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2023/11/23 20:30

アメリカの巨人「ブルックス」が狙う、日本のランニング市場/大田原 透の「ランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす! ランニングシューズ戦線異状なし

2023「ブルックス」冬の陣①

 

アメリカを代表するランニングシューズと言えば、「ブルックス(BROOKS)」。創業者は、ジョン・ブルックス・ゴールデンバーグ。1914年、アメリカ北東部のフィラデルフィアで誕生する(現在の拠点は、西海岸のシアトル)。日本での知名度は高いとは言えないが、ブルックスは100年以上続く、超~老舗ブランドなのである!

 

そのブルックスは、プールや海水浴用のシューズやバレエ用のシューズブランドとして歩み始める。後に、野球やアメリカンフットボール用のスパイクも開発、全米のトップ選手の足元を支えるブランドへと成長していく。

 

ブルックスの知名度が不動になるのは、1960年代を起源に70年代に空前のブームとなる北米のジョギング文化の隆盛だ。1974年にブルックスが発表した「ヴィラノバ」(後に「ヴァンガード」に改名)は、アッパーに軽量で柔軟性に富むナイロンを採用。何より、足を保護する機能を重視したことで、多くのランナーから高い評価を得たのである。

 

ブルックスの日本総販売代理店は、「瞬足」のアキレス!

「現在でも知られているアメリカの多くのシューズ会社にも、ブルックスのヴィラノバのような“ヒット作”と呼ばれるシューズがありました。70年代は互いに切磋琢磨しあってシューズメーカーとして成長した時代でした」

 

と語るのは、「瞬足」で知られるシューズメーカー「アキレス」の栗岩克明さん。栗岩さんは、過去にも北米のランニングシューズブランドの日本展開を手掛けた“猛者”のひとり。ブルックスが2019年、アキレスと日本における総販売代理店の契約を締結するにあたり、栗岩さんが日本展開の陣頭指揮を執ることになったのだ。

↑今回お話を伺った、ブルックスの日本総販売代理店アキレスの担当者、栗岩克明さん。中高大と陸上長距離の競技を続け、今でもフルマラソンを中心に走り続ける市民ランナー。北米のランニングシューズブランドに精通する、ギョーカイ“猛者”のひとりである

 

今回のブルックス取材は、東京・新宿のアキレス本社のショールームからお届けしている。北米で圧倒的な知名度を誇り、数々の名作を生み出してきたブルックス。まずはどんなメーカーなのか、その歩みを改めて栗岩さんに聞いてみた。

↑オリンピックの中距離選手であるマーティ・リコーリからのフィードバックにより誕生したヴィラノバ。ヴィラノバは他の競合ブランドと肩を並べるきっかけとなったランニングシューズ

 

世界で初めて、ランニングシューズにEVAを採用する

「ブルックスは1975年、世界で初めてランニングシューズ『ヴァンテージ』にEVAを採用します。EVAは軽量で衝撃吸収性に優れており、さまざまな機能を持たせる加工のしやすさから、今や世界のスポーツシューズメーカーにとって不可欠な素材です。ブルックスは、最初にEVAに注目し、そして現在もその進化を後押しし続けています」(栗岩さん)

 

ブルックスのテクノロジーの中心にあるのは、進化し続ける最新EVAによるクッショニングテクノロジーの「DNA」。DNAは、着地衝撃の大きさに応じて反発性が変化するミッドソール機構で、早くも2010年に発表している。以降、ブルックスはDNAの進化の歩みを止めず、「DNA AMP(アンプ)」、「DNA LOFT(ロフト)」にアップデートし続けて現在に至る。

 

「ブルックスは、2001年にそれまでの総合スポーツシューズブランドから“選択と集中”を行い、ランニングカテゴリーに特化する道を歩み始めました。現在のCEOであるジム・ウェーバーは、ランニングシューズが、スポーツ用品として最も成功の可能性が高いと考えていたからです」(栗岩さん)

↑アキレスと言えば、日本の子どもとその親たちの絶大な支持を集める「瞬足」を思い浮かべる方も多いはず。アキレスは、実はシューズメーカーであると同時にシューズの素材メーカーでもある。遠くない将来、アキレスの素材がブルックスのシューズ作りに活用され、瞬足とのコラボシューズが生まれるかもしれない

 

ブルックスが掲げる「RUN HAPPY」は、“ゆるラン”ではない!

ブルックスは、北米各都市のランニング専門店を中心に、信頼と実績作りを着々と積み重ね、現在はトップシェアを誇る。そのアメリカでは知らぬ人がいないビッグブランド、ブルックスが掲げるメッセージが、「RUN HAPPY(ラン ハッピー)」だ。

 

「日本では、“ゆるラン”と解釈する人もいますが、走る全ての人に喜びを感じて欲しいというメッセージです。ガチなランナーにとっては、勝利やタイム更新がハッピーですし、初めてのフルマラソン完走もハッピー。週末にゆっくり走ることが喜びである人にもラン ハッピー。とても良いメッセージだと思います(笑)」(栗岩さん)

 

ちなみにブルックスブランドのマーク、一般的にシェブロンラインと呼ばれる逆V字は「道」をシンボリックに模ったのだという。本来は、足を包み込むアッパーを補強するためのパーツでもあったマークには、より速く、より遠くへ、より健康的に、人生を旅する道をサポートする、というブランドメッセージが込められているのだ。

↑ブルックスのシェブロンマーク。シェブロンは逆V字の山の形という意味で、ヨーロッパの制服などの袖にあしらわれていることが多いが、ブルックスは道なのだ

 

日本をはじめ、東アジアで注目のスピードカテゴリー

「ブルックスが徹底するのは“ランナーファースト”です。膨大なランナーの走行データを集め、身体の構造を力学的に分析するバイオメカニクス(生体力学)に基づいたシューズ開発を行っています。こうして開発されるシューズは、スピード、クッション、トレイルの3つの領域で様々なモデルをご用意しています。ブルックスには、陸上トラック競技用のスパイクもありますよ」(栗岩さん)

 

ブルックスは、本国アメリカを中心に、ヨーロッパ圏、オーストラリア、そしてアジア圏で広く展開している。急成長を遂げた北米やヨーロッパでのトレイルカテゴリーも、日本での展開が始まり、販路拡大が課題とのこと。

 

「ブルックスを日本で扱うアキレスの強みは、流通です。既存の百貨店や街のシューズ店はもちろん、郊外のモールに入っているスポーツ量販、セレクトショップへの強化も進んでいます。日本はほかのアジアの国からも、駅伝や市民マラソンなど、陸上のレベルが高いことで一目置かれています」(栗岩さん)

 

シアトルのブルックス本社も、東アジアでの展開を重視、来年発売されるスピードカテゴリーの目玉商品の展開も含めて、日本、中国、韓国、台湾の担当者が集まる会合を初めて開かれるのだとか。アジアでのブルックスの拡大は、実は、まだ始まったばかりなのだ。

 

GetNavi web読者におすすめの2足が決定!

「ブルックスのスピードカテゴリーには、いわゆる厚底カーボンのハイエンドモデルももちろんあります。注目は『ハイペリオンエリート』です。新年のビッグレースで話題になるかもしれないと言われるほど、トップ選手たちの評価が高いモデルです」(栗岩さん)

↑トップアスリート向けに開発された、いわゆる“厚底カーボン”と呼ばれるハイペリオンエリート3。高い走力と、履きこなすためのトレーニングを積んだ選手こそ、そのパフォーマンスを発揮できる(ちなみに価格は2万9700円!)

 

話が脱線したが、ブルックスの圧倒的なボリュームゾーンは、何と言ってもクッションのカテゴリーである。もちろん、今回GetNavi web読者にすすめてくれたのも、ガチの厚底カーボンではなく、クッションカテゴリーの2足である。

 

1足目は、北米で熱烈な支持者を集める「ゴースト」シリーズの最新鋭モデル「ゴーストマックス」。そして2足目は、RUN HAPPYに溢れる名モデルの21代目、2024年1月発売予定の最新「グリセリン21」である。詳しくは、次回以降にシューズ紹介と筆者が実際に履いて走ったインプレッションもお届けする。もちろん、乞うご期待なのである!

 

撮影/中田 悟

 

 

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