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2023/8/5 20:30

世界市場を睥睨するサロモン、渾身のロードランシューズを履いた!/大田原 透の「ランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす! 「ランニングシューズ戦線異状なし」

2023「サロモン」夏の陣③「エアロ グライド」の巻(後編)

 

スキーをルーツに、今やウインタースポーツのみならず、世界のトレランシーンをリードするサロモン(Salomon)。過酷なアウトドアでのあらゆる路面状況(サーフェイス)への対応を、世界中で開催されるトレランのレースを通じて研究し、高い技術として昇華し続けてきた。

 

今や敵なし山の王サロモンが睥睨するのは、ロードランニングの平原。新興ブランドもひしめき、開発競争が激化する、まさにレッドオーシャンである。このレッドオーシャンにサロモンが放つ矢のひとつが、オンロード用の「エアロ グライド」だ。

↑「エアロ グライド(AERO GLIDE)」1万8700円(税込)。サイズ展開:メンズ25.0~28.5㎝、ウィメンズ22.0~25.0㎝。カラー展開:メンズ4色、ウィメンズ4色。ソール厚:前足部27mm /かかと37mm。ドロップ(踵と前足部の高低差):10㎜。重量:254g(27㎝片足)

 

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いよいよ、エアロ グライドを試走!

ということで、今回は高尾のトレイルから、八王子郊外の住宅街のロードに移動し、エアロ グライドのインプレをお届けする。試走の内容は、いつもの連載に戻り、4シーンでのインプレとなる。

 

まずは、シューズに足を入れた感覚およびウォーキングのインプレ。次は「運動不足解消」が目的で走る、1㎞を約7分(=キロ7分)の、の~んびりペース。続いて、脂肪を燃焼させる「痩せラン」に適した、1kmを約6分(=キロ6分)のゆっくりペース。

 

最後は、距離ではなく、走る爽快感重視の、1㎞約4分30秒~5分で走る(キロ4.5~5分)「スカッと走」。暑さをモノともせず新たに走り始めたい初心者にも、涼しい避暑地でランニングしたいお久し振りさんにも、“おっ、そのペースだね”と思っていただける目的(およびペースの目安)のはず。

 

【まず、履いてみた!(走る前の足入れ感&ウォーキング)】

シューズに足を入れ、シューレース(靴ひも)を丁寧に結ぶ。すくっと立つと、シューレースに連動するセンシフィットテクノロジーが、さらに足とシューズを馴染ませてくれる。エアロ グライドの分厚いミッドソールは、優しく体重を受け止める。

 

ほぉ~。ショップの店頭での足入れ感にチカラを入れる、昨今のオンロードランニング市場のトレンド的にも、エアロ グライドは競合他社に引けを取らない。とても、最近オンロード市場に参入した後発ブランドとは思えない出来栄えである。

 

歩くと、サロモンのミッドソール「エナジーフォーム」が着地をふんわりと受け止める。これもお見事! 厚底でのふんわり感という、売れ筋のトレンドをしっかり押さえている。サロモン=トップアスリートのためのガチなトレランシューズブランド、という筆者の凝り固まったイメージは、エアロ グライドを履いて歩くと、ふんわり霧散した。

 

【運動不足解消ジョグ(1㎞を7分で走るペース)】

履いた瞬間と歩くことで感じた“ふんわり感”は、走り始めると、ほど良い反発性に変わる。これまた“今どき”のランニングシューズに共通する、ミッドソールのストロングポイントだ。日本の市場でもまさにトレンドなだけに、単なる研究だけでなく、日本のコンシューマーの気持ちにも寄り添ったシューズ開発を行っていることが分かる。

 

それもそのはずサロモンは、オリジンであるスキー用品を1962年から日本で発売を開始している。その後、世界市場で最もサロモンのスキーブーツのフィッティングの良さを理解したのが、何を隠そう日本人なのだ。

 

逆を言えば、日本人の足を誰よりも知るサロモンのシューズのフィッティングに、不安がある理由は、少なくとも往年のスキーブームを知る世代にはない(実は筆者も、その昔、クロスカントリースキー用のブーツで世話になっていたなぁ……)。

 

で、1㎞を7分で走る運動不足解消のためのジョギングペース。エアロ グライドは、全くゴキゲン。感覚的には、走る際のピッチ(足幅)を短めにすると、さらにリズムよく跳ねる。(意地悪だが)大きくバウンドすると、ミッドソールがけっこう沈む。試しに、もうチョイスピードを上げてみよう。

 

【痩せラン(1㎞を6分で走るペース)】

走力が上がり、スピードをチョイ上げると、脂肪燃焼にもってこいの「痩せラン」ペース。長く走り続けられたら、そのペースがさほど速くなくても、脂肪はどんどん燃えてくれる。エアロ グライドは、スピードアップにきれいに追従、ミッドソールは衝撃を素早く反発性に変えてくれている。つまり、脂肪燃焼にはエアロ グライドなのである。

 

サロモンが山で培ったテクノロジーの数々を、オンロードに展開したエアロ グライド。そのひとつが、ミッドソールの「エナジーフォーム」である。エナジーフォームは、衝撃吸収性に富み、速度や段差などによる衝撃の大きさに合わせて反発する特性を持つ。EVAにオレフィンを配合した、サロモンがトレイルランで培ったテクノロジーである。

 

さらにサロモンは、硬いアスファルトに対して、一定の角度から、規則正しく、長時間にわたって走るというロードランの特性のために、エアロ グライドのアウトソールも開発している。高い耐摩耗性を持ち、薄く、軽量な「コンタグリップ」である。

 

これらのテクノロジーは、バラバラに開発されてきたわけではない。すべては、“ライト&ファスト”というサロモンの商品開発のDNAを継承するために、研究開発され、新たな製品として世に出されてきたものだ。

 

サロモンのDNAである“ライト&ファスト”は、クロカンスキーやトレランという“競技”の底流に共有する考え方だ。シューズが軽いために速く動ければ、時間をより有効に使うことができる。さらに天候やルートなどの情報を活用することで、持って行くべきギアも絞り込むことができる。これらは、アスリートも、入門者も、本質的な違いはない。

 

エアロ グライドは、現在のロードランの世界のトレンドに対する、サロモンによるひとつの答えだ。“ライト&ファスト”というサロモンのDNAを、エアロ グライドはどのように引き継いでいるのだろう? さらに、ペースを上げてみよう!

 

【スカッと走(1㎞を4.5~5分で走るペース)】

ここで一旦、前回紹介した、エアロ グライドの開発コンセプトを振り返ってみよう。サロモンMDの山村 拓さんに聞いたところでは、エアロ グライドは、北米の大柄な体格のライナーを対象に、運動不足解消のために歩いたり走ったり、脂肪を燃やして痩せることを目的に走る人たちを視野に入れて開発されたという。

 

その意味でも、エアロ グライドは、ここまでのペースでのランに、まさにピッタリな一足と言える。しかし問題は、「スカッと走」だ。距離は長く走らないが、目指したゴールを駆け抜ける爽快さ、疾走感を味わうのもランニングの醍醐味なのである。

 

“ライト&ファスト”のDNAに基づいて開発されたエアロ グライドのミッドソール素材のエナジーフォームは、スピードを上げるほどに反発性を強めてくれる。アウトソールの踏み面も広いので、下り坂でガシガシスピードを上げても安定した走りだ。しかし、下りから平地に戻り、そこで加速しようとしても、エアログライドはスピードに乗るような造りになっていない。

 

もし、「スカッと走」をエアログライドで味わうとしたら、思い切ってミッドソールの厚みを削るか、ミッドソールにTPUのプレートを内蔵するかだろう(実は、サロモンのロードランシューズのラインナップには、まさにこうしたモデルが用意されている)。

 

一足ですべてを満たすシューズを求めるのは、高すぎる要求であることは百も承知している。しかし、このタイプのシューズでも、“ライト&ファスト”のDNAを味わいたいと思い描いてしまうのも、往年のサロモンファンなのだ(オイラだ!)。

 

しかし、ロードランの世界を狙うサロモンの本気のモノ作りは、ホンモノだ。近い将来、今までの常識を根底から覆すプロダクツを、サロモンは山の上から一気にロードランの平原に押し出して来るだろう。その光景に出会えることが、今から楽しみである!

 

【おまけ】エアロ グライドで山道を走ってみた

本来なら蛇足なのだが、せっかくなのでエアロ グライドを山で履くことに。前々回に紹介した超長距離用のトレランシューズ「ウルトラ グライド 2」も伴い、山道と舗装路で履き比べるため、おあつらえ向きの沢沿いのコースにやって来た。

 

オンロード用のインプレは、走る目的に応じた速度で行う。しかし山では、アップダウンや崖、沢の渡渉(としょう)など、一定のペースでは走れない。ましてや、ダイエット目的で食料や水を持たずに山を走ることは、その行為自体が“遭難”である。

 

エアロ グライドの肉厚なミッドソールは、上りでの強力なアシストとなる。着地衝撃を推進力に換える“跳ねる”感覚でグイグイと進める。周囲に誰も人はいないが、上り番長になった気分。トレランシューズにない軽快さも魅力だ。

 

広く整備された林道をガシガシ下るのも、さすがはサロモン。アウトソールの踏み面も広く、厚底のエナジーフォームのおかげで、多少の凸凹など気に留める必要もなく進む。エアロ グライドは、オンロードモデルながら、自転車のロードバイクのような鋭利な繊細さではなく、グラベルバイクやMTBの野武士のような豪快な乗り味で進む

 

しかし課題は、路面状況(サーフェイス)が悪いシーンでのシューズのパフォーマンスだ。上っている最中から、爪先を保護する補強材(トゥキャップ)がないので、爪先が岩に直接当たる。濡れた岩場では、ちょっと弾みで滑る。ザレ(砂礫)の急斜面は、自身が滑落しないよう、恐る恐る進むしかない。

 

沢を横切る渡渉に至っては、岩についたコケなどの表面で足を取られて、ノロノロと進むしかない。アウトドアのあらゆる悪路で機動力を得るには、エアロ グライドのアウトソールは(当たり前だが)不向きである。

 

サロモンのトレランシューズを履いた後、同じコースの2周目にエアロ グライドを試しているが、その差は歴然。まぁ、当たり前な結果と相成った。教訓、今まで山の初心者に「履き慣れた靴なら、ランニングシューズでも大丈夫」と(コースに応じて)語ったことが何度かあったが、これからは「山へはトレランシューズ(またはハイキングシューズ)で行こう!」と改める。おススメは、もちろんサロモンの「ウルトラ グライド 2」である!

 

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撮影/中田 悟

 

 

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