それぞれのロッカーにはマグネット式のネームプレートがつけられており、年長の選手から好みの位置のものを選んで使用できるそうだ。天井につけられているLED照明は、リラックスしたい、戦闘モードに入りたいといった、その時々のニーズに合わせて色を変えられる仕様になっている。
ホームロッカールーム以上に広いのが、600平米のウエイトルーム。最新鋭のマシンがズラリと並んでおり、選手たちはここで肉体を鍛えることになる。ちなみに、ファイターズの黄金時代を支えたダルビッシュは、いち早くウエイトトレーニングを導入し、その成績に結びつけている。この部屋から、新たなダルが誕生するかもしれないと思うと、胸が熱くなった。
ミーティングルームは、小さな映画館のような作りになっていた。ここでは前方の大画面に相手選手などのデータを映し、アナリストの分析のもと、その情報をチームに共有しているという。ほかにも、欧州のバルをイメージしてデザインされたというダイニングも見学できた。プロ野球選手になり、1軍に上がるのは当然大変なこと。そんな彼らのために整えられた空間は、苦労と日々の鍛錬に応えるための、最上級なものばかりであった。
※スタジアムツアーは、プレミアムツアーとベーシックツアーの2種類が用意されており、ホームチームエリアに入れるのはプレミアムツアーのみ
ついにグラウンドへ。選手レベルの目線を体感
スタジアムツアーの終着点が、天然芝の広がる広大なグラウンドだ。ホームチームエリアからベンチ裏の通路を通ってそこに飛び出すと、いやがうえにも気持ちが昂る。
ファウルゾーンからウォーニングゾーンにかけては、アメリカから輸入したレンガを砕いたという砂が使用されている。青々と茂る芝の美しさが印象的ではあるが、それを際立たせているのは、このレンガの赤みなのだ。
天然芝には寒冷地でも育つ品種を使用しており、現在の芝は、千歳市で2年育てた4cmのロール芝。この下に30cmもの厚みの砂が敷かれており、さらにその下にはロードヒーティングと呼ばれるヒーターが入っている。芝を育てるために人工的な光を当てる機械も導入しており、1年を通して安定したグラウンドコンディションをキープするための工夫が盛りだくさんだ。
ベンチの椅子には木材を使用。その椅子はなかなかに高く、筆者では足がつかなかった。日本にはあまりない、個性的なデザインだ。
新しい球場で躍動する若いチーム。ここから新たな伝説が生まれるか
2022シーズンこそ最下位に終わった日本ハムファイターズだが、現在は世代交代の過渡期にあるといえるだろう。多くの若い選手たちがその才能を開花させつつあり、2022年ドラフト1位で入団した二刀流ルーキー・矢澤宏太も、オープン戦で結果を残している。今後が楽しみなのはいうまでもない。
エスコンフィールドは、大いなる可能性を秘めた若いチームにとって、格好の舞台。こけら落としとして行われた3月14日のオープン戦ではファイターズは負けてしまったが、翌日はロースコアの試合を制してエスコンフィールド初勝利を飾った。その試合では、開幕投手に内定しているエース・加藤貴之が、5回を1安打に抑えるベストパフォーマンスを見せている。
新しい球場で躍動するのは、将来が楽しみな若いチーム。エスコンフィールドで繰り広げられる、ファイターズの戦いに注目したい。